29 / 84
ゲーム中盤
ぬるま湯展開なので引きこもりたい③
しおりを挟む
「ルカ様、シモン・キャメル様をお連れ致しました」
「入れ」
バン!と扉が開き、筋肉隆々の騎士が姿を現す。
流石に今日は甲冑は着ていないけど、モリモリとした筋肉の鎧が身を守っているのが、服の上からでも分かる。
無骨だけど年齢の割に若く見える顔も、今日は兜で隠れていないのではっきり見ることができた。ああ、イケメン。
茜より年上だけど、一番年が近いキャラクター。
あの時はあまり意識していなかったけど、実際に見ると筋肉も含めてかなりかっこいい。
近衛隊の服装も、ゲームで見るものと同じなのでとてもお似合いだ。
シモンは部屋に入るなり、挨拶もそこそこに私の元へやってきて跪いた。
「クロエ・スカーレット様。先日は私を助けてくださって、誠に感謝申し上げます」
「ええ? 私、何か助けるようなことをしましたか?」
「ワイバーン退治の時に、情けなくも倒れた私を介抱してくださったと」
あ、あれは私が撃った魔法にたまたま当たっちゃったから必死だっただけなんだけど、なぜか美談になっちゃってる!?
「いいえ、私は何もしていませんわ。顔をお上げになってくださいませ。こちらこそ、心配をおかけしました。一緒にお茶はいかがでしょう?」
ルカに目配せすると、ルカがパチン!と指を鳴らして新しいティーカップが呼び寄せられる。
跪いたシモンを立ち上がらせようと手を差し出すと、シモンはあろうことかその手を取ってキスをした。
はあああああああああ!!!?
「お噂通り、慈愛に満ちたお方なのですね。私がお仕えするクロム様の婚約者の方とお伺いしております。クロエ・スカーレット様にも心よりの忠誠を」
忠誠のキスだった。もう一度頭を下げたシモンを見て冷静になったおかげで、真っ赤に染まった顔が少し落ち着いた。
「まあ、近衛隊長様からそのように言っていただけるなんて、少し恥ずかしいですわ。お茶が冷めてしまいますので、一緒にいただきませんか?」
もう一度ソファーセットに誘って、一緒にテーブルを囲む。
作ってきたゼリーを二人に振舞う。
見たこともないお菓子に戸惑う二人は、恐る恐るスプーンでゼリーをすくい取り、口に入れた。
ルカはどうやら気に入ったらしく、無言で一気に食べ進めている。
頬が少々紅潮している。少年らしさが垣間見れてちょっとかわいい。
シモンはひと口食べてじっとゼリーを眺めている。
「シモン様、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、そうではありません。こちらはスカーレット様がお作りになったのですか?」
「シモン様、どうか私のことはクロエとお呼びくださいね。
そうですわ、私が作ったのですが……あまり甘いものはお好きではありませんでした?」
「その……クロエ様。私は感動しているのです。この菓子を私は初めて食すのですが、甘さも控えめで刺激も少なく、冷たくて大変食べやすいです」
「ありがとうございます。では、続きも召し上がってくださいね。冷えていないと美味しくありませんので」
「そう、程よく冷えていて胃にするんと入っていきます。これを病で食が細くなっている者に食べさせてやりたいのですが、大変不躾ながら作り方を教えてはいただけないでしょうか」
「ええ、いいですわ」
「ありがとうございます」
また深々と頭を下げたシモンは、ゼリーの続きを食べ始めた。
すでに全て食べ終わったルカが物足りなさそうにしているのを見て、ルカに話を振る。
「ルカ様、お口に合ったようで良かったです。少しは疲れがとれましたでしょうか」
「ああ、ありがとう。大変旨い食べ物だった。消化吸収も良さそうだし、適度な甘みが脳に効く。普段から食べたいものだな。
ところで、先日のワイバーン捕獲作戦の褒賞だが、何か欲しい物はあるか?」
「その、褒賞ですけれど……私は恵まれた環境に居ますから、あまり欲しい物はありませんの」
「何でもいいぞ? 金でも宝石でも邸宅でも。何だったらクロエ、あなたの像を建てるでも構わない。それだけの働きをしたのだからな」
「えぇ!? そんな大層な褒賞、いただけませんわ。そうですわね……強いて言うならBL本……いえ、私が知らない魔導書でしょうか」
「BL本というのは何だ?」
「あわわ、それは知らなくて結構です! それより魔導書、よろしいでしょうか?」
「ああ、しかし並みの書物では物足りないだろう。かといって、貴重なものは悪用されないために安全が確保されている場所でなければそもそも管理ができない法律だ。……そうだな」
しばらくルカが考え込む。
BL本が欲しいのは本当だけど、流石に褒賞で貰うものではないよね、煩悩が過ぎる!
ちらりとシモンを見ると、ゼリーを食べ終えたシモンは身体に似合わず優雅にお茶を飲んでいる。椅子に座っていてもピシッと背筋を伸ばしていて、全然リラックスしているように見えない。
私も紅茶をいただいて、香りと味を楽しむ。
紅茶をふた口飲んだあたりで、ルカが口を開いた。
「そうだな、ここの蔵書を読む権利ではどうだ? ピーク王国の粋を集めた魔導書が一挙に揃っている。ここ以外にこんなに適した環境はないだろう。どうだ?」
「よろしいのですか?」
「ああ、特別に私の職務室に出入りできるよう手配をしよう。ただし、本の持ち出しは禁ずる。一般人の目に触れては困る書物もあるからな。スカーレット卿にも伝えておく。追って連絡しよう」
色んな書物が読めるのは嬉しい。これはクロエが元から持っていた感情だ。
最近は元のクロエとのまじり方がまた深くなったように思う。
勉強への探求心みたいなものが少し出てきた。
茜でも、自分に必要な知識に触れることは嫌いじゃなかったけど、ここまで勉強が好きだったかと言われれば、そうでもなかった。
でも、社会人を経験して思うのは、やっぱり勉強が出来るって将来的にもいいことだし、学ぶ場所として魔法局ならすぐに練習も出来るし、環境は良いと思う。
いい褒賞がいただけそうで良かった。
はっ! そういえばジーンも魔法局に居るみたいだけど、どこにいるんだろう?
ワイバーン捕獲の時に気絶したシモンを担ぎ上げてくれたり、助けを呼んでもらったりと一応お世話になったのでお礼をしたい。
「あの、ルカ様。ジーン・カーマインさんは魔法局にいらっしゃると伺っているのですが、どこにいらっしゃいますか? 私、色々助けていただいたのでお礼をしたいのですけれど」
穏やかだったルカの顔から表情が消え、ちょっと空気が寒くなったような気がする。
何この空気、怖いんですけど!(泣)
「ああ、ジーンなら、懲罰室にいる。色々とやらかしてくれたからな。反省文を書けと言っているのだが、一向に出来上がって来ない」
「懲罰室? ……なるほど、そういうわけでしたの」
私が目覚めない報せを聞いても動けない状況だったということか。だからお見舞いが無かったんだと合点する。
ゲームの主要キャラなのに、何もアクションが無いのはおかしいと思ったんだよね。
「あの、あんなことがありましたけど、私のことを助けてくださったのでお礼が言いたいですわ。少し会わせていただくことはできませんか?」
「まあ、いいだろう。ついてこい。キャメル殿はこの後のご予定は?」
「私は退室させていただきます。職務も残っておりますので。クロエ様、本日は珍しい物をご馳走様でした。また後日レシピをお教え願います。では」
シモンは丁寧にお辞儀をし、先に部屋を出て行った。
私はルカの後について、懲罰室に向かった。しかし、懲罰室なんてものがあるなんて、この世界もなかなかハードだなあ。
私も前世で新人の頃は、反省文沢山書かされたっけ。
思い出してちょっと泣きそうになった。
練習場の横にある小さなくぐり戸を抜けると、石造りのちょっと寒々しい雰囲気の場所に出る。
わあ、懲罰室って言ってるけどほぼ牢屋では?
こんなところ一日だって居たくないのに、ジーンは数日居るの? すごい精神力!
