上 下
18 / 84
ゲーム序盤

討伐がえらいこっちゃで引きこもりたい③

しおりを挟む
「何とか、何とか耐えきった……」


 思わず口をついて出てしまったこの言葉。
 馬のタンデムにより私の精神はかなりすり減っていた。
 魔物の討伐依頼が出ている辺りに到着したので、なんとかクロムとの密着からは脱出できたのだけど……。

 生えている木にもたれかかり、ぜーはーと息を整える。
 そんな私を心配してハルがこっそり声をかけてくれた。


「クロエ様、大丈夫ですか? 緊張されましたよね? 実はボクもなんです。王子と馬に二人乗りなんて、経験したことないですから。馬に酔ったと言って横になられますか?」

「いえ、もう大丈夫です」


 はあ、オアシス! ハルはとっても優しくて癒される! 気遣いの出来る男の娘、悪くない。

 実際に逢ってみなければわからない魅力というのはあるもので、気遣いの方向が女性的にもかかわらず、きちんと男性としての魅力も兼ね備えているハルは、実は最強なんじゃない?って思ってしまう。

 湖のほとりに魔物が出る依頼は、レベルの低いモンスター「食人植物」を一掃するという依頼だ。
 正直、今日のメンバーだったら一瞬で終わるレベルの討伐依頼。
 この依頼の面倒なところは数と敵を探し当てるところ。数は二十体と決まっていて、二十体全部倒さないとクリアにならない。


「せっかくお昼を作ってきたのに、こんなところでヘコたれてたらゴハンにありつけませんものね! みなさん、気合い入れて討伐しちゃいましょう!」


 私の元気が回復したのを見て、全員が活気づく。

 うん。活気づいたのは良かったんだけど……。
 私の周りを四人が密集してガードしてたら、数の暴力をやっつけきれなくないですか?


「もう少しバラけて探した方が、効率が良いように思うのですけれど……?」

「いえ、クロエ様をお守りするのが私のお役目ですから」

「私もクロエが心配なのです」

「私も」

「ボクも」


 みんなが私を心配してくれるのは嬉しいけど、これじゃ身動きが取れないし、私自身が多少は倒さないと経験値も上がらないのに~!


「気持ちは大変嬉しいのですけど、私は自分の経験値を上げたいので、少々離れて見守っていただけると嬉しいです」

「「「「確かに」」」」


 私の主張は割とあっさり受け入れてもらえた。
 皆がばらけてくれたので、ゲームで覚えただいたい出てくるポイントを重点的に探してみることにする。
 私の狙い通り、ゲームで出没するポイントにしっかり食人植物が居てくれた。

 擬態をしているので、擬態を破るために火炎系魔法でまさに「あぶり出し」をする。
 熱さで擬態を解いた食人植物をそのまま火炎で燃やし尽くす。そこまで行けば、あとはナイフでつるを根元から切り取り、根の部分を引っこ抜く。
 根の部分二十本があれば、討伐完了の証拠となる。
 訓練していたおかげで魔法をスムーズに発動させることができた。
 私の魔法の腕前を見て、四人のメンズたちは大丈夫と判断したみたいで、各々森に入り討伐を開始した。

 おかげで、討伐二十体をあっさりクリアすることができた。

 朝から緊張したり討伐で少々運動したりで、お腹が丁度いい感じに空いてきたところだし、そろそろご褒美! ご飯の時間!


「ガイウス!」


 執事を呼ぶと、既にマジックアイテムから出したテーブルセットをセッティングしてくれていた。
 ガイウスはしっかりお茶まで用意していて、私の場所だけパラソルで紫外線からガードできるように工夫までされていた。

 うん、持つべきものは仕事の出来る執事よね!

 ガイウスが引いた椅子に座って、ふう……とひと息つく。
 テーブルに朝から使用人たちが頑張って作ってくれたサンドイッチと、私の手作りクッキーが並んでいるのを見て、テンションが上がる。


「みなさま、お菓子は私の自信作ですわ! さあ、召し上がりましょう! あ、ガイウスあなたも一緒に囲みなさい……」


 そう言ったか言わないか。
 さっき討伐した森の中から男の怒号とモンスター独特の異様な鳴き声が聞こえてきた。
 森の中からこちらに突っ込んでくる塊。

 ケルベロスだ。

 かなり上位のモンスターがどうしてこんな村里近くに出没したのか分からない。
 どうやら男を追っているようだけど……このままでは私の朝からの労力がぶち壊される可能性しかない!
 テーブルセットを背に、私は仁王立ちになり目の前の危機を回避しようとした。


「ヒートブレス!」


 ドラゴンの息といわれる炎系上級魔法のヒートブレスを、思いっきり力を込めてケルベロスに放つ。


「ぎゃうん!」


 ケルベルスは炎に染まり、そのまま消し炭のようになって崩れ落ちた。
 若干、大魔法を使ってしまったことで周りのメンズが引いているような気がするけど、気のせいよね?
 とりあえず何とかなったー!と思っていた矢先。走ってきていた男が爆炎に吹き飛ばされて盛大にこけた。
 私も急すぎて対処できなかったので、その男が私のことを押し倒す格好になった。
 しかも、なにキッチリ「ラッキースケベ」を勝ち取ってるの?と文句を言いたくなるくらいがっつりと、私の胸に顔をうずめている。……うう、恥ずかしい……。

 私は精一杯の虚勢をはって、男を自分から退けようとした。


「あなた、早く起き上がりなさい。失礼ですわ!」

「何だ? これすごくふかふか……いいにおい」


 そう言いながら顔を上げた男が顔を上げた瞬間、私の時間が止まった。
 スチルの時間が止まるのとは感覚が全く違う。固まったのは私のほうだ。

 起き上がると同時に、男が深くかぶったフードが外れる。
 フードの下には、私より鮮やかな赤い髪にグレイッシュブルーの瞳。右目の上に古い大きなキズが一本。
 【ジーン・カーマイン】私の……最推しキャラだ。

 一瞬がとてつもなく長い時間に感じる。
 このままもう少しだけこの顔を眺めていたいという私の願いもむなしく、クロムとガイウスがジーンを私から引きはがした。


 ええ~! もう少し、このままでも良かったのに~!

『クロエ様、珍しく今日は恋愛イベントに肯定的ですね』


 頭の中でウエンディがツッコミを入れてきたのは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...