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社長は普段から奥さんの妄想話を常に聞かされているため、私のことが気に入らない。
私直属の上司の話よりも、身内の奥さんを優先させたので冒頭の発言に繋がったのだ。

私はしてもいないことでは謝れないので、言われた通り会社を辞めた。

後から聞いた話では、社長は辞めろと言えば私が謝ると思っていたらしい。
上司は「そんなことになっていたとは知らなくて、守れず申し訳ない」と泣いて謝ってくれたけど、こんなことが平気でまかり通るような会社に務める続けることは、すでに奥さんからの小さないじめの積み重ねで精神的にボロボロだった私には、到底無理な話だった。


「はあ、明日から無職か・・・。どうしよう。」


辞めた翌日から毎日求人サイトとにらめっこしているが、私の希望するデザイナーという職業は、ほとんど求人がない。
手取りが少ないか、残業が多いので「みなし残業代込」の求人ばかりだ。
とにかく残業があることは前提なので、住んでいる場所から遠くなくギリギリ生活できるレベルの給料を出す会社に応募をするしかない。
あと、交通費満額の会社っていうのも大事だ。
けれどこの不況下では大手の求人しかなく、専門学校卒の私には狭き門だ。
応募しても面接にはなかなかたどり着けず、面接できたとしても圧迫面接ばかりで疲弊していた私は、面接帰りに神頼みを思いつき、ふと見つけた小さな神社に立ち寄った。

家から地下鉄で20分。
オフィスビル群が周りを囲んだ場所にぽっかりとあるその小さな神社は、木々がうっそうと茂り、そこだけ切り取られた別の空間のようだった。

こんなに人や車が行き交っているのに、この場所だけ人が居ない。
敷地に入ると温度がそこだけ2~3度低いように感じる。
木漏れ日も届かないような、ちょっと不気味にすら思えるその場所に居るだけで、畏敬の念を覚える。

音が遮断され、異質な静寂の中で私は5円玉を奉納し祈った。


「良い職場に恵まれますように。」


できれば社長と奥さんの会社じゃありませんように。職場環境が良い会社に就職できますように。手取りがせめて人並みの会社に就職できますように。残業の少ない会社でありますように。贅沢ですが社食のある会社に採用されますように。叶うなら、職場で素敵な男性と巡り合えますように。


5円じゃ足りないでしょ!というくらい厚かましいほどたっぷりお祈りをすると、私は神社を後にした。
家に帰ると面接疲れが出たのか、そのままベッドに倒れ込んで寝てしまった。
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