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97 バルディーノ教皇庁

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 バルディーノ教皇庁とはあらゆる信仰宗教の祖と称えられる教皇聖座がある宗教国家の総称だ。
 この世に数多ある宗教の総本山とも言われており御神の恩恵にあやかりたい信者による多額の寄付合戦で、小国の年間予算すら凌ぐほどの潤沢な資産を蓄えていると言われている。

 それ自体には何ら問題ないのだが、今回問題視されている点は裏で実しやかに囁かれているバルディーノ教皇が女性信者を幾度か孕ませているという女癖の悪さだろう。見目の良い女性信者を閨に連れ込んでは愛を囁くものの、いざ子を孕んだとたんに掌を返し『本当に余の子か判ったものではない。貞淑さを失った女如きを余が本気で神の花嫁に迎えるとでも思ったか』とバッサリ切り捨てたというのだからただの噂だとしても質が悪すぎる話だ。

 他国にまで広がる醜聞と名声。いずれにせよ、神の託宣と尤もらしい理由を付けてまでマリアーナに会いに来た理由だって、元を正せば彼女自身に興味があったに過ぎない。

 マリアーナもとんでもない助平爺に目を付けられたものだ。




「先頃バルディーノ教皇庁から国王両陛下宛てに信書が届いたんだが、おためごかしの枕詞を外してみれば『アーデルハイド王家における聖女の扱いは奴隷のようだと教皇庁にまで噂が届いている。神の御使いと崇められるべき聖女を政治利用という下賤な目的で利用するなど、天に唾吐く行為にも等しい。そのような事態が今後起こらぬよう、我がバルディーノ教皇庁が聖女の身柄をお預かりし、俗世とは隔絶した清らかな世界へとお導き致そう』との一方的な誹謗中傷とも取れる内容だったという訳だ。勿論、お前も知っての通りマリアーナは聖女外交を行なっているが、それは本人の強い意志であり、決して政治利用ではないと抗議文を送ったものの『当事者を抜いた書簡のやり取りには何の意味もない。直接聖女本人から話を伺おうではないか』と勝手に表敬訪問の日取りまで取り決めてきやがった。完全に舐めたやり口だが、神の託宣を理由にされると対外的に聞こえが悪いからな。仕方なく表敬訪問だけは受け入れる事と、聖女が学生の身だから名代として国王両陛下が謁見すると申し伝えた次第だ。だが『本人の意思で外交を行うのなら、名代ではなく本人が対面してしかるべきだろう。それとも、我らと会わせたくない理由があるのならお聞かせ願おうか』と逆に説き伏せられてしまった。これ以上の時間稼ぎは難しいと判断した陛下が、王宮での謁見を条件に此度のバルディーノ教皇との対面を許さざるを得なかった…と言うのが今回の召喚の理由だ」

 眉を顰め、嫌悪感を露わにするディートハルト先生の様子に国王両陛下が如何にマリアーナを守ろうと考え抜いてくれたのかがわかる。そこまでして会わせたくなかったのなら、あながち噂も的外れでは無いのだろう。

「話を聞く限り、完全にマリアーナを囲い込む気じゃないですか。私が聞いた噂でも信者の女性を自分で閨に引き込んでおいて、孕んだとたんに掌を返すって囁かれていましたし。……まさか噂の“神の花嫁”がマリアーナだとか言い出すつもりじゃないですよね」

「一概には言えないが、確かに有り得そうな話だ。聖女とバルディーノ教皇が婚姻ともなれば世界中の信者が色めき立つだろうし、それによって巨額が動くからな。ましてやマリアーナが子を生せば『神は聖女とバルディーノ教皇が結ばれたことを寿いでいる。聖なる子の誕生は世界を救うだろう』とお祭り騒ぎだろう。陛下もそれを一番に危惧なさっていたからこそ謁見の場にルイスを召喚したんだ。聖女には既に愛する恋人がいると見せつけ、二人の絆を引き裂くことが神の本意だろうかとさり気なくバルディーノ教皇一派に知らしめるためにな」

 成程………バルディーノ教皇とて、お目当ての聖女が目の前で別の男性とイチャイチャしていれば流石に気も削がれるだろう。まさかそんな目的を持って兄が王宮に召喚されたとは夢にも思わなかったが。
 納得し、安心しかけたところでディートハルト先生が「だが…」と表情を曇らせる。

