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第二章 ドワーフの国

スイートルーム

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 受付のクロークで支配人の最敬礼を受けながら責任者が宿泊の手続きをする。

 責任者は次いで石動イスルギに革袋を差し出した。

「差しあたって、護衛の報酬です。相場は一人金貨5枚なのですが、今回は色を付けさせていただきました」

 石動が革袋の中を確認すると、金貨が30枚入っていた。

「後日、衛兵隊から懸賞金が入れば、またお持ちしますので。では私はこれにて失礼します」

「わかりました。こちらこそお世話になりました」

 ダークエルフらしく二枚目できりっとした表情で、最敬礼した責任者がロビーを横切って戻っていく。
 残された石動たち3人は顔を見合わせ、とりあえず部屋に案内してもらって、くつろぐことに決めた。

 案内してくれた従業員の男性は、ドワーフではなく人族だった。

 その従業員の案内で、五階最上階の一番高い部屋に案内されたロサは歓声を上げる。

 そこはスイートルームのようで、ドアを開ければ広々としたリビングにチェア、ソファが配置され、ツインのベッドルームが二つ、書斎まであった。

 なかでも石動が喜びの声をあげたのは、別室に風呂場が付いていたことだ。

「風呂に入れる!」

 石動は思わず、ガッツポーズをしてしまう。

 エルフの郷でも風呂の習慣がなく、水浴びやお湯で身体を拭く程度だったので、ホントに久しぶりだったからだ。

 あまり風呂に入る習慣のないロサやエドワルドたちと石動の間には、風呂への思いの温度差が大きかったが、長旅と戦闘の後で思った以上に汚れていたので、交代で風呂に入ることにする。
 まずはレディーファーストでロサ、石動、エドワルドの順だ。

 ロサは女性とは思えないほどの早風呂で上がってきた。あまり習慣が無いせいかもしれない。

 続いて石動が、久しぶりなので頭と身体を念入りに洗い、マーブル模様の大理石の様な湯船にゆっくりと浸かる。

「あああうううえええ」

 あまりの気持ち良さに変な声が出た。

 石動は風呂のお湯につかりながら、これからのことを考える。

 クレアシス王国に来た大きな目的は、エルフの郷で聞いたミルガルズ山脈のあるという蝙蝠の魔物が住む洞穴に行く事だ。

 その洞窟で硝酸か硝石を手に入れることができるかどうかを確認することが、優先順位で言えば一番になる。

 もし第一の目的である硝酸を手に入れれば、水銀を融解させて硝酸水銀を造ることができ、雷管の量産化に一歩近づくのだ。
  
 そして硝酸があれば、次は無煙火薬をつくりたい。

 無煙火薬の主成分はセルロースを硝酸と硫酸の混液で処理して得られるセルロースの硝酸エステルだ。

 セルロースは綿を生成することで目途をつけたし、硫酸は既にこの世界でも存在していることをエルフの郷の師匠宅で確認済なので、後は硝酸があればなんとかなるかもしれない。

 もちろん、簡単な作業ではないだろうが。
 無煙火薬と雷管が量産できれば、いまよりも強力な銃器が製造できるだろう。
 
 次の目的として、発砲の際の無煙火薬による黒色火薬とは桁違いの高圧力に耐える金属の精製や、焼き入れ方法などもここで学びたい。

 そう言えば、硝酸エステルができるのなら、ニトログリセリン生成も視野に入ってくるのではないか、などと石動は胸を躍らせる。

 またドワーフは坑道を掘ったり、地下に街を造るという。
 ダイナマイト的なものを既に利用していたりしないのだろうか?
 ひょっとして、もうニトログリセリン的な物が存在するのでは?

 知らないことばかりだ。
 それらを確かめるためには先ず情報収集だ、と石動は心に決め、湯船から勢いよく立ち上がった。
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