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第一章
Bランクの大剣デストロイ
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真夜中過ぎの街並み。そこでは昼間の人々の賑わいも消え失せており、静寂だけがこの空間に居座っている。
そんな中で一人の男がふらりふらりと歩いている。
その男は酒場からの帰りなのか頬も紅く呂律
ろれつ
も上手く回っていないように見えた。
「千グルトを倍に? できるないじゃないか!」
一人悪態をつきながら人の居ない道乗りを淡々と歩いている。
そんな彼の手には千グルトばかりの金貨の詰まった箱が抱えられていた。
そう、この彼もまた商人ラインセンスを手に入れるために試験を受けに来た者の一人だった。
一応、彼の本業は冒険者なのだが武器商人も両立させれば金を稼ぐことも容易くなると思い、この試験を受ける事にしたのだが。
試験の内容が冒険者のように敵を倒すのとは勝手が違うため、男にはどうすれば良いのか分からなかった。
「とはいえ、諦めちゃ駄目だよなぁ。なんでもやるだけやった方が良いよな。うん」
このまま悩んだって仕方ない。それを悩む暇があるのなら少しでも多く金貨を増やそう。
ーーそう思った時だった。
「ん? 何の音だ?」
背後から地を駆ける足音が聞こえてくる。その音の激しさから人間ではなく四足歩行の動物ーー馬であるという事が分かった。
街の中で馬に乗って移動する。それ自体は何も珍しい事ではない。
だが、夜遅くしかもこんなスピードで町中を駆け巡るのは不自然に思える。
彼はその事を奇妙に感じて音のする方向へと視線を向ける。するとそこには薄汚れた馬に乗った男が居た。
大きな図体に筋肉によって固められた身体。顔は冑
かぶと
によって隠されており、その正体までは分からなかった。
「おい、貴様。その箱を俺に渡せ!」
「はあ? 何ふざけた事を……っ!?」
彼が言葉を言い終えるよりも早く冑の男は大きな剣を抜刀して。
「もう一度聞く。金を俺に渡せ……!」
「い、いやだ! お前が誰か知らないが、これは俺の大切な物なんだ。渡すわけないだろ!」
それを聞いた冑の男は大剣を強く握り締めて、問答無用でその剣を相手に向けて叩きつけた。
「ぐっ……がっ…………ああ」
いきなりの事で男は何も出来ず吹っ飛ばされる。それでも彼は箱を手放そうとはしなかった。
「俺はな頼んでる訳じゃないんだ。命令してるんだ。もう一度言う、その箱を渡せ」
「いやだ……渡すものか!」
「ちっ、そうかよ。だったら奪い取るまでだ!」
冑の男は目の前に居る冒険者の腕を蹴りつける。そして箱を抱える力が弱ったのを見計らい、それを奪い取った。
「ま……待て、返してくれ」
「取られる方が悪いんだ。もう少し剣の腕を鍛えておくべきだったな、俺みたいに」
それだけ言うと甲冑の男は馬へと跨がり、そのまま、倒れた男を残して去っていく。
そしてしばらく馬を走らせて町外れの池まで向かうと馬を降り、冑を脱いでその素顔を晒した。
「やっぱり冑は息苦しくなるからなぁ、金を盗むってのも大変だ」
冑を取ったその姿は赤い髪に赤い瞳の若い男。それは間違いなくダンク本人だった。
普段から傍若無人な態度を取っているダンクであったが、金貨を盗んでいる事がバレれば試験が失格になることは間違いない。
だから今回はこうして冑を付けて正体を隠していた。
「これで合計は六千グルトか……中々に好調だな」
箱に入った金貨を眺めながらダンクはニヤリと笑う。二千グルトを試験官に渡しても四千グルトも余る。
それは自由に使おうとバレる事はない。そう考えると笑いが止まらなかった。
「…………ん?」
一人金貨を眺めていると、ちゃぷちゃぷと水の音がダンクの耳に聞こえる。その方向を見ると、さっきまで乗っていた馬が池の水を飲んでいた。
「なにお前、勝手な事してんの? 馬ごときの分際で許可なく水を飲んでんじゃねーよ」
そう言って馬を蹴り飛ばすダンク。この馬とこの剣、両方とも落ちていた物を拾ったのだが剣はともかく馬は使い物にならなかった。
