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第一章 剣帝再臨
第18話 ポーカーフェイスの戦鬼
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魔道士ヴァインガルトは無様に腰を抜かしたように尻餅をついて、顔面蒼白の形相で唇を戦慄かせていた。
自信無さげに眉尻を下げ、口角を落として唸り声を上げるその醜態は、先程まで余裕綽綽の表情でⅢS超級の大魔術を連発していた、畏怖堂々たる姿とは似ても似つかない。魔王級という大袈裟な字さえ、何かの悪い冗談のようだった。
ヴァインガルトに寄り添っていた小柄な従者は、そんな彼の頭を優しく抱きしめると、泣く子を宥める母の如く慈愛溢れる表情で微笑みかけた。
「現世の魔王たる貴方が、一体何を恐れることがあるのです。
あんな卑小な者たち、貴方が言う所の、ふぁーすとすてーじの雑魚きゃらでは御座いませんか。
さあ、お立ち下さい。誰もが、貴方の活躍を待ち望んでいるのですから」
病的なまでに白く小さな掌を掴み、ヴァインガルトは上目遣いで尋ねた。
「エデン、お前は、俺の味方だよな」
それは、何度目になるかも分からない問いだった。
猜疑の混じった卑屈な問いに、従者――エデンは朗らかな笑みを返した。
「当たり前じゃないですか。ボクは何があろうと、ヴァインガルト様の忠実なる僕です。
さあ、お立ちになって下さい。今度こそ、貴方のお力で、あの邪悪なる者達を焼き滅ぼすのです。
貴方こそ――この世界を救う、勇者なのですから」
先ほどまでの悄然とした様子が嘘のように。
ヴァインガルド=海辺良太は、子供のように機嫌良さげに鼻を膨らませると、魔剣を拾い、その漆黒の刀身に映りこむ己の姿をうっとりと眺めた。
「そうだよな。俺はこの世界で聖なる転生を果たしたが、アイツはむさ苦しい昔の姿のままだ。
散々偉そうなこと言ってやがったが、力を受け取ることも出来ない凡人だってわけだな。
うん、そうだ。あんな奴、1stステージの中ボスが精々だよな。攻撃無効化属性はちょっと厄介だけど、攻略ポイントなんて幾らでもある筈だ。周りのNPC共と一緒に、すぐに粉微塵にしてやるよ――」
虹彩異色の整った麗貌の持ち主であるが、己の万能感に恍惚としながら下品に舌で唇を舐め回す姿からは、隠しきれない浅薄な幼稚性が滲み出している。
以前の海辺良太は、狂信的なユーザーが多いことで有名なMMORPG、ロックヘイムオンラインに耽溺し、『†冥獄のヴァインガルト†』と名付けたアバターに己を仮託し、ギルドマスターとして架空世界での栄華を極めることを自我の礎とする退廃的な生活に身を堕としていた。
そして今、かつてゲーム内で使用していたアバターと同じ姿形に己を変じ、海辺良太は空想に思い描いたままの暴虐をその手で振るっている。
何の努力も無く手に入れた魔道の力は無根拠な全能感に化け、鬱積した長年のコンプレックスを燃料としながら、海辺良太は人としての倫を外した真の魔王へと育ちつつあった。
「なあ、エデン、俺は強いだろう」
「はい。ヴァインガルト様のお力は唯一無二。剣帝如き、足元にも及びませんよ」
玩具を自慢する子供の笑顔で微笑む海辺に、エデンはぞんざいな首肯を返す。
明らさまな阿諛追従の賛辞だったが、海辺はそれだけで随分と機嫌を直したようだった。
エデンは、戦意も新たに発奮する主人に背を向け、舌を出して小さな嘆息を吐いた。
◆
完全に追い詰めた筈の魔王級を、一瞬の戸惑いから取り逃し、敵の講じた対策に嵌って遥か後方まで後退させられる羽目になった――それが、正義の視点からの先の攻防の全てである。
しかし、後方からそれを見つめていたレディコルカ兵の視座からすれば、その結末は裏返る。
眼前には、悠然と構える剣帝の裔。人間を一瞬で蒸発させ、大地を溶岩に変える魔王級と戦い、傷の一つすらない。一方、敵方の魔王級は戦意を失い尻餅をついて怯弱に震えているではないか。
遠目であったこともあり、剣帝の裔と魔王級の攻防の趨勢を正しく理解できたものは一握りだった。
「大義は我らに有り! 切畠正義陛下の御加護には、邪悪なる魔王級の炎も届くこと能わず!」
味方を鼓舞するボジョレの叫びに、漣が広がるように鬨の声が上がっていく。
周囲に迫り来るのは、錆身の剣を固く握り締めて歩み来るスティルトンの剣奴兵。
魔王級からの大打撃によって恐怖が伝染し始めた自軍の士気を取り戻すことが、最優先事項であった。
「陛下、御退がり下さい!」
確かに、この剣奴兵達は正義にとって、魔王の真似事をする海辺などより遥かに難敵である。
敵が握るは、実体の刃。抗魔力の加護が得られよう筈もなく、その剣は容易に正義の体を貫くだろう。
恵まれた体躯と卓越した剣技を持つ正義は、この異世界にあっても優秀な兵士の部類だ。
それでも、数は常に技に勝る。幾ら優秀でも、一個の人間の持ちうる武力など高が知れている。相当な技倆の開きがあろうと、ぐるりと4人に囲まれればまず勝ち目は存在しない。敵中で孤立することにでもなれば、逃げ延びることさえ困難だろう。
スティルトン剣奴隊。
元来、スティルトンの正規軍は圧倒的な火力を誇る高位魔道士によって構成され、ハーフエルフが賤民と蔑む純人間の民を歩兵として用いるなど、考えられないことだった。
しかし、スティルトンの魔道士とて阿呆ではない。抗魔力を持つマレビトと矛を交えるに当って、プライドと己の命を天秤にかければ、屈辱を呑んで歩兵を徴用する程度の選択は行うだろう。
けれでも、白兵戦闘の概念すら希薄な魔道士達に、真っ当な教練など出来よう筈が無い。
全ては、魔王の従者を名乗るエデンという少女の算段だった。
彼女は周辺の属国から屈強な体躯の奴隷を集めて編成した剣奴隊を、魔法のように披露して見せた。
一介の付き人に過ぎぬ少女が、如何なる手腕と人脈を駆使したのか。全ては謎に包まれている。
エデンは魔王級の威光を盾に、剣奴隊の編成を自由気儘に行った。
その手際は、鮮やかで手馴れた見事なものだったという。
