上 下
80 / 84
エンディング

【派生ルート】ハルエンド

しおりを挟む
 ギイイイイイ…………

 中庭への扉が開く。かわいらしいピンクのドレスに身を包んだ私は、中庭の中央にお父様のエスコートで進む。
 沢山の中に、名前の通り春の光のような笑顔でハルがこちらを見るのが見えた。なんだろう、緊張が解けてすごくほっこりする。
 ほわほわ笑顔になった私は、集まった皆様へのスピーチを終えると、立食パーティーのテーブルを巡りながら、学友と語り合う。本当はみんなと話したかったけど、行く場所行く場所で捕まっちゃうのよ……トホホ。

 今日は主役だから仕方ないかと沢山の人と話していたら、気付けば結構な時間が経っていたので驚く。
 まだ招待したみんなと話せてないのに。

 あちこち見回してみたけど、知った顔を見つけるのは至難の業のように思えた。


「うう、人が多いなあ。もうちょっと小規模だと思ってた」


 ちょっと人に酔ったみたいで、気持ち悪くなってきた私は裏庭に避難する。裏庭にはベンチがあるし、流石に家人しか使わない場所だから誰も居ないはず。

 屋敷の横を通り、裏庭に出ると先客が居た。


「……ハル!」


 ちょっと具合が悪そうに見え、自分も気分が悪かったことを忘れて駆け寄る。


「なんだか顔色が悪くない? ハル、大丈夫?」

「うん、だいぶ良くなってきたところ。クロエさんもなんだか具合が良くないように見えるけど?」

「ちょっとだけ、人当たりしただけだから……少し休めば元気回復すると思う。今、ハルに会えたからだいぶ回復できたしね!」


 サムズアップして大丈夫アピールをすると、ハルがクスクスと笑う。
 なんていうか、本当に短髪にしたハルは程よく色気が出てかっこよくて、大人びて見える。
 ──クロエよりも年齢は上だから、十分大人なんだけど。

 ハルの腰かけるベンチの隣に座ったら、意図せずハルの手の上に手が乗ってしまった。


「ごめんなさい」


 慌てて手を離すと、ハルは困ったような笑みを浮かべている。


「どうしたの? ハル。やっぱり、具合悪いなら客間に案内しようか?」

「ううん、違う。そうじゃないんだ、クロエさん。ボク、やっぱり……」


 そう言って、ハルはうつむいてしまった。次の言葉がなかなか出てこない。
 ゆっくりとした時間が流れていく。なんだかもう言葉は出てこないのかな?と思って、私から静寂を破ることにした。


「うーん、だいぶ気分が良くなってきたー! ハルの隣は落ち着く。ね?」


 ちらっとハルの方を見ると、ハルの頬が赤くなっているように見える。あれ? 熱でも出てる?


「ハル、やっぱり具合悪い? 熱でもある?」


 自分のおでこに手を当て、ハルのおでこにも手を当てる。んー、ちょっと熱いかな?


「ち、違う! 違うんだよ、クロエさん。これはその……嬉しくて」


 ハルは、おでこに置いた私の手を取ると、ギュッと握りしめて真っすぐに目を向けてくる。
 静かな時は一瞬なはずなのに、スチルの時みたいにちょっと長く感じてしまうから不思議よね。


「そのピンク色のドレス、ボクが贈ったものなんだ。似合うと思って贈ったんだけど、やっぱりクロエさんにとっても良く似合う。選んでくれてすごく嬉しかったよ。

 クロエさん……ボクは、あなたの事が心から好きです」

「ふぇ? え、す・好き?」


 真剣なハルの凛々しい顔と声。いつもの可愛いイメージとはギャップが激しすぎる。
 呆けた私の顔は、さっきのハルの比じゃないくらい真っ赤に染まっている。自覚はある、全身の血が顔に集まってるみたい。


「ふふ、その反応。少しはボクを異性として認めてくれているってことかな?」


 いつものハルの表情は、ちょっと楽しそう。もしかして、私はからかわれたのかな?


「もう! ハルの意地悪。からかうなんてヒドイ!」

「からかってなんてないよ、意地悪でもない。ボクはクロエさんが好き。愛してる」


 伝えてスッキリしたのか、もうハルの顔には迷いもなく晴れやかだ。さっきまでの緊張感が嘘のよう。ハルは穏やかないつものぽわーんとした空気を纏っている。
 私は、どうだろう? こうしていつも精神面で私を助けてくれるハル。いつも弱音を吐く私を叱ってくれるハル。私にとって太陽のような温かさを持っているハル。


「ハル……ありがとうございます。私も、ハルのことは大好きです」


 ハルの誠意に応えるために真っすぐハルを見る。ハルも真剣に受け止めようとしてくれているのが分かる。


「正直、まだ愛というのは良く分かりません。けれど、ハルとなら一緒に探せると思います」

「本当!? クロエさん! 嬉しい!」


 私は握られたハルの手を、もう一方の空いていた方の手で握り返す。
 私の返事と同時に、時間がフリーズして花が舞い散り、お互いの手を取り合うスチルが出現する。キャラクターボイスの声優が歌う恋愛エンディング曲「Colorful Love」が流れ、脳内に今までの出来事が走馬灯のように流れる。

 まだ、始まったばかりの恋。
 ハルとなら、ゆっくりでもきっと大きく育てていけると思う。



── ハルエンド 完 ──

初期設定:ハル(初期設定のため多少、小説の設定とは異なります)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...