人の命令を聞かず、何をするにも反抗的な態度を取っていて。
餌をやらなければ怒る、水をやらなければ勝手に飲もうとする。それに彼にとっては許されない事だった。
「そんなに飲みたければずっと飲んでろよ。ほら!」
そう言ってダンクは馬の尻を勢いよく蹴り飛ばす。
バキッ、という音と共に馬はなす術も無く、そのまま池の中へと転がり落ちた。
「ひひぃん! ひいっ!」
「ははははは! こりゃ面白れーや」
それを眺めて己の小さな征服欲が満たされるのを感じるとダンクは大剣を地面に突き立てて空を見上げる。
そこでふと白髪の青年の顔が頭の中に浮かんだ。
人の事を見透かしたような淀んな瞳。その瞳を思い出す度にダンクは怒りがこみ上げて来るのを感じた。
ダンクは人に見下されるのは嫌いだった。そしてあの青年の瞳は明らかに嘲笑の色があったように見える。
「白髪野郎……次はお前の番だ。俺のデストロイに逃げ惑うお前の姿、今から楽しみだぜ」
◇
「ケーレス、ナナ。例の物は順調か?」
「まあね、問題はないよ。だけどボクも手先は器用じゃない。まだ五十個程だ」
「一応、私は百個ほどできました。こういう物作りは好きな方なので」
宿の自室。そこで私は二人にある物を作らせていた。
私も彼女らと共にそれを作ろうと思ったのだが、どうやら自分はこういう作業には不向きなようで製作は全て二人に任せる事になった。
「悪いね。君たちに用事を任せてしまって」
「いえ……この案を考えたのは宗室さんなんですから、後は私たちに任せてください」
そう言って笑顔で言うナナ。もっとも彼女の場合はこういう作業が好きだから負担とは思っていないようで。
ならばケーレスはどうだろうと思い、視線を彼女の方へと移す。
「ああ……ボクの事も気にかけてくれるんだね。安心してくれよ、ボク自身、誰かに頼られるのは嫌いじゃないからね」
そう言って馴れない手付きでそれを作っていく。私は二人のそんな努力に感謝しつつ、完成品を一つを手に取った。
「なかなか良い出来だ。悪くない」
それは誰もが知っている物。だけどそれはここには存在しない物。
私はその作品を眺めて薄い笑みを浮かべて、そのまま息を吹き掛けた。
そんな中で一人の男がふらりふらりと歩いている。
その男は酒場からの帰りなのか頬も紅く呂律
ろれつ
も上手く回っていないように見えた。
「千グルトを倍に? できるないじゃないか!」
一人悪態をつきながら人の居ない道乗りを淡々と歩いている。
そんな彼の手には千グルトばかりの金貨の詰まった箱が抱えられていた。
そう、この彼もまた商人ラインセンスを手に入れるために試験を受けに来た者の一人だった。
一応、彼の本業は冒険者なのだが武器商人も両立させれば金を稼ぐことも容易くなると思い、この試験を受ける事にしたのだが。
試験の内容が冒険者のように敵を倒すのとは勝手が違うため、男にはどうすれば良いのか分からなかった。
「とはいえ、諦めちゃ駄目だよなぁ。なんでもやるだけやった方が良いよな。うん」
このまま悩んだって仕方ない。それを悩む暇があるのなら少しでも多く金貨を増やそう。
ーーそう思った時だった。
「ん? 何の音だ?」
背後から地を駆ける足音が聞こえてくる。その音の激しさから人間ではなく四足歩行の動物ーー馬であるという事が分かった。
街の中で馬に乗って移動する。それ自体は何も珍しい事ではない。
だが、夜遅くしかもこんなスピードで町中を駆け巡るのは不自然に思える。
彼はその事を奇妙に感じて音のする方向へと視線を向ける。するとそこには薄汚れた馬に乗った男が居た。
大きな図体に筋肉によって固められた身体。顔は冑
かぶと
によって隠されており、その正体までは分からなかった。
「おい、貴様。その箱を俺に渡せ!」
「はあ? 何ふざけた事を……っ!?」
彼が言葉を言い終えるよりも早く冑の男は大きな剣を抜刀して。
「もう一度聞く。金を俺に渡せ……!」
「い、いやだ! お前が誰か知らないが、これは俺の大切な物なんだ。渡すわけないだろ!」
それを聞いた冑の男は大剣を強く握り締めて、問答無用でその剣を相手に向けて叩きつけた。
