異世界征服 ~異世界に転移したので略奪スキルで商人を目指していたら世界を掌握していた件~

甘夢

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第一章

倒せゴブリン軍団 前編

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 草木が生い茂る森の奥。ここまで深い森の中となるとほとんど誰も近づかないのか、人の気配はほとんどなかった。
 辺りに感じるのは草や葉が擦れる音とモンスターの鳴き声、それに木々の合間をすり抜ける涼しい風だけ。
 そんな森の中を私達四人は歩き続けている。

 「んんっ、風が気持ちいいわね」

 そう言ってぐっと腕を伸ばすフミカ。紅の甲冑ごしから、わずかばかりではあるが胸が強調されているのがわかる。
 それを見た黒髪の少年が私の方へと駆け寄ってこっそり耳打ちをしてきた。

 「フミカってさ隠れ巨乳だよな」
 「ふむ……君は彼女のことが好きなのかな?」

 その言葉にレイジは慌てるでもなく、どこか得意げな様子で。

 「実は俺、既に彼女がいるのですよ」
 「そうなのか良かったじゃないか。私もそういった物を作らねばならんな」

 私の言葉を聞いて心底驚いた様子で顔を覗かせる。

 「ええっ? 宋室は彼女いなかったんだ。あんなに強いから絶対モテると思ったのになあ」
 「生憎、出会いがなくてね」

 そもそも私は小学校以降、引きこもりで外に出たことがあまりない。
 だから、女性の中で最も多くの時間を共有したのは知り合って一週間程のケーレスだったりする。

 「先程、胸の話をしていたが、君は彼女がいるのだろう? 浮気になるんじゃないのか?」
 「いや、それで浮気になったら俺、どれだけ女たらしになるんだよ」

 とは言いつつも、私の言葉が気になり出したのか腕を組んで渋い顔をするレイジ。

 「あー、いやそれよりもさ。ほら気になる娘とかいないの? ここには美少女が三人いるんだし」

 あまりそのような下世話な話は得意ではないが、レイジの言われた通り少し考えてみる。
 だが、そういった感性は乏しいのか特定の誰かが気になるという事はなかった。

 「いや、特には」
 「そ、そうなのか? 別に好きとかじゃなくても可愛いとか」
 「フッ、それならないわけではないな」
 「おっ誰なんだその娘は」

 興味津々に尋ねてくるレイジ。それに私は薄い笑みを浮かべて。

 「勿論ここにいる全員だ。皆がそれぞれに異なった魅力を放っている」

 そう彼女たちは言ってみれば宝石のような存在だ。
 そこにダイヤモンド、エメラルド、アクアマリンといった違いはあるものの、その中に優劣は存在しない。

 ナナの場合は人を元気にさせる笑顔が素晴らしい。
 また彼女の髪色は深海のような青を放っており、見る者を安心させる。
 一方のフミカの場合は、知り合ったばかりで分からない部分もあるが。
 炎のような赤い髪にそれと同様の真紅の瞳。凛々しく迷いの無いその容貌は薔薇の花のような印象を受けた。
 そして白髪の死神であるケーレスは一種の芸術品のような魅力を醸し出していた。

