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第一章「異世界」

狙撃 1

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 エルフの郷に戻ってからも、石動イスルギは追加の金属薬莢弾を作製したり、ラタトスクやアクィラらと打ち合わせをしたりで忙しかった。

 火薬を詰めていない空撃ち用の模擬弾を造ってアクィラに渡し、実弾での練習が出来ない時でも模擬弾を装填して空撃ちすることで、イメージトレーニングするように指示していた。

「キングキラーともなるとオレに指示出来るわけか。偉くなったもんだな」

 アクィラが悪戯っぽく笑いながら背中を叩いてくるので、石動はフンッと鼻で笑い返してやる。

「剣では敵いませんけど、銃にかけては自分の方が上ですからね。悔しかったら師を超えて見せなさい」
「言ったなコイツ」


 決行予定日の3日前に王国軍が王都を出て、ヴァイン大平原に行軍を開始したとの情報がエルフの郷に届く。

 王国軍が着く前にヴァイン大平原に入るべく、石動とアクィラに従者のウルススはエルフの郷を出て、予定通りヴァイン大平原を見渡せる崖の上の草原に潜入した。

 草原と一言で言っても全く平らなわけではなく、低い丘や窪み、岩が露出している場所や背の低い灌木が生い茂っている場所など、隠れる場所はいくらもあることは事前の予行演習の際に把握していた。

 そこで石動はさらに万全を期すため、細かい網に草原の植生に似た色の布を縫い付け、全身を覆うモコモコのフードの様なギリースーツを自作し、自分だけではなく同行の2人にも渡していた。

 そのギリースーツに実際に草原に生えている草も差し加えることで、偽装を完璧にした3人は、動かなければ少し離れると何処に隠れているのか全く分からなくなった。

  
 まもなくして王国軍がヴァイン大平原に到着し、それぞれに陣を張り始めるのが眼下に見えた。
 
 石動達は偽装をしたまま地面にマットを敷き、腹ばいの状態でジッと動かずにいた。

 もう既に何時間、動かずにいるのか分からない。身体や顔を虫が這っても払う動きすら厳禁だ。

 スナイパーの仕事は待つこと、と言うのはアクィラら2人に懇々としつこい位説明してあったので、2人も動かないで我慢しているようだ。

 銃は何時でも撃てる姿勢で、銃を固定する砂袋の上に置き、いつでも撃てるようセットしてある。

 従者のウルススには観測手スポッターとしての役割を割り振り、前世界から持ち込んだツァイスの双眼鏡とブッシュネルのレーザー距離計やKestrelの風速計を渡してあった。
 
 石動らが潜む崖の下に王国軍が陣を張り、宿営のテント等が張り巡らされ、兵士達が忙しそうに動き回っているのが見える。

 軍旗の紋章は王国軍第三軍グラナート将軍のものだ。

 石動はそれを見て、自分たちが潜む場所が絶好の狙撃位置であることに驚いたが、やっぱりと言う気持ちも強かった。

 何故なら石動達が潜むこの場所は、ラタトスクに指定された場所だったからだ。

 更に言えば、先日事前に3日かけてデータを取って、南瓜を標的に見立てて試射したのもこの場所だ。

 それもラタトスクにこの場所で試す様に指定されたからだった。

 思い返せば、アクィラと共にラタトスクに呼び出されたのは、事前調査で初めてヴァイン大平原に行く前夜だった。


『ツトム、アクィラから話は聞いたかい? 聞いたよね。私にケンカを売った馬鹿共に鉄槌を振り下ろす話だよ。今回は私も頭に来ているんだ。よっぽど大河を溢れさせて王国ごと洗い流してやろうか、とも思ったけど、流石に罪のない者まで巻き添えにするのは寝覚めが悪い。
そこで、今回は君達に託す事にする。私は直接、手を出さないことに決めたんだ』

 ラタトスクの何も無い不思議な空間の様な部屋で、椅子に座り足を組んで、肘掛けに頬杖をついたラタトスクは不機嫌そうに言った。

 美少女姿のラタトスクには似合わない格好だが、不貞腐れた表情も様になっているのは不公平だな、と石動は話とは関係ないことを考えていた。

『一か月後にヴァイン大平原で王国軍の大規模な演習があるらしい。そこでツトムがグラナート将軍に鉄槌を下してくれないか。出来ればその時に、アクィラにも復讐のチャンスを与えてくれると尚、嬉しいけど』

「・・・・・・自分が狙撃して良いんだね。アクィラにも指導することで、一緒に狙撃するとのが条件ということか・・・・・・。分かった、引き受けよう。
喜んでやらせてもらうよ。自分も腹が立っているのは皆と同じなんだ」

 そこからはラタトスクがヴァイン大平原の地図を出してきて、ある場所に印を付け、予行演習を行うならこの場所で行うように指定してきたのだ。
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