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一呼吸を置いて、一瞬迷ったことを口に出す。


「もし、本当に花園さんが本気であの会社を辞めたいと思っていらっしゃるのなら、上司に聞いてみましょうか?
 庵黒堂で採用できないかどうか。ご迷惑でなければですが、聞いては貰えると思います。」


そう提案すると、花園はさっきまで不幸のど真ん中という顔だったのに、ぱあっと明るくなった。


「え!いいの?本当に、いいの?板狩いたかりさん!」

「はい、聞くだけになるかもしれませんけど、良いですか?」

「勿論だよ!首を横に振る奴なんていないでしょ!だって庵黒堂だよ??」


花園は目を輝かせている。無いはずの犬の耳としっぽが見え隠れするぐらいには、嬉しそうだ。
私が辞める時に泣いてくれた上司の、こんなやつれた姿は見たくないし、上司としても頼れる存在だった花園を何とかしたいと思ったのも事実だ。


「ただ、一つだけお願いがあるんです。神社にお参りに行って、願いごとを神様にお伝えしてきてもらえますか?
 花園さんの心からの本気のお願いじゃないと、叶わないような気がするので。」

「わかった!どこの神社でもいいのかな?」

「できれば稲荷神社がいいと思いますけど、私がお祈りしたのはこの神社ですね。」


地図アプリで私のお祈りした神社の場所を共有し、笑顔になった花園と別れた。
もし一緒に働くことが出来たら、花園なら安心して一緒に仕事ができるし、私にとっても飛躍のチャンスになる。
あとは花園の本気度次第だろうけど、私みたいにいっぱい願望だだもれお祈りでも何とかなったのだし、大丈夫だと思いたい。
偶然でも、懐かしい人とお話ができて足取りも軽くリーフ亭へと向かった。


「それは必然ですね。」


リーフ亭でさっきの出来事を話すと、狐崎こざきはそう言った。


「こういう時の偶然は、神様が引き合わせてくれてるんです。板狩いたかりちゃんの気持ちに神様が応えてくださったんやと思います。」


狐崎こざきにそう言われると、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。
確かに、上司を配属する話を聞かされた時にまっさきに浮かんだのは花園の顔だった。
良い上司に恵まれないと言う話はよく聞くけれど、花園はとても上司としてできた人だったと思う。
何より部下を認めてくれ、かばってくれる器がある。


「そうなんですね。神様にしっかり感謝しないといけないですね。私も明日朝、出社前にお祈りしてから紫狼しゃちょうに話をしてみます。お忙しいから逢えるかわからないですけど。
 困っている人の力になりたいです、私。」

「ええ心がけですね。願いが叶うとええですね。その上司のひともきちんと神様にお祈りしてくだされば、願いは叶い易ぅなると思いますよ。」


狐崎こざきの暖かい言葉に力を貰って、少し副業の打ち合わせをして家へと帰宅した。
場所が変わればこんなに人生が楽しい物になるなんて、私は思っていなかった。
本当にご縁というのはあるんだなと思うと、また神様に感謝する。
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