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第二章 ドワーフの国

モーゼルミリタリーC96

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 突然、横にいたカプリュスが、石動イスルギの両手をとると、固く握ってきた。

 石動は慌てて証書と勲章を脇で挟む。
 危うく落とすところだった、と石動は冷や汗をかく思いだった。

 そしてカプリュスを見ると、涙ぐんでいる。

「ザミエル殿。あんたがワシに会いに来た時は、コイツ何考えてるんだ?って思ったのを覚えてるぞ。でもそれからの貴殿と過ごした日々は驚きに満ちていて、自分が更なる鍛冶の高みに登ることができる喜びでいっぱいだった。
 貴殿との出会いに感謝だ! あんたの教えは万金の価値があった。
 ワシはもうあんたを友達だと思っているからな。ドワーフは決して友達を見捨てることはせん」

「ありがとうございます。本当に・・・・・・」

「帝国での用事が終わったら、必ず戻って来いよ! まだまだ相談したい事や、やりたいことが山積みなんだからな!」

「ハイッ! 必ず! それまでに錬金術師の育成もお願いしますね」

「うむ、まだまだ発展させねばな。任された!」

 その様子を見ていた第一王子のアウルムが石動に声をかける。

「我が王家も貴殿の味方だと思ってくれて構わない。カプリュスの工房にある貴殿の部屋はそのままにさせておくから、何かあれば遠慮なく戻ってきて欲しい」

「儂も同感だ。これからもよろしく頼む」

 プラティウム王からもそんなことを言われてしまうと、石動はそれ以上喋ると涙が零れそうだった。
 だから、カプリュスの手を握り返しながら、無言で頭を下げるしか出来なかった。


 マクシミリアン皇子が帝国に戻ってから三週間後、約束通り石動のもとに迎えの馬車が来た。
 なんと護衛の騎士が三人もついている。馬車自体も皇室の紋章が入り、豪華だ。

 護衛の騎士が石動にマクシミリアン皇子からの書簡を手渡してくる。
 中には手紙(早く来てくれという催促の内容)と、皇室の紋章の入った通行証が入っていた。
 これがあれば、国境だろうが皇城の中でもフリーパスで入れるという破格のものだ。
 
 石動も何とか準備は完了していた。3週間は短く、あっという間だったが、なんとか頑張った。

 石動のいで立ちの姿にその成果が伺える。

 マントの下には新しく両腰にホルスターを付けたベルトを巻いていた。
 右腰の抜きやすいよう改良を重ねたホルスターにはSAAカスタムを入れ、左腰には出来たばかりのモーゼルミリタリーC96を、グリップを前にしてフラップ付きのクロスドロウ・ホルスターに収めている。

 ベルト背中側に愛用の脇差風短剣を横にして収めることができるようにしたし、あとは予備弾薬を入れたポケットをいくつも取り付けた。

 SAAカスタムのバックアップ用に造ったモーゼルⅭ96は「ブルームハンドルほうきの柄」という渾名がついたオートマチック拳銃だ。

 1896年に製造開始された大型拳銃で、1937年までに100万丁が生産された銘銃ベストセラーである。
 第一次世界大戦で従軍した際に、後のイギリス首相である若き日のウィンストン・チャーチルが愛用していたことでも有名だ。
 
 この銃の大きな特徴は、引き金トリガーの前方に銃と一体化した弾倉部分マガジンハウジングを備えていることだ。
 箱型弾倉の開発に時間が足りなかった石動は、既に銃に弾倉を備えていて、コッキングピースを引いてクリップを差し込むことで装弾できるC96が最適だと考えた。
 クリップで弾薬をまとめて上から押し入れる形の装弾方法は、すでにモーゼルライフルでも経験しているので、問題なく再現できるからだ。

 使用する弾丸は7.63x25mmマウザー弾(通称30モーゼル弾)で、のちに7.62x25mmトカレフ弾の原型となったボトルネック型の高速弾だ。
 弾速が速いので小口径の割には高威力なうえ、貫通力に優れている特徴がある。
 装弾数も10発と多いのでSAAを撃ち尽くした後のバックアップには最適だったし、なによりカッコいいので石動は気に入っていた。

 パズルのように複雑な内部機構を再現するのには、石動もいささか手古摺ったが・・・・・・。
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