「ここだ。ジーン・カーマイン!お前に客だ。入るぞ」
返事もそこそこに、部屋の鍵を開けてドアをあける。
部屋の中には、小さな机と椅子とベッドがあるだけだったけど、思ったより狭くなく快適に過ごせそうな空間だった。
机に向かっていたジーンは、私を見て軽い調子で挨拶をした。
「よう、元気そうだな! 倒れたって聞いたけど、大丈夫か?」
「ええ、ご心配おかけしましたわ。あの日は助けてくださってありがとうございました。あの、これはお礼として作ったものですが食べていただけます?」
「え!? いいのか? ここって差し入れOKなのか?」
ジーンはチラチラと私の差し出したゼリーの入った箱とルカの顔を交互に見る。
「ああ。クロエの気持ちを汲んだまでだ。有難く貰っておけ。で、反省文は書けたのか?」
「反省文? 差し入れ見たら出来るかも! おっ! これは何だ? 透き通ってる食べ物なんて初めて見たぜ!!! 食っていい?」
「食べたら反省文を書けるんだな?」
「おう! 書く書く! お嬢さんが元気だって分かったから、やる気出てきた! こっから早く出たいしな!」
私を見て軽くウインクをするジーンに、なんて軟派なのと少々呆れた。
けど、クルクルと変わる表情の豊かな推しメンの顔を見ていると、幸せだー。
はあ~! 顔がホント好み!
横目でちらっとルカの顔を見ると、なんだか汚いものを見るような目でジーンを見ている。
ひょっとしたら二人の相性は最悪なのかもしれない。
「それでは、お礼も言えましたので本日は失礼しますわ。ジーン、反省文頑張ってくださいませね」
「食った以上はちゃんと今日中に終わらせろよ。でないと一生ここから出られんからな?」
「ええ~~~、そんなぁぁ!!! あっ、お嬢さん。これすっげー旨い! ありがとな~!!!」
手を振るジーンの言葉を遮るように扉がバタン!と閉まる。
容赦のない強制終了だったけど、元気な顔が拝めて良かった。
よし、あとはハルとガイウスのところへ行けばミッションコンプリート!
あれ? そういえばこのターン、スチル発生もイベント発生も一件もなくない?
何だかヌルいまま終わって行った気がする……。
私は平和でいいけど、これはこれで刺激がないって言うか、物足りない気がする!
ああ、何だか外に出ると引きこもりの素晴らしさを実感する。
引きこもっていれば、思ったようなことが起きなくても「妄想力」だけでカバーできちゃうもんなあ。
まだやり残しはあるけれど、一旦家に帰って引きこもりを継続していいですか?
「入れ」
バン!と扉が開き、筋肉隆々の騎士が姿を現す。
流石に今日は甲冑は着ていないけど、モリモリとした筋肉の鎧が身を守っているのが、服の上からでも分かる。
無骨だけど年齢の割に若く見える顔も、今日は兜で隠れていないのではっきり見ることができた。ああ、イケメン。
茜より年上だけど、一番年が近いキャラクター。
あの時はあまり意識していなかったけど、実際に見ると筋肉も含めてかなりかっこいい。
近衛隊の服装も、ゲームで見るものと同じなのでとてもお似合いだ。
シモンは部屋に入るなり、挨拶もそこそこに私の元へやってきて跪いた。
「クロエ・スカーレット様。先日は私を助けてくださって、誠に感謝申し上げます」
「ええ? 私、何か助けるようなことをしましたか?」
「ワイバーン退治の時に、情けなくも倒れた私を介抱してくださったと」
あ、あれは私が撃った魔法にたまたま当たっちゃったから必死だっただけなんだけど、なぜか美談になっちゃってる!?
「いいえ、私は何もしていませんわ。顔をお上げになってくださいませ。こちらこそ、心配をおかけしました。一緒にお茶はいかがでしょう?」
ルカに目配せすると、ルカがパチン!と指を鳴らして新しいティーカップが呼び寄せられる。
跪いたシモンを立ち上がらせようと手を差し出すと、シモンはあろうことかその手を取ってキスをした。
はあああああああああ!!!?
