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ゲーム序盤

魔法が使いこなせなくて引きこもりたい

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 LUK上げとハルとの親密度上げに明け暮れて、早十日。
 キラキラオーラを浴びまくったせいで、スチル耐性も更に上がり、多少の事でドキドキすることは減ってきていた。
 親密度を上げたクロムとガイウスをあしらいながら、ハル攻略一直線……というわけにもいかず、アメリアとナイルにも気を遣いつつ、親密度が下がらないよう日々を過ごし、私は少々疲れていた。

 そういえば誕生日、まだ確認できてない。
 クローゼットの右奥にある箱の中を確認しないと。
 あれ? クローゼットの右奥にある箱……って三箱もあるの?
 中を覗くと、日記が出てきた。幼い頃からクロエが書き溜めてきていたようだ。

 こんなのあるの、知らなかった。
 どれどれ?

 軽い気持ちで誰かの日記を見る物ではないと後悔する。
 日記には、クロエの勉強への打ち込みすぎている姿や、愛に飢えている気持ち、それゆえに他人への疑心暗鬼や嫉妬の気持ちなどが生まれていく過程と苦しい感情が渦巻いていた。

 読み終えて誕生日は分かったけど、それ以上にクロエの苦しい気持ちに感銘を受けたのか、私の中に蓋がされていたであろうクロエの記憶が一気に押し寄せてきて、気付いたら大号泣していた。


『クロエ様、大丈夫でございますか?』


 自分では気が付かなかったけど、ウエンディが心配するレベルで日記を読んでいる途中から、嗚咽を上げていたみたい。
 こんなに努力を重ねて、それでも人から愛されている実感がなく、誰かを疑ってばかりの人生なんて辛いに決まっている。

 そして、どこか黒江 茜わたしにも重なるところがある。

 努力を努力として認めてもらえない辛さ、それが普通になることで自分が凡人なのだと思い知らされる惨めな気持ち。
 なのにクロエは侯爵令嬢という誇りを捨てられず、私みたいに社会との接点を極力減らして逃げ込む場所もなかったのだろう。

 この日記に触れたことで、一気にクロエの記憶がインストールされた。
 しばらく呆然としたのは、泣いたせいではないと思う。
 ハルの言葉を借りるとしたら「より濃く混じった」という感じだ。
 分からなかった勉強も理解できるようになっているし、屋敷の中のことも分かる……というより知っているという感覚になった。

 おかげで今までの私の行動が、いかにクロエと真逆のものだったかも理解できた。
 クロエ、ごめん。

 いくら記憶が混じっても私の主人格が変わるわけでもなく、私はやっぱりクロエ本人なのだと強く自覚できるのが不思議だ。

 とにかく、私が呼び起こされるまでのクロエの努力をなかったことにしたくない!
 私もきちんと自分自身が誇れる生き方をしないといけないと自覚した。


 うん、自覚はしたけど結局ポンコツなのよね。わたし。


 とにかく自分で出来る範囲のことを頑張る!
 勉強に関してはクロエの記憶がしっかりある状態に戻ったので、無理にインプットする必要は無さそう。
 問題は魔法。

 クロエの記憶では炎の魔法しか使えていない。
 しかも、そんなに魔法は得意ではなかったみたいで、あまり練習していなかったみたい。
 完璧令嬢のクロエにも苦手分野はあったのね。

 私のこのチートな魔法力は、私の自覚が出た時に目覚めたみたい。
 魔法の特訓をしないと、討伐に出かけることになった時に困ったことになる。
 いくら魔法力があっても、コントロールして使えないと意味がないもんね。

 幸い魔法の知識はクロエの記憶にたっぷり詰まっているので、あとは発動の訓練が必要みたい。

 私は流れた涙をぬぐって覚悟を決めると、魔法局へ行くことにした。
 お父様は魔法局の役員なので魔法局に入ることは割と容易だった。
 まず、お父様の執務室に伺って、魔法の特訓が出来る部屋を借りれるか聞くのがマナーだよね。
 このあたりの申請も、記憶が戻ったおかげでスムーズだ。

 コンコン

 お父様の執務室をノックする。


「入れ」

「失礼します」


 しれっとした顔で部屋に入ると、お父様はとても驚いた様子だった。
 娘が連絡もなしにいきなり仕事場に訪ねてきたら、誰でもびっくりするか。


「お父様、ごきげんよう。職場におしかけてしまってごめんなさい。お邪魔ですわよね?」

「いいや、そんなことはない! 娘の顔を見れてこれからの仕事が捗りそうだよ。
 どうしたんだ、クロエ? 何かあったか?」

「そろそろ私も経験を積むために、討伐に出たいと思っておりまして。そのために少し魔法の特訓をしたいのです。訓練室をお借り出来ないかと……ダメ?」


 お父様に思いっきり甘えるための「ダメ?」には、絶大な効果があることをクロエの記憶から学んでいた私は、ものは試しにとこの「駄目押しの一言」を使ってみた。
 幼少期の記憶なのであてにはならないと思ったら、なんと!お父様の顔は見る間にでれーっとなっていくじゃないですか!


「クロエちゃん、そのダメ?ってやつ、久しぶりに聞いたな~! パパ、それを聞くと何でも聞いてあげたくなっちゃうんだよな~! よしよし、許可しような!」


 何だか締まりのない顔と同じくらい、言葉遣いも締まりがなくなっている。
 これは駄目だ、お父様への破壊力が強すぎる。クロエが「ダメ?」を封印していた理由が良く分かった。
 もう本気で困った時しか使わないでおこうと、固い決心をするぐらいに。

 あっさり魔法の訓練室を使う許可が下りたので、お父様が呼んだ部下に付いて訓練室まで案内してもらう。


「こちらです」


 地下の訓練室は一室に何重にもバリア魔法がかけられていて、壁や天井も簡単には壊れないような造りになっている。
 アーチェリーの的のようなものがあったり、よく漫画で見るような鉄の塊が動く武器みたいな、何の訓練をするか分からない道具もある。
 個室ブースもあって、その中は精神を鍛練するために遮音・防音になっているんだって。すごい!

 とりあえず、的があるところに行って自分の魔法の威力を確かめることにした。

 クロエの記憶によると、①魔力の流れ(?)を感じ取る。②そこから必要な魔法に使う魔素(?)を抽出。③魔素を自分の魔力に込める(?)ことで魔法が発動する。のだそうだ。

 とりあえず目を閉じて、自分の周りに何かが滞留しているようなイメージをする。
 前に突き出した手のひらに、魔素が集まってくるようにイメージを固めて、炎の塊を作る!

 気合いを入れた割に、一瞬ぽっと火がついただけで、すぐに煙をあげてぷしゅーっと消えてしまった。

 難しい。そもそも魔力の流れを感じ取るって、どうやって?
 魔素って何よ?
 何度か試してみるけど、やっぱり同じように魔法が構築されずにぷしゅーっと霧散する。

 どれだけやっても、全然上手く発動しない。
 記憶の中でも、クロエは魔法書を読破して魔法の訓練もしっかりしていたみたいだけど上手く扱えず、一度だけ暴走させてしまったことがある。
 それ以来、魔法の練習はほとんどしてこなかったみたい。詳しいことはノイズがかかっていて分からない。クロエ自身が思い出したくないのかも?

 努力家のクロエさん。できれば魔法もしっかり練習しておいてほしかった。

 これはかなり骨が折れそう。
 ようやくハルの親密度が250を超えそうなのに、私がポンコツのままだと討伐に行ったとして、このままじゃ怪我だけじゃ済まないよね?


 意気揚々と訓練室まで来たけれど、この状態ならまだ家で引きこもってイメージトレーニングをしていた方がマシだったかも。
 周りの訓練兵のみなさんの目も、なかなかに痛い。

 恥ずかしくて、家に帰って引きこもりたい~~~!!!
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