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ゲーム中盤

眼福すぎて引きこもりたい

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 みし。

 宝箱の中身を確かめて、全員でハイタッチしていたところで何かが音を立てた。
 何だか壁から聞こえたような?
 よく見ると壁が盛り上がっているように見える。

 あ、これダメなやつでは?


「皆さん、気を付けてくださいませ! 何か来ます!」


 宝箱の「ミノタウロスの角」だけはとにかく回収し、その場から離れる。

 みし。みし。

 壁が反対側からの圧力に負けてガラガラと音を立てて崩れる。
 そこに居たのは、大きな蛇のモンスターだった。


「げ! バジリスク!!!」

「バジリスク? というと、あの睨まれただけで石になってしまうという蛇のモンスターでしょうか?」

「逃げたほうがいいですね。私たちの戦力と装備では、あのモンスターに勝つことは難しいでしょう」

「では、逃げましょう……!」


 逃げようと言おうとした瞬間、長い尾を振ってバジリスクが威嚇をしてくる。


「どうやら、逃がしてくれる気はないみたいだぜ? どうする? クロエ」

「戦うしかありませんわ! レベル上げにはちょうどよろしいんじゃないかしら?」

「わかりました。目を見ないように気を付けてください。視線を合わせると石にはなりませんが拘束されて動けなくなります」

「リョウカイ! バジリスクは毒にも注意だぜ?お嬢さん、ナイル様、毒には気を付けてください……ヨッ!」


 ジーンが言うか言わないか、毒液でバジリスクが攻撃してきた。
 宝箱からある程度の回復系アイテムは回収してあるとはいえ、この戦闘のあとにどれほど残るだろうか。
 とにかく、さっきと同じ要領で癒しの香炉に火を付けて床に置く。
 バジリスクは闇属性なので、このモンスターも私の混乱系の精神魔法は効きにくい。
 かといって、光魔法で攻撃系のものは効果の低い「ホーリーアロー」しか使える魔法がない。
 ホーリーアローは補助的に使い、基本は私が得意な火属性魔法を攻撃に使う。


「ホーリーアロー!」


 私が光の弓矢で攻撃すると、ナイルがギョッとした顔で私を見る。


「クロエ、光属性魔法なんて使えたのか!? その前に光属性の適正なんてあったのか? 知り合いに光属性持っているのはアメリアだけだと思っていた」

「ナイル様、戦闘中におしゃべりなんて余裕ですわね? 私だって驚いていますわ。後天的に属性が追加されましたの」


 どうやら、さっきまでの戦闘でも使っていたホーリーアローにナイルは気付いていなかったみたい。
 確かにミノタウロスとの戦闘時は詠唱をしていなかった。


「お嬢さん、すげーな! 流石、俺の見込んだイイ女! この調子で頼むぜ!」


 ジーンは私の肩をポンっと叩くと、シモンと二人で攻撃をしかける。
 攻撃は当たったけど、あまりダメージにはつながらなかった。思ったより体が硬いみたい。
 バジリスクは身体をふるって鱗を飛ばしてきた。結構広範囲の攻撃だ。
 シールドを展開して攻撃を受け止める。


「みなさん、少し離れてください。バジリスクは討伐で回収する素材はありませんので、インフェルノを試してみますわ」


 念のため、移動した全員を守れるようシールドを再度展開し、バジリスクに向かってインフェルノを放つ。
 しかし、流石に強いモンスターなだけあって、すぐに倒れるということは無さそうだ。
 ナイルがシールドから出てウィンドカッターで攻撃すると、バジリスクは毒液を吐いてきた。
 この状態で毒液を吐くと予想していなかったので、私はシールドを展開するのが少し遅れ、ナイルも避けきれず少し毒がかかってしまった。


「くっ!」

「ナイル様!!!」


 シモンがその場にうずくまったナイルをシールドの中に引き寄せる。
 私はそれを見て逆上し、もう一度バジリスクにインフェルノをかけた。
 魔法の重ねがけなんてしたことなかったけど、出力が上がった炎は轟音とともにバジリスクをのみ込んだ。
 バジリスクは炎に包まれ、苦しそうな声を上げてその場に倒れた。

 炎が消える頃には、バジリスクも一緒にサラサラと砂になって消えていく。
 ホッとしたのもつかの間、シモンがナイルを呼ぶ声が聞こえる。


「ナイル様! ナイル様!!! しっかりしてください!」

「ぐ……ふぅ…………!!!」


 毒液がかかったのは左肩だった。もう毒が回ってきているのか、皮膚が紫色に変色してきている。


「ナイル様、これを!!!」


 宝箱から回収した毒消しを飲ませてみる。皮膚の色は元にもどったけど、ナイルの様子はどんどん苦しそうになっていく。


「どうして……? 毒は消えたみたいなのに」

「ひょっとしたら、血清が必要なんじゃないか? 蛇の毒には血清だろ。」

「ですが、バジリスクはもう……はっ!!!」


 私はミノタウロスを倒した時に回収した深緑色の回復薬のようなものの正体を思い出した。
 あれは、確か血清だった。
 何に使うのだろう?と思いつつ、ゲーム内の有り余ったお金でとりあえず買っておいたアイテムの中にこの薬があった。
 クロエルートで遊ばない限り使わないものだったのかと納得して、手に入れた血清を鞄から出す。


「多分、このアイテムは血清だと思いますわ。キラキラしてる何かは、先ほどの戦闘で飛んできたバジリスクの鱗にそっくりです。そのバジリスクの鱗と一緒に入っていましたから、間違いないと思いますわ。さあ、ナイル様。これを」


 血清を飲ませようとしたけど、ナイルはどんどん弱っていっているせいで、もう自力で飲めそうもない。


「お嬢さん、無理だ。これは口移しだろうな」

「えっ!!? 口移し!!?」


 よくある展開だけど、それを私がやるとは思ってなかった!!
 照れてる場合じゃないし、第三王子とはいえ王家の人間を死なせるわけにはいかない。
 腹をくくって血清を口に含もうとしたところで、シモンがそれを制する。


「クロエ様、もっとご自身を大切になさってください。それは私がやりましょう」

「へ!!?」

「兵士がやられた時は、こういった処置をすることもあります。私が飲ませます」

「ですけれど……」

「クロエ様はクロム様の大切な婚約者です。この場に私どもしか居ませんし、緊急時とはいえ……流石に乙女に口づけをさせるわけにはまいりません」

「大丈夫、ヤローとはノーカンだ」


 ジーンは、私がナイルの唇の心配をしていると思ったのか、ちょっとナナメなフォローをする。
 そこまで言われては、と血清の瓶を差し出すとシモンは瓶の中身を口に含む。
 そしてナイルの唇にそっと指を添えて口を開き、口の中の血清を流し込んだ。


「く……はっ……あっ!」


 ナイルの苦しそうな吐息が私の脳内BLスイッチを入れてしまった。
 このシーンそのものがスチルなのか、なぜかいつもの美しい花が咲き乱れている。
 これは駄目だ。
 久しぶりのBL……じゃないけど、それっぽいものが目の前で生展開されているうえに、美しいおじさまと美少年のキスシーン。
 ナニコレ美しすぎて耐えられない。
 眼福です。本望です。もう思い残すことはありません!!


「ぐはり!」


 吐血レベルのぐはりをリアルに言って、私は意識を失った。


 気が付いたのは、帰りの馬車の中だった。
 シモンがナイルを、ジーンが私を担いでダンジョンから戻ったそうだ。
 あの一人でも落ちそうな狭い階段を、私を担いでなんて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「ごめんなさい、不覚でしたわ」


 ジーンに謝ると、逆に私の心配をしてくれる。


「流石にインフェルノニ回は魔力切れになるだろう? お嬢さんには負担をかけてしまって、こちらこそ面目ない。それに、お嬢さんは軽いから何の負担にもならなかったしな」


 軽くウインクをしながら、ジーンは気遣いで軽口を添えてくれる。
 そんな気遣いをしてもらって、キスシーンが尊すぎて気絶しましたなんて言い出せるはずもなく。
 チラっとナイルを見ると、私を見て少し顔を赤くし視線を逸らした。
 やっぱり、男同士のキスなんて見られたら恥ずかしいよね、と思って見てない事にしようと思ったら、ジーンが耳打ちでとんでもないことを言ってきた。


「流石に可哀そうで、シモンの旦那と話をつけたんだ。ナイル様を助けたのはお嬢さんってことにしようってな」

「それって、まさか……!?」

「すまない、嘘も方便って言うだろう? 他言無用ということで話はついている。今回は美しい思い出にしてやろうじゃないか」

「ですけれど……」

「じゃあ、俺と本当にキスする? お嬢さんとなら、いつでもOKだぜ?」

「もうっ! 知りませんわ!!!」


 流石に推しに耳元で迫られるのはかなり照れる。
 耳まで赤くなってしまって恥ずかしいので、かけられていた布を頭からかぶって顔を隠す。

 もう、この後ナイルに誤解されたままなんて恥ずかしすぎる。
 だけどあのスチルは素晴らしく美しかったなあ。
 早く家に帰ってスチル一覧を確認したいっ!

 思い出すだけでも美しくて、しばらくは何もいらないくらい引きこもれると思う。
 早く家に帰って、妄想モードに突入したい~!
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