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22なぁ。
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だから言ったじゃねぇか。
俺は、少し離れたところにいる幼い少年少女に向かってその台詞を吐いた。
叢の中で、少年少女はハグをしていた。少年は少女の背中をさすり、言った。
「僕は君のことを、心から守りたいと思ってるんだ」
「守ルッテ何?」
「守るっていうのはね、大切な人を自分が犠牲になる覚悟で助けることだよ」
そう言って少年は、少女に向かって手を差し伸べた。
少女は無表情のままだったが、やがて少年の手を取って立ち上がった。
自分が犠牲になる覚悟で、ね。
一見メルヘンでロマンチックなこのシーンに、俺は嫌悪感を覚えた。
皮肉なもんだ。最初から俺の言うとおりにしていれば、もっとマシに死ねたかもしれねえってのに。
少年少女は歩き出した。どこまで続いているか分からないような道を、俺が進むことのできない道を淡々と歩き出した。
おい、待ってくれよ。
俺は、届くはずのない言葉を彼らにぶつける。
おい、少年。お前は、天国に行けたのか?
お前の大好きな悪天使に、ちゃんと天国に導いてもらえたのか?
お前はちゃんと、最期まで幸せだったのか?
俺にはそんな風には見えねえ。
だって、お前は殺されたんだぜ?一人一人、丹精込めて育てた悪天使に、殴られて、引っ掻かれて、ボロボロになるまで殺されたんだぜ?
お前、何でご丁寧に出征したんだよ。俺みたいに、もっと賢く生きろよ。真面目に生きてたって、寿命を早く消耗することになるだけだ。
悪天使と戦うことになることくらい、知ってたろうに。
そんなことを叫んだって、少年少女は歩みを止めてはくれない。
彼らは、知らないんだ。自分たちが、残酷な運命を歩いていることを。幸せを目指して、一生懸命歩いている。無駄なのに。そっちへ行ったって、不幸が悪化するだけなのに。
俺は全部知ってる。なぁ、何でだ?
どうしてお前らは、他人のために平気で自分を殺せるんだ。死んだら何もかも終わりだというのに、大切な人も糞もねえのに、どうして簡単に自分の命を犠牲にできる?
俺は怖くて仕方がねえ。どうして俺の周りの奴は、皆あの世へ行きたがるんだ。
国のために死ぬのが名誉だとか、恋人を守るために戦うだとか、大切なものに殺されるならそれが本望だとか。
少年少女が神々しく光る。彼らが離れて行くにつれて、俺が陰る。
なぁ、俺が間違ってたのか?
俺は止めたけどな、実を言うと、楽しくて仕方がなかったんだ。悪天使保護団。正義の味方ってのは俺には似合わねぇけどな、なんか秘密組織みたいでかっこいいじゃねぇか。少女を笑わせんのもな、楽しかったんだぜ?初めて怒られたときは、反省したけど面白かった。初めて泣かれたときは、また笑わせてやりたくなった。
そこまでじゃ、駄目だったのか?俺たちが笑って過ごせるだけじゃ、駄目だったのか?
何万といる悪天使を一人残らず天使にするまで、俺たちは解放されちゃあいけなかったのか?
他人よりも、自分の幸せを優先するのが、そんなに悪いことだったのか?
なぁ、答えてくれよ。
少年少女が遠ざかっていく。俺の言葉が届かないまま、光は遠ざかり、俺の周辺は完全なる闇へと化していく。
なぁ、俺を置いていかないでくれよ。
彼らの小さくなっていく背中を見るのが辛くて、俺はその場にしゃがみこんだ。
俺の最も嫌いな感情が、液体になって溢れ出す。
俺は幸せになりたかったのに。お前らがいなくなったら、俺はもう仮面を外せねえじゃねえか。どうしてくれるんだ。
なぁ。
ふと、何かの気配を感じた。
暖かい気配だ。
そっと顔を上げると、先程遠ざかった筈の少女が俺の隣で蹲っていた。
咄嗟に彼らの逝った方向に顔を向けると、彼らはもう既に見えなくなっていた。
俺の隣の少女は、何かが俺と似ていた。
孤独感。そうか、お前も俺と同じなんだな。
「ほら、立て」
少女が顔を上げる。
やっと声が届いた。
少女はゆっくりと立ち上がる。続けて俺も立ち上がる。何かが見えた気がした。
なあ、少年。俺はお前のようにはならねえ。死んでもそっちには行かねえ。
もう、会うことはねえだろう。
俺は少女の手を取り、先程の二人が進んだ方向とは反対の道を歩き出した。
この残酷な世界だ。どうせこっちも楽な道じゃねえんだろ。生きるにしても死ぬにしても、この世界は辛いことの連続だ。
だけど俺はこっちに行くぜ。幾らかマシかもしれねえからな。
俺は、少し離れたところにいる幼い少年少女に向かってその台詞を吐いた。
叢の中で、少年少女はハグをしていた。少年は少女の背中をさすり、言った。
「僕は君のことを、心から守りたいと思ってるんだ」
「守ルッテ何?」
「守るっていうのはね、大切な人を自分が犠牲になる覚悟で助けることだよ」
そう言って少年は、少女に向かって手を差し伸べた。
少女は無表情のままだったが、やがて少年の手を取って立ち上がった。
自分が犠牲になる覚悟で、ね。
一見メルヘンでロマンチックなこのシーンに、俺は嫌悪感を覚えた。
皮肉なもんだ。最初から俺の言うとおりにしていれば、もっとマシに死ねたかもしれねえってのに。
少年少女は歩き出した。どこまで続いているか分からないような道を、俺が進むことのできない道を淡々と歩き出した。
おい、待ってくれよ。
俺は、届くはずのない言葉を彼らにぶつける。
おい、少年。お前は、天国に行けたのか?
お前の大好きな悪天使に、ちゃんと天国に導いてもらえたのか?
お前はちゃんと、最期まで幸せだったのか?
俺にはそんな風には見えねえ。
だって、お前は殺されたんだぜ?一人一人、丹精込めて育てた悪天使に、殴られて、引っ掻かれて、ボロボロになるまで殺されたんだぜ?
お前、何でご丁寧に出征したんだよ。俺みたいに、もっと賢く生きろよ。真面目に生きてたって、寿命を早く消耗することになるだけだ。
悪天使と戦うことになることくらい、知ってたろうに。
そんなことを叫んだって、少年少女は歩みを止めてはくれない。
彼らは、知らないんだ。自分たちが、残酷な運命を歩いていることを。幸せを目指して、一生懸命歩いている。無駄なのに。そっちへ行ったって、不幸が悪化するだけなのに。
俺は全部知ってる。なぁ、何でだ?
どうしてお前らは、他人のために平気で自分を殺せるんだ。死んだら何もかも終わりだというのに、大切な人も糞もねえのに、どうして簡単に自分の命を犠牲にできる?
俺は怖くて仕方がねえ。どうして俺の周りの奴は、皆あの世へ行きたがるんだ。
国のために死ぬのが名誉だとか、恋人を守るために戦うだとか、大切なものに殺されるならそれが本望だとか。
少年少女が神々しく光る。彼らが離れて行くにつれて、俺が陰る。
なぁ、俺が間違ってたのか?
俺は止めたけどな、実を言うと、楽しくて仕方がなかったんだ。悪天使保護団。正義の味方ってのは俺には似合わねぇけどな、なんか秘密組織みたいでかっこいいじゃねぇか。少女を笑わせんのもな、楽しかったんだぜ?初めて怒られたときは、反省したけど面白かった。初めて泣かれたときは、また笑わせてやりたくなった。
そこまでじゃ、駄目だったのか?俺たちが笑って過ごせるだけじゃ、駄目だったのか?
何万といる悪天使を一人残らず天使にするまで、俺たちは解放されちゃあいけなかったのか?
他人よりも、自分の幸せを優先するのが、そんなに悪いことだったのか?
なぁ、答えてくれよ。
少年少女が遠ざかっていく。俺の言葉が届かないまま、光は遠ざかり、俺の周辺は完全なる闇へと化していく。
なぁ、俺を置いていかないでくれよ。
彼らの小さくなっていく背中を見るのが辛くて、俺はその場にしゃがみこんだ。
俺の最も嫌いな感情が、液体になって溢れ出す。
俺は幸せになりたかったのに。お前らがいなくなったら、俺はもう仮面を外せねえじゃねえか。どうしてくれるんだ。
なぁ。
ふと、何かの気配を感じた。
暖かい気配だ。
そっと顔を上げると、先程遠ざかった筈の少女が俺の隣で蹲っていた。
咄嗟に彼らの逝った方向に顔を向けると、彼らはもう既に見えなくなっていた。
俺の隣の少女は、何かが俺と似ていた。
孤独感。そうか、お前も俺と同じなんだな。
「ほら、立て」
少女が顔を上げる。
やっと声が届いた。
少女はゆっくりと立ち上がる。続けて俺も立ち上がる。何かが見えた気がした。
なあ、少年。俺はお前のようにはならねえ。死んでもそっちには行かねえ。
もう、会うことはねえだろう。
俺は少女の手を取り、先程の二人が進んだ方向とは反対の道を歩き出した。
この残酷な世界だ。どうせこっちも楽な道じゃねえんだろ。生きるにしても死ぬにしても、この世界は辛いことの連続だ。
だけど俺はこっちに行くぜ。幾らかマシかもしれねえからな。
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