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「なんであんな無茶をする訳?」

 正面に座る先輩の前で、何故か正座させられている私。
 …そう、ここはホテルの先輩の部屋で、またも私は北条先輩から説教を食らっている状況なのです。
 あれ?デジャブかな?

 先ほど…と言っても既に数時間前ですが、商店街で大捕り物を決めた我々は遅れて登場した警察官から事情聴取なるものを受けました。人生初体験です。
 無精ひげの男が完全に気を失っていて、後ろ手に拘束されていたこともあり、若干こちらが加害者では?という扱いも受けましたが、周りの方の目撃証言で疑いも晴れ、こうして無罪放免となったわけであります。
 でもね、警察の方も不思議がっていました。「切り裂き魔の3件目だけれど、この男とは面識が無いんですよね?」…と。

 いきなり声を掛けられて、勝手に激高して切り付ける犯人の心理は判りませんが、イチャイチャしていたとか言いがかりも甚だしく、何が起こったのか分からないうちに犯人捕縛となったのですが、これも警察では疑われる一因になりました。
 曰く「手際が良すぎる」
 …普通はパニックになってあんな動きをすることが出来るわけないとまたも疑われそうになったため、普段から【魂】の捕縛を生業にしていることを伝えるとやっと得心がいったようで、「お互いに大変な仕事ですね」と返されました。
 良かった良かった…これでめでたしめでたしとなるかと思ったのですが、北条先輩の怒りが凄まじく、食事もさせてもらえないままにホテルへと直行、今に至るという訳です。

「ですから、北条先輩がこのままじゃ危ないと思ったらとっさに体が動いちゃったんだから仕方ないじゃないですか‼」何度も先輩に説明しても判ってもらえない理屈を再度述べる。

「あのままだと、先輩は周りのみんなを庇ってナイフ男の攻撃を受けるかもしれないと思ったし、捕縛袋があったことを思い出して被せたんですよ‼」

 我ながらナイスアイデア&ナイス判断だったと思っている。

「でも、上手くいったからいいけれど、お前だって危なかっただろう‼大けがしたり、殺されたらどうするつもりだったんだ‼」

 …それは考えていなかったけれど。

「北条先輩なら、絶対に最後は助けてくれると思ったので…」

 そう、先輩はいつも、口も態度も悪いけれど、絶対に私を見捨てないと思っていた。

「信頼しているから私も命を預けることが出来たんですよ‼」

「理来…お前…」先輩が前のめりになるが、私は手にしていた捕縛袋を先輩の顔の前に突き付けた。

「…ナニ?コレ…?」北条先輩に聞かれ、私は得意げに胸を張った。

「やっぱり、さっきの男にも【魂】が取り付いていたんですよ‼脱走していた魂ゲットだぜ☆やっぱり操られていると思ったんですよね~」

 さっきの無精ひげの男にはやっぱり【魂】が取り付いていた。
 こいつはまだ悪霊化していないので、多分話も聞き出せる。…こいつを逃がした黒幕についても聞き出してみせる!
 燃え上がる私を前に先輩はため息を吐きながら「とりあえず着替えて来い。落ち着いたらゆっくり話をしよう」と言ったのだった。

「いよいよですね…」

 事件の翌日、私たちは商店街の裏手にある【フォージン葬儀社】…の斜め前にある喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
 本日は【天竺市役所】には切り裂き魔事件に巻き込まれてケガをしたので、病院に行くと欠勤を伝えてある。おかげで1日時間的な猶予ができたから事件に巻き込まれたことも結果オーライだと思う。

 今日中に何とか犯人が動いてくれれば…。そう思いながら、目の前に座るイケメンをチラ見する。
 本日の北条拓海様はブルーのシャツを無造作に着こなし、細身のパンツで決めておられます。
 私服でも王子様感バリバリだな…これではきっとアロハシャツにハーフパンツでも着こなしてしまうだろう。甚平とか…いやダメだそれすらも着こなす危険がある。
 ハッ⁈この写真を撮ってうららかに送れば喜ぶんじゃないか?そうすれば書類仕事を変わってもらえるのでは?
 …そう思いたち「北条先輩のカッコいい写真を撮ってもいいですか?」と聞くとものすごく驚いた顔をされた。