「ぐっ……がっ…………ああ」
いきなりの事で男は何も出来ず吹っ飛ばされる。それでも彼は箱を手放そうとはしなかった。
「俺はな頼んでる訳じゃないんだ。命令してるんだ。もう一度言う、その箱を渡せ」
「いやだ……渡すものか!」
「ちっ、そうかよ。だったら奪い取るまでだ!」
冑の男は目の前に居る冒険者の腕を蹴りつける。そして箱を抱える力が弱ったのを見計らい、それを奪い取った。
「ま……待て、返してくれ」
「取られる方が悪いんだ。もう少し剣の腕を鍛えておくべきだったな、俺みたいに」
それだけ言うと甲冑の男は馬へと跨がり、そのまま、倒れた男を残して去っていく。
そしてしばらく馬を走らせて町外れの池まで向かうと馬を降り、冑を脱いでその素顔を晒した。
「やっぱり冑は息苦しくなるからなぁ、金を盗むってのも大変だ」
冑を取ったその姿は赤い髪に赤い瞳の若い男。それは間違いなくダンク本人だった。
普段から傍若無人な態度を取っているダンクであったが、金貨を盗んでいる事がバレれば試験が失格になることは間違いない。
だから今回はこうして冑を付けて正体を隠していた。
「これで合計は六千グルトか……中々に好調だな」
箱に入った金貨を眺めながらダンクはニヤリと笑う。二千グルトを試験官に渡しても四千グルトも余る。
それは自由に使おうとバレる事はない。そう考えると笑いが止まらなかった。
「…………ん?」
一人金貨を眺めていると、ちゃぷちゃぷと水の音がダンクの耳に聞こえる。その方向を見ると、さっきまで乗っていた馬が池の水を飲んでいた。
「なにお前、勝手な事してんの? 馬ごときの分際で許可なく水を飲んでんじゃねーよ」
そう言って馬を蹴り飛ばすダンク。この馬とこの剣、両方とも落ちていた物を拾ったのだが剣はともかく馬は使い物にならなかった。
人の命令を聞かず、何をするにも反抗的な態度を取っていて。
餌をやらなければ怒る、水をやらなければ勝手に飲もうとする。それに彼にとっては許されない事だった。
「そんなに飲みたければずっと飲んでろよ。ほら!」
そう言ってダンクは馬の尻を勢いよく蹴り飛ばす。
バキッ、という音と共に馬はなす術も無く、そのまま池の中へと転がり落ちた。
「ひひぃん! ひいっ!」
「ははははは! こりゃ面白れーや」
それを眺めて己の小さな征服欲が満たされるのを感じるとダンクは大剣を地面に突き立てて空を見上げる。
そこでふと白髪の青年の顔が頭の中に浮かんだ。
人の事を見透かしたような淀んな瞳。その瞳を思い出す度にダンクは怒りがこみ上げて来るのを感じた。
ダンクは人に見下されるのは嫌いだった。そしてあの青年の瞳は明らかに嘲笑の色があったように見える。
「白髪野郎……次はお前の番だ。俺のデストロイに逃げ惑うお前の姿、今から楽しみだぜ」
◇
「ケーレス、ナナ。例の物は順調か?」
「まあね、問題はないよ。だけどボクも手先は器用じゃない。まだ五十個程だ」
「一応、私は百個ほどできました。こういう物作りは好きな方なので」
宿の自室。そこで私は二人にある物を作らせていた。
私も彼女らと共にそれを作ろうと思ったのだが、どうやら自分はこういう作業には不向きなようで製作は全て二人に任せる事になった。
「悪いね。君たちに用事を任せてしまって」
「いえ……この案を考えたのは宗室さんなんですから、後は私たちに任せてください」
そう言って笑顔で言うナナ。もっとも彼女の場合はこういう作業が好きだから負担とは思っていないようで。
ならばケーレスはどうだろうと思い、視線を彼女の方へと移す。
「ああ……ボクの事も気にかけてくれるんだね。安心してくれよ、ボク自身、誰かに頼られるのは嫌いじゃないからね」
そう言って馴れない手付きでそれを作っていく。私は二人のそんな努力に感謝しつつ、完成品を一つを手に取った。
「なかなか良い出来だ。悪くない」
それは誰もが知っている物。だけどそれはここには存在しない物。
私はその作品を眺めて薄い笑みを浮かべて、そのまま息を吹き掛けた。
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