 「な、なんだい? 人のことをじろじろ見て」

 私の視線に気付いたのか困惑気味に尋ねてくる。そんな彼女に私は頭を撫でて。

 「君が宝石みたいだと思っただけだ」
 「ななな、何をいってるんだ!? 君は毎回ボクを口説きすぎだぞ……!」

 頬を染めて怒ったように口を尖らせるケーレス。そしてそんな彼女を見て微笑む私を見て、レイジは何とも言えない顔になって。

 「あんた達、絶対付き合ってるだろ!」

 「そんなボクと宗室くんが付き合うなんて……。大体、ボクたちは兄妹なんだし」

 そう言って目を逸らすケーレス。そんな彼女の言葉を聞いて眉を寄せたのはナナだった。

 「ずっと不思議に思ってたんです。どうして兄妹なのに名前で呼ぶんでしょうか?」
 「そ、そんなことない……ヨ」

 ナナの指摘に対応する方法が見つからずケーレスはカチカチに固まる。
 仕方あるまい私が助け船を出してやろうじゃないか。

 「ケーレスは外では固いところがあってね。だが部屋に着くとすぐに甘えて来る、そうだろ?」

 そう言って私は彼女に目で合図を送る。それに何故か嫌そうな様子ではあったがこくん、と頷いて。

 「う、うん。大好きだよ、兄さん」
 「ん? いつもはお兄ちゃんと呼んでいたはずだが」
 「お、お兄ちゃん大好き!」

 もはや投げやりなのか、泣いているのか笑っているのか分からない表情を浮かべるケーレス。
 その様が可愛くてもっとからかいたくなってしまう。これもまた愛情表現の一種というべきか。

 「そう言えば、君は普段お兄ちゃんではなくおにーさんと言っていたね」
 「宋室くん。君はボクをからかって楽しいのかい?」

 「どうだろうな。だが君の顔は見ていても飽きない」
 「それ褒めてるんだよね……だとしたら素直に喜べないかな」

 やさくれた表情でそんなことをいうケーレス。それに何時もの如く頭を撫でようとしたその時だった。

「みんなちょっと来てもらえるかしら」

 茂みに身を潜めながらこちらに来るように合図を送るフミカ。
 それに私たちは頷くとすぐ彼女の元へと駆け寄って。

 「フミカ、何かみつけたのか?」
 「ええ、これを見て」

 そう言ってフミカが指差す向こう。それは斜面の下でそこにはゴブリン一匹に苦戦している男の姿があった。
 仲間は既に死んでいるのか彼の周囲には物言わぬ骸達が転がっている。このままでは彼もその中に入るのは時間の問題だろう。

 「早く助けに行こうぜ! 相手は一匹なんだ俺たちで何とかなる」
 「そうですよ……! 早く行きましょう!」

 レイジは大剣をナナは短剣を持って意気込んでいる。そんな二人を私とフミカが抑えながら。

 「待ちなさい。相手がゴブリン一匹なのに被害が大きすぎるわ」

 周りの骸は四人ほど、いくらモンスターが強いと言えど、この数は以上だった。

 「そうだね、むやみに加勢するのはリスクが大きいと思うな」
 「そんなこと言うけどさ、放っておけるわけないだろう!」

 今にも飛び出しそうなレイジの肩を掴んで彼の動きを止める。

 「落ち着けレイジ。君の安易な判断で仲間まで危険にしてしまうぞ」
 「くっ、それはそうだけど」

 彼をなだめて落ち着かせるとフミカの方を向いて。

 「君はなかなか良い洞察力を持っている。だが、あと一歩が足りんな」
 「あと一歩……?」
 「そうだ。骸に刺さっている物。それに気づけばおのずと敵の考えもわかるというものだ」

 ソニアはもう一度骸を見て、そこでようやくあることに気づく。

 「矢が刺さってる」
 「……あ、つまりこのエリアのどこかに狙撃手
スナイパー
がいるって事だね」

 私の言葉を聞いてケーレスとフミカが気づく。

 「そういうことだ。彼を助けるには狙撃手を先に倒さねばならない」
 「でもそんなことしていたら時間が……」
 「そこで二手に別れようと思う。フミカ、ケーレスは私と共に狙撃手の討伐、レイジは私の合図があるまでここで待機だ。だが男の命が危険だと感じたら合図なしに動いても構わない」

 自分で言いながらもそれは起こりえないと思った。
 おそらく被害を受けている男はゴブリンにとっては魚の餌のようなものなのだろう。
 私たちがその餌に釣られて誘き出されるのを今か今かと待っているに違いないのだ。

 「さて、それでは向かおうか二人とも準備はいいね」

 私の言葉にケーレス達は頷いて、それを確認すると私たちは狙撃手の居るであろう方角へと向かった。
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