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第一章「異世界」
ウィンドベルク王国
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ミルガルズ大陸のほぼ真ん中辺りを、まるで区切るように連なる山脈のすそ野に深い森が広がっている。
世界樹がある森として知られ「世界教」の神殿があることでも有名だが、エルフの郷の中にあるため許可がない者は、迷った挙句神殿に辿り着けない事でも知られていた。
そんなわけで森の中を通らず外側を沿うように南下する、曲がりくねった街道を進んでいくと、サガラド河の中流域のほとりに街道が合流する。
そして川沿いの街道を進んでいくと、街道横を流れる川幅が広くなるに比例して集落や町が点在し始める。
それにつれて街道沿いの風景も、それまでは人気のない原生林や原野だったのが、黄金の穂が揺れる一面の小麦畑や果樹園などの耕作地と、そこで仕事に精を出す農民たちの姿が見えるものへと変わっていく。
そんな小麦畑や村を幾つか過ぎると、ようやく遠目に巨大な城砦に囲まれた城砦都市が見えてくる。
それがヴィンドベルク王国の王都であるエーデルシュタインだ。
近付くとその異様なまでの壮大さに驚くだろう。
城壁の高さは低いところでも20メートルはあり、そんな城壁がぐるりと都市を囲んでいて、一周するのに徒歩なら何日かかるか見当も付かない。
王都に入るための城門は東西南北の街道に面して作られており、いつも入城しようとする人や荷車、馬車などで込み合い、長い行列が出来ている。
その行列を目当てに、城壁の外側の城門近くには王都に入れなかった人族や亜人・獣人たちのスラムが形成されていた。
スラムに住む大人たちは行列を作る人々に食料や飲み物を売りつけ、小さな子供たちは物乞いや雑用とに走り回っている。
衛兵たちの厳しい審査を受け、城門をくぐって入城すると、そこは賑やかな門前市だ。
宿屋や食事処はもちろん、様々な店舗や屋台がさほど広くない道の両側にひしめき、混沌とした活気を生み出していた。
城塞都市を円に例えると、外周部に沿って商業地域や一般市民が住む居住区があり、その内側に同心円を描くように第二の城壁があって、その中は貴族や豪商などが住む屋敷街となっている。
さらに第三の城壁の内側は王国軍の施設や訓練場があり、円の中心部分には王族の住まう王宮があった。
王宮の外観はファンタジーによく登場するトンガリ屋根が立ち並ぶシン〇レラ城のようなものではなく、四角の角にそれぞれ見張り台を兼ねた尖塔を持つ長方形の六階建ての建物だ。
質実剛健でありながら威容を放ち、建物に囲まれた広い中庭には美しい庭園を備え、建物の細部には優美さを持つ造りとなっていた。
その王宮の一室で二人の男が向かい合っている。
部屋の中は贅を尽くした調度品に囲まれ、巨大な書架には高価そうな革表紙の書籍が壁一面に並んでいた。
壁のちょうど中程に設置された豪華な暖炉の前には、艶の美しいマホガニー製のテーブルと座り心地の良さそうな椅子が何脚も並んでおり、そのうちの一つに長身でやや細身の男がやや窮屈そうに椅子に沈ませて座っている。
特徴的なのは銀髪が背中まで伸びており、その顔立ちは冷たい石像彫刻のように整っていた。
王国の軍制は譜代貴族が中心の第一軍、中小領主たちが中心の第二軍、他国出身ながら人材登用されたものが集まる第三軍からなっている。
この銀髪の男は第三軍を束ねるエルンスト・グラナート将軍で、第三軍は国内外の諜報部としての役割も持っており、必然的に秘密警察的な裏の仕事も受け持つことから、その整った外見にも関わらず「銀狼将軍」と呼ばれ恐れられていた。
そしてその部屋の一番奥には、その部屋の主と分かる若い男が、磨き上げられた巨大な机の後ろでこれまた大きな椅子に座り、くつろいだ様子で背凭れにもたれかかっていた。
王国の王、アルフレート・ノイ・ディアマントその人である。
「将軍、準備のほうはどうだ? 」
王の横に控えた従者がデキャンタからグラスに葡萄酒をそそぎ、それを受けて一口飲んだ王が静かに銀狼将軍に問いかける。
「問題なく進んでおります、陛下。ただ一つの懸念を残しては」
「ほう、懸念とは何だ?」
「あの森のエルフどもにございます。万が一にも腹背を突かれるようなことになれば厄介かと」
「ふむ。確かにいつもながら目障りな奴らよな。世界樹があるからと調子に乗りおって。亜人風情が気に入らん」
「陛下、つきましてはこの私に策がございます。陛下の気分も晴れるであろうこと請け合いです」
「うん? だが、奴らの後ろには世界樹が付いている。あれを敵に回すのは面倒だぞ」
酷薄な微笑みを浮かべた銀狼将軍が笑みを深め、身を乗り出して説明し始める。
最後まで献策を聞いた王は少しの間じっと将軍を見つめながら黙考する。
そして僅かに口元に笑みを浮かべ、王が口を開いた。
「面白そうだな、よし、許す。よきに計らえ。そのかわり失敗は許さんぞ」
「御意。お任せください。かならずや良い報告を御前に捧げます」
部屋の外はいつの間にか日が陰り、部屋の中も薄暗くなっていたため男たちの笑いは闇に溶けて、壁際に控えた従者には見えなかった。
世界樹がある森として知られ「世界教」の神殿があることでも有名だが、エルフの郷の中にあるため許可がない者は、迷った挙句神殿に辿り着けない事でも知られていた。
そんなわけで森の中を通らず外側を沿うように南下する、曲がりくねった街道を進んでいくと、サガラド河の中流域のほとりに街道が合流する。
そして川沿いの街道を進んでいくと、街道横を流れる川幅が広くなるに比例して集落や町が点在し始める。
それにつれて街道沿いの風景も、それまでは人気のない原生林や原野だったのが、黄金の穂が揺れる一面の小麦畑や果樹園などの耕作地と、そこで仕事に精を出す農民たちの姿が見えるものへと変わっていく。
そんな小麦畑や村を幾つか過ぎると、ようやく遠目に巨大な城砦に囲まれた城砦都市が見えてくる。
それがヴィンドベルク王国の王都であるエーデルシュタインだ。
近付くとその異様なまでの壮大さに驚くだろう。
城壁の高さは低いところでも20メートルはあり、そんな城壁がぐるりと都市を囲んでいて、一周するのに徒歩なら何日かかるか見当も付かない。
王都に入るための城門は東西南北の街道に面して作られており、いつも入城しようとする人や荷車、馬車などで込み合い、長い行列が出来ている。
その行列を目当てに、城壁の外側の城門近くには王都に入れなかった人族や亜人・獣人たちのスラムが形成されていた。
スラムに住む大人たちは行列を作る人々に食料や飲み物を売りつけ、小さな子供たちは物乞いや雑用とに走り回っている。
衛兵たちの厳しい審査を受け、城門をくぐって入城すると、そこは賑やかな門前市だ。
宿屋や食事処はもちろん、様々な店舗や屋台がさほど広くない道の両側にひしめき、混沌とした活気を生み出していた。
城塞都市を円に例えると、外周部に沿って商業地域や一般市民が住む居住区があり、その内側に同心円を描くように第二の城壁があって、その中は貴族や豪商などが住む屋敷街となっている。
さらに第三の城壁の内側は王国軍の施設や訓練場があり、円の中心部分には王族の住まう王宮があった。
王宮の外観はファンタジーによく登場するトンガリ屋根が立ち並ぶシン〇レラ城のようなものではなく、四角の角にそれぞれ見張り台を兼ねた尖塔を持つ長方形の六階建ての建物だ。
質実剛健でありながら威容を放ち、建物に囲まれた広い中庭には美しい庭園を備え、建物の細部には優美さを持つ造りとなっていた。
その王宮の一室で二人の男が向かい合っている。
部屋の中は贅を尽くした調度品に囲まれ、巨大な書架には高価そうな革表紙の書籍が壁一面に並んでいた。
壁のちょうど中程に設置された豪華な暖炉の前には、艶の美しいマホガニー製のテーブルと座り心地の良さそうな椅子が何脚も並んでおり、そのうちの一つに長身でやや細身の男がやや窮屈そうに椅子に沈ませて座っている。
特徴的なのは銀髪が背中まで伸びており、その顔立ちは冷たい石像彫刻のように整っていた。
王国の軍制は譜代貴族が中心の第一軍、中小領主たちが中心の第二軍、他国出身ながら人材登用されたものが集まる第三軍からなっている。
この銀髪の男は第三軍を束ねるエルンスト・グラナート将軍で、第三軍は国内外の諜報部としての役割も持っており、必然的に秘密警察的な裏の仕事も受け持つことから、その整った外見にも関わらず「銀狼将軍」と呼ばれ恐れられていた。
そしてその部屋の一番奥には、その部屋の主と分かる若い男が、磨き上げられた巨大な机の後ろでこれまた大きな椅子に座り、くつろいだ様子で背凭れにもたれかかっていた。
王国の王、アルフレート・ノイ・ディアマントその人である。
「将軍、準備のほうはどうだ? 」
王の横に控えた従者がデキャンタからグラスに葡萄酒をそそぎ、それを受けて一口飲んだ王が静かに銀狼将軍に問いかける。
「問題なく進んでおります、陛下。ただ一つの懸念を残しては」
「ほう、懸念とは何だ?」
「あの森のエルフどもにございます。万が一にも腹背を突かれるようなことになれば厄介かと」
「ふむ。確かにいつもながら目障りな奴らよな。世界樹があるからと調子に乗りおって。亜人風情が気に入らん」
「陛下、つきましてはこの私に策がございます。陛下の気分も晴れるであろうこと請け合いです」
「うん? だが、奴らの後ろには世界樹が付いている。あれを敵に回すのは面倒だぞ」
酷薄な微笑みを浮かべた銀狼将軍が笑みを深め、身を乗り出して説明し始める。
最後まで献策を聞いた王は少しの間じっと将軍を見つめながら黙考する。
そして僅かに口元に笑みを浮かべ、王が口を開いた。
「面白そうだな、よし、許す。よきに計らえ。そのかわり失敗は許さんぞ」
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