ネカマ姫のチート転生譚

八虚空

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次世代社会4

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 特殊治安維持機構ネバーランド。
 アリス姫が歩く妖蛆に乗っ取られて解散したワンダーランドの内、戦闘可能な人員で構成された異常存在対策組織である。
 昨今では厳重な守秘義務を守る事と引き換えに民間の異能者を多数、引き抜いており稲荷の会と勢力を二分する大組織に成長を果たしている。

 稲荷の会が基本的に教えを受けて異能に覚醒した純人類派閥の組織であるのに対して、ネバーランドは基本的にエインヘリヤルで構成された新人類派閥の組織であると見做されており、幹部の関知しない水面下では構成員同士が火花を散らして対立することも珍しくはない。
 勿論、佐藤江利香が純人類派の大御所と見られているように組織内でも主義主張はバラバラなのだが、全体的な傾向としてはそうなっている。

 それが前田祥子が南透に隠れるようにして息子へと面会しなければならない状況に追いやってしまったのだった。

「今は南ちゃんが拓巳に面会している時間帯のようね。組織的な事情を考慮しなくても、あの甘い空気を読まずにドカドカ踏み込むのはお勧めしないわ」
「あー、じゃ面会は次の休暇日に回すか。緊急ポータルゲートの使用権は持ち越しても大丈夫そう?」
「構わないわ。どっちにしろ拓巳は重要人物だから常に監視してるもの。体調が稲荷の会の手に負えない程に悪化したら専門の異能者を派遣しなきゃならないし」
「何時もすまんな、リデル。稲荷の会に配慮してお前以外は不可視のポータルゲートを設置してることも知らないんだろ?」
「当たり前でしょ」

 拓巳が入院している病院は稲荷の会の本拠地に隣接して建てられている。もし、そこへ潜在的な敵対組織であるネバーランドの人間がワープ可能だと知られたら大変な事態に発展する。その為、祥子は外部協力者でありネバーランドの正式メンバーではないとされているくらいなのだ。
 もっともポータルゲートはリデルの許可がなければ利用できない仕様だ。拓巳の病室に設置されているポータルゲートが軍事利用される事はあり得ないのだが。

 不可視のポータルゲート。更新されることのなくなったアリス姫のYouTubeチャンネルの登録者数がそれでも100万を越えた時にリデルが獲得した新たな異能である。アリス姫が移動した事のある場所へ1万登録者数毎に相互に移動可能なワープ装置を設置可能になるのがポータルゲートだが、そのポータルゲートの設置可能数を10消費することで移動した事のない場所であろうともアリス姫やリデル側だけが一方的に転移できる他者には不可視なポータルゲートを作り出す能力だ。
 不可視のポータルゲートはその気になれば好きに移動させる事も可能で、強力な異常存在が現れた際に即座に対処できるよう常に予備を確保しておかねばならない。個人的な理由で使用する際は利用予約をして順番待ちをしなければならない決まりになっているのだった。

 このように特殊治安維持機構ネバーランドはバーチャルキャラクターであるリデルを中心として結成された組織である。
 本拠地はバーチャル界のアリス姫の自己領域に置かれており、日本全土にポータルゲートが密かに建設されネバーランドの支部として利用されている。

 アリス姫がユカリと草案を話し合っていた世界各地をポータルゲートで結んだ流通拠点都市アリスシティ作成計画、別名、新世界創造計画を土台として新たに練り直された結果。作成されたのが、新世界ネバーランドなのだ。
 日本のカロリーベースの食料自給率は38パーセント。通常の手段では海外との貿易が不可能になった今、国民の6割が飢える計算となる。

 この危機を乗り越えられた理由がバーチャル界に結成されたネバーランドと世界的秘密結社の日本支部代表にまで上り詰めたユカリの手腕によるものだった。
 異常存在が溢れかえっている日本は海外に不足している神秘の宝庫だ。脈々と受け継がれてきた神の血を引いた日本の象徴である天皇が、信仰によって先祖返りを起こし神霊の一種となって黄泉と化した地上から高天原に帰還した今、日本は神の国とすら交流が可能となった世界でも類を見ないオカルトと科学文明が融合した次世代社会となっている。

 黄泉と高天原の交流は日本神話の逸話故に原則禁止ではあったが、国を憂う子孫の行動を黙認するくらいの度量は天津神にもある。
 この状況下ならば、日本国民を食べさせるのに必要な膨大な食料との取り引き材料などユカリなら幾らでも思い付けた。
 穂村雫の予知した未来にリデルとユカリは存在しない事を考えると寒気がするほど二人は世界に大きな影響をもたらしていたのだった。

「ん、青森の佐藤家近くに5メートル級のダイダラボッチが出現したみたいね。青森の稲荷の会支部のメンバーが動くようだけど、念の為に貴女も控えて貰えるかしら。味方になり得る怪異らしいし、ネバーランドの人間が邪魔しそうなら妨害をお願いね」
「やれやれ。また損な役回りを押し付けられたな」
「仕方ないでしょ。稲荷の会とネバーランドの間に立って平気な人間なんて貴女くらいなのだから」

 はいよっと手を振って前田祥子は青森のポータルゲートへと急いだ。

「……貴女くらいしか、いないのだから」

 こうして日本はギリギリの状況ではあったが、それでも破綻せずに日々の営みを送る事が出来ていた。今は、まだ。
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