上 下
52 / 84
ゲーム中盤

やること盛りだくさんで引きこもれない!③

しおりを挟む
 授業が終わって、クロムの執務室に足を運ぼうとしているのに、アメリアとナイルはまだ桃ゼリーの話で盛り上がっていた。


「桃というのはあんなに美味しいものだったとは。兄上にも差し入れするんだろう? 間違いなく取扱量を検討することになると思うぞ。王宮からレシピを教えてもらうよう通達が行くかもしれん」

「そんな、大げさな……」

「大げさなんかじゃないよ! それくらい衝撃的な味だったもん! クロエのお菓子中毒になりそう、私。」

「アメリアまで……」


 アメリアは既にお菓子中毒になってるけどね、と心の中で思いながら学び舎から一緒に歓談しながら歩く。
 高等学問所の前についたので、私は二人と別れてクロムの執務室に足を運んだ。
 本当は柵を飛び越えてショートカットしたいのだけど、流石に昼間は人が多すぎてはしたないことは出来ないのが残念。
 ドアをノックする前に、何となくこれから起きる出来事を脳内に浮かべ、ちょっとだけため息をつく。
 わたしの気持ちと、本当のクロエのクロムへの気持ちが少しちぐはぐなので、クロムに逢うと他のメンズよりも少々疲れる。
 ドキドキや顔の紅潮で、元々のクロエが婚約者のクロムの事を好きだったことは十分伝わってくる。
 まだ親密度のカンストまで200以上の猶予があるし、今日どうこうということはないだろうと思うけど、良すぎる相性と気疲れから気合いを入れておかないと私が持たない。

 すう、はあ。

 息を整えてから、執務室の扉をノックした。


 コンコン


「誰だ? 今は来客中だが」


 中からは、少々苛立ったようなクロムの声が聞こえる。


「あの、クロエです。お取込み中のようなら日を改めますわ」

「ちょっと待て!」


 カツカツと早足で扉までやってくる足音が聞こる。執務室の扉を開けてくれたのはクロム本人だった。
 スチルでもないのに、その場の雰囲気が華やかすぎてバラを背負っているように見える。


「クロエ、取込み中で申し訳ない。君の顔が見れて私も嬉しいよ」


 何だかちょっとトラブルでもあったんじゃないの?というくらピリついたさっきの雰囲気から、どうしてこんな甘い言葉を吐けるの。
 やっぱりクロムは要警戒人物だ。
 タジタジしながらも、せっかく出てきてくれたクロムに作ったゼリーを渡さないわけにもいかない。
 夜には弟のナイルから桃ゼリーの話を聞くのだろうし、その時にせっかくここまで上がった親密度が下がってしまうのも何か嫌だ。


「あの、クロム様。お取込み中のようでしたが、私の対応などしていただいても大丈夫なのでしょうか?」

「ええ。むしろ少しあなたのおかげで熱くなった頭をスッキリさせることが出来ました。あなたは私の癒しなのですよ、クロエ」


 何だか熱っぽい視線に思わず釘付けになる。困った私は話を逸らす。


「今日は差し入れを持ってまいりましたの。以前、クロム様が気に入ってくださったゼリーですわ。今回は桃の果実を使ってみましたのでお話が終わられましたら、ぜひお召し上がりくださいね。甘いので疲れも取れると思います」

「ゼリー!? あのつるんとした食感の……あのお菓子ですか? これは一刻も早く話を終わらせなければ。やる気が湧いてきました!」


 クロムの顔がぱあっと明るくなる。
 ゼリーの箱を手渡して、その場から去ろうとすると、クロムが私の手を取って引き留める。


「クロエ、今日は本当にありがとうございます。またあなたに……いえ。名残惜しいですが、また来てくださいますか?」

「もちろんですわ」


 私がイエスと答えると、クロムは本当に名残惜しそうに手を離し、執務室の扉を閉めた。
 扉が閉まる前の、何とも言えない寂しそうな顔が気になった。
 だけど、私がクロムの代わりに交渉事など出来るわけもないし、気になりつつもクロムの執務室を後にした。


 それよりも「またあなたに」ってなに!!?


 ぽわぽわと恋愛イベントの<クロム様、あーん>のスチルが脳内で再生されて悶える。
 だめ!!! まだ私にはやることが!!!
 まだジーンとハルに差し入れをしないといけないのに、この程度で気疲れしている場合じゃない!
 特にジーンは推しなだけあって強敵だ。
 気合いを入れ直し、こっそり携帯していたウエンディを呼び出して、MAPを開く。
 ハルは自身のお店に、ジーンは公園近くの川辺あたりで……ん?点滅している。


「あれ? ジーンが点滅してる。これってピンチなんじゃないの?」

『はい、ただいまジーン様は窮地に立たされております。今すぐ向かってピンチをお助けすれば好感度が上がります』

「分かった。まずジーンの場所に向かうね! そのあとハルのお店に行くことにする」

『お急ぎください』


ウエンディをバッグに戻すと、出来るだけ急いで公園近くの川辺に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...