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第一章「異世界」

アクィラとの手合せ

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「いつも一緒ではないって前にも言いましたよね? そんなわけないじゃないですか」

 石動は肩に食い込んでくる腕を剝がそうと、全身の力を込めてアクィラの手首を持ち上げようとするがビクともしない。

「なにっ! キサマ、ロサが居ると迷惑だとでもいうのか!」
「そんなことは言ってないでしょメンドクサイなこの人。いつもロサには感謝してますって!」
「感謝など当たり前だ! む? 今、ロサを呼び捨てしたか? いい度胸だなおい」
「もうどうしろというのこれ。初対面の時のクールなイメージが台無しだよ・・・・」

 しばらくアクィラはブツブツ言っていたが、ようやく落ち着いてきたので手合わせをお願いすることになった。

 片手剣の木剣を持っても構えもせず、ぶらりと両手を垂らしたままのアクィラに、石動は左足を前に木銃を構える。

 木銃の先の銃剣には鉄製の鞘を履いたままではあるが、突かれたら痛いでは済まないぞ、と思いながら石動は剣先を軽く揺らしながら摺り足で間合いを詰める。

 半身になって腰のあたりに木銃を構えているので、アクィラには間合いが図りづらいはずだ。

 銃剣術の要領でシュッと左手は添えるだけにして右手で木銃を突き出し、アクィラの左肩を狙う。
直線的な動きのせいか、アクィラは最初「おっ?」という顔はしたが左肩を突く直前に片手剣で難なく捌かれた。

 捌かれた勢いをつけて薙刀の動きの様に袈裟懸けに切り込むも紙一重で見切られ、逆袈裟で薙いでみても、これも防がれる。 

 何とか一本でも取ってやろう、と石動は木銃を駆使してアクィラに挑むも、30分も打ち合ううちに万策尽きて体力も尽き、地面に座り込むこととなった。

「フム、ツトムよ。以前の木剣の時よりはだいぶ良い動きだったぞ。これなら中級クラスの冒険者位なら倒せるかもしれんな」

「ハアハア、ありがとうございました。自分も元の世界じゃそこそこ強い方だと思ってたんですけどね。自信無くすわぁ。
 まだまだこちらの騎士たちには通用しないということですか」
「うむ。他所の騎士たちは知らんが、ウチの神殿騎士たちには通用せんかな。いや、初見なら、油断してやられる奴もいるかもしれんぞ」

 石動は荒い息を整えながら、ニコニコと笑いながら息も乱れていないアクィラを見上げ、恨めしそうな顔をする。
 やはり銃剣本来使用法である、刺してもダメなら距離を置いて発砲する事が出来るようにしないとこの世界の兵士たちには勝てないようだ。

 銃剣と変わった形の木銃に興味を持ったアクィラに連れられて、鉄製のプレートメイルを被せた人型の所へやってきた。

 本来はこの人型に木剣などで打ち込んで独りで練習するためのものだが、アクィラは切れ味を見たいので、銃剣の鞘を払って突いてみるよう石動に言う。

「遠慮はいらん。これはプレートメイルとしては厚めの5ミリの鉄板で出来ている。試してみるといい」

 石動は木銃に装着した銃剣から、訓練時には相手をケガさせないように填めたままにしていた鉄製の鞘を外し、艶消しの鈍い色の刀身をあらわにする。

 そして左足を前にして木銃を半身に構えると、「フッッ!」と気合と共に間合いを詰めてプレートメイルの左肩を突いてみた。

「あれ?」

 カンッと刀身が金属に当たる音はしたが、余りに手応えが軽かったため、素早く引いた木銃で再度心臓部の左胸を突く。

 鉄の人形のようなものを突いたにしては何も抵抗が感じられない感触だ。
想像と余りに違っていたので、石動は首を傾げながらプレートメイルに近づいて自分の刺した箇所を確認してみる。

 近付いて見ると左肩も左胸にも鋭利な刃が貫通した跡があった。

「うーむ、普通は槍でもここまではいかんぞ。大した業物だな」

 一緒に刺し跡を見ているアクィラが感心したように呟いた。

 なんだかワクワクしているアクィラが石動の手を引いて、次は直径30センチ程の丸太を地面に埋めて立ててある場所に連れてきた。

「今度は腰の小剣でこの丸太を切ってみろ」

 石動は仕方ないので小剣を抜き、右足を前にして剣道の八双の構えから右袈裟掛けに切り込んでみる。

 するとほとんど素振りした程度の感触で、丸太が斜めに切れ落ちた。

 丸太の太さからみて、まず斬れるわけないと予想していた石動は驚いて言葉を失い、納刀するのも忘れて立ち尽くす。

 良い笑顔のアクィラからポンっと肩を叩かれて石動は我に返る。

「良い剣を手に入れたな。これからも精進して、その剣に相応しい腕にならねばならんぞ」
「・・・・はい」

 石動はアクィラにうわの空で生返事をしながら、頭の中では別のことを考えていた。

「(5ミリの鋼板を貫き30センチの丸太を輪切りにできる切れ味と硬度・・・・。この素材なら銃身にライフリングも楽に削れるのでは・・・・? 別に元の世界の鋼材にこだわらなくてもこの世界の素材を生かせばいけるんじゃないか?!)」



 翌日、朝のルーティーンと朝食を済ませた石動は、午後まで待てずに昨日思いついた事を一刻も早く試してみたくて、親方に相談しようと鍛冶場へと急いでいた。

 鍛冶場に着くなり親方にサーベルベアの素材をライフリングマシンの切削刃に組み込む相談を始めると、勢い込んで話す石動に驚いていた親方も真剣な表情に変わり、細かい打ち合わせの後にとりあえず試作してみることになった。

 異世界らしい金属ではない魔物の素材をスキル「鍛冶」で加工するにはそれなりのスキルレベルが必要で、石動も親方の指導を受けながらの試行錯誤となる。

 以前から悩みの種だったライフリングを切削するための「フック」の素材を魔物の素材で試すのは良いが、魔物素材を大きな刀剣と違って小さなパーツに加工するのが意外なほど難しい。
 石動には荷が重いので親方の手を借りないと無理だった。

 素材もサーベルベアだけではなく、親方がグレートウルフの牙やコカトリスの爪などを在庫から引っ張り出して試し始める。

 最終的には、鍛造炭素鋼で造ったバレルにはサーベルベアの爪から作ったフックが最も切削加工しやすいと分かり、製作に没頭すること7日。


 石動や鍛冶場の全員が見守る中、親方がライフリングマシンのハンドルを勢いよく回し始める。
 なぜ親方が回すのかというと、鍛冶場の中で一番身体が大きく力が強いからだ。

 冷却用のオイルが飛び散る中、フックが銃身の中を行き来するのを、石動はマシンが正常に動作しているかどうか確認しながら見つめている。

 親方がへとへとになり次のエルフに交代しようとした時、何度も銃身内を往復していたライフリングマシンがライフリングを切り終えた。

 銃身を固定していた万力から外して、窓の明るい方へ向けて銃身の中を覗き込むと、キレイな螺旋を描いた50口径のライフリングが完成していた。

「うぉー!! やったぁ!! ちゃんと出来てる! 親方、みんな、ありがとう!」

 石動はやっとライフリング加工が出来たことへの安堵と達成感を感じた。
 そして親方をはじめ仲間たちの協力でここまで来たことに感動し、込みあけてくるものを抑えきれないでいた。

 そのため、親方や鍛冶仲間たちから笑顔でバンバン叩かれる背中や肩の痛みによって余計に涙ぐみながら
「ありがとうございました! 」
 とお礼を繰り返していたのだった。 
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