「マリアーナが聖女として覚醒した当初こそ、他国に名を轟かせる目的で聖女外交も活発に行っていたが、最近では学業に専念させる為に外交活動も落ち着いていただろう? それが何故こんな時間が経ってからバルディーノ教皇庁が騒ぎ出したのか……どうにも解せなくてな」

 そう言われてみれば確かにおかしな話ではある。
 王立学術院の卒業を間近に控え、今は学業に専念しろと公務も王都の祭事のみに絞られているとマリアーナ自身も言っていた。外交が活発だった時期なら兎も角、殆ど国外との接触が無くなってから噂だけが独り歩きするなんて事が果たして起こりえるのだろうか?

「……とはいえ、只の偶然という事も十分にあり得る。バルディーノ教皇自身が真意を明かさない限り全てを知ることは無理だろうな。素直に諦めて帰ってくれるのが一番なんだが……」

 ハァ…と溜息を零しながら黒縁眼鏡を外すと、ディートハルト先生の黒曜石のような瞳には困惑の色が見て取れた。

「と、いう訳で今回の相手がどれだけ面倒なのかがお前にもお判りいただけただろう。カールがマリアーナを友人として大切に想う気持ちは尊重してやりたいが、この件に関わるのは諦めてもらうほかないからな」

「でもっ………」

「むしろお前が無理に関わろうとすれば、状況が悪化する危険が高まると気づけ。これは言わない約束だったが…ディミトリ曰く『ルウの事だ、マリアーナが窮地に立たされていると知れば危険も顧みず王宮へ来ようとしかねないから、解決までは一切を伏せろ。あの好色爺がひとたびルウに目をつけたら、公には後ろ盾を持たない以上、彼女を守る手立てがない。兎も角、何も知らせずルウには此処で大人しくしていて貰わないと…いつか私の胃に穴が開きそうだ』だとさ。随分と過保護に愛されているんだと自覚できたら、自分の成すべきことぐらい判るだろう?」

 そう諭されれば「大人しく此処で彼らが戻るのを待つこと……」と答える以外に何が言えるというのか。いくら私がマリアーナの為に心を動かされようとも、力もない只のルイ―セでは無力どころかお荷物でしかないと事実を突きつけられたのだから。

 それで良い、と満足気に頷くディートハルト先生に濡れタオルを奪われると「すっかり腫れも引いたようだし、これで医務室に居座る理由も無くなっただろう。この話は忘れて大人しくアイツらの無事でも祈っておけ」とそのまま廊下へ追い出された。

 ―――理由が判明したところで、結局私に成す術は無い。

 ひと気の疎らな廊下を歩きながら、手立てを考えたところで名案が思いつくはずもない。
 それどころか、バルディーノ教皇がマリアーナの噂を聞きつけた経緯に疑念が湧くから如何にもモヤモヤしてしまう。

 もしかしたらこの謁見自体が元からゲームのシナリオ通りの展開だったという可能性もあるし、ゲームの強制力が私を排除しようとしている可能性も……いや、王宮へ行っていない時点でこの線は外れているだろう。
 情報だけが与えられ、関わることを拒まれた私は、日常に戻るべく何事も無かったかのように教室へと戻ったのだった。




 人は関与を拒まれたからといって、全ての事柄を忘れ去ることが出来るのか?――― その答えは否である。

 その晩から眠るたびにマリアーナが泣きながら遠くへと連れて行かれる悪夢を見るようになった。 それは時にルイスと引き裂かれる泣き顔であったり、悲鳴を上げ見ず知らずの男性から追われている状況だったりと、あの手この手で私の心を蝕む。

 その度に泣きながら目覚め、ドキドキと五月蠅い鼓動を鎮めるのだから安眠できるはずもなく。
 ―――私は次第に眠ること自体に嫌悪感を抱くようになっていった。

「…それで、体術の授業中にいきなりぶっ倒れたという訳か……ほら、水と薬。飲んだら寝ていけ」

 ハァ~~~と深い溜息を零すディートハルト先生に睨まれながら、水と薬を受け取る。

 殆ど眠れなくなってから一週間近くが経った体術の授業中に、私は気を失ったらしい。確かフランツとの実技中で受け身を取ろうとしたところまでは覚えているが…まあ、そのまま地べたに転がったのだろう。動揺したフランツに医務室へ担ぎ込まれ、ここ最近の状況を洗いざらい吐かされる事となったのだが…。
 どうやらご立腹らしいディートハルト先生は苛立った様子を隠そうともせずもう一度溜息を吐く。

