【完結】悪役令嬢は引きこもりたい~推しへの愛は恋愛とは違うから箱推しの私は無難に友情エンド目指します!~

MURASAKI

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ゲーム序盤

スチルラッシュで引きこもりたい③

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 公園を後にする前に「誰がどこにいるか分かるMAP」を開いて、変なイベントに遭遇しないよう帰宅ルートを確認する。
 スチルを伴うイベントは、キラキラオーラに充てられてドキドキして疲れるので、今日はもうおなかいっぱい。
 アメリアにプレゼントを渡していないけど、あとで学問所で渡しても問題ないよね。
 出来れば、見て回れていないエリアを通って帰れるのがベストなんだけど。

 夕方に差し掛かっているとはいえ、クロムとナイルは政務中のようで王宮に居るようだ。
 ガイウスは街はずれに、アメリアは今から私が行きたい飲食エリアにそれぞれ表示されていた。

 うーん、アメリアにはぶつかっちゃうかもしれないけど、渡していないプレゼントが渡せるならそれもアリか。
 アメリアなら、女の子だしそこまで緊張しないしね!

 少し気合いを入れて、飲食エリアに向かって歩き出した。
 公園を出るとすぐの住宅街を大きな川沿いに歩く。
 心地よい風が吹き抜けて最高に気持ちがいい。たまには引きこもらないで外に出るのもいいなと思う。
 もしかしたら休みの日だったからかもしれないし、誰にも縛られずに好きに過ごせたのもあるかもしれない。
 解放されていることが、私の気持ちを高揚させていた。

 飲食エリアに入ると、商業エリアとはまた違った活気があり、そこら中からいい匂いがしている。
 屋台もあって、色々な食べ物が並んでいた。
 もう若くないからと前世では諦めていたタピオカドリンクを買って、飲みながら街ブラ。

 ん~! 最高! 若い子だけが許されるやつ!!! タピオカドリンク、前世でも飲んでおけばよかった!
 こうなったらチーズハットグも試してみたいと思って探してみたら、あったー!!!
 ゲーム開発が丁度ブーム真っ最中の時だったから、この世界の屋台にも存在していた。
 いつもSNSで見ていて、食べたいと思っていたけど年齢の壁が邪魔して食べられなかった二大ブームを、こんなところで味わえるなんて最高!
 運営様、ありがとうございます!!!


 さすがに侯爵令嬢が食べながら歩くのは、少しはしたないかな?と思って、ベンチに座ってかぶりつく。

 とろ~っと伸びるチーズと、カリカリの生地がたまりませんなぁ。
 幸せをかみしめながら食べていると、目の前の店からアメリアが出てきた。


「!!!!!」


 こんなはしたない姿をアメリアに見られたくない!と、必死で顔を逸らしたのに……簡単に見つかってしまった。


「あ、やっぱりクロエ! どうしたの? 一人でおでかけ??」

「え、ええ。ちょっと街を見たいと思って。アメリアも? あら?」


 口元をハンカチでささっと拭い、アメリアの方を見ると誰かと一緒のようだ。
 人見知りスキル発動、笑顔が張り付き緊張で背筋が伸びる。


「アメリアは、お連れがいらっしゃるのね。デートでしょうか?」


 アメリアの連れは男性なのか女性なのか分からない、中性的な顔立ちにピンクの長い髪。
 色とりどりのアクセサリーをつけた不思議な衣装を身にまとった人物だ。

 私はその人物を知っていた。
 【ハル・アプリコット】見た目は男の娘の占い師。実は芯が強く、ピーカラの中では一番男らしいんじゃないかと言われているキャラクターだ。
 可愛らしい声と物腰の柔らかさとは対照的に、戦闘時の精神攻撃がエグくてちょっとヤバイところが人気の高さに繋がっている。
 たまにドスの聞いた声が出るところがギャップ萌えって感じ?

 そう、私もこのキャラクターは声優さんが好きなこともあって、好きランキング上位キャラだ。
 思わぬ新キャラ登場に、チーズハットグかじってる場合じゃなかったと軽く後悔する。


