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「わわ、なんて失礼な口の聞き方をするんや、この子は!!!
 すいません、板狩様。この子、悪気はないんです。まだ若者ということで許していただけませんか?」

「失礼って、コイツだって客の入らない店とか言ってんじゃんか!」

「いや、だからそれはウチの事情を知らんからで・・・」

「うふふふふ」


栗栖と狐崎のやり取りが軽快で、妙にツボに入ってしまった私は、思わず笑い出してしまった。
二人は笑い出した私を、ぽかんとした表情で見ている。


「ごめんなさい、お二人のやり取りがとても面白くて。すごく仲が良いのが伝わってきました。
 本当に素敵なお店ですね!どうして宣伝されないんですか?
 お料理の美味しさも、お二人のキャラクターも、絶対人気が出ると思うのに。」

「ふふん、まあな。俺の見た目の良さはそんじゃそこらの人間では敵わないだろうからな!」

「ああ、もう!栗栖くん。ホンマにもう・・・。」


狐崎が頭を抱えながらため息をつく。


「宣伝をしないのは、ウチがあくまでも隠れ家的な店やからです。こうしてランチにお客様を特別招待してるんも、隠れ家にふさわしい方を選んでお呼びして常連になっていただこうと思ってるからなんです。」

「そうそう、有名な政治家とかも来るぜ!」

「ええ!?そんなお店になぜ私が招待されたんですか?」

「それは、板狩様が今この店に必要と感じたからです。申し込みのメッセージを見れば、どんな人かなんてお見通しですよ。」


そこまで二人と会話をし、私は意識がなくなった。
どうしてか分からないけれど、最後に出されたお茶を口にしたら急激な眠気がやってきて、そのまま眠ってしまったのだ。
はじめて来たお店で寝てしまうなんて、大失態にも程がある。

気が付いたのは、22時を少し過ぎた頃だった。
まだ頭がはっきり起きていない状態であたりを見回すと、昼間とは違い客が何組か入っているようだった。
目が覚めた私を見つけて、栗栖が近づいてきた。


「よお!目が覚めたか!?よく寝てたな!」

「!!?」


寝ていたの言葉にびっくりして飛び起き、時計を見る。
窓の外を見ると真っ暗で、そろそろ終電の心配をしないといけない時間だった。


「ごめんなさい!私、まさか寝ちゃうなんて。お店の邪魔になりませんでしたか???
 本当に大変失礼を・・・!今日はもう遅いので、後日改めて謝罪に来ます!」


起こしてくれてよかったのに、と恨み言が口から出そうになったのを飲み込んで、ひたすら謝った。


「ええんですよ。我々のはかりごとなんですから。」


はかりごとと言う狐崎こざきの声に顔を上げて、私は目を丸くした。
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