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第二章 ドワーフの国

吊り橋

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 エルフの郷から世界樹の森を東に進むと、ミルガルズ山脈に源流を発する大河であるサガラド河が見えてくる。

 その川幅は広く、下流域の最も広いところでは5キロメートルにもなるが、やや上流域に近い森の近くを流れる場所でも1~2キロメートルはあるだろう。

 水量も多く流れも急であるため、とても泳いで渡れるようなものではない。
 大河を渡るには船で渡るか、ブエンテラ領主国もしくはウィンドベルク王国が掛けた橋を渡るしかないのだ。

 ブエンテラ領主国とは、ウィンドベルク王国よりやや上流の森から掛かっている橋を渡れば入国できる、エルフの郷とはサガラド河をはさんで対岸にある小国だ。
 文字通り先祖代々の土地を、ブエンテラ家が領主として治めており、有料である橋の収入が国の主な財源となる。

 その有料の橋とは、太古の文明が持っていたロストテクノロジーによって造られたという、数千年前にかけられた石と金属からなる全長2キロメートルの巨大な吊り橋だ。

 河の中に支柱を建てることなく、両岸にある巨大な主塔から渡された吊り橋は、過去何度もあったサガラド河の氾濫や増水にもビクともせず、壊れる気配が全く無い。

 橋の道幅も馬車が擦れ違える程広く、滑らかだが滑り止めが施された石の路面は、撓んだり揺れる事も無いという優れモノだ。

 ちなみにサガラド河下流にあるウィンドベルク王国にも橋はかかっている。
 そのフォルコメン橋はサガラド河の河口近くにあり、河の中に点在する中州を繋ぐように掛かっている石橋である。
 一つ一つの橋の長さはそれほどでもないが、総全長は5キロメートルに及ぶ巨大な橋だ。

 こちらの橋の通行料は無料なのだが、中流域より上流に拠点を構える者や大陸東側の国々を目指す者にとっては非常に遠回りになる。
 そのため、そちらを目指すなら有料でもブエンテラの橋を渡るか渡し船を使うことを選ぶことになるのだ。

 如才ないブエンテラ領主国は、かかっている橋の近くに前世界で言うヨットハーバーの様な施設も完備している。
 そこには旨い料理屋を始め武器屋から酒場まで揃っているので、船で河を渡る者もそこに立ち寄りたくなるよう仕向けられていた。

 ブエンテラ領主は商売に関しては相当なやり手に違いない、と石動《イスルギ》は思った。

 言うまでも無く船を持たない石動達は橋を渡る事に決めていたので、森を抜けた先にある橋の袂に来ていた。
 
「凄いなぁ、この橋。めちゃくちゃデカいな! ちょっと感動するわ」
「フフッ、初めて見たらそうなるわよね」

 石動は吊り橋のケーブルを支える巨大な主塔を見上げ、口を開けてポカンとしてしまう。
 ロサはそんな石動を見て微笑んでいた。

 石動は子供の頃に初めて瀬戸大橋を渡った時に感じた巨大建造物への素直な畏敬心というか、こんなデカい物を作っちゃう人間ってスゴい! という誇らしい気持ちというか、そんな気持ちを持った事を思い出していた。

 もっとも、この橋は誰が作ったかなど誰にも分からず、伝説でしかないのだが。

 それでも全長2キロと言えば、香川県坂出市から岡山県に伸びる南備讃瀬戸大橋の全長が1723メートルだからそれより長い。
 前世界最長の吊り橋である明石海峡大橋が3911メートルなので、それよりは短いがとんでもない大きさだ。

 荷馬車は渡し船では運べないので、まるで高速道路を連なって走るトラックの様に、列を成してガラガラと音を立てながら橋を渡って行く。この橋は流通の重要な拠点にもなっているのだなと否応なしに感じさせられる光景だ。
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