「やっぱりディミトリの言う通りお前には話すべきじゃなかった。俺の判断が間違っていたな。本当なら記憶を消してしまいたいところだが、生憎カールには“力”が効かないときてる。このままお前が倒れでもしたら、俺はディミトリに伝えることになるぞ?」

「駄目っ! ………殿下にはこれ以上、心配を掛けたくない………」

「確かに王宮で神経をすり減らしているディミトリにお前の現状を伝えれば、アイツの方が倒れそうだしな………。言われたくないのなら、お前が成すべきことはなんだ?」

「マリアーナの事を忘れて……普段通りの生活を心掛ける事、です」

「判っているのなら、きちんと飯ぐらい食え。眠れないのなら睡眠導入剤を出すから。夢も見ないぐらい眠れるはずだから、しっかり体調を立て直せ」

 厳しい物言いだが怒られて当然だ。コクリと頷くと「ひと眠りしたら、暫くの間は医務室に来るのは禁止だ。お前の事だから俺を見ればまたマリアーナの事を思い出してクヨクヨ、ウジウジするに決まっているからな」と突き放され、また心が騒めく。

 薬が効いてきたのか、どんどん瞼が重くなりもう目を開けていられない。意識が途切れる直前に先生が呟いた「ごめんな……」が何に対する謝罪だったのかも聞けないまま、私は久方ぶりの深い眠りへと誘われていったのだった。




 マリアーナ達が私の日常から消えて一か月が経った。
 漸く薬なしでも悪夢を見なくなり食欲も戻った頃、今年初めての雪が舞った。
 夜半過ぎにちらついただけの淡雪は朝日の訪れと共に跡形もなく消えてしまったけれど、ディミトリ殿下もマリアーナもいない間に季節が移り替わったという事実が微かに胸を痛ませる。

 フランツとくだらない事で笑い合い、エレノアとの放課後のお茶会で美味しいお茶を頂いていても心はポッカリと穴が開いたようになっていて。

 そんな虚しさを抱えた日々は、突如終わりを迎える事となった。




「最近のカール様は物憂げな表情ばかり。溜息を吐くなんて余程私といるのが気詰まりなのかしら」

 エレノアの怒りを含ませた声音にハッと我に返る。如何やら既に日常となった放課後のお茶会でも私はいつの間にかボンヤリと考え込んでいたようだ。

「ごめん……エレノアとのお喋りが退屈なわけじゃないよ。ただ、季節の変わり目のせいか最近眠りが浅いから、どうにも調子が悪くてさ」

 ハハ…と乾いた笑いを零し、お茶に口をつけると既に湯気が消えるほど温くなっている。それだけ長い間生返事をされていた彼女がムッとするのも当たり前の話だろう。

「何かお困りごとでも?私で良ければお力になりますわよ」

「心配して貰う程のものじゃないよ。大丈夫……だから」

 エレノアの淹れてくれたお茶はラベンダーのハーブティーだった。顔色の悪い私を案じてくれたのかもしれない。だからありがとうと微笑むとはにかんだ顔を見せるから少しだけ強張った気持ちが解れる。こうやって楽しい時間を過ごしていれば、いつかは戻ってくるマリアーナにも笑顔でおかえりと伝えられるだろう―――そう、思っていた。

 お喋りに興じているうちに、いつの間にかカフェテリアには誰も居なくなっていた。

 初冬の日没は早く、窓の外には夜の帳が下りている。今頃王宮では晩餐会が開かれているのだろうか。煌びやかに着飾ったマリアーナが気乗りしない相手とのダンスに興じる様を思い描くだけで、またキリキリと胃の辺りが痛む。溜息交じりに「マリアーナ」と呟いたのは完全に無自覚だった。

 だから気が付いた時、目の前でポロポロと涙を零すエレノアを目の当たりにして驚愕のあまり一瞬息が止まったぐらいだ。一切の感情を消し去った彼女の瞳には憎悪だけが揺れている。

「目の前にいるのは私なのに、どうして貴女はあんな女のことばかり……。嫌い嫌い嫌い、大嫌いだわ、あんな女‼」

 一体彼女はどうしてしまったというのか。訳も判らずエレノアに手を伸ばすと、その手をパンッと弾かれた。

「いつまでもカール様の心を占めるのがマリアーナ・アウレイアだというのなら、貴女の心から完全に追い出すには遠くへ追いやる以外に方法は無いでしょう?手の届かない存在になれば、貴女だって諦めざるを得ませんものねぇ」

 どうやら私は彼女の前でマリアーナの名を呼ぶ失態を犯したようだが、それにしても様子がおかしい。先程までの穏やかな笑みは鳴りを潜め、今では瞳から光が消え失せている。

「元々、期間限定の恋人などという曖昧な関係を課したことが全ての誤りだったのですわ。最初から本音で向き合えば良かった。………だって、貴女には私を拒むことは出来ないのですもの」

 呟く声は淡々としているのに、その瞳は爛々と仄暗い炎で輝いていた。

「エレノア、一体なにを………」

「王立学術院の卒業式を終えたら、貴女を…カール・ティーセル男爵令息として、正式にルマール家の婿養子に迎え入れます。私と婚姻の契りを結べば、いくら貴女があの女に懸想しようとも、もうどうにもなりませんもの」

「はっ………⁈」

 突然の展開に全く理解が追いつかない。もしかしたら怒りのあまりエレノアは錯乱状態なのか。
 最初から私達の間には契約の恋人関係しかないというのに。ましてや同性の婚姻など、法的にもルマール侯爵自体も許すはずが無いというのに。

「おかしなことを言うね。私がマリアーナをそんな目で見ていない事ぐらいエレノアは百も承知だろう? それに私達が婚姻など……同性婚が国で認められていない事だって判り切った話じゃないか。もうおかしな話は止めて、冷静に―――」

 言いかけた言葉はエレノアの無邪気な笑い声を聞いて喉の奥へと飲み込まれてしまう。クスクスと笑み崩れる彼女の歪さに、何故かゾワリと背筋に怖気が走った。

「ああ可笑しい。私は至って冷静ですわ。何もご存じないのはカール様の方でしょう?妃殿下が貴女の入学名簿や貴族名鑑をそっくり書き換えたせいで、今のカール様は婚姻に必要な書類の全てを男性として登録されていますのよ?その書類さえあれば、法的にも私達の婚姻は正式に認められますの」

 お生憎様と微笑む彼女の言葉を理解した刹那、自分が顔色を変えた自覚はあった。それはつまり、私達の婚姻が法的に認められるという意味で………。

「ならばルマール侯爵に私が女の身だと今すぐに告白しよう。御息女が婚姻を望む令息が本当は女で、跡取りを生すことも学術院すらも退学になるような相手だと知れば侯爵閣下が認めるはずはないからね」

 この状況でルマール侯爵にこの罪を告白すれば、私は周囲を謀った罪で王立学術院を退学処分になる。しかし、息女が女に入れあげていたなどという醜聞が広まるのは侯爵にとっても痛手でしかない。恐らくは私を他国へ放逐する事を条件に内密に処理されるか、表向きには何のお咎めもなく関わりを断たれるかのどちらかだろうと、この時の私は踏んでいた。

 しかし、私の決死の覚悟を耳にしたにも拘らず、エレノアの表情は笑みを湛えたままで。それどころか薄っすらと憐憫の情とも取れる光を瞳に浮かべながら私を射貫く。

「本当に貴女は愚かで素直で……愛おしいわ。未だに父が何も知らずにいる等という事があるとお思いですの?カール様の正体を知った上で私達の婚姻を認めているとしたら、貴女は諦めて私のものになって下さるのかしら?」

 その声には勝利を確信したかのような嘲る響きが含まれている。

 まさか、あり得ない…… そう思うのに上手く呼吸が出来ない。

 ………如何やら、人の心配ばかりをしている間に、自分自身が抜き差しならない状況に追い込まれていたと、私はこの時漸く気付いたのだった。
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