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そこで聞いた花園のやつれた理由が、思ったよりハードだった。
まず、私が急に辞めたことで細かな部品作りをしてくれる人が居なくなり、仕上がりが悪くなったとお客様からクレームが入ることが多くなったそうだ。
社長が慌てて中途採用で社員を入れたけど、その人は口だけでデザインの腕が無いのにプライドだけは高く、部品作りなど私の仕事じゃないと言うので、あまりお願いできない状況なのだそう。
挙句の果てに女性だったこともあり、奥さんとの相性が最悪だったそうだ。
しかも、奥さんの一番のお気に入りの大卒男子と付き合うようになって、毎日わざと見せつけてくるので社内の雰囲気は険悪なのだとか。
「何といいますか、それはお疲れ様です。大変でしたね。」
「ホント、僕もう精神的にすり減ってしまって。この年齢じゃ転職も難しいし、いっそフリーランスになんて思っちゃうよねえ。営業下手だから無理だろうけどさ。
板狩さんはどう?新しい会社には入ったの?」
「はい。良いご縁があって、今は庵黒堂でアルバイトをしています。」
「えっ!?」
「ふえっ!?」
いつも冷静な花園が、急に声を挙げたので私も驚く。
「い、いいなあ。僕、恥ずかしながら大映光新聞社で働くのがずっと夢だったんだ。叶わず今の会社だけどさ。
僕ももっと若かったら、そういう会社にチャレンジできたのかもしれないね。はあ、いいなあ。」
「本当に、偶然なんです。たまたま知り合いの方の知り合いが大映光新聞の関係者で。」
「持ってるねえ。ああ、本当に。あんな針のむしろな会社にいつまでも居たくないよ。
正直、板狩さんが就職先決まってなかったら、嫌だろうけど戻ってきてほしかったんだよな。
庵黒堂とウチじゃ、比べ物にならないよな。あんないじめを平気でしちゃう会社だし。」
アハハ、と力なく笑うと花園は悲しい顔をしてうつむいた。
「かなり精神的に参ってるみたいですが、大丈夫ですか?」
「ごめんごめん。つい愚痴ってしまって。板狩さんが居なくなって、社長はきみがものすごく優秀だったことに始めて気付いたみたいなんだ。僕がなぜ板狩さんを辞めさせたんだって抗議した時も、聞く耳を持たなかったくせにね。」
「そんなにしていただいたんですね。ありがとうございます。」
「いや、本当の事だよ。あのまま行けば、きみは本当に素晴らしいデザイナーになったと思う。本当に勿体ない事をしたと思うよ、わが社は。」
「あの。」
「なんだい?」
私は少しためらったが、花園の事は嫌いではないし上司として尊敬していたこともあったので、思い切って切り出してみた。
まず、私が急に辞めたことで細かな部品作りをしてくれる人が居なくなり、仕上がりが悪くなったとお客様からクレームが入ることが多くなったそうだ。
社長が慌てて中途採用で社員を入れたけど、その人は口だけでデザインの腕が無いのにプライドだけは高く、部品作りなど私の仕事じゃないと言うので、あまりお願いできない状況なのだそう。
挙句の果てに女性だったこともあり、奥さんとの相性が最悪だったそうだ。
しかも、奥さんの一番のお気に入りの大卒男子と付き合うようになって、毎日わざと見せつけてくるので社内の雰囲気は険悪なのだとか。
「何といいますか、それはお疲れ様です。大変でしたね。」
「ホント、僕もう精神的にすり減ってしまって。この年齢じゃ転職も難しいし、いっそフリーランスになんて思っちゃうよねえ。営業下手だから無理だろうけどさ。
板狩さんはどう?新しい会社には入ったの?」
「はい。良いご縁があって、今は庵黒堂でアルバイトをしています。」
「えっ!?」
「ふえっ!?」
いつも冷静な花園が、急に声を挙げたので私も驚く。
「い、いいなあ。僕、恥ずかしながら大映光新聞社で働くのがずっと夢だったんだ。叶わず今の会社だけどさ。
僕ももっと若かったら、そういう会社にチャレンジできたのかもしれないね。はあ、いいなあ。」
「本当に、偶然なんです。たまたま知り合いの方の知り合いが大映光新聞の関係者で。」
「持ってるねえ。ああ、本当に。あんな針のむしろな会社にいつまでも居たくないよ。
正直、板狩さんが就職先決まってなかったら、嫌だろうけど戻ってきてほしかったんだよな。
庵黒堂とウチじゃ、比べ物にならないよな。あんないじめを平気でしちゃう会社だし。」
アハハ、と力なく笑うと花園は悲しい顔をしてうつむいた。
「かなり精神的に参ってるみたいですが、大丈夫ですか?」
「ごめんごめん。つい愚痴ってしまって。板狩さんが居なくなって、社長はきみがものすごく優秀だったことに始めて気付いたみたいなんだ。僕がなぜ板狩さんを辞めさせたんだって抗議した時も、聞く耳を持たなかったくせにね。」
「そんなにしていただいたんですね。ありがとうございます。」
「いや、本当の事だよ。あのまま行けば、きみは本当に素晴らしいデザイナーになったと思う。本当に勿体ない事をしたと思うよ、わが社は。」
「あの。」
「なんだい?」
私は少しためらったが、花園の事は嫌いではないし上司として尊敬していたこともあったので、思い切って切り出してみた。
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