16 / 23
第一章
個性的なアイデア
しおりを挟む
朝の商店街。普段ここで店を出すには商人ラインセンスだけではなく、この町の有権者と話を付ける必要があった。
しかし今回は試験用の特別エリアが設けられており、そこで屋台を開くことが出来る。
私達が来たのは早朝であったが、そこでは客もライバルも含めて人々でごった返していた。
それは一種のカーニバルのようで、店も飲食や武具の屋台といったメジャーな物から、仮面屋さんや水晶屋さんのようなマイナー物まで並んでいた。
そんな中で私も有象無象にまみれたまま店を開いた。
「ふぁ……ぁ……しかし眠いものだね。こんな朝からよく人が来るもんだ」
ぽわぽわとした様子であくびをするケーレス。昨日は夜遅くまで商品を作っていたようで、その疲労のせいか眠たそうだった。
「ケーレスもずっと頑張っていたんだろ? 少しは休むといい」
「むにゅ、それは遠慮しておくよ。今眠ってしまったら夜が寝れなくなってしまうからね」
「ふむ、そうか。ならば構わないが、無理だと思ったらすぐに私に言うんだ……いいね?」
私は彼女の頬に手を這わせて撫でていく、そしてその指は白髪の少女の柔らかな唇に触れる。
唇の濡れた、温かな感触とそこから漏れる吐息が指へと伝わった。
「な、なんだい……もしかしてキスでもしたくなったのかい?」
顔を赤らめるケーレスに私は薄い笑みを浮かべて。
「いいや、単に君を困らせたかっただけだ」
「…………宗室くん、ボクはそろそろ怒っても良いと思うんだ」
ケーレスは半目で私の事を睨む。その顔がとても可愛い。
「でも眠気は覚めただろう?」
「む、それはそうだけど…………」
そこまで言って彼女はオッドアイの目を大きく見開いた。
一体どうしたのだろうと、少女の視線を追ってついっと私も目線を移す。
するとそこには頬を紅くして私達の事を見ているナナの姿があった。
「あ……えっともしかして、二人とも付き合ってたりするんでしょうか」
「君はどう思う?」
「え、お……お似合いだと思いますっ!」
そういう意味で聞いた訳ではないのだが、私としては別に誤解されようと良いのだが。
ケーレスに迷惑を掛けてしまうからな、それに勘違いさせたままというのも意地が悪い話だ。誤解は解いておく方が良いだろう。
「ふっ、冗談だ。私とケーレスは恋人ではないよ」
「ほ、本当なんですか?」
何故か少し嬉しそうな表情を浮かべるナナ。そんな彼女にケーレスは溜め息を吐いて。
「……ボクと彼は兄妹だからね。君が思っているような間柄じゃないんだ」
そう言って私に目配せをしてくるケーレス。それに自分はこくんと頷いて。
「さ、無駄話もこれで終わろうじゃないか。早く商品を売らないと作った意味も無くなってしまう」
「そうですね。えっと商品をここに並べて値札を並べて……っと出来ました」
木で出来だ屋台。その棚に商品を並べていく、それは風が吹く度にからからと回り、道行く客の目を引いた。
「うわー! なにこれ? 始めてみる」
狙い通り小さな子供たちが次々とこちらの商品に興味を持ちやって来る。
だが、それは子供だけではない。大人もまた珍しい物に惹かれてやって来ていた。
「えっとね、これはカザグルマって言うんだって」
小さな子供に大人に商品を説明するナナ。その名前を聞いてもきょとんとするものの、珍しいから欲しいのか一グルトを出してくる。
「はい、ありがとう」
「うん、それじゃあね。ばいばい、お姉ちゃん!」
そう言って走り去っていく子供。私はそれを淀んだ目で見ながら薄く笑った。
「しかし不思議なものだ。こんな風車が売れるとは興味深い」
「子供には人気の商品だからね。ほら、赤ん坊だって風車であやすと泣き止むだろう?」
この風車の案を考えたのは私ではなくケーレスの方。私の案は紙を使って何かの商品を作る。それだけだ。
だが、私は赤ん坊の頃から冷めた人間で産まれた頃から泣くことすら無かった。
それを両親は不気味に思ったのだろう。小学生に入った頃には既に一人暮らしをさせられたのを覚えている。
だから私には思い浮かばなかった。人が喜ぶ商品というものが。
「やはり、ひねくれているのは考えものだな」
「どうしたんだい? 急に」
「いや、こういった子供が喜ぶ物。そして未だに何故彼等が喜んでいるのかが分からなくてね」
その言葉を聞いて何故かケーレスはくすりと笑った。
「別に良いじゃないか、捻くれ者でも。大体、ボクだって捻ている方だと思うよ」
「ふっ、確かにな……」
「できれば否定して欲しかったんだけどね。だからボクは君が捻くれ者でも何も思わないよ。それこそ個性の問題だろう?」
「個性か……悪くない素晴らしい言葉だ」
商店街の一軒の屋台。そこで売られているのは風車などという現世界では粗末な物だ。
材料も紙を使っただけの低コストで安物。しかしそれでも異世界の人にとっては初めての玩具で。
それは金貨の数え方が違っていたり、椅子やテーブルが無かったのと同じ事だ。
文化が違えば国が違えば世界が違えば売れるものもまた異なるだけの話。何も珍しい事ではない。
「何とか上手くいったみたいだな」
私は小さくそう呟いて、辺りを見回す。結構な数の風車が売れたようで商店街の人々は皆、それを持って歩いていた。