「どうした?お前は俺に興味ないんだろ?」という先輩に「はい。でもうららかに写真を送りたいので…」と素直に頷くとムッとした顔の後で「いいぜ」とOKが出た。

 やった!では早速…とスマホを構えるといきなり先輩が席を移動してくる…なぜに横に座るのでしょうか?
 そして「俺が撮ってやるよ」とスマホを奪われました。

 …自分の一番お気に入りの角度で撮りたいとか拘りがあるのかしら?
 そう思い、ぼーっと先輩を見ているといきなり抱き寄せられ、ぴたりと密着した状態で写真を撮られました。

「ちょっと⁈先輩なんでこんなことするんですか?」

 慌ててスマホを取り上げると、「それなら南原に送っても良いぜ」とニヤニヤする始末…こんなの送ったら私が殺されます。トホホ…。
 ガックリとこれから始まる残業について考えていると「出てきた…後を付けるぞ」と言われ、慌てて席を立ちました。

「はい、これであなたはご臨終です。でも、生前出来なかったことをしたいと思いませんか?…貴方と市役所とを繋ぐ印は切ってあります。思う存分この世を堪能してください」ヒソヒソと囁くように男の声がする。

「やっぱり原田さん、あなたが【魂】を逃がしていた犯人だったんですね?」

 中に踏み込むと、【フォージン葬儀社】の原田社長が慌てた様子でこちらを見た。

 …結局単純な話だったのだ。葬儀社の人間が魂と肉体とを断ち切った後、ご臨終印を押印しなければ、市役所には判らないし、魂も無理に向かうことは無い。
 恐らく防腐処理もしていない魂は24時間で腐敗を始めるから、悪霊化もしやすい。そんな簡単なことだが、まさか葬儀社の人間がやっているとは思わなかった。発覚すれば、業界からは永久追放なうえ、重罪として現世の記録に残るからだ。

「…お前たち誰だよ?なんで俺がやってるってわかったんんだだだだ…」

…様子がおかしい・・・?

「お、オレはすでニ死んデいるカラ、わカラナいと思ったのニななな」

 そう言うと、原田さんの体がズルリと脱げ、中からドロッとした瘴気があふれ出した。

「原田さんは既に死んで、体の中に悪霊が隠れていたのね‼」

 ドロドロとした濃密な闇が辺りを埋め尽くしていく。亡くなった人の魂も、亡骸さえもこのままでは悪霊に取り込まれてしまう‼そう思ったとき、北条先輩が「理来!これを使え‼」と差し出してきた。

「こ、これは…高性能魂掃除機スイトルン‼なんで先輩がこれを持っているんですか?」

「実は、昨夜のうちに必要になるかもと思って、市役所の方に貸出申請を出しておいたんだ!行け!奴を吸い取れ‼」

「理来‼行きまーす‼」高性能掃除機スイトルンを向けると、悪霊はどんどんと中に吸い込まれていく。
 暴れてももがいても逃げ出せないと判ると「アイツガ…アイツラガだいじょうぶッテいったノニ…」と断末魔の叫びを残して中に収納された。

 「よし、これで、一件落着だな。【天竺市役所】に掃除機を返却して、理由を話してから帰るか」先輩の言葉に頷きます。

 …原田さんはいつから悪霊に乗っ取られ、自分のフリをされ続けていたのか…最後に悪霊が言ったあいつらと言うのは誰なのか…謎は残りましたが、私たちの任務はこれで一先ず終了となりました。

 また明日から、【狭間田市役所】でいつもの業務が待っている…。
 …結局先輩の写真…撮れなかったな…帰りの電車で先輩が寝たらワンチャンあるか?と思ったのですが、見透かされていたようで、「もし、勝手に写真撮ったら、さっきの画像を南原に転送する。…ちなみに俺のスマホにデータは転送済みだから消しても無駄だからな」と二人で密着したアップの画像を見せられました。

 ギャーッ⁈そ、それだけは…本当に南原に消される日も近いかも…と思う理来なのだった。
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