「お噂通り、慈愛に満ちたお方なのですね。私がお仕えするクロム様の婚約者の方とお伺いしております。クロエ・スカーレット様にも心よりの忠誠を」
忠誠のキスだった。もう一度頭を下げたシモンを見て冷静になったおかげで、真っ赤に染まった顔が少し落ち着いた。
「まあ、近衛隊長様からそのように言っていただけるなんて、少し恥ずかしいですわ。お茶が冷めてしまいますので、一緒にいただきませんか?」
もう一度ソファーセットに誘って、一緒にテーブルを囲む。
作ってきたゼリーを二人に振舞う。
見たこともないお菓子に戸惑う二人は、恐る恐るスプーンでゼリーをすくい取り、口に入れた。
ルカはどうやら気に入ったらしく、無言で一気に食べ進めている。
頬が少々紅潮している。少年らしさが垣間見れてちょっとかわいい。
シモンはひと口食べてじっとゼリーを眺めている。
「シモン様、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、そうではありません。こちらはスカーレット様がお作りになったのですか?」
「シモン様、どうか私のことはクロエとお呼びくださいね。
そうですわ、私が作ったのですが……あまり甘いものはお好きではありませんでした?」
「その……クロエ様。私は感動しているのです。この菓子を私は初めて食すのですが、甘さも控えめで刺激も少なく、冷たくて大変食べやすいです」
「ありがとうございます。では、続きも召し上がってくださいね。冷えていないと美味しくありませんので」
「そう、程よく冷えていて胃にするんと入っていきます。これを病で食が細くなっている者に食べさせてやりたいのですが、大変不躾ながら作り方を教えてはいただけないでしょうか」
「ええ、いいですわ」
「ありがとうございます」
また深々と頭を下げたシモンは、ゼリーの続きを食べ始めた。
すでに全て食べ終わったルカが物足りなさそうにしているのを見て、ルカに話を振る。
「ルカ様、お口に合ったようで良かったです。少しは疲れがとれましたでしょうか」
「ああ、ありがとう。大変旨い食べ物だった。消化吸収も良さそうだし、適度な甘みが脳に効く。普段から食べたいものだな。
ところで、先日のワイバーン捕獲作戦の褒賞だが、何か欲しい物はあるか?」
「その、褒賞ですけれど……私は恵まれた環境に居ますから、あまり欲しい物はありませんの」
「何でもいいぞ? 金でも宝石でも邸宅でも。何だったらクロエ、あなたの像を建てるでも構わない。それだけの働きをしたのだからな」
「えぇ!? そんな大層な褒賞、いただけませんわ。そうですわね……強いて言うならBL本……いえ、私が知らない魔導書でしょうか」
「BL本というのは何だ?」
「あわわ、それは知らなくて結構です! それより魔導書、よろしいでしょうか?」
「ああ、しかし並みの書物では物足りないだろう。かといって、貴重なものは悪用されないために安全が確保されている場所でなければそもそも管理ができない法律だ。……そうだな」
しばらくルカが考え込む。
BL本が欲しいのは本当だけど、流石に褒賞で貰うものではないよね、煩悩が過ぎる!
ちらりとシモンを見ると、ゼリーを食べ終えたシモンは身体に似合わず優雅にお茶を飲んでいる。椅子に座っていてもピシッと背筋を伸ばしていて、全然リラックスしているように見えない。
私も紅茶をいただいて、香りと味を楽しむ。
紅茶をふた口飲んだあたりで、ルカが口を開いた。
「そうだな、ここの蔵書を読む権利ではどうだ? ピーク王国の粋を集めた魔導書が一挙に揃っている。ここ以外にこんなに適した環境はないだろう。どうだ?」
「よろしいのですか?」
「ああ、特別に私の職務室に出入りできるよう手配をしよう。ただし、本の持ち出しは禁ずる。一般人の目に触れては困る書物もあるからな。スカーレット卿にも伝えておく。追って連絡しよう」
色んな書物が読めるのは嬉しい。これはクロエが元から持っていた感情だ。
最近は元のクロエとのまじり方がまた深くなったように思う。
勉強への探求心みたいなものが少し出てきた。
茜でも、自分に必要な知識に触れることは嫌いじゃなかったけど、ここまで勉強が好きだったかと言われれば、そうでもなかった。
でも、社会人を経験して思うのは、やっぱり勉強が出来るって将来的にもいいことだし、学ぶ場所として魔法局ならすぐに練習も出来るし、環境は良いと思う。
いい褒賞がいただけそうで良かった。
はっ! そういえばジーンも魔法局に居るみたいだけど、どこにいるんだろう?
