119 / 142
第二章 ドワーフの国
接近
しおりを挟む
そんな石動を見て、ロサは立ち上がると、椅子に座って呆然としている石動をそっと抱きしめた。
抱きしめられた石動がハッとして、上向きに顔を上げると、ロサのエルフらしい美しい顔が目の前にあった。
そっと抱き寄せると、ロサの唇が近づき、石動は優しく口づけする。
そしてしばらく二人は、お互いのぬくもりを確かめ合うように抱き合ったままだった。
その時、抱き合っていたロサが心の中で「(リーリウム、ありがとう!)」と感謝の言葉を叫んでいたとかいないとか・・・・・・。
後日、ロサがリーリウムにアドバイス通りにしたら上手くいった、と報告した時、リーリウムが「ロサ、グッジョブ!」と親指を立てていいね!としながら、「(ザミエル、チョロッ!)」と心の中で呟いたというのはまた別の話。
その翌日から、石動はロサと一緒にカプリュス工房の作業室に通うようになった。
石動も簡単な作業をロサに手伝ってもらったり、工程を説明することで、自身の考えがまとまり易いことに気がつく。つまり能率が上がったのだ。
単純に相方がいてお互いに軽口を叩きながら作業すれば、時間が短く感じると石動は分かった。要するにロサがいると楽しいのだ。
今までは、ロサはこんなことは興味がないだろうとか、専門的な話をしても退屈では、などと石動はなんとなく遠慮していた。
ところがあの晩の一件以来、遠慮なく話してみたら、ロサは話し相手としてだけではなく助手として優秀であることが判明したのだ。
石動の説明を一度聞いたら理解し、疑問は的確に質問してくる。
作業も女性なのに力持ちで、手先も器用だ。
石動はロサの知らなかった面を知り、改めて見直す思いだった。
「(そりゃそうか。あのアクィラの妹だもんな。それに力が無いと強弓は引けないよね)」
コミュニケーション能力も抜群で、最初は女に何ができる? とロサが作業室にいることに否定的だったカプリュスやラビスもあっという間にその能力を認め、仲良くなってしまう。
そして、ロサのおかげで思わぬ展開になるとは、石動も予想していなかった。
「ラビス~、この石炭みたいなのがもうなくりそうなんだけど、追加をお願いしていい?」
「わかりました。ロサさん、これは石炭ではなくコークスですよ」
ロサが作業室で使う鍛冶場の炉に入れるコークスをラビスに頼んでいた。
「コークス? 石炭とどう違うの?」
「コークスとは石炭を蒸し焼きにすることで、石炭が持つ不純物である硫黄・コールタール・硫酸などを抜いたものですね。そうすることで燃やした時に石炭より燃焼時の発熱量が高くなって、高温で燃えるようになります。金属を溶かすには高温が必要ですからね。それに蒸し焼きする工程でタールなどが副産物として得られるので重宝しているんです」
「へぇー、石炭にはそんなにいろいろ含まれてるんだ。他にはどんなものがとれるの?」
ロサが感心したように言うと、ラビスは嬉しくなったようで言葉を続ける。
「あとは軽油とかコークス炉ガスとかですかね。ガスからも採れるんですよ。たとえばベンゼンとかエチレンとか・・・・・・」
「なんだってっ! 今、エチレンて言ったかっ?!」
ふたりの会話を聞くともなしに聞きながら、製造中の銃機関部を組み立てていた石動が、不意に大声をあげた。
ラビスが石動の剣幕にびっくりして、目を丸くしたまま、答える。
「え、ええ、コークス炉ガスからの副産物としてエチレンガスを副産物として採っているんです。ドワーフの農場は地下に作ることが多いので、農作物の病害防止や果物を成熟させるの使うんですよ」
「ラビス、それ、是非分けてほしいんだけど、お願いできるだろうか」
「わかりました。何に使うのか知りませんが、どのくらい要りますか?」
「そりゃもう・・・・・・できるだけたくさん?」
「分かりました・・・・・・この部屋に持ち込める工夫がついたら、連絡しますね」
「是非お願いします!」
抱きしめられた石動がハッとして、上向きに顔を上げると、ロサのエルフらしい美しい顔が目の前にあった。
そっと抱き寄せると、ロサの唇が近づき、石動は優しく口づけする。
そしてしばらく二人は、お互いのぬくもりを確かめ合うように抱き合ったままだった。
その時、抱き合っていたロサが心の中で「(リーリウム、ありがとう!)」と感謝の言葉を叫んでいたとかいないとか・・・・・・。
後日、ロサがリーリウムにアドバイス通りにしたら上手くいった、と報告した時、リーリウムが「ロサ、グッジョブ!」と親指を立てていいね!としながら、「(ザミエル、チョロッ!)」と心の中で呟いたというのはまた別の話。
その翌日から、石動はロサと一緒にカプリュス工房の作業室に通うようになった。
石動も簡単な作業をロサに手伝ってもらったり、工程を説明することで、自身の考えがまとまり易いことに気がつく。つまり能率が上がったのだ。
単純に相方がいてお互いに軽口を叩きながら作業すれば、時間が短く感じると石動は分かった。要するにロサがいると楽しいのだ。
今までは、ロサはこんなことは興味がないだろうとか、専門的な話をしても退屈では、などと石動はなんとなく遠慮していた。
ところがあの晩の一件以来、遠慮なく話してみたら、ロサは話し相手としてだけではなく助手として優秀であることが判明したのだ。
石動の説明を一度聞いたら理解し、疑問は的確に質問してくる。
作業も女性なのに力持ちで、手先も器用だ。
石動はロサの知らなかった面を知り、改めて見直す思いだった。
「(そりゃそうか。あのアクィラの妹だもんな。それに力が無いと強弓は引けないよね)」
コミュニケーション能力も抜群で、最初は女に何ができる? とロサが作業室にいることに否定的だったカプリュスやラビスもあっという間にその能力を認め、仲良くなってしまう。
そして、ロサのおかげで思わぬ展開になるとは、石動も予想していなかった。
「ラビス~、この石炭みたいなのがもうなくりそうなんだけど、追加をお願いしていい?」
「わかりました。ロサさん、これは石炭ではなくコークスですよ」
ロサが作業室で使う鍛冶場の炉に入れるコークスをラビスに頼んでいた。
「コークス? 石炭とどう違うの?」
「コークスとは石炭を蒸し焼きにすることで、石炭が持つ不純物である硫黄・コールタール・硫酸などを抜いたものですね。そうすることで燃やした時に石炭より燃焼時の発熱量が高くなって、高温で燃えるようになります。金属を溶かすには高温が必要ですからね。それに蒸し焼きする工程でタールなどが副産物として得られるので重宝しているんです」
「へぇー、石炭にはそんなにいろいろ含まれてるんだ。他にはどんなものがとれるの?」
ロサが感心したように言うと、ラビスは嬉しくなったようで言葉を続ける。
「あとは軽油とかコークス炉ガスとかですかね。ガスからも採れるんですよ。たとえばベンゼンとかエチレンとか・・・・・・」
「なんだってっ! 今、エチレンて言ったかっ?!」
ふたりの会話を聞くともなしに聞きながら、製造中の銃機関部を組み立てていた石動が、不意に大声をあげた。
ラビスが石動の剣幕にびっくりして、目を丸くしたまま、答える。
「え、ええ、コークス炉ガスからの副産物としてエチレンガスを副産物として採っているんです。ドワーフの農場は地下に作ることが多いので、農作物の病害防止や果物を成熟させるの使うんですよ」
「ラビス、それ、是非分けてほしいんだけど、お願いできるだろうか」
「わかりました。何に使うのか知りませんが、どのくらい要りますか?」
「そりゃもう・・・・・・できるだけたくさん?」
「分かりました・・・・・・この部屋に持ち込める工夫がついたら、連絡しますね」
「是非お願いします!」
30
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
世界異世界転移
多門@21
ファンタジー
東京オリンピックを控えた2020年の春、突如地球上のすべての国家が位置関係を変え異世界の巨大な惑星に転移してしまう。
その惑星には様々な文化文明種族、果てには魔術なるものまで存在する。
その惑星では常に戦争が絶えず弱肉強食様相を呈していた。旧地球上国家も例外なく巻き込まれ、最初に戦争を吹っかけられた相手の文明レベルは中世。殲滅戦、民族浄化を宣言された日本とアメリカはこの暴挙に現代兵器の恩恵を受けた軍事力を行使して戦うことを決意する。
日本が転移するのも面白いけどアメリカやロシアの圧倒的ミリタリーパワーで異世界を戦う姿も見てみたい!そんなシーンをタップリ含んでます。
43話までは一日一話追加していきます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる