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紫狼しろうの匂いがする。偶然じゃないだろ?」


さすが狼、鼻がいい栗栖はそう指摘した。
相変わらず狐崎こざきは知らんぷりを決め込んでいる。


板狩アンタ紫狼アニキが迷惑をかけてすまない。」


何も話していないのに、栗栖は察したのかいきなり頭を下げた。驚いた私は、両手と首をぶんぶん横に振る。


「ううん、何も!何も迷惑はかかってないです!ちょっと勧誘というか、話を聞かれただけで!ホントに!!」


栗栖は顔を上げ、まだ素知らぬ顔をしている狐崎こざきをちらっと見ると、顔に手を当てて「はあ」と大きなため息をついた。


「いや、狐崎オーナーがこんな感じってことは、絶対迷惑かけてる。特に紫狼しろうは暴走癖がある。極端な、頭にクソが付く真面目なんだ。
 だから・・・」


栗栖がそこまで話すと、店に見知った男が入ってきた。
話題の人物、紫狼しろうだ。


「!!!!!?」


その場にいた全員が絶句する。


「ああ、先ほどは失礼しました。では、単刀直入に言いましょう。
 板狩杏美いたかりあずみさん。一度わが社で働いてみませんか?」

「ちょお待てェ!!!」


狐崎こざきが大きな声でツッコミを入れる。
どうやって移動したのか、すでに紫狼しろうの横で漫才のツッコミよろしくビシっと手刀がキマっている。


「待てと言われても、正式な依頼はリーフ亭みせを通せと言ったのはお前だろう。」

「言った、言いました!けどな、すぐ来るんはセオリーに反してますやんか!!!」

「セオリー?そんなもの関係ないだろう。欲しいと思ったらすぐに動く。それは経営に置いて大事なことだ。
 お前のような狐にはそんな複雑なものは分からないだろうがな。」

「またまたあ。そないないけず言わんといて。僕は経営も分かってますよ!お客さま!!!」


はん!と笑う紫狼しろうにピキピキ顔の狐崎こざきだが、きちんと手順を踏むためやってきた紫狼しろうを追い返すことはできないのだろう。
仕事だと気合いを入れてオーナーの顔に整えなおすと、座席に案内する。


「ホンマは夜の店が開いてる時間帯に来てほしいんですけどね。まあ、手順踏んでる以上は無下にはしません。
 こっちに座って、オファー条件を伺いましょ。
 ただし、すでに板狩かのじょへの依頼も数件入ってますから、今すぐにとは行きません。」

「そうですか。明日からでも来てほしいと思っていたのですが、仕方ないです。」


オーナーの顔に戻った狐崎こざきと話をしている紫狼しろうも、どうやらビジネスモードのスイッチが入ったらしい。
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