……まるで、予めこんな事態が訪れることを想定していたかのように。
肩まで無駄な力の入った握り。漫ろに周囲を見回す視線。定まらない歩幅。
レディコルカ抗魔剣士隊の精鋭達が、スティルトン剣奴隊を素人に剣を握らせ鎧を着せただけの素人の集団であることを看破するのには、さしたる時間は要さなかった。
だが、剣奴達の纏う尋常ならざる殺気。
飢餓の限界に達した猛犬を想起させる立ち姿は鬼気迫り、両軍の間には不気味な緊張が張り詰めていた。
構えや立ち姿は素人同然であるが、その全身には深い切創が刻まれ、歴戦の戦士の趣すらある。
突如、剣奴の一人が雄叫びと共に、長剣を振り上げて斬りかかった。
その動作には何一つ目を見張るようなものは無く、間も拍子も無視した全くの凡手である。
前衛の兵士は即座に振り上げた腕の内籠手の動脈を切り裂き、返す刀で肩口から水月までを切り下げた。
教科書通りの完璧な対処。だのに、完膚無きまでに敗北した筈の剣奴兵は、腹から無様に臓物を溢しながら、振り上げた長剣を力任せに叩き付けたのだ。
勝利を確信していた筈の兵士は、首から血飛沫を吹き上げながら、剣奴兵と縺れ合うようにして倒れ込んだ。彼は何かを言おうしたのか、幾度か口を開閉させたが、遺す言葉も無く事切れた。その死に顔に張り付いていたのは、理解出来ないものを見たような困惑である。
死。
魔王級の魔道のような、現実感の希薄な死ではない。
余りにも生々しい、血の温もりと臓物の臭気が漂う、本物の死がそこにはあった。
剣道師匠国と名乗りを上げたレディコルカであるが、泰平の世が続くこと既に200年以上。精鋭の抗魔剣士と言えども、実際に剣で人を斬った経験のあるものは一握りに過ぎない。
訓練は十二分に積んである。道場稽古のみでは無く、実戦を想定した山野での合戦稽古も幾度となく繰り返した筈だった。されど、臓物零して空を仰ぐ眼前の死体は、彼らにとっても、全く未知の何かだった。
恐怖が、蝕むように、レディコルカ軍に伝染していく。
反面、剣奴隊は仲間を死を皮切りにして、死体を踏み越え、血染めの足跡を地に刻みながら、次から次へとと襲い来る。
正義は、眼前の敵の正体を把握しつつあった。
敵は剣士ではなく、猟犬の如き殺人者。
血走る瞳に宿るのは、殺意に滾る、狂奔の熱。
スティルトン剣奴隊の教練は、隊員の人権など一切顧みない非道徳的で――それでいて、最速で士気高い兵士を育成する、悪魔的なカリキュラムだった。
即ち、殺し合い。
剣の扱いなど何一つ教えられぬまま、原始人が石斧で殴り合うかのように、どちらかが血達磨で動かなくなるまで斬り合いを強いられる日々。
逆らえば、監督官の魔道士に羽虫のように消し炭にされるのみ。
人的リソースから見れば非効率極まりない狂気の教練。
そんなB級品の蠱毒の壷は、抑圧される日々を過ごしてきた農奴達を、屈強な剣奴へと速やかに育て上げた。手段を問わず、ただ自分の命を幣に相手の命を刈り取ることに特化した兵士達である。
手を血に汚したことが無い達人達と、幾度も人を殺めた素人達。
分が悪い。正義は、戦いの流れが敵に傾き始めているのを肌で感じていた。
高名な格闘家。街の喧嘩自慢。厳しい訓練を潛りぬけた警察官。そんな強者と呼ばれていた筈の人間が、刃物を持った素人の殺意によって、いとも簡単に命を落としたなどいうのは、珍しくもない話だった。
『第二次大戦以前でのアメリカ軍兵士の最前線での発砲率は10%から15%に過ぎなかった』という調査の結果は、人を殺すという事の精神的負荷の高さを如実に表している。
初斬で躊躇無く人を斬る。
この剣と魔法の世界にあっても、泰平の世を生きてきた人間にとって、そのハードルは果てしなく高い。
決断は、一瞬だった。
刀を抜いた正義は戦場の最前線に走り出て、メイスを振り上げる剣奴の腕を押えた。
そのまま右手で相手の視界を奪いつつ、蹴りに近い勢いの足払いをかけて、折り敷くように地面に引き倒した。兜と胴鎧と、上半身に装備を集中させていた剣奴は背中から凄まじい勢いで地に激突し、肺腑の息を余さず吐き出した。
苦悶に喘ぐ暇もあればこそ。空気を求めて顎を上げた剣奴の喉に、正義は慈悲無く刀を振り下した。返り血が、正義の大鎧を朱に染め上げる。
正義の一刀は首を両断するには及ばなかったが、剣奴の首筋を6分までも切り込んでいた。
紐の切れた兜を投げ捨て、髪を掴んで死体を高らかと持ち上げる。
首の断面を剥き出しにして、剣奴の屍がぶらりと搖れた。
黄金のトロフィーでも見せ付けるが如く亡骸を掲げ、腹の底からただ一声の叫びを上げる。
「恐るるに足らず!」
堂々たる声音が、残響を伴って嵐のように通り過ぎた。
戦場に満ちた刃金の音すら霞むような、正義の大喝。
前線で戦っていたレディコルカの兵士達が色めき立った。
「陛下が……」
「恐るるに足らず、大義は我らに有り!」
正義の言葉に呼応するが如き鬨の声と共に、戦場の士気が一瞬にして膨れ上がった。
伝染し始めた恐怖と困惑が霧散し、伝説のマレビトと轡を並べて戦う昂揚と戦意が、爆発的に伝播していく。
正義は用済みとなった剣奴の屍を野にうち捨てた。
蛮行である。敵であっても敬意を以て対することを望んでいた正義には、まるで似つかわしく無い蛮行である。
正義には、綿密な理屈や計算があって、この蛮行を行った訳ではなかった。
ただ、自分は今、こうしなければならぬという、直感だけがあったのみだ。
初斬。正義は今、初めて刀を以て人を殺めた。
その感触を回想する暇も、感傷に浸る暇も無く、大将首を見定めた剣奴達が正義に向って一斉に群がって来る。
一歩退こうとしたその背が、力強い誰かの背に触れた。
「貴方はやはり、剣帝陛下の裔ですよ。玉座ではなく、戦場でこそ輝かれる御方だ」
ボジョレが口の端を吊り上げながら、刀を握り直した。
戦場の士気の流れを敏感に汲み、最も効果的な方法で自軍の戦意を盛りたてる。
この才を、将器と言わず何と呼ぼう。
「お役目お疲れ様で御座いました。我ら親衛隊が一命を以て御守り致しますので、どうぞごゆるりと――」