「そんな、デートだなんて。この方はハル・アプリコットさん。占い師の方です。少し占っていただいて、お礼にお食事をしていただけよ」

「それをデートと言うのではないの? アメリアも隅に置けないわね。
 はじめまして、アプリコットさん。私はクロエ・スカーレットですわ。よろしくお願い致します」


 両手は美味しい物で塞がれていて握手することができない代わりに、私はとびっきりの余所行きの笑顔を浮かべた。


「はじめまして。クロエ・スカーレット様。ボクのような身分では、本来はお目通りできない侯爵令嬢にお逢いでき、光栄です」


 とても丁寧なお辞儀をしたハルは、私のことをじっと眺めて更にこう言った。


「クロエ様、あなたは何か混じっていますね? また今度、ゆっくり占いたいのですがよろしいでしょうか?」


 どきっ!!! 私が転生者ってバレテル??? 一気にだらだらと冷や汗が流れる。いや、バレたところで私にはどうしようもないのだけれど。


「ま、まあ! 素敵ですわ。ではまた後日にでも是非占ってくださいませ。ほほほ」

「ええ、ぜひ。よろしくお願いしますね。では、アメリア様。ボクはここで失礼します。本日はごちそうさまでした」

「はい! こちらこそ。今日はありがとうございました」


 去っていくハルを見送り、アメリアはなぜか私が両手に持った美味しい物を食べきるまで待っていてくれた。


「そうだ、アメリア! あなたに渡したいものがあるの」

「クロエ、私もよ。偶然ね」


 鞄からお互いのプレゼントを渡し合って、二人で一緒に開封した。


「「わあ、素敵!」」


 二人同時に感嘆の声を挙げる。アメリアは大人っぽい髪飾りを凄く喜んでくれた。
 私が貰ったのは小さな石の入ったペンダント。
 これはクロエのサイドストーリー攻略時に渡すアイテムのひとつで、ハルの店で取り扱っている。
 どうやらこれを手に入れるために、ハルのところに行っていたみたい。
 アメリアが少しでも私と仲良くしたいと思ってくれていたことが嬉しくて、思わず涙が出る。


「泣かないで、クロエ」

「だって、アメリアがプレゼントをくれるなんて、嬉しくて」

「いつも美味しい物をいただいてるお礼よ。クロエこそ、私が欲しい物が良く分かったわね」


 そう、アメリアに似合いそうというだけで選んだ髪飾りだったけど、これが攻略アイテムかどうかわからない。
 なにせ、私はアメリア主人公でのプレイしかしていないんだから。
 一目見て惹かれるものがあったから選んだけど、喜んでもらえて何よりだと思う。
 友情っていいなあとほっこりしていたら、またスチルが発動した。


「ありがとう、クロエ。私たち本当に良いお友達ね」


 髪飾りを付けたアメリアは、どこか大人の印象があり笑顔もセクシーに見える。
 ついついスチルに見とれてしまった。
 こんな素敵な友達を虐めていたなんて信じられないと思う。
 お互いのプレゼントを身に着け、おしゃべりしながら家路についた。


「あ、アメリア。私が買い食いしていたことは内緒にしてね? 流石にはしたなかったわ」

「ええ、二人だけの秘密ね!」


 楽しく家に帰ったまでは良かったけど、部屋に入るなり今日一日の出来事を思い出して一気に疲れが出た。
 今日一日でいったい何枚スチルが発生したの?
 ナイル・クロム・アメリアで各一枚。ガイウスは二枚。

 一日で五枚ものスチルのキラキラを直視したおかげで、私のスチル耐性はかなり上がったと思う。
 ゲームでも一日で五枚はなかなか見られないよ? ゲームには行動制限があるからね。


「ウエンディ、凄く疲れた。今日ってかなり色んな数値が上がった気がする。ステータス見せて?」

『ハイ、クロエ様。今日は本当に頑張りました。設定されたネガティブワードの回避はお見事でした』


--------------------------------
 クロエ・スカーレット(17歳)
      Lv.20

属性:火・地・風・闇

HP(体力)…………… 91
MP(魔力)…………… 5000
ATK(物理攻撃力) … 47
MAT(魔法攻撃力) … 1500
DEF(物理防御力) … 21
MDF(魔法防御力) … 2000
LUK(運の強さ) …… 125

親密度
アメリア(幼馴染)…… 420/500
クロム(婚約者)……… 502/999
ナイル(婚約者の弟)… 448/500
ガイウス(執事|暗殺者) 520/999
ハル(占い師)………… 120/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500

特別スキル
スチル耐性……………… 100
虫の知らせ……………… 30

--------------------------------

「わ、割と頑張ったと思ったんだけど、思ったよりLUK上がってないなぁ」

『プレゼントは、親密度ゲージを上げるための物です。買ったものでは大きくLUKを上げられません』

「ラクするなってことね。はい、わかりました。やっぱりクロムとガイウスは親密度500超えてる!」


 甘い顔をされていたのを思い出し、悶絶する。これはいくらスチル耐性がついても、私の心臓は今後も持つのだろうか。
 ん? スチル耐性といえば、新しく特別スキルというのが追加されている?


「ウエンディ、追加された特別スキルって何? スチル耐性はいいとして、虫の知らせって?」

『ハイ、特別スキルはクロエ様が独自に手に入れたスキルとなります。虫の知らせは、勘が良くなるスキルとなります。本日アメリア様のプレゼント選びの時に発動されました。戦闘でも役立つスキルですので、是非磨いてください』

「ほえー、そんなスキルが身に着くなんて知らなかった~! と・こ・ろ・で」

『何でございましょうか』

「スチルって、保存されてるよね? 今見ることは出来る?」

『ハイ、こちらが一覧となります』


 ずらーッと表示されたスチル一覧。大好きな絵師の「奉夢 色」先生の絵柄に置き換わっている。
 たは~! ご褒美が過ぎるvvvvv


「一覧で見ると、最高~! これを見てると妄想しながらイラスト制作が捗りそう!」


 スチルが沢山あって、しばらくは部屋に引きこもれそう! うふふふふ、描きやすい紙と鉛筆を手に入れた私は、今や無敵よー! 引きこもり万歳!!!


『クロエ様、引きこもりは禁止ワードとなりますので、LUKが5引かれます』


 えええ、そんな~~~~! ポジティブ(?)な引きこもりもだめなの!!?
 やっぱりこの世界、私に厳しくない!?
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