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ゲーム序盤

狩猟が終わったら引きこもりたい①

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 憂鬱な朝がやってきた。
 自分のステータスも上がるし、ルカとの親密度も上がるからと決めた捕獲イベントだったのに、なぜか参加することになってしまったジーンのおかげで、気持ちが落ち込んだままだ。

 ジーンがあんなこと、言うから。

 昨日のセリフを思い出して顔が赤くなる。
 私、顔にキズがあるキャラクターが好みなのよね。
 好きなアニメやゲームのキャラクターは、だいたいキズが顔に入っていることが多くて、おかげで仲間内では敵キャラ好き(だいたい傷がある)だと思われていた時期もあったくらい。

 ジーンはキャラデザから入った推しではあったのだけど、軽薄なキャラクターが絶対に自分の生きている世界に居ないタイプだったのもあって、いつの間にか自分の中で最推しになっていた。
 現実であの軽薄な甘いセリフを聞くと、あんなに破壊力があるなんて思わなかった。
 しかも困ったことに、人気声優さんのイケボなんだ(これ言うの何回目?)。

 本当に声が良すぎなんだってば~~~!!!
 周りの声が全員イケボとか、オタクには拷問に近い!!!

 できるだけルカの近くに居て、ジーンからは遠い場所に居よう。
 それが今日出来る最善の策だと思う。
 一体何匹のワイバーンを捕獲するのか知らないけど、早く終わらせて引きこもりたい。

 とにかく、今回は王直属の人たちと行動するわけで、遅刻するわけにはいかない。気乗りしない身体を無理やり動かして支度して家を出た。

 集合場所の魔法局まで行くと、沢山の魔導士と兵士、傭兵の姿もあるみたい。
 ワイバーンの捕獲は、野生のワイバーンを騎士団の乗り物として調教するために行われるんだって。人に飼いならされたワイバーンは卵を産まないそうで、捕獲するしか手に入れる方法がないのだとか。
 なるべく傷つけず捕獲をする必要があるので、魔導士中心に派遣されるんだって。(捕獲指南書より抜粋)

 準備のため兵士があちこち走り回る喧騒の中、私はルカを見つけて声をかけた。


「おはようございます、ルカ様。本日はよろしくお願いします」

「ああ、お前か。戦力として期待している。よろしく頼む」

「ルカ様、あの……私のことはどうぞクロエとお呼びください」

「分かった。ではクロエ、出来るだけ私の近くに居るように。魔法が達者とはいえ、スカーレット卿の子女に何かあっては困るからな」

「あ、はい。承知いたしましたわ」


 一瞬ドキっとしたけど、責任感の強さが出ちゃった感じかぁ。
 俺の近くに居ろ、護ってやるとか言われたら顔から火が出ちゃうけど。

 勝手な妄想が暴走して焦燥しそうなので、しばらく静粛にしておこうって、ラップか!

 自分ツッコミで何とか冷静さを保つことができたので、辺りを見回してみる。
 見たこともないくらい大勢の魔導士が兵士と同じように準備をしている。


「ここに居る人、全員が行くわけじゃないよね?」


 あまりに人が多くて、ついそんな言葉が口から出てしまった。


「ああ、全部は行かない。魔導士は5人でひとつのグループだ。今日はワイバーン五匹の捕獲を目標にしている。25名+補佐7名が派遣される魔導士の数だ。ちなみにクロエは俺と一緒に補佐に入る」

「補佐ですか。私は具体的に何をしたら良いのでしょうか?」

「お前がやることは、ワイバーンを落とすことだな。それ以外は危ないから近づくな。分かったら、あのテントの下に指揮が書かれた紙が置いてあるから目を通しておけ。いいな?」

「は、はい!」


 年下なのに、ルカにはなぜか敬語になってしまう。
 指導者というか、支配者というか……何とも言えない「上役感」みたいなものがあるんだよね。
 持って生まれた気質オーラなのかもしれないけど、はいって言いたくなっちゃうんだよなぁ。

 指示されたテントの下に行くと、そこにはジーンが戦術確認をしている姿が見えた。
 会いたいけど、今は会いたくないキャラ堂々の一位だよ、ジーン。

 とほほと思いながら、無視するわけにもいかず声をかける。


「おはようございます、ジーン。あなたは何をされているのかしら?」


 声を掛けられ、ちらっと私の方を見ただけのジーンは、テーブルの上に置かれた大きな紙に視線を戻した。


「おはよう、お嬢さん。これを見たか?」

「いいえ、私はこれから確認しようと……」

「お嬢さんの配置が無茶苦茶だ。あのルカって奴はかなりクセ者だな」

「どういうことですの?」


 戦略指揮を見て、私は固まってしまう。
 五体のワイバーンを順番に相手にするという段取りなのだけど、ひとつのチームに5人の魔導士と1名のサポート魔導士、3名の騎士と5名の傭兵がまとまって動くことになっているみたい。
 私とルカは、補佐と聞いていたけど……全部のチームにまんべんなく合流するように設定されていた。


「どういう事かしら? 私……補佐って聞き及んでおりますが」

「どうもこうもねぇだろう? お嬢さんの腕を相当買ってるんだろうな。けど、少しでも戦術にほころびが起きれば一発で全員あの世行きかもな?」

「へ、へぇ。じゃあ、戦術全てを本気で覚えておかないといけないですわね」


 私は机の上に置かれた戦術を、全て自分にインストールするため超集中モードで覚えていく。
 ブツブツ言い出した私を見てジーンは「そんな速さで覚えられるわけねぇだろ?」などと悪態をついている。


「一応、すべて覚えましたわ」

「ええ!? この複雑な戦術を? 俺なんて自分のチームの戦術を覚えるだけで精いっぱいだってのに!」


 ジーンは私の背後から戦術が書いてある紙を眺めるために、少しかがんだ状態で私の肩あたりに顔を持ってくる。
 ギャー! 私の肩越しに戦術の紙を見るのは止めてーーーーー!!!
 近い、近いからジーン!!!

 私だけドキドキしているのは何だか負けたみたいで嫌なんだけど、やっぱりジーンは意識してしまう。


「まあ、無理するなよ? お嬢さん。いざとなったら俺が護ってやるからな!」


 ぽんっと私の肩を軽く叩いて、ジーンは自分のチームに戻って行った。
 私はその場に固まって、しばらく動くことができなかった。
 さっきの妄想が現実に……って、破壊力凄すぎ!!!

 こんなので、本当に私討伐大丈夫なのかな~~~???
 「俺が護ってやる」なんて、確実にプロポーズ的なセリフじゃない!!?
 私を翻弄するのはやめて~! 狩猟中に甘い言葉を囁かれたら、一発で天国に行けちゃう!
 とにかく気持ちを落ち着かせて、しっかり狩猟に集中しなければ!


 すー! はー!
 よーし! ワイバーンを出来るだけ傷つけず捕獲できるように、もう一度しっかり戦術に目を通しておこう!
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