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第三夜
薄明の蜩
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梅雨入りの少し前から思考がまとまらないことが増えた。気がつくと放心している。こういうことを書くと鬱小説みたいになりそうで嫌なのだが、本当のことだから仕方ない。
子どもの頃から本は好きだったが、いわゆる日本の純文学と呼ばれるものはあまり好まなかった。読んでいても何か痛快なこともなく、何かが解決されるわけでもない鬱々とした暗い雰囲気が好きではなかった。昔の日本の、うじうじと悩み続ける青年の心情を読んでも子ども心に何も響いてこなかったのを覚えている。専ら海外の児童文学の翻訳ものばかり読んでいた。昔の作品なのに登場人物の言葉遣いが軽妙なところが好きだった。だいたい最後にはトラブルが解決されて悪者は懲らしめられる、そんな時代劇みたいなお決まりのパターンが用意されているであろう結末も読んでいてすっきりするから好きだった。
いつの頃からか、必ずしも一冊の本の中にその作品の世界全てが描かれる必要はないのではないか、と考えるようになった。作者は自分が創り出した世界を読者に全て開示する義務はないし、たった一冊読んだくらいでその話の世界全てを把握する権利は読者にはない。尻切れトンボ、回収しきれなかった伏線。出来が悪いとされるドラマの批評によく見られる文句だが、そもそも最初から全て知ることができるという考え自体思い上がりなのではないか。そんな疑問に答えてくれた本を最近読み終わった。50年以上前に初版が発売されたその作品は見事に尻切れトンボに終わっており、全編でばらまいた伏線は最後までそこかしこに散らばったままだった。正直に言って最初に思い描いていた第一印象やタイトルから連想するイメージとはかけ離れた結末だった。しかし最後のページを読み終えて本を閉じた後、どこか腑に落ちるような感覚が全身を満たした。
これでいいのだ。バカボンのパパも言っている。
何も解決していない。消化不良。これは駄作ではないか。読み終わったあとにいろいろなことを考える。余韻に浸りながら悶々と思案する、もやもやが残る作品にこそ、より濃厚なカタルシスがもれなく付いてくる。この本に書かれているのはほんの一部で、今もどこかで彼らの日常は続いているのでないか。そんな空想を広げるスペースを残しておいてくれているのだ。
この世界のことは、これで全部です。これ以上書き記すべきことは何もありません。そう言い切られてしまうよりはるかにロマンがある、と思う。
毛嫌いしてきたため純文学の類はほとんど知らないが、読後に消化不良を起こす作品が多々あった記憶がある。とても書籍に記されたこと以外の彼らの日常などを想像したくなるような味付けではなかったが。
今こうして何も特別ではない日常を書き綴っていて、物語に出てくるような目覚ましい事件など起こらないし、かといって何も解決はされない。毎日が消化不良だ。自分が純文学の鬱屈した主人公になったみたいでうんざりした。
子どもの頃から本は好きだったが、いわゆる日本の純文学と呼ばれるものはあまり好まなかった。読んでいても何か痛快なこともなく、何かが解決されるわけでもない鬱々とした暗い雰囲気が好きではなかった。昔の日本の、うじうじと悩み続ける青年の心情を読んでも子ども心に何も響いてこなかったのを覚えている。専ら海外の児童文学の翻訳ものばかり読んでいた。昔の作品なのに登場人物の言葉遣いが軽妙なところが好きだった。だいたい最後にはトラブルが解決されて悪者は懲らしめられる、そんな時代劇みたいなお決まりのパターンが用意されているであろう結末も読んでいてすっきりするから好きだった。
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