ワイバーン捕獲の時に気絶したシモンを担ぎ上げてくれたり、助けを呼んでもらったりと一応お世話になったのでお礼をしたい。
「あの、ルカ様。ジーン・カーマインさんは魔法局にいらっしゃると伺っているのですが、どこにいらっしゃいますか? 私、色々助けていただいたのでお礼をしたいのですけれど」
穏やかだったルカの顔から表情が消え、ちょっと空気が寒くなったような気がする。
何この空気、怖いんですけど!(泣)
「ああ、ジーンなら、懲罰室にいる。色々とやらかしてくれたからな。反省文を書けと言っているのだが、一向に出来上がって来ない」
「懲罰室? ……なるほど、そういうわけでしたの」
私が目覚めない報せを聞いても動けない状況だったということか。だからお見舞いが無かったんだと合点する。
ゲームの主要キャラなのに、何もアクションが無いのはおかしいと思ったんだよね。
「あの、あんなことがありましたけど、私のことを助けてくださったのでお礼が言いたいですわ。少し会わせていただくことはできませんか?」
「まあ、いいだろう。ついてこい。キャメル殿はこの後のご予定は?」
「私は退室させていただきます。職務も残っておりますので。クロエ様、本日は珍しい物をご馳走様でした。また後日レシピをお教え願います。では」
シモンは丁寧にお辞儀をし、先に部屋を出て行った。
私はルカの後について、懲罰室に向かった。しかし、懲罰室なんてものがあるなんて、この世界もなかなかハードだなあ。
私も前世で新人の頃は、反省文沢山書かされたっけ。
思い出してちょっと泣きそうになった。
練習場の横にある小さなくぐり戸を抜けると、石造りのちょっと寒々しい雰囲気の場所に出る。
わあ、懲罰室って言ってるけどほぼ牢屋では?
こんなところ一日だって居たくないのに、ジーンは数日居るの? すごい精神力!
「ここだ。ジーン・カーマイン!お前に客だ。入るぞ」
返事もそこそこに、部屋の鍵を開けてドアをあける。
部屋の中には、小さな机と椅子とベッドがあるだけだったけど、思ったより狭くなく快適に過ごせそうな空間だった。
机に向かっていたジーンは、私を見て軽い調子で挨拶をした。
「よう、元気そうだな! 倒れたって聞いたけど、大丈夫か?」
「ええ、ご心配おかけしましたわ。あの日は助けてくださってありがとうございました。あの、これはお礼として作ったものですが食べていただけます?」
「え!? いいのか? ここって差し入れOKなのか?」
ジーンはチラチラと私の差し出したゼリーの入った箱とルカの顔を交互に見る。
「ああ。クロエの気持ちを汲んだまでだ。有難く貰っておけ。で、反省文は書けたのか?」
「反省文? 差し入れ見たら出来るかも! おっ! これは何だ? 透き通ってる食べ物なんて初めて見たぜ!!! 食っていい?」
「食べたら反省文を書けるんだな?」
「おう! 書く書く! お嬢さんが元気だって分かったから、やる気出てきた! こっから早く出たいしな!」
私を見て軽くウインクをするジーンに、なんて軟派なのと少々呆れた。
けど、クルクルと変わる表情の豊かな推しメンの顔を見ていると、幸せだー。
はあ~! 顔がホント好み!
横目でちらっとルカの顔を見ると、なんだか汚いものを見るような目でジーンを見ている。
ひょっとしたら二人の相性は最悪なのかもしれない。
「それでは、お礼も言えましたので本日は失礼しますわ。ジーン、反省文頑張ってくださいませね」
「食った以上はちゃんと今日中に終わらせろよ。でないと一生ここから出られんからな?」
「ええ~~~、そんなぁぁ!!! あっ、お嬢さん。これすっげー旨い! ありがとな~!!!」
手を振るジーンの言葉を遮るように扉がバタン!と閉まる。
容赦のない強制終了だったけど、元気な顔が拝めて良かった。
よし、あとはハルとガイウスのところへ行けばミッションコンプリート!
あれ? そういえばこのターン、スチル発生もイベント発生も一件もなくない?
何だかヌルいまま終わって行った気がする……。
私は平和でいいけど、これはこれで刺激がないって言うか、物足りない気がする!
ああ、何だか外に出ると引きこもりの素晴らしさを実感する。
引きこもっていれば、思ったようなことが起きなくても「妄想力」だけでカバーできちゃうもんなあ。
まだやり残しはあるけれど、一旦家に帰って引きこもりを継続していいですか?
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる