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三十七話 霊能結社と魔法記念日
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俺の他者覚醒チートは元から持っている魂の力を引き出しているに過ぎない。
だから理論的には全人類がチートに覚醒してもおかしいことではない、はずだ。
実際に自分だけの現実がまだ確立しきってない子供が超能力を心の底から信じることでチートを発現させた事例があるのだし。
まあ、それでも選ばれた僅かな人間しか現れないことを考えると才能という壁があるのだと思う。
そうじゃないと異能がフィクション扱いなんてそもそもされないし。
でも、それもまた場合によるらしかった。
「それじゃ全員が霊能力を習得したんだな?」
【ああ、間違いない。浮遊霊を影として見ることが出来る程度の力だがな。逆に危険性が増したと拓巳が頭を抱えていたぞ】
通話内容を盗聴された疑いがあったから警察に追われてからは電話を一切してこなかったんだが、もう聞かれていること前提で姉に電話をかけることにした。
少なくとも通話記録は参照されるから変な繋がりがあることはバレると思うが今更だ。
【それとな。私も驚いたんだが】
「どした?」
【太極拳を教導していると言っただろう。気功の習得法とうそぶいて】
エナジードレインのチートを姉は気だと嘘を吐いて誤魔化している。そうでも言わないと曲がりなりにも現実的なラインに話を落とし込めないからだ。
そう、嘘だ。そのはずだったんだが。
【指導した全員が気功の習得に成功してしまった】
「マジで?」
【ああ、マジだ。力は弱いが気の放出も可能で、手も触れずに風呂の水面に波を立たせた場面も見た。私でも出来ないんだぞ……】
エナジードレインはあくまで生命エネルギーの吸収と贈与だからな。エネルギーを放出しても物理現象に影響は与えられない。
せいぜい枯れた枝が瑞々しい状態へ戻るくらいだ。これは本物の気か。
【逆にエネルギーの吸収は出来ないらしくてな。息吹の仕方を教えて体内の気の総量を増やす訓練をしてるところだ】
「息吹って空手じゃなかった?」
【細かいことを気にするな。まあ、霊能力のように幽霊に特攻があるわけじゃないが、気の放出で近寄ってくるのを散らすことは出来るみたいだからな。訓練は続ける予定だ】
ん? 待った。
「幽霊が近寄ってくるのを散らす? まさか霊能力を習得した子が更に気功の習得に成功したのか?」
【それがどうした?】
原則としてチート能力は一人一個だぞ。例外は神様に直にチートを貰った俺くらいだ。
つまり自力で魂の力を覚醒させることさえ出来るならば、そんな制限は発生しない?
その上、俺がチートを与えた人間は他者の魂を容易に覚醒させることが出来るというのならば。
「これ将来的に俺以上のチート能力者がネズミ算式に増えるフラグじゃね?」
【そもそもお前は別に苦労してチート能力を手に入れたわけじゃないだろ。真面目に訓練して習得した人間が与えられただけの人間を超えるのはお約束だろう】
ごもっとも。
まあ、かといってチートの自力覚醒とか何年修行すりゃ強制覚醒した人間に追いつけるのって話で。
チートを与えられた側も成長することを考えたら、万能型か特化型かの違いなだけな気がするな。
「ごめんね、ほったらかしにして」
「いえ、興味深い話を聞けたので」
自分以外にもチートの指導者がいると知ってクリスの目が輝いている。そういやクリスもまだ高校生だったな。堅物に思ってたけどネトゲに熱中してるんだし、こういう話が大好きなのはおかしかないか。
拓巳もまだ中学生だし、ギルメンと会わせるのもいいかもな。幼い頃から幽霊と対峙し続けて自分以上の専門家と知り合うことも出来なかったんだ。心労は凄いことになってるはず。畑違いだとしても不可思議な力を持つ人間と知り合えたら少しは楽になるだろう。
成長速度を鈍らせない為にも俺は悪魔ポジションに就く必要があるんだが。マジかー。
「それで弟、翔太だっけか。俺に紹介したってことは覚醒させて欲しいのか?」
「ええ、そのつもりで来ました。新しい情報が増えてちょっと迷いましたが、世間に自分だけの現実を押し潰されて力を失う可能性も高いので」
「本人の希望は聞いたか? まだ小学六年生なんだろ?」
「流石に望んでもいないのに無理矢理に魔法使いにしようなんてしませんよ。むしろチートを暴かれて教えるよう付き纏われてたくらいです」
んー、それは大好きな兄が魔法使いだから自分も成りたいって話なんじゃねえのかな。
確かにファンタジーの魔法使いになれるものなら、なりたいって気持ちもあるかもしれないけれど。
小学生つっても拓巳と2,3歳しか違わないし平気か? いや拓巳は何か老成し過ぎてて指標にならねえ。
「あー、一応聞くけど翔太君。君はどう? 魔法使いになりたい?」
「なりたいです!」
「死後は俺の許(もと)で働いてもらうけれど、それは大丈夫かな?」
「兄ちゃんと一緒にいられるんでしょ? いいよ?」
「そういう解釈かぁ。学校の友達とか両親とかにも魔法を秘密に出来る?」
「バレると秘密組織に追われるんだっけ。絶対内緒にしますっ」
「クリス、何かえらい調教されてんだが」
「嘘なんて一つも吐いてないでしょう?」
悪戯っぽく笑うクリス。なるほど、橘兄弟はこんな感じで何時も遊んでいるのか。
浩介が妹を巻き込むことに難色を示していたから、そういうもんだと思ってたが、別にチート能力を手に入れることは悪いことじゃない。
むしろ自由に好奇心の赴くままに突き進んで欲しいって感情は俺にも理解できる。世界はツマラナイ面白みのないもんだって納得して、今の輝きを失って欲しくないのだろう。
誰もが子供の頃は持っていた空想で彩られた希望に満ちた世界。何時しか色あせて灰色になっていく現実。
俺も苦い記憶として覚えている。
でも、意外と現実なんてファンタジックなものなんだって事実を俺は知った。なら、ここは盛大に歓迎しようじゃないか。
「わかった。橘翔太君。君の願いは聞き届けた。もしかしたら歴史の裏でずっと実在し続けてきたかもしれない本物の魔法使い。その一員になる可能性を君に与えよう。君の将来に幸あらんことを」
ハッピーバースデー、現代社会に生まれた新たな時代を担う若き魔法使いに喝采を!
だから理論的には全人類がチートに覚醒してもおかしいことではない、はずだ。
実際に自分だけの現実がまだ確立しきってない子供が超能力を心の底から信じることでチートを発現させた事例があるのだし。
まあ、それでも選ばれた僅かな人間しか現れないことを考えると才能という壁があるのだと思う。
そうじゃないと異能がフィクション扱いなんてそもそもされないし。
でも、それもまた場合によるらしかった。
「それじゃ全員が霊能力を習得したんだな?」
【ああ、間違いない。浮遊霊を影として見ることが出来る程度の力だがな。逆に危険性が増したと拓巳が頭を抱えていたぞ】
通話内容を盗聴された疑いがあったから警察に追われてからは電話を一切してこなかったんだが、もう聞かれていること前提で姉に電話をかけることにした。
少なくとも通話記録は参照されるから変な繋がりがあることはバレると思うが今更だ。
【それとな。私も驚いたんだが】
「どした?」
【太極拳を教導していると言っただろう。気功の習得法とうそぶいて】
エナジードレインのチートを姉は気だと嘘を吐いて誤魔化している。そうでも言わないと曲がりなりにも現実的なラインに話を落とし込めないからだ。
そう、嘘だ。そのはずだったんだが。
【指導した全員が気功の習得に成功してしまった】
「マジで?」
【ああ、マジだ。力は弱いが気の放出も可能で、手も触れずに風呂の水面に波を立たせた場面も見た。私でも出来ないんだぞ……】
エナジードレインはあくまで生命エネルギーの吸収と贈与だからな。エネルギーを放出しても物理現象に影響は与えられない。
せいぜい枯れた枝が瑞々しい状態へ戻るくらいだ。これは本物の気か。
【逆にエネルギーの吸収は出来ないらしくてな。息吹の仕方を教えて体内の気の総量を増やす訓練をしてるところだ】
「息吹って空手じゃなかった?」
【細かいことを気にするな。まあ、霊能力のように幽霊に特攻があるわけじゃないが、気の放出で近寄ってくるのを散らすことは出来るみたいだからな。訓練は続ける予定だ】
ん? 待った。
「幽霊が近寄ってくるのを散らす? まさか霊能力を習得した子が更に気功の習得に成功したのか?」
【それがどうした?】
原則としてチート能力は一人一個だぞ。例外は神様に直にチートを貰った俺くらいだ。
つまり自力で魂の力を覚醒させることさえ出来るならば、そんな制限は発生しない?
その上、俺がチートを与えた人間は他者の魂を容易に覚醒させることが出来るというのならば。
「これ将来的に俺以上のチート能力者がネズミ算式に増えるフラグじゃね?」
【そもそもお前は別に苦労してチート能力を手に入れたわけじゃないだろ。真面目に訓練して習得した人間が与えられただけの人間を超えるのはお約束だろう】
ごもっとも。
まあ、かといってチートの自力覚醒とか何年修行すりゃ強制覚醒した人間に追いつけるのって話で。
チートを与えられた側も成長することを考えたら、万能型か特化型かの違いなだけな気がするな。
「ごめんね、ほったらかしにして」
「いえ、興味深い話を聞けたので」
自分以外にもチートの指導者がいると知ってクリスの目が輝いている。そういやクリスもまだ高校生だったな。堅物に思ってたけどネトゲに熱中してるんだし、こういう話が大好きなのはおかしかないか。
拓巳もまだ中学生だし、ギルメンと会わせるのもいいかもな。幼い頃から幽霊と対峙し続けて自分以上の専門家と知り合うことも出来なかったんだ。心労は凄いことになってるはず。畑違いだとしても不可思議な力を持つ人間と知り合えたら少しは楽になるだろう。
成長速度を鈍らせない為にも俺は悪魔ポジションに就く必要があるんだが。マジかー。
「それで弟、翔太だっけか。俺に紹介したってことは覚醒させて欲しいのか?」
「ええ、そのつもりで来ました。新しい情報が増えてちょっと迷いましたが、世間に自分だけの現実を押し潰されて力を失う可能性も高いので」
「本人の希望は聞いたか? まだ小学六年生なんだろ?」
「流石に望んでもいないのに無理矢理に魔法使いにしようなんてしませんよ。むしろチートを暴かれて教えるよう付き纏われてたくらいです」
んー、それは大好きな兄が魔法使いだから自分も成りたいって話なんじゃねえのかな。
確かにファンタジーの魔法使いになれるものなら、なりたいって気持ちもあるかもしれないけれど。
小学生つっても拓巳と2,3歳しか違わないし平気か? いや拓巳は何か老成し過ぎてて指標にならねえ。
「あー、一応聞くけど翔太君。君はどう? 魔法使いになりたい?」
「なりたいです!」
「死後は俺の許(もと)で働いてもらうけれど、それは大丈夫かな?」
「兄ちゃんと一緒にいられるんでしょ? いいよ?」
「そういう解釈かぁ。学校の友達とか両親とかにも魔法を秘密に出来る?」
「バレると秘密組織に追われるんだっけ。絶対内緒にしますっ」
「クリス、何かえらい調教されてんだが」
「嘘なんて一つも吐いてないでしょう?」
悪戯っぽく笑うクリス。なるほど、橘兄弟はこんな感じで何時も遊んでいるのか。
浩介が妹を巻き込むことに難色を示していたから、そういうもんだと思ってたが、別にチート能力を手に入れることは悪いことじゃない。
むしろ自由に好奇心の赴くままに突き進んで欲しいって感情は俺にも理解できる。世界はツマラナイ面白みのないもんだって納得して、今の輝きを失って欲しくないのだろう。
誰もが子供の頃は持っていた空想で彩られた希望に満ちた世界。何時しか色あせて灰色になっていく現実。
俺も苦い記憶として覚えている。
でも、意外と現実なんてファンタジックなものなんだって事実を俺は知った。なら、ここは盛大に歓迎しようじゃないか。
「わかった。橘翔太君。君の願いは聞き届けた。もしかしたら歴史の裏でずっと実在し続けてきたかもしれない本物の魔法使い。その一員になる可能性を君に与えよう。君の将来に幸あらんことを」
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