旧第三憲兵隊の面々と、レディコルカ中の手練を集めて編成された剣帝親衛隊が、一斉に刀を構えた。
◆
馬車の幌をびりびりと震わせ、鬨の声が響き渡る。
剣と剣が交わる甲高い金属音、断末魔の叫び、原始的な絶叫。
それ以上にキヌを苛むのは、戦場に満ちた、殺意憎悪悲哀激痛等々の負の感情感覚の大嵐である。
傷つく誰かの痛みを。死に怯える誰かの恐怖を。息絶える誰かの無念を。敵味方隔てなく、余す事無くキヌは感得していた。
これ程大量の思念の奔流を身に受けるのは、あの時以来だ。
否応無しに想起してしまう。蘇ってしまう。あの地下室の苦痛と恐怖の日々を。
襤褸雑巾でも裂くように、愛しい父母を寸刻みで解体していった赤い瞳を。
彼女にできることは、ただ胎児のように体を丸めて小さく震えるのみだった。
その姿を見れば、外見通りの臆病な少女のようにも見えよう。
しかし、常人ならば発狂しかねない業苦を一身に受け止めながらも、正気を保ち続けるキヌの精神力は尋常な人間のそれではない。
苦痛の泥土に沈んで行くキヌを、友枝は幼子をあやすように胸の中に抱きしめた。
「キヌさん、大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くないからね……」
友枝自身も恐怖に身を震わせているというのに、懸命に虚勢を張って笑顔を作り、キヌを安心させようと平静を装っている。その気遣いが。親愛が。肌の温もりと共に、キヌを包んだ。
「大丈夫、怖くない、怖くないよ」
己に言い聞かせるように、友枝は繰り返す。
止まれ。この震え止まれ。そう念じるが、戦況が加熱するに従い、キヌに流れ込む感情の渦は濃さを増すばかり。人々の心が、憎悪と殺意に赤く染まっている。比喩ではなく、エルフのキヌにはそれがはっきりと体感できるのだ。
苦痛に溺れそうなキヌは、しゃにむに友枝の胸にしがみついた。
二人を励ますかのように、周囲を妖精の揚羽がくるくると舞い踊っていた。
御用馬車の中には、友枝とキヌと、侍従のドメーヌの三人きり。バルベーラは馬車のすぐ外で警護を行っている。
赤黒い殺意と激痛の渦の中で、泥中で砂金の粒を探すように、キヌは拠り所となる心の流れを探り集める。抱きしめてくれる友枝。慮ってくれるドメーヌやバルベーラらの仲間たち。
力強い赤銅色をした正義の心は、遥か遠方に微かに感得できるのみだった。
霞がかって伝わるその心は、どこか曇りを帯びているように感じた。
不意に、二人の周囲を巡っていた揚羽が、馬車の幌の隙間を縫うようにして姿を消した。
正統なる主人である正義の下へ向ったのだろうか。
引き裂かれそうな胡乱な心で、キヌはただ正義の無事を祈るばかりだった。
◆
先頭の10人が無造作に切り捨てられたのを見て、剣奴兵の足が止まった。
死すら厭わぬ狂戦士も同然だった剣奴達に、恐怖がじわりと広がっていく。
彼らの戦う動機は、ただ己の命を長らえることのみ。
剣奴達でも九死に一生を得ようとも挑み来るが、眼前の男達に挑むは十死零生。
何の抵抗も出来ずに藁のように斬り殺されるのは真っ平御免なのだろう。
命を擲つ狂奔が、死中に生を拾う方法だと体得しながらも、圧倒的な戦力差にその足取りは粘性を帯びるように重たく滞る。
最初は剣奴達の狂気に押されかけたレディコルカ軍であるが、威圧して萎縮した相手から命をくすねることしか知らない剣奴達とは錬度が違う。
正義の斬った一人が、戦局に決定的な楔を打ち込んでいた。一気に傾いた天秤は、もう戻らない。
レディコルカは集団戦で基本的に密集陣形を作らない。仮想敵であるスティルトンの魔道士相手に密集すれば、広域魔道の的にしかならないからである。
従って、白兵戦は散兵が両者入り交じる乱戦となる。
長槍、ロングソード、モーニングスター。多種多様の武器を握った剣奴兵を、日本刀を手にしたレディコルカ軍が駆逐していく。
長槍やハルバートなど、明らかに不利な長物相手にも、頑なに刀を使って相手するレディコルカの日本刀信仰は一種常軌を逸している。
日本刀は武士の魂などと呼ばれるが、戦場に於いては決して万能の武器たりえない。
三間槍を刀で相手にするのは、対手の三倍の力量が必要と言われるが、レディコルカの精鋭は何の恐れもなく、体ごと槍の間合いの内側に飛び込み敵を討ち取っていく。
それは、日本の戦国時代にすら存在しなかった、日本刀をメインウェポンに据えた白兵戦術。
講談や時代劇の中の世界にしか有り得ない、カタナの戦だった。
その中で、更に異彩を放つのは、正義を衞るように囲む親衛隊――旧第三憲兵隊の面々達だった。
恐れず、迷わず、躊躇わず。
麦の穂でも刈り取るかのような手付きで、次々と周囲の剣奴達を斬り倒していく。
一際目を惹いたのは、先頭に立つ隊長ボジョレの戦いぶりだった。
両眼を横一文字に切り裂かれ、悲鳴を上げて剣を落とした剣奴の髪を掴み、その首筋を慈悲無く切り裂く。
頚動脈から飛び散る血飛沫は、狙い違わず迫り来た次の剣奴を頭から爪先まで真紅に染めた。
仲間の血潮を全身から滴らせた剣奴は、怯えた表情で後ずさった。
その隙を逃さず、ボジョレは肩口に斬り込み腹を裂き、半死半生の呈で泣き叫ぶ剣奴を蹴り転がした。
血を好む餓狼のような、派手な立ち回りと大袈裟な太刀捌き。
しかし、それらはボジョレという男の本質ではない。
正義は目を細める。
兵士の中には、人を斬ることそれ自体に愉悦を覚える殺人狂も稀に現れる。
しかし、ボジョレのそれは己の快楽とはまるで無縁。ただ相手の戦意を削ぐことを目的として、陰惨な殺し方を繰り返している。
その剣には、闘志の滾りも相手への殺意すら宿らず、あるのは徹底した行為の心理効果の計算のみだ。
何より――手馴れている。
ボジョレの太刀筋には何の緊張も昂揚も存在しない。
ただ作業の如く敵を切り捨てる姿は、戦場の猛りに乗じて初斬を遂げる周囲の新兵達とはまるで違う。
この男は、これまで一体今まで幾人を斬り殺してきたのだろうか。
辺境警備の憲兵隊の一隊長に過ぎなかった筈のこの男が。
正義は、賞賛と疑念が相半ばに混じった複雑な思いで、ボジョレの剣を見つめ続ける。
「森の奥に隠れていた魔道士を討ち取ったぞ」
誰かが、長耳の特徴的な頭部を誇らしげに掲げた。剣奴達とは違う、生粋のスティルトン兵だ。
戦国時代さながらに、倒した相手の首を獲るという慣わしは、剣帝切畠義太郎が始めたものと伝えられる。エルフの血を引くことを誇りとするスティルトン人にとって、その高貴の証である頭部を切り落とされることはこの上無い辱めであり、先の戦争では首を奪われることを恐れて出兵拒否した魔道士も多数存在したと伝え聞く。
切畠義太郎は抗魔力とカリスマのみによって魔道士に対抗したのではない。
戦場の禁忌を犯す蛮行や奇襲を躊躇無く行うことによって、圧倒的戦力の差を少しづつ縮めていったのだ。
そして、このスティルトンの魔道士の首級は、剣奴相手の戦場に於いて、ただの戦果以上の価値があった。
意気揚々と首を掲げた剣士は、己の手柄を惜しげもなくバスケットボールのように放り投げた。
断末魔に歪んだ端麗なハーフエルフの首が、放物線を描いて並ぶ剣槍と剣奴達の頭上を緩々と飛び越える。
ボジョレは空中で血に汚れた金髪を掴み止めると、涙の縞も顕わな魔道士の死に顔を、剣奴達に見せつけるように突きつけた。
「貴様達の首輪を握っていた飼い主は死んだ。
今なら退いても背中を魔道の焔で焼かれることはあるまい。
逃げるは今のうちぞ。
それとも――まだ我らに歯向かい、無駄に命を散らすか?
それならそれでも我らは構わぬ。ただ貴様達の首級を戦果として持ち帰るのみ。
さあ、如何にする!?」
スティルトンの剣奴兵の間に動揺が走った。
自分たちを牛馬も同然に扱い、目付きが気に入らない、などと些細な言いがかりで焼き殺した憎き魔道士が、今眼前で首だけになり、苦痛に歪んだ表情で虚ろに空を睨んでいた。
今すぐにでも駆け出したい――そんな剣奴達の衝動を留めたのは、逃亡が他の魔道士に発覚した時の恐怖だった。
敵前逃亡が発覚すれば、死よりも恐ろしい責め苦が待っている。スティルトンの王城の地下に送られ、残虐非道な拷問官に生きながら解体されるいう噂が、剣奴達の間では真しやかに囁かれているのだ。
「まだ迷うか。ならば、土産にこれをくれてやる」
ボジョレは、先頭に立っていた剣奴に、果物の包みでも手渡すように魔道士の首をくれてやった。
「それを見せてまわり、仲間たちと一緒に逃げるがいい。大勢で散らばって逃げれば追手もかかるまい」
血泥に塗れた首を抱いて、剣奴は一瞬逡巡したが、周囲の仲間達の顔色を伺うと踵を返して脱兎の如く駆け出した。
周囲の剣奴達も、一斉にそれに続く。
と、逃げるべきか戦い続けるべきか、逡巡していた最後の一人が、仲間達に続いて親衛隊に背中を向ける。
――その項を、慈悲無きボジョレの太刀が横一文字に切り裂いた。
「疾く逃げろ、急いて逃げるがいい。
一人残さず逃がしてやるとまでは言ってはおらぬからな」
戦意を失った剣奴達は蜘蛛の子を散らすように四方に駆け出し、その背中を、親衛隊の面々が平然と案山子の如く斬り倒していく。
「おい……おい、ボジョレっ!」
顔色を変えた正義に、ボジョレはさっぱりとした顔で微笑みかけた。
「労せずして手柄多し。所詮は烏合の衆ですな」
「……っ」
ボジョレを叱責しようとした正義だったが、その冷たい瞳に射抜かれて言葉を失った。
これが戦だと。ゆらぎの無いハシバミ色の瞳が、正義の道徳観念を超えた戦場の正邪を告げてた。
「剣帝はどいつだ……?」
錬度の足りぬ剣奴と言えど、中には肚の据わった兵もいるようだ。
黒い蓬髪をなびかせた大柄な男が、敵前逃亡を企てた臆病者を一太刀で粛清し、命知らずにも正義達に刀を向けた。
男は、人並み外れて長身な体躯と、レディコルカの民には見られない黒髪を見咎め、正義を己が狙う首級と見定めた。
すぐさま親衛隊の面々が正義を守るように前に出ようとするが、正義はそれを手で制した。
剣奴が刀を振り上げた瞬間だった。
大砲の一撃の如き前蹴りが、その下腹部に突き刺さり、粗悪品の板金鎧を凹ませながら、地面へと叩きつけた。
正義の体術の中で、最も効率的な人体抑止力に優れた蹴り技。
突進してくる相手を前蹴りで制止するのは逮捕術の基礎であるが、190cmを超える身長と100kg近い体重の正義が繰りだせば、そのリーチと破壊力は凶器と呼んで余りある。
倒れて苦悶に喘ぐ男の喉に、正義は無感情に刀の切先を落とした。
ボジョレに視線を送る。これは戦――そんなことはとうに承知していると。
正義の返礼を瞳を細めて受け取ったボジョレは、今、己を前後から挟撃しようとする剣奴達に目を向けた。
正面の剣奴の瞳は、頼りなく彼の背後へ向けられていた。
……ここまで敵に肉薄し、己では無く仲間を恃むか。
挟撃しながら、『いっせいの』と拍子を合わせねば刀を下せぬ手合いと、敵を値踏みする。
剣奴達は、傾いた戦場の天秤に餓狼の勇猛さを失い、牙の抜けた飼い犬と成り果てていた。
嘆息交じりに、ふ、と肩の力を抜いて目付きを和らげて、視線を真横へと切った。
刀を向けられている最中には、余りに相応しくない解緊の仕草に、前後の剣奴の視線がボジョレに促されるように横に靡く。
刹那、ボジョレは振り向きざまに背後の敵の肋骨の隙間に刀を差し込み、返す刀で手前の敵の首筋を撫でた。
その澱み無い挙動の余りの静けさに、正義は肌が粟立つのを感じずにはいられなかった。
この男にとっては、大仰な仕草で敵を威圧し惨殺するのも、音一つ立てずに静かに葬るのも、何の違いもない。
単純な身体能力や技術では語れぬ、立ち振る舞いの妙。
相手の意識に隙間をこじ開け、そこに死神の鎌を忍び込ませる才気。
それは、泰平の世にあるまじき異端の才だった。
剣士、切畠正義は、純粋に人を殺すためだけの剣というものを、今、初めて目の当たりにした。
「思ったより楽に片付きましたな」
全身を返り血で斑に朱に染めながら、落ち着き払った様子で口にする。
長らく肚の底で蟠っていた疑問が、押さえきれずに喉から漏れた。
「どうしてあの時、俺を殺さなかった?
お前なら、俺を仕留めるぐらい、朝飯前だった筈なのに」
ボジョレは、不敬を承知で一切の言い訳や謙遜を挾まず、あっけらかんと答えた。
「ええ。仰る通りですが……矢張り、真にマレビトであらせられるか確かめるのが先決でございましたし、何より――」
――正直に申せば、貴方は、初めて私が真っ向から斬ってみたくなった方だったのです。
ボジョレはポーカーフェイスを崩さぬまま、静かに正義にそう囁いた。
「……妹の時は? バルベーラが俺に斬りかかる事を許したな。
俺が、あいつを殺すかもしれないとは思わなかったのか?」
「うん? 貴方はどう見ても、女の命まで取るような方には見えませんでしたし――、
それに、職務で命を落としたとしても、それはバルベーラの天命であるから仕方なし――そう思いましてね」
ボジョレ=セギュール。この男は――どこか、壊れている。
正義は、信頼と畏怖の入り混じった視線で、眼前の比類無き剣鬼を見つめた。
自信無さげに眉尻を下げ、口角を落として唸り声を上げるその醜態は、先程まで余裕綽綽の表情でⅢS超級の大魔術を連発していた、畏怖堂々たる姿とは似ても似つかない。魔王級という大袈裟な字さえ、何かの悪い冗談のようだった。
ヴァインガルトに寄り添っていた小柄な従者は、そんな彼の頭を優しく抱きしめると、泣く子を宥める母の如く慈愛溢れる表情で微笑みかけた。
「現世の魔王たる貴方が、一体何を恐れることがあるのです。
あんな卑小な者たち、貴方が言う所の、ふぁーすとすてーじの雑魚きゃらでは御座いませんか。
さあ、お立ち下さい。誰もが、貴方の活躍を待ち望んでいるのですから」
病的なまでに白く小さな掌を掴み、ヴァインガルトは上目遣いで尋ねた。
「エデン、お前は、俺の味方だよな」
それは、何度目になるかも分からない問いだった。
猜疑の混じった卑屈な問いに、従者――エデンは朗らかな笑みを返した。
「当たり前じゃないですか。ボクは何があろうと、ヴァインガルト様の忠実なる僕です。
さあ、お立ちになって下さい。今度こそ、貴方のお力で、あの邪悪なる者達を焼き滅ぼすのです。
貴方こそ――この世界を救う、勇者なのですから」
先ほどまでの悄然とした様子が嘘のように。
ヴァインガルド=海辺良太は、子供のように機嫌良さげに鼻を膨らませると、魔剣を拾い、その漆黒の刀身に映りこむ己の姿をうっとりと眺めた。
「そうだよな。俺はこの世界で聖なる転生を果たしたが、アイツはむさ苦しい昔の姿のままだ。
散々偉そうなこと言ってやがったが、力を受け取ることも出来ない凡人だってわけだな。
うん、そうだ。あんな奴、1stステージの中ボスが精々だよな。攻撃無効化属性はちょっと厄介だけど、攻略ポイントなんて幾らでもある筈だ。周りのNPC共と一緒に、すぐに粉微塵にしてやるよ――」
虹彩異色の整った麗貌の持ち主であるが、己の万能感に恍惚としながら下品に舌で唇を舐め回す姿からは、隠しきれない浅薄な幼稚性が滲み出している。
以前の海辺良太は、狂信的なユーザーが多いことで有名なMMORPG、ロックヘイムオンラインに耽溺し、『†冥獄のヴァインガルト†』と名付けたアバターに己を仮託し、ギルドマスターとして架空世界での栄華を極めることを自我の礎とする退廃的な生活に身を堕としていた。
そして今、かつてゲーム内で使用していたアバターと同じ姿形に己を変じ、海辺良太は空想に思い描いたままの暴虐をその手で振るっている。
何の努力も無く手に入れた魔道の力は無根拠な全能感に化け、鬱積した長年のコンプレックスを燃料としながら、海辺良太は人としての倫を外した真の魔王へと育ちつつあった。
「なあ、エデン、俺は強いだろう」
「はい。ヴァインガルト様のお力は唯一無二。剣帝如き、足元にも及びませんよ」
玩具を自慢する子供の笑顔で微笑む海辺に、エデンはぞんざいな首肯を返す。
明らさまな阿諛追従の賛辞だったが、海辺はそれだけで随分と機嫌を直したようだった。
エデンは、戦意も新たに発奮する主人に背を向け、舌を出して小さな嘆息を吐いた。
◆
完全に追い詰めた筈の魔王級を、一瞬の戸惑いから取り逃し、敵の講じた対策に嵌って遥か後方まで後退させられる羽目になった――それが、正義の視点からの先の攻防の全てである。
しかし、後方からそれを見つめていたレディコルカ兵の視座からすれば、その結末は裏返る。
眼前には、悠然と構える剣帝の裔。人間を一瞬で蒸発させ、大地を溶岩に変える魔王級と戦い、傷の一つすらない。一方、敵方の魔王級は戦意を失い尻餅をついて怯弱に震えているではないか。
遠目であったこともあり、剣帝の裔と魔王級の攻防の趨勢を正しく理解できたものは一握りだった。
「大義は我らに有り! 切畠正義陛下の御加護には、邪悪なる魔王級の炎も届くこと能わず!」
味方を鼓舞するボジョレの叫びに、漣が広がるように鬨の声が上がっていく。
周囲に迫り来るのは、錆身の剣を固く握り締めて歩み来るスティルトンの剣奴兵。
魔王級からの大打撃によって恐怖が伝染し始めた自軍の士気を取り戻すことが、最優先事項であった。
「陛下、御退がり下さい!」
確かに、この剣奴兵達は正義にとって、魔王の真似事をする海辺などより遥かに難敵である。
敵が握るは、実体の刃。抗魔力の加護が得られよう筈もなく、その剣は容易に正義の体を貫くだろう。
