1 / 28
22なぁ。
しおりを挟む
だから言ったじゃねぇか。
俺は、少し離れたところにいる幼い少年少女に向かってその台詞を吐いた。
叢の中で、少年少女はハグをしていた。少年は少女の背中をさすり、言った。
「僕は君のことを、心から守りたいと思ってるんだ」
「守ルッテ何?」
「守るっていうのはね、大切な人を自分が犠牲になる覚悟で助けることだよ」
そう言って少年は、少女に向かって手を差し伸べた。
少女は無表情のままだったが、やがて少年の手を取って立ち上がった。
自分が犠牲になる覚悟で、ね。
一見メルヘンでロマンチックなこのシーンに、俺は嫌悪感を覚えた。
皮肉なもんだ。最初から俺の言うとおりにしていれば、もっとマシに死ねたかもしれねえってのに。
少年少女は歩き出した。どこまで続いているか分からないような道を、俺が進むことのできない道を淡々と歩き出した。
おい、待ってくれよ。
俺は、届くはずのない言葉を彼らにぶつける。
おい、少年。お前は、天国に行けたのか?
お前の大好きな悪天使に、ちゃんと天国に導いてもらえたのか?
お前はちゃんと、最期まで幸せだったのか?
俺にはそんな風には見えねえ。
だって、お前は殺されたんだぜ?一人一人、丹精込めて育てた悪天使に、殴られて、引っ掻かれて、ボロボロになるまで殺されたんだぜ?
お前、何でご丁寧に出征したんだよ。俺みたいに、もっと賢く生きろよ。真面目に生きてたって、寿命を早く消耗することになるだけだ。
悪天使と戦うことになることくらい、知ってたろうに。
そんなことを叫んだって、少年少女は歩みを止めてはくれない。
彼らは、知らないんだ。自分たちが、残酷な運命を歩いていることを。幸せを目指して、一生懸命歩いている。無駄なのに。そっちへ行ったって、不幸が悪化するだけなのに。
俺は全部知ってる。なぁ、何でだ?
どうしてお前らは、他人のために平気で自分を殺せるんだ。死んだら何もかも終わりだというのに、大切な人も糞もねえのに、どうして簡単に自分の命を犠牲にできる?
俺は怖くて仕方がねえ。どうして俺の周りの奴は、皆あの世へ行きたがるんだ。
国のために死ぬのが名誉だとか、恋人を守るために戦うだとか、大切なものに殺されるならそれが本望だとか。
少年少女が神々しく光る。彼らが離れて行くにつれて、俺が陰る。
なぁ、俺が間違ってたのか?
俺は止めたけどな、実を言うと、楽しくて仕方がなかったんだ。悪天使保護団。正義の味方ってのは俺には似合わねぇけどな、なんか秘密組織みたいでかっこいいじゃねぇか。少女を笑わせんのもな、楽しかったんだぜ?初めて怒られたときは、反省したけど面白かった。初めて泣かれたときは、また笑わせてやりたくなった。
そこまでじゃ、駄目だったのか?俺たちが笑って過ごせるだけじゃ、駄目だったのか?
何万といる悪天使を一人残らず天使にするまで、俺たちは解放されちゃあいけなかったのか?
他人よりも、自分の幸せを優先するのが、そんなに悪いことだったのか?
なぁ、答えてくれよ。
少年少女が遠ざかっていく。俺の言葉が届かないまま、光は遠ざかり、俺の周辺は完全なる闇へと化していく。
なぁ、俺を置いていかないでくれよ。
彼らの小さくなっていく背中を見るのが辛くて、俺はその場にしゃがみこんだ。
俺の最も嫌いな感情が、液体になって溢れ出す。
俺は幸せになりたかったのに。お前らがいなくなったら、俺はもう仮面を外せねえじゃねえか。どうしてくれるんだ。
なぁ。
ふと、何かの気配を感じた。
暖かい気配だ。
そっと顔を上げると、先程遠ざかった筈の少女が俺の隣で蹲っていた。
咄嗟に彼らの逝った方向に顔を向けると、彼らはもう既に見えなくなっていた。
俺の隣の少女は、何かが俺と似ていた。
孤独感。そうか、お前も俺と同じなんだな。
「ほら、立て」
少女が顔を上げる。
やっと声が届いた。
少女はゆっくりと立ち上がる。続けて俺も立ち上がる。何かが見えた気がした。
なあ、少年。俺はお前のようにはならねえ。死んでもそっちには行かねえ。
もう、会うことはねえだろう。
俺は少女の手を取り、先程の二人が進んだ方向とは反対の道を歩き出した。
この残酷な世界だ。どうせこっちも楽な道じゃねえんだろ。生きるにしても死ぬにしても、この世界は辛いことの連続だ。
だけど俺はこっちに行くぜ。幾らかマシかもしれねえからな。
俺は、少し離れたところにいる幼い少年少女に向かってその台詞を吐いた。
叢の中で、少年少女はハグをしていた。少年は少女の背中をさすり、言った。
「僕は君のことを、心から守りたいと思ってるんだ」
「守ルッテ何?」
「守るっていうのはね、大切な人を自分が犠牲になる覚悟で助けることだよ」
そう言って少年は、少女に向かって手を差し伸べた。
少女は無表情のままだったが、やがて少年の手を取って立ち上がった。
自分が犠牲になる覚悟で、ね。
一見メルヘンでロマンチックなこのシーンに、俺は嫌悪感を覚えた。
皮肉なもんだ。最初から俺の言うとおりにしていれば、もっとマシに死ねたかもしれねえってのに。
少年少女は歩き出した。どこまで続いているか分からないような道を、俺が進むことのできない道を淡々と歩き出した。
おい、待ってくれよ。
俺は、届くはずのない言葉を彼らにぶつける。
おい、少年。お前は、天国に行けたのか?
お前の大好きな悪天使に、ちゃんと天国に導いてもらえたのか?
お前はちゃんと、最期まで幸せだったのか?
俺にはそんな風には見えねえ。
だって、お前は殺されたんだぜ?一人一人、丹精込めて育てた悪天使に、殴られて、引っ掻かれて、ボロボロになるまで殺されたんだぜ?
お前、何でご丁寧に出征したんだよ。俺みたいに、もっと賢く生きろよ。真面目に生きてたって、寿命を早く消耗することになるだけだ。
悪天使と戦うことになることくらい、知ってたろうに。
そんなことを叫んだって、少年少女は歩みを止めてはくれない。
彼らは、知らないんだ。自分たちが、残酷な運命を歩いていることを。幸せを目指して、一生懸命歩いている。無駄なのに。そっちへ行ったって、不幸が悪化するだけなのに。
俺は全部知ってる。なぁ、何でだ?
どうしてお前らは、他人のために平気で自分を殺せるんだ。死んだら何もかも終わりだというのに、大切な人も糞もねえのに、どうして簡単に自分の命を犠牲にできる?
俺は怖くて仕方がねえ。どうして俺の周りの奴は、皆あの世へ行きたがるんだ。
国のために死ぬのが名誉だとか、恋人を守るために戦うだとか、大切なものに殺されるならそれが本望だとか。
少年少女が神々しく光る。彼らが離れて行くにつれて、俺が陰る。
なぁ、俺が間違ってたのか?
俺は止めたけどな、実を言うと、楽しくて仕方がなかったんだ。悪天使保護団。正義の味方ってのは俺には似合わねぇけどな、なんか秘密組織みたいでかっこいいじゃねぇか。少女を笑わせんのもな、楽しかったんだぜ?初めて怒られたときは、反省したけど面白かった。初めて泣かれたときは、また笑わせてやりたくなった。
そこまでじゃ、駄目だったのか?俺たちが笑って過ごせるだけじゃ、駄目だったのか?
何万といる悪天使を一人残らず天使にするまで、俺たちは解放されちゃあいけなかったのか?
他人よりも、自分の幸せを優先するのが、そんなに悪いことだったのか?
なぁ、答えてくれよ。
少年少女が遠ざかっていく。俺の言葉が届かないまま、光は遠ざかり、俺の周辺は完全なる闇へと化していく。
なぁ、俺を置いていかないでくれよ。
彼らの小さくなっていく背中を見るのが辛くて、俺はその場にしゃがみこんだ。
俺の最も嫌いな感情が、液体になって溢れ出す。
俺は幸せになりたかったのに。お前らがいなくなったら、俺はもう仮面を外せねえじゃねえか。どうしてくれるんだ。
なぁ。
ふと、何かの気配を感じた。
暖かい気配だ。
そっと顔を上げると、先程遠ざかった筈の少女が俺の隣で蹲っていた。
咄嗟に彼らの逝った方向に顔を向けると、彼らはもう既に見えなくなっていた。
俺の隣の少女は、何かが俺と似ていた。
孤独感。そうか、お前も俺と同じなんだな。
「ほら、立て」
少女が顔を上げる。
やっと声が届いた。
少女はゆっくりと立ち上がる。続けて俺も立ち上がる。何かが見えた気がした。
なあ、少年。俺はお前のようにはならねえ。死んでもそっちには行かねえ。
もう、会うことはねえだろう。
俺は少女の手を取り、先程の二人が進んだ方向とは反対の道を歩き出した。
この残酷な世界だ。どうせこっちも楽な道じゃねえんだろ。生きるにしても死ぬにしても、この世界は辛いことの連続だ。
だけど俺はこっちに行くぜ。幾らかマシかもしれねえからな。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる