異世界征服 ~異世界に転移したので略奪スキルで商人を目指していたら世界を掌握していた件~

甘夢

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第一章

商人ライセンス

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 豪腕の酒場。それは初心者冒険者から英雄クラスの騎士まで、色んな種類の人々が酒を飲み言葉を交わすコミュニティ場だ。
 この店は全部で十店舗以上が開かれており、ある意味全国チェーン店のような状態になっている。
 だというのに内装はそこまで洒落た感じは出てない。
 それはどんな人物でも歓迎できるようにという意味であえて気をつかわせないようにしてるとか。
 なるほど確かに高級料理店などに行く時、庶民からしてみれば敷居が高く感じなくもない。
 そういう意味ではここはある種の完成品とも言えた。

 だが、それよりも驚くべき、そして歓喜すべき光景が目の前にあった。

 「凄いものだね……この店、既に椅子とテープルが用意されているよ」

 そう、私達が教えてまだ一日も経っていないのにこの店には椅子やテーブルに近い物が作られていた。
 もっとも他のみんなはまだ馴れていないのか動きがぎこちないようではあったが、それでも無い時よりは楽そうに見えた。

 「元々、あれは只の木箱だ。揃える事自体は何も難しいことではない」
 「だけど、ちゃんと改良も施しているようだね。ボク達の知っている姿に近いんじゃないかな?」

 それはまさしく異世界人の努力の結晶、あるいは才能なのかも知れない。
 見れば辺りのテーブルや机は既に私達が現世界で使っていたものと変わりはしない。
 勿論、ほんの僅かばかり材質が固そうなきらいはあるが別段無視できるほどだ。

 「異世界の人々……やはり侮れんな。普通は新しい物事が発展するのに二月
ふたつき
ほど掛かるものだ。それを一日でやり遂げるとは」
 「きっとこれが流行って奴なんだろうね。昔から地べたで汚れるのが嫌だったんじゃないかな」

 元々、不満があったにはあったが誰もその打開策を浮かばなかったのだろうな。
 人類の発展の歴史。それは努力する事ではなく楽をする事なのだ。
 楽をするにはどうすべきか、それを考えるからこそ新たな発明品が誕生する。
 それは移動が徒歩から馬車へと変化した事からも分かる事だった。

 「いつまでも人の食べている姿を見ても仕方ない。それよりも用件をすまそうじゃないか」 
 「ああ、うん。そうだね。見ているとこっちまでお腹が減ってくるよ」

 ちなみに今回倒したのはあのスライムと、そこに向かう道中で出くわしたゴブリンが三体だけ。
 値段にして三十グルトしかならなかった。それゆえに贅沢はあまりしていられない。

 「これから更に五十グルト減るのは考えものだ」
 「けれど、これで仕事だって就くことができる。そうすれば収入だって安定するだろう?」

 そう私達が今回、この酒場に来た理由は仕事のラインセンスを受けるためだ。
 今手元にはギリギリではあるが百グルト揃っている。
 これを受付に払って試験を受注すれば完了だ。

 ちなみにここではない隣町ではそれ以外にもギルドやらクエストと言った新たな制度があるらしいのだが、残念ながらここにはそう言った施設が存在しないらしい。

 「ところで君は何の試験を受けるつもりなんだい?」
 「勿論商人にするつもりだが」
 「うん、やっぱりそう言うと思ったよ。だけど商人ライセンスは難易度が高いと言われているんだ」
 「なに、問題ない。その程度で落ちるのならば私もそれまでの人間に過ぎんさ」

 私が商人になる運命ならば、もしくはその才覚があるのならば私がこの試験に受かる筈なのだから。

 「さ、早めに受付をすまそう」
 「そうだね」

 私達は店の横わきにある受付サービスまで移動する。
 カウンターの上には一人の女性が受付係をしていた。

 「ようこそ豪腕の酒場へ、今回はどのような用件でしょうか?」
 「ああ……ライセンス試験を受けたいと思ってね。商人ライセンスなんだが大丈夫かな?」
 「はい。問題ありません。そこの二名様でよろしいでしょうか」
 「ああ、頼むよ」

 その言葉と共に受付係は紙を用意して羽鉛筆で何やら書いて渡してきた。

 「こちらにサインを」
 「はい。…………っと、ほらケーレスも」
 「そうだね。ううっ、戦闘の後だと羽鉛筆ですら重く感じてしまうよ」

 そんな文句を言いながらも、ちゃっかりと書き終えるケーレス。しかも私よりも字が綺麗だ。

 「受注完了しました。これが詳細の紙です。試験は明後日なので頑張ってく下さいね」

 受付係の笑顔に私も薄く笑んで返す。そして振り返ってそこに居たのはーー

 「あ、貴方はあの時の木箱の人……!」

 そこには青く長い髪、整った可愛らしい顔立ち。服装は軽装で多少豊満な胸がより強調される形となった。
 そして彼女は昨日出会った店員に間違いなかった。

 「いや、私は木箱ではなく島井宗室だ。宗室で構わんよ。君の名前は?」
 「……私の名前はナナ・ニムエです。また貴方にあえて良かったですっ!」

 そう言って彼女は活発な笑みを浮かべた。
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