恵まれた体躯と卓越した剣技を持つ正義は、この異世界にあっても優秀な兵士の部類だ。
それでも、数は常に技に勝る。幾ら優秀でも、一個の人間の持ちうる武力など高が知れている。相当な技倆の開きがあろうと、ぐるりと4人に囲まれればまず勝ち目は存在しない。敵中で孤立することにでもなれば、逃げ延びることさえ困難だろう。
スティルトン剣奴隊。
元来、スティルトンの正規軍は圧倒的な火力を誇る高位魔道士によって構成され、ハーフエルフが賤民と蔑む純人間の民を歩兵として用いるなど、考えられないことだった。
しかし、スティルトンの魔道士とて阿呆ではない。抗魔力を持つマレビトと矛を交えるに当って、プライドと己の命を天秤にかければ、屈辱を呑んで歩兵を徴用する程度の選択は行うだろう。
けれでも、白兵戦闘の概念すら希薄な魔道士達に、真っ当な教練など出来よう筈が無い。
全ては、魔王の従者を名乗るエデンという少女の算段だった。
彼女は周辺の属国から屈強な体躯の奴隷を集めて編成した剣奴隊を、魔法のように披露して見せた。
一介の付き人に過ぎぬ少女が、如何なる手腕と人脈を駆使したのか。全ては謎に包まれている。
エデンは魔王級の威光を盾に、剣奴隊の編成を自由気儘に行った。
その手際は、鮮やかで手馴れた見事なものだったという。
……まるで、予めこんな事態が訪れることを想定していたかのように。
肩まで無駄な力の入った握り。漫ろに周囲を見回す視線。定まらない歩幅。
レディコルカ抗魔剣士隊の精鋭達が、スティルトン剣奴隊を素人に剣を握らせ鎧を着せただけの素人の集団であることを看破するのには、さしたる時間は要さなかった。
だが、剣奴達の纏う尋常ならざる殺気。
飢餓の限界に達した猛犬を想起させる立ち姿は鬼気迫り、両軍の間には不気味な緊張が張り詰めていた。
構えや立ち姿は素人同然であるが、その全身には深い切創が刻まれ、歴戦の戦士の趣すらある。
突如、剣奴の一人が雄叫びと共に、長剣を振り上げて斬りかかった。
その動作には何一つ目を見張るようなものは無く、間も拍子も無視した全くの凡手である。
前衛の兵士は即座に振り上げた腕の内籠手の動脈を切り裂き、返す刀で肩口から水月までを切り下げた。
教科書通りの完璧な対処。だのに、完膚無きまでに敗北した筈の剣奴兵は、腹から無様に臓物を溢しながら、振り上げた長剣を力任せに叩き付けたのだ。
勝利を確信していた筈の兵士は、首から血飛沫を吹き上げながら、剣奴兵と縺れ合うようにして倒れ込んだ。彼は何かを言おうしたのか、幾度か口を開閉させたが、遺す言葉も無く事切れた。その死に顔に張り付いていたのは、理解出来ないものを見たような困惑である。
死。
魔王級の魔道のような、現実感の希薄な死ではない。
余りにも生々しい、血の温もりと臓物の臭気が漂う、本物の死がそこにはあった。
剣道師匠国と名乗りを上げたレディコルカであるが、泰平の世が続くこと既に200年以上。精鋭の抗魔剣士と言えども、実際に剣で人を斬った経験のあるものは一握りに過ぎない。
訓練は十二分に積んである。道場稽古のみでは無く、実戦を想定した山野での合戦稽古も幾度となく繰り返した筈だった。されど、臓物零して空を仰ぐ眼前の死体は、彼らにとっても、全く未知の何かだった。
恐怖が、蝕むように、レディコルカ軍に伝染していく。
反面、剣奴隊は仲間を死を皮切りにして、死体を踏み越え、血染めの足跡を地に刻みながら、次から次へとと襲い来る。
正義は、眼前の敵の正体を把握しつつあった。
敵は剣士ではなく、猟犬の如き殺人者。
血走る瞳に宿るのは、殺意に滾る、狂奔の熱。
スティルトン剣奴隊の教練は、隊員の人権など一切顧みない非道徳的で――それでいて、最速で士気高い兵士を育成する、悪魔的なカリキュラムだった。
即ち、殺し合い。
剣の扱いなど何一つ教えられぬまま、原始人が石斧で殴り合うかのように、どちらかが血達磨で動かなくなるまで斬り合いを強いられる日々。
逆らえば、監督官の魔道士に羽虫のように消し炭にされるのみ。
人的リソースから見れば非効率極まりない狂気の教練。
そんなB級品の蠱毒の壷は、抑圧される日々を過ごしてきた農奴達を、屈強な剣奴へと速やかに育て上げた。手段を問わず、ただ自分の命を幣に相手の命を刈り取ることに特化した兵士達である。
手を血に汚したことが無い達人達と、幾度も人を殺めた素人達。
分が悪い。正義は、戦いの流れが敵に傾き始めているのを肌で感じていた。
高名な格闘家。街の喧嘩自慢。厳しい訓練を潛りぬけた警察官。そんな強者と呼ばれていた筈の人間が、刃物を持った素人の殺意によって、いとも簡単に命を落としたなどいうのは、珍しくもない話だった。
『第二次大戦以前でのアメリカ軍兵士の最前線での発砲率は10%から15%に過ぎなかった』という調査の結果は、人を殺すという事の精神的負荷の高さを如実に表している。
初斬で躊躇無く人を斬る。
この剣と魔法の世界にあっても、泰平の世を生きてきた人間にとって、そのハードルは果てしなく高い。
決断は、一瞬だった。
刀を抜いた正義は戦場の最前線に走り出て、メイスを振り上げる剣奴の腕を押えた。
そのまま右手で相手の視界を奪いつつ、蹴りに近い勢いの足払いをかけて、折り敷くように地面に引き倒した。兜と胴鎧と、上半身に装備を集中させていた剣奴は背中から凄まじい勢いで地に激突し、肺腑の息を余さず吐き出した。
苦悶に喘ぐ暇もあればこそ。空気を求めて顎を上げた剣奴の喉に、正義は慈悲無く刀を振り下した。返り血が、正義の大鎧を朱に染め上げる。
正義の一刀は首を両断するには及ばなかったが、剣奴の首筋を6分までも切り込んでいた。
紐の切れた兜を投げ捨て、髪を掴んで死体を高らかと持ち上げる。
首の断面を剥き出しにして、剣奴の屍がぶらりと搖れた。
黄金のトロフィーでも見せ付けるが如く亡骸を掲げ、腹の底からただ一声の叫びを上げる。
「恐るるに足らず!」
堂々たる声音が、残響を伴って嵐のように通り過ぎた。
戦場に満ちた刃金の音すら霞むような、正義の大喝。
前線で戦っていたレディコルカの兵士達が色めき立った。
「陛下が……」
「恐るるに足らず、大義は我らに有り!」
正義の言葉に呼応するが如き鬨の声と共に、戦場の士気が一瞬にして膨れ上がった。
伝染し始めた恐怖と困惑が霧散し、伝説のマレビトと轡を並べて戦う昂揚と戦意が、爆発的に伝播していく。
正義は用済みとなった剣奴の屍を野にうち捨てた。
蛮行である。敵であっても敬意を以て対することを望んでいた正義には、まるで似つかわしく無い蛮行である。
正義には、綿密な理屈や計算があって、この蛮行を行った訳ではなかった。
ただ、自分は今、こうしなければならぬという、直感だけがあったのみだ。
初斬。正義は今、初めて刀を以て人を殺めた。
その感触を回想する暇も、感傷に浸る暇も無く、大将首を見定めた剣奴達が正義に向って一斉に群がって来る。
一歩退こうとしたその背が、力強い誰かの背に触れた。
「貴方はやはり、剣帝陛下の裔ですよ。玉座ではなく、戦場でこそ輝かれる御方だ」
ボジョレが口の端を吊り上げながら、刀を握り直した。
戦場の士気の流れを敏感に汲み、最も効果的な方法で自軍の戦意を盛りたてる。
この才を、将器と言わず何と呼ぼう。
「お役目お疲れ様で御座いました。我ら親衛隊が一命を以て御守り致しますので、どうぞごゆるりと――」
旧第三憲兵隊の面々と、レディコルカ中の手練を集めて編成された剣帝親衛隊が、一斉に刀を構えた。
◆
馬車の幌をびりびりと震わせ、鬨の声が響き渡る。
剣と剣が交わる甲高い金属音、断末魔の叫び、原始的な絶叫。
それ以上にキヌを苛むのは、戦場に満ちた、殺意憎悪悲哀激痛等々の負の感情感覚の大嵐である。
傷つく誰かの痛みを。死に怯える誰かの恐怖を。息絶える誰かの無念を。敵味方隔てなく、余す事無くキヌは感得していた。
これ程大量の思念の奔流を身に受けるのは、あの時以来だ。
否応無しに想起してしまう。蘇ってしまう。あの地下室の苦痛と恐怖の日々を。
襤褸雑巾でも裂くように、愛しい父母を寸刻みで解体していった赤い瞳を。
彼女にできることは、ただ胎児のように体を丸めて小さく震えるのみだった。
その姿を見れば、外見通りの臆病な少女のようにも見えよう。
しかし、常人ならば発狂しかねない業苦を一身に受け止めながらも、正気を保ち続けるキヌの精神力は尋常な人間のそれではない。
苦痛の泥土に沈んで行くキヌを、友枝は幼子をあやすように胸の中に抱きしめた。
「キヌさん、大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くないからね……」
友枝自身も恐怖に身を震わせているというのに、懸命に虚勢を張って笑顔を作り、キヌを安心させようと平静を装っている。その気遣いが。親愛が。肌の温もりと共に、キヌを包んだ。
「大丈夫、怖くない、怖くないよ」
己に言い聞かせるように、友枝は繰り返す。
止まれ。この震え止まれ。そう念じるが、戦況が加熱するに従い、キヌに流れ込む感情の渦は濃さを増すばかり。人々の心が、憎悪と殺意に赤く染まっている。比喩ではなく、エルフのキヌにはそれがはっきりと体感できるのだ。
苦痛に溺れそうなキヌは、しゃにむに友枝の胸にしがみついた。
二人を励ますかのように、周囲を妖精の揚羽がくるくると舞い踊っていた。
御用馬車の中には、友枝とキヌと、侍従のドメーヌの三人きり。バルベーラは馬車のすぐ外で警護を行っている。
赤黒い殺意と激痛の渦の中で、泥中で砂金の粒を探すように、キヌは拠り所となる心の流れを探り集める。抱きしめてくれる友枝。慮ってくれるドメーヌやバルベーラらの仲間たち。
力強い赤銅色をした正義の心は、遥か遠方に微かに感得できるのみだった。
霞がかって伝わるその心は、どこか曇りを帯びているように感じた。
不意に、二人の周囲を巡っていた揚羽が、馬車の幌の隙間を縫うようにして姿を消した。
正統なる主人である正義の下へ向ったのだろうか。
引き裂かれそうな胡乱な心で、キヌはただ正義の無事を祈るばかりだった。
◆
先頭の10人が無造作に切り捨てられたのを見て、剣奴兵の足が止まった。
死すら厭わぬ狂戦士も同然だった剣奴達に、恐怖がじわりと広がっていく。
彼らの戦う動機は、ただ己の命を長らえることのみ。
剣奴達でも九死に一生を得ようとも挑み来るが、眼前の男達に挑むは十死零生。
何の抵抗も出来ずに藁のように斬り殺されるのは真っ平御免なのだろう。