しかし今回は試験用の特別エリアが設けられており、そこで屋台を開くことが出来る。
私達が来たのは早朝であったが、そこでは客もライバルも含めて人々でごった返していた。
それは一種のカーニバルのようで、店も飲食や武具の屋台といったメジャーな物から、仮面屋さんや水晶屋さんのようなマイナー物まで並んでいた。
そんな中で私も有象無象にまみれたまま店を開いた。
「ふぁ……ぁ……しかし眠いものだね。こんな朝からよく人が来るもんだ」
ぽわぽわとした様子であくびをするケーレス。昨日は夜遅くまで商品を作っていたようで、その疲労のせいか眠たそうだった。
「ケーレスもずっと頑張っていたんだろ? 少しは休むといい」
「むにゅ、それは遠慮しておくよ。今眠ってしまったら夜が寝れなくなってしまうからね」
「ふむ、そうか。ならば構わないが、無理だと思ったらすぐに私に言うんだ……いいね?」
私は彼女の頬に手を這わせて撫でていく、そしてその指は白髪の少女の柔らかな唇に触れる。
唇の濡れた、温かな感触とそこから漏れる吐息が指へと伝わった。
「な、なんだい……もしかしてキスでもしたくなったのかい?」
顔を赤らめるケーレスに私は薄い笑みを浮かべて。
「いいや、単に君を困らせたかっただけだ」
「…………宗室くん、ボクはそろそろ怒っても良いと思うんだ」
ケーレスは半目で私の事を睨む。その顔がとても可愛い。
「でも眠気は覚めただろう?」
「む、それはそうだけど…………」
そこまで言って彼女はオッドアイの目を大きく見開いた。
一体どうしたのだろうと、少女の視線を追ってついっと私も目線を移す。
するとそこには頬を紅くして私達の事を見ているナナの姿があった。
「あ……えっともしかして、二人とも付き合ってたりするんでしょうか」
「君はどう思う?」
「え、お……お似合いだと思いますっ!」
そういう意味で聞いた訳ではないのだが、私としては別に誤解されようと良いのだが。
ケーレスに迷惑を掛けてしまうからな、それに勘違いさせたままというのも意地が悪い話だ。誤解は解いておく方が良いだろう。
「ふっ、冗談だ。私とケーレスは恋人ではないよ」
「ほ、本当なんですか?」
何故か少し嬉しそうな表情を浮かべるナナ。そんな彼女にケーレスは溜め息を吐いて。
「……ボクと彼は兄妹だからね。君が思っているような間柄じゃないんだ」
そう言って私に目配せをしてくるケーレス。それに自分はこくんと頷いて。
「さ、無駄話もこれで終わろうじゃないか。早く商品を売らないと作った意味も無くなってしまう」
「そうですね。えっと商品をここに並べて値札を並べて……っと出来ました」
木で出来だ屋台。その棚に商品を並べていく、それは風が吹く度にからからと回り、道行く客の目を引いた。
「うわー! なにこれ? 始めてみる」
狙い通り小さな子供たちが次々とこちらの商品に興味を持ちやって来る。
だが、それは子供だけではない。大人もまた珍しい物に惹かれてやって来ていた。
「えっとね、これはカザグルマって言うんだって」
小さな子供に大人に商品を説明するナナ。その名前を聞いてもきょとんとするものの、珍しいから欲しいのか一グルトを出してくる。
「はい、ありがとう」
「うん、それじゃあね。ばいばい、お姉ちゃん!」
そう言って走り去っていく子供。私はそれを淀んだ目で見ながら薄く笑った。
「しかし不思議なものだ。こんな風車が売れるとは興味深い」
「子供には人気の商品だからね。ほら、赤ん坊だって風車であやすと泣き止むだろう?」
この風車の案を考えたのは私ではなくケーレスの方。私の案は紙を使って何かの商品を作る。それだけだ。
だが、私は赤ん坊の頃から冷めた人間で産まれた頃から泣くことすら無かった。
それを両親は不気味に思ったのだろう。小学生に入った頃には既に一人暮らしをさせられたのを覚えている。
だから私には思い浮かばなかった。人が喜ぶ商品というものが。
「やはり、ひねくれているのは考えものだな」
「どうしたんだい? 急に」
「いや、こういった子供が喜ぶ物。そして未だに何故彼等が喜んでいるのかが分からなくてね」
その言葉を聞いて何故かケーレスはくすりと笑った。
「別に良いじゃないか、捻くれ者でも。大体、ボクだって捻ている方だと思うよ」
「ふっ、確かにな……」
「できれば否定して欲しかったんだけどね。だからボクは君が捻くれ者でも何も思わないよ。それこそ個性の問題だろう?」
「個性か……悪くない素晴らしい言葉だ」
商店街の一軒の屋台。そこで売られているのは風車などという現世界では粗末な物だ。
材料も紙を使っただけの低コストで安物。しかしそれでも異世界の人にとっては初めての玩具で。
それは金貨の数え方が違っていたり、椅子やテーブルが無かったのと同じ事だ。
文化が違えば国が違えば世界が違えば売れるものもまた異なるだけの話。何も珍しい事ではない。
「何とか上手くいったみたいだな」
私は小さくそう呟いて、辺りを見回す。結構な数の風車が売れたようで商店街の人々は皆、それを持って歩いていた。
0
お気に入りに追加
604
あなたにおすすめの小説


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる