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ゲーム中盤
やること盛りだくさんで引きこもれない!③
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授業が終わって、クロムの執務室に足を運ぼうとしているのに、アメリアとナイルはまだ桃ゼリーの話で盛り上がっていた。
「桃というのはあんなに美味しいものだったとは。兄上にも差し入れするんだろう? 間違いなく取扱量を検討することになると思うぞ。王宮からレシピを教えてもらうよう通達が行くかもしれん」
「そんな、大げさな……」
「大げさなんかじゃないよ! それくらい衝撃的な味だったもん! クロエのお菓子中毒になりそう、私。」
「アメリアまで……」
アメリアは既にお菓子中毒になってるけどね、と心の中で思いながら学び舎から一緒に歓談しながら歩く。
高等学問所の前についたので、私は二人と別れてクロムの執務室に足を運んだ。
本当は柵を飛び越えてショートカットしたいのだけど、流石に昼間は人が多すぎてはしたないことは出来ないのが残念。
ドアをノックする前に、何となくこれから起きる出来事を脳内に浮かべ、ちょっとだけため息をつく。
茜の気持ちと、本当のクロエのクロムへの気持ちが少しちぐはぐなので、クロムに逢うと他のメンズよりも少々疲れる。
ドキドキや顔の紅潮で、元々のクロエが婚約者のクロムの事を好きだったことは十分伝わってくる。
まだ親密度のカンストまで200以上の猶予があるし、今日どうこうということはないだろうと思うけど、良すぎる相性と気疲れから気合いを入れておかないと私が持たない。
すう、はあ。
息を整えてから、執務室の扉をノックした。
コンコン
「誰だ? 今は来客中だが」
中からは、少々苛立ったようなクロムの声が聞こえる。
「あの、クロエです。お取込み中のようなら日を改めますわ」
「ちょっと待て!」
カツカツと早足で扉までやってくる足音が聞こる。執務室の扉を開けてくれたのはクロム本人だった。
スチルでもないのに、その場の雰囲気が華やかすぎてバラを背負っているように見える。
「クロエ、取込み中で申し訳ない。君の顔が見れて私も嬉しいよ」
何だかちょっとトラブルでもあったんじゃないの?というくらピリついたさっきの雰囲気から、どうしてこんな甘い言葉を吐けるの。
やっぱりクロムは要警戒人物だ。
タジタジしながらも、せっかく出てきてくれたクロムに作ったゼリーを渡さないわけにもいかない。
夜には弟のナイルから桃ゼリーの話を聞くのだろうし、その時にせっかくここまで上がった親密度が下がってしまうのも何か嫌だ。
「あの、クロム様。お取込み中のようでしたが、私の対応などしていただいても大丈夫なのでしょうか?」
「ええ。むしろ少しあなたのおかげで熱くなった頭をスッキリさせることが出来ました。あなたは私の癒しなのですよ、クロエ」
何だか熱っぽい視線に思わず釘付けになる。困った私は話を逸らす。
「今日は差し入れを持ってまいりましたの。以前、クロム様が気に入ってくださったゼリーですわ。今回は桃の果実を使ってみましたのでお話が終わられましたら、ぜひお召し上がりくださいね。甘いので疲れも取れると思います」
「ゼリー!? あのつるんとした食感の……あのお菓子ですか? これは一刻も早く話を終わらせなければ。やる気が湧いてきました!」
クロムの顔がぱあっと明るくなる。
ゼリーの箱を手渡して、その場から去ろうとすると、クロムが私の手を取って引き留める。
「クロエ、今日は本当にありがとうございます。またあなたに……いえ。名残惜しいですが、また来てくださいますか?」
「もちろんですわ」
私がイエスと答えると、クロムは本当に名残惜しそうに手を離し、執務室の扉を閉めた。
扉が閉まる前の、何とも言えない寂しそうな顔が気になった。
だけど、私がクロムの代わりに交渉事など出来るわけもないし、気になりつつもクロムの執務室を後にした。
それよりも「またあなたに」ってなに!!?
ぽわぽわと恋愛イベントの<クロム様、あーん>のスチルが脳内で再生されて悶える。
だめ!!! まだ私にはやることが!!!
まだジーンとハルに差し入れをしないといけないのに、この程度で気疲れしている場合じゃない!
特にジーンは推しなだけあって強敵だ。
気合いを入れ直し、こっそり携帯していたウエンディを呼び出して、MAPを開く。
ハルは自身のお店に、ジーンは公園近くの川辺あたりで……ん?点滅している。
「あれ? ジーンが点滅してる。これってピンチなんじゃないの?」
『はい、ただいまジーン様は窮地に立たされております。今すぐ向かってピンチをお助けすれば好感度が上がります』
「分かった。まずジーンの場所に向かうね! そのあとハルのお店に行くことにする」
『お急ぎください』
ウエンディをバッグに戻すと、出来るだけ急いで公園近くの川辺に向かった。
「桃というのはあんなに美味しいものだったとは。兄上にも差し入れするんだろう? 間違いなく取扱量を検討することになると思うぞ。王宮からレシピを教えてもらうよう通達が行くかもしれん」
「そんな、大げさな……」
「大げさなんかじゃないよ! それくらい衝撃的な味だったもん! クロエのお菓子中毒になりそう、私。」
「アメリアまで……」
アメリアは既にお菓子中毒になってるけどね、と心の中で思いながら学び舎から一緒に歓談しながら歩く。
高等学問所の前についたので、私は二人と別れてクロムの執務室に足を運んだ。
本当は柵を飛び越えてショートカットしたいのだけど、流石に昼間は人が多すぎてはしたないことは出来ないのが残念。
ドアをノックする前に、何となくこれから起きる出来事を脳内に浮かべ、ちょっとだけため息をつく。
茜の気持ちと、本当のクロエのクロムへの気持ちが少しちぐはぐなので、クロムに逢うと他のメンズよりも少々疲れる。
ドキドキや顔の紅潮で、元々のクロエが婚約者のクロムの事を好きだったことは十分伝わってくる。
まだ親密度のカンストまで200以上の猶予があるし、今日どうこうということはないだろうと思うけど、良すぎる相性と気疲れから気合いを入れておかないと私が持たない。
すう、はあ。
息を整えてから、執務室の扉をノックした。
コンコン
「誰だ? 今は来客中だが」
中からは、少々苛立ったようなクロムの声が聞こえる。
「あの、クロエです。お取込み中のようなら日を改めますわ」
「ちょっと待て!」
カツカツと早足で扉までやってくる足音が聞こる。執務室の扉を開けてくれたのはクロム本人だった。
スチルでもないのに、その場の雰囲気が華やかすぎてバラを背負っているように見える。
「クロエ、取込み中で申し訳ない。君の顔が見れて私も嬉しいよ」
何だかちょっとトラブルでもあったんじゃないの?というくらピリついたさっきの雰囲気から、どうしてこんな甘い言葉を吐けるの。
やっぱりクロムは要警戒人物だ。
タジタジしながらも、せっかく出てきてくれたクロムに作ったゼリーを渡さないわけにもいかない。
夜には弟のナイルから桃ゼリーの話を聞くのだろうし、その時にせっかくここまで上がった親密度が下がってしまうのも何か嫌だ。
「あの、クロム様。お取込み中のようでしたが、私の対応などしていただいても大丈夫なのでしょうか?」
「ええ。むしろ少しあなたのおかげで熱くなった頭をスッキリさせることが出来ました。あなたは私の癒しなのですよ、クロエ」
何だか熱っぽい視線に思わず釘付けになる。困った私は話を逸らす。
「今日は差し入れを持ってまいりましたの。以前、クロム様が気に入ってくださったゼリーですわ。今回は桃の果実を使ってみましたのでお話が終わられましたら、ぜひお召し上がりくださいね。甘いので疲れも取れると思います」
「ゼリー!? あのつるんとした食感の……あのお菓子ですか? これは一刻も早く話を終わらせなければ。やる気が湧いてきました!」
クロムの顔がぱあっと明るくなる。
ゼリーの箱を手渡して、その場から去ろうとすると、クロムが私の手を取って引き留める。
「クロエ、今日は本当にありがとうございます。またあなたに……いえ。名残惜しいですが、また来てくださいますか?」
「もちろんですわ」
私がイエスと答えると、クロムは本当に名残惜しそうに手を離し、執務室の扉を閉めた。
扉が閉まる前の、何とも言えない寂しそうな顔が気になった。
だけど、私がクロムの代わりに交渉事など出来るわけもないし、気になりつつもクロムの執務室を後にした。
それよりも「またあなたに」ってなに!!?
ぽわぽわと恋愛イベントの<クロム様、あーん>のスチルが脳内で再生されて悶える。
だめ!!! まだ私にはやることが!!!
まだジーンとハルに差し入れをしないといけないのに、この程度で気疲れしている場合じゃない!
特にジーンは推しなだけあって強敵だ。
気合いを入れ直し、こっそり携帯していたウエンディを呼び出して、MAPを開く。
ハルは自身のお店に、ジーンは公園近くの川辺あたりで……ん?点滅している。
「あれ? ジーンが点滅してる。これってピンチなんじゃないの?」
『はい、ただいまジーン様は窮地に立たされております。今すぐ向かってピンチをお助けすれば好感度が上がります』
「分かった。まずジーンの場所に向かうね! そのあとハルのお店に行くことにする」
『お急ぎください』
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