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ゲーム終盤
心配なので引きこもれない③
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ぐっすり眠れているようなので、ゼリーの出番はまだ遠そうだ。
冷やさないと美味しくなくなってしまうので、一旦冷蔵庫に避難させようとクロムから手を放す。
ぱしっ。
離れたはずの手を、無意識のクロムに掴まれてしまった。
しばらくこのままかと思いながら、クロムの寝顔を眺める。端正な顔立ちに鮮やかな黄色の髪がかかり、窓から漏れる日の光に照らされるその姿は、自分と同じヒトという種族とは思えないくらい綺麗だ。
あ、まつ毛もすごく長い。
眺めることで新たな発見をしながら、そう言えば私はクロムとはしっかり向き合わず、逃げてばかりだったと気が付く。
こうやって、まともに顔を見ることも無かった。
公式ファンブックは紙が擦り切れるくらい見たし、何だったら観賞用・保管用・参考資料用の三冊買っていたくらいだ。
目の前に現れた推したちとの生活なんて、私には夢と同じくらい現実感はないのだけど。
こうしていると、本当に現実なんだなと思う。温度も、感触もちゃんと感じる。
クロムのことになると、元のクロエの心なのか胸のあたりがほわっと暖かい気持ちになる。
その気持ちの正体にはまだ蓋をしておきたい。
まだ17歳なのだから、色んな経験をしていきたいし、レールの上を歩くだけの人生なんてつまらない気がするから。
それに、この感情が幼馴染への同情か、人としての憧れか、それとも恋なのか……クロエの感情が複雑すぎてよくわからない。
クロムのことが好きって言う事は、分かるんだけどなあ。
握られた手が次第に暖かくなっていくのを感じながら、私は知らないうちに眠ってしまった。
「……ロエ、クロエ!」
目を覚ますと、そこには心配顔をしたクロムのドアップが。
「ひゃっ!?」
驚いて大声を上げそうになるのを必死でこらえる。
きょろきょろあたりを見回すと、高かった陽は少し傾き始めているようだ。
「いやだわ、私ったら眠ってしまっていましたのね。クロム様、もうお加減はよろしいのでしょうか?」
「はい。クロエのおかげでよく眠れました。こうして手を繋いでいてくださったのですね?」
「そ、それは……クロム様が……」
意識が無かった相手を責めるのは気が引けて、後半はごもごもと口ごもってしまう。
何となく顔を逸らし「どっちが握っていたのかなんて、分かるでしょー!?」と心の中で叫ぶ。
「クロエの夢を見ました。とても穏やかな時間でした」
「それは良かったですわ」
クロムの顔を改めてみると、以前より少しやせて頬がこけているように見える。
「眠れないほど無理をなさっていたなんて、存じ上げませんでした。こんなにおやつれになって」
こけた頬に触れると、クロムはその手を包み込む。
「いいえ。クロエ、あなたの為になら私はどんな苦行にも耐えられます。それにこうして、私の危機に駆けつけてくださった。
それだけで、私は……」
背景に色とりどりの花が飛び散り、時間が切り取られる。
どうやらこれがクロムの人助けイベントだったようで、スチルが発生した。
あまりの美しさに見とれている私の手を取ると、クロムはその手にキスをする。
「クロエ、私はあなたを他の誰にも渡したくはありません。あなたの気持ちなどどうでもいいくらいに、私はあなたを独占したくてたまらないのです。おかしいですね。少し前まではこんなにあなたを愛おしいと思ったことはなかったのに」
こ、この雰囲気は危ない! このまま既成事実を作られてしまうかもしれない!
焦った私は、いきなり話を逸らした。
「ぜ!!! ゼリー! クロム様、ゼリーをお召し上がりになりませんか? そうしましょう! 薬草で疲労回復できますわ!」
私の必死の形相に、クロムはせっかくの雰囲気を台無しにされてきょとんとしたあと、大爆笑した。
そんな、涙が出るほど笑う事ないじゃない?
「はい、あーん!」
雰囲気をぶち壊したお詫びに、ゼリーを口に運ぶとクロムは私に従ってゼリーを口に入れる。
「もう少し冷えていた方がおいしかったでしょうか」
「クロエに食べさせて貰えるのだから、なんでも美味しいですよ」
「もう! そんなことばかり……!」
「冗談ではありません。薬草の力でしょうか? 凄く体力が回復しました。これはすごい効果ですよ?」
確かに、そう言われてみるとクロムの肌艶は良くなっているように見える。
ゼリーを食べ終えると、いつものクロムにすっかり戻っていた。
夕方までクロムと過ごし、これからは体調が悪くなる前に安眠の魔法をかけるので私を呼ぶようにと釘を刺し、今日は別れた。
本当はクロムからこの後の予定を聞かれたのだけど、これ以上親密度が上がってしまうと、このまま恋愛エンディングを迎えてしまうのじゃないかと心配になって断ってしまった。
クロムとの相性は良すぎるほど良いのだから、気を付けないと。
家に戻った私が、ステータスの親密度を見て心の奥底からホッとしたのは言うまでもない。
うう、久々に言わせて!
このまま引きこもっていて、いいですか?
冷やさないと美味しくなくなってしまうので、一旦冷蔵庫に避難させようとクロムから手を放す。
ぱしっ。
離れたはずの手を、無意識のクロムに掴まれてしまった。
しばらくこのままかと思いながら、クロムの寝顔を眺める。端正な顔立ちに鮮やかな黄色の髪がかかり、窓から漏れる日の光に照らされるその姿は、自分と同じヒトという種族とは思えないくらい綺麗だ。
あ、まつ毛もすごく長い。
眺めることで新たな発見をしながら、そう言えば私はクロムとはしっかり向き合わず、逃げてばかりだったと気が付く。
こうやって、まともに顔を見ることも無かった。
公式ファンブックは紙が擦り切れるくらい見たし、何だったら観賞用・保管用・参考資料用の三冊買っていたくらいだ。
目の前に現れた推したちとの生活なんて、私には夢と同じくらい現実感はないのだけど。
こうしていると、本当に現実なんだなと思う。温度も、感触もちゃんと感じる。
クロムのことになると、元のクロエの心なのか胸のあたりがほわっと暖かい気持ちになる。
その気持ちの正体にはまだ蓋をしておきたい。
まだ17歳なのだから、色んな経験をしていきたいし、レールの上を歩くだけの人生なんてつまらない気がするから。
それに、この感情が幼馴染への同情か、人としての憧れか、それとも恋なのか……クロエの感情が複雑すぎてよくわからない。
クロムのことが好きって言う事は、分かるんだけどなあ。
握られた手が次第に暖かくなっていくのを感じながら、私は知らないうちに眠ってしまった。
「……ロエ、クロエ!」
目を覚ますと、そこには心配顔をしたクロムのドアップが。
「ひゃっ!?」
驚いて大声を上げそうになるのを必死でこらえる。
きょろきょろあたりを見回すと、高かった陽は少し傾き始めているようだ。
「いやだわ、私ったら眠ってしまっていましたのね。クロム様、もうお加減はよろしいのでしょうか?」
「はい。クロエのおかげでよく眠れました。こうして手を繋いでいてくださったのですね?」
「そ、それは……クロム様が……」
意識が無かった相手を責めるのは気が引けて、後半はごもごもと口ごもってしまう。
何となく顔を逸らし「どっちが握っていたのかなんて、分かるでしょー!?」と心の中で叫ぶ。
「クロエの夢を見ました。とても穏やかな時間でした」
「それは良かったですわ」
クロムの顔を改めてみると、以前より少しやせて頬がこけているように見える。
「眠れないほど無理をなさっていたなんて、存じ上げませんでした。こんなにおやつれになって」
こけた頬に触れると、クロムはその手を包み込む。
「いいえ。クロエ、あなたの為になら私はどんな苦行にも耐えられます。それにこうして、私の危機に駆けつけてくださった。
それだけで、私は……」
背景に色とりどりの花が飛び散り、時間が切り取られる。
どうやらこれがクロムの人助けイベントだったようで、スチルが発生した。
あまりの美しさに見とれている私の手を取ると、クロムはその手にキスをする。
「クロエ、私はあなたを他の誰にも渡したくはありません。あなたの気持ちなどどうでもいいくらいに、私はあなたを独占したくてたまらないのです。おかしいですね。少し前まではこんなにあなたを愛おしいと思ったことはなかったのに」
こ、この雰囲気は危ない! このまま既成事実を作られてしまうかもしれない!
焦った私は、いきなり話を逸らした。
「ぜ!!! ゼリー! クロム様、ゼリーをお召し上がりになりませんか? そうしましょう! 薬草で疲労回復できますわ!」
私の必死の形相に、クロムはせっかくの雰囲気を台無しにされてきょとんとしたあと、大爆笑した。
そんな、涙が出るほど笑う事ないじゃない?
「はい、あーん!」
雰囲気をぶち壊したお詫びに、ゼリーを口に運ぶとクロムは私に従ってゼリーを口に入れる。
「もう少し冷えていた方がおいしかったでしょうか」
「クロエに食べさせて貰えるのだから、なんでも美味しいですよ」
「もう! そんなことばかり……!」
「冗談ではありません。薬草の力でしょうか? 凄く体力が回復しました。これはすごい効果ですよ?」
確かに、そう言われてみるとクロムの肌艶は良くなっているように見える。
ゼリーを食べ終えると、いつものクロムにすっかり戻っていた。
夕方までクロムと過ごし、これからは体調が悪くなる前に安眠の魔法をかけるので私を呼ぶようにと釘を刺し、今日は別れた。
本当はクロムからこの後の予定を聞かれたのだけど、これ以上親密度が上がってしまうと、このまま恋愛エンディングを迎えてしまうのじゃないかと心配になって断ってしまった。
クロムとの相性は良すぎるほど良いのだから、気を付けないと。
家に戻った私が、ステータスの親密度を見て心の奥底からホッとしたのは言うまでもない。
うう、久々に言わせて!
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