命を擲つ狂奔が、死中に生を拾う方法だと体得しながらも、圧倒的な戦力差にその足取りは粘性を帯びるように重たく滞る。
最初は剣奴達の狂気に押されかけたレディコルカ軍であるが、威圧して萎縮した相手から命をくすねることしか知らない剣奴達とは錬度が違う。
正義の斬った一人が、戦局に決定的な楔を打ち込んでいた。一気に傾いた天秤は、もう戻らない。
レディコルカは集団戦で基本的に密集陣形を作らない。仮想敵であるスティルトンの魔道士相手に密集すれば、広域魔道の的にしかならないからである。
従って、白兵戦は散兵が両者入り交じる乱戦となる。
長槍、ロングソード、モーニングスター。多種多様の武器を握った剣奴兵を、日本刀を手にしたレディコルカ軍が駆逐していく。
長槍やハルバートなど、明らかに不利な長物相手にも、頑なに刀を使って相手するレディコルカの日本刀信仰は一種常軌を逸している。
日本刀は武士の魂などと呼ばれるが、戦場に於いては決して万能の武器たりえない。
三間槍を刀で相手にするのは、対手の三倍の力量が必要と言われるが、レディコルカの精鋭は何の恐れもなく、体ごと槍の間合いの内側に飛び込み敵を討ち取っていく。
それは、日本の戦国時代にすら存在しなかった、日本刀をメインウェポンに据えた白兵戦術。
講談や時代劇の中の世界にしか有り得ない、カタナの戦だった。
その中で、更に異彩を放つのは、正義を衞るように囲む親衛隊――旧第三憲兵隊の面々達だった。
恐れず、迷わず、躊躇わず。
麦の穂でも刈り取るかのような手付きで、次々と周囲の剣奴達を斬り倒していく。
一際目を惹いたのは、先頭に立つ隊長ボジョレの戦いぶりだった。
両眼を横一文字に切り裂かれ、悲鳴を上げて剣を落とした剣奴の髪を掴み、その首筋を慈悲無く切り裂く。
頚動脈から飛び散る血飛沫は、狙い違わず迫り来た次の剣奴を頭から爪先まで真紅に染めた。
仲間の血潮を全身から滴らせた剣奴は、怯えた表情で後ずさった。
その隙を逃さず、ボジョレは肩口に斬り込み腹を裂き、半死半生の呈で泣き叫ぶ剣奴を蹴り転がした。
血を好む餓狼のような、派手な立ち回りと大袈裟な太刀捌き。
しかし、それらはボジョレという男の本質ではない。
正義は目を細める。
兵士の中には、人を斬ることそれ自体に愉悦を覚える殺人狂も稀に現れる。
しかし、ボジョレのそれは己の快楽とはまるで無縁。ただ相手の戦意を削ぐことを目的として、陰惨な殺し方を繰り返している。
その剣には、闘志の滾りも相手への殺意すら宿らず、あるのは徹底した行為の心理効果の計算のみだ。
何より――手馴れている。
ボジョレの太刀筋には何の緊張も昂揚も存在しない。
ただ作業の如く敵を切り捨てる姿は、戦場の猛りに乗じて初斬を遂げる周囲の新兵達とはまるで違う。
この男は、これまで一体今まで幾人を斬り殺してきたのだろうか。
辺境警備の憲兵隊の一隊長に過ぎなかった筈のこの男が。
正義は、賞賛と疑念が相半ばに混じった複雑な思いで、ボジョレの剣を見つめ続ける。
「森の奥に隠れていた魔道士を討ち取ったぞ」
誰かが、長耳の特徴的な頭部を誇らしげに掲げた。剣奴達とは違う、生粋のスティルトン兵だ。
戦国時代さながらに、倒した相手の首を獲るという慣わしは、剣帝切畠義太郎が始めたものと伝えられる。エルフの血を引くことを誇りとするスティルトン人にとって、その高貴の証である頭部を切り落とされることはこの上無い辱めであり、先の戦争では首を奪われることを恐れて出兵拒否した魔道士も多数存在したと伝え聞く。
切畠義太郎は抗魔力とカリスマのみによって魔道士に対抗したのではない。
戦場の禁忌を犯す蛮行や奇襲を躊躇無く行うことによって、圧倒的戦力の差を少しづつ縮めていったのだ。
そして、このスティルトンの魔道士の首級は、剣奴相手の戦場に於いて、ただの戦果以上の価値があった。
意気揚々と首を掲げた剣士は、己の手柄を惜しげもなくバスケットボールのように放り投げた。
断末魔に歪んだ端麗なハーフエルフの首が、放物線を描いて並ぶ剣槍と剣奴達の頭上を緩々と飛び越える。
ボジョレは空中で血に汚れた金髪を掴み止めると、涙の縞も顕わな魔道士の死に顔を、剣奴達に見せつけるように突きつけた。
「貴様達の首輪を握っていた飼い主は死んだ。
今なら退いても背中を魔道の焔で焼かれることはあるまい。
逃げるは今のうちぞ。
それとも――まだ我らに歯向かい、無駄に命を散らすか?
それならそれでも我らは構わぬ。ただ貴様達の首級を戦果として持ち帰るのみ。
さあ、如何にする!?」
スティルトンの剣奴兵の間に動揺が走った。
自分たちを牛馬も同然に扱い、目付きが気に入らない、などと些細な言いがかりで焼き殺した憎き魔道士が、今眼前で首だけになり、苦痛に歪んだ表情で虚ろに空を睨んでいた。
今すぐにでも駆け出したい――そんな剣奴達の衝動を留めたのは、逃亡が他の魔道士に発覚した時の恐怖だった。
敵前逃亡が発覚すれば、死よりも恐ろしい責め苦が待っている。スティルトンの王城の地下に送られ、残虐非道な拷問官に生きながら解体されるいう噂が、剣奴達の間では真しやかに囁かれているのだ。
「まだ迷うか。ならば、土産にこれをくれてやる」
ボジョレは、先頭に立っていた剣奴に、果物の包みでも手渡すように魔道士の首をくれてやった。
「それを見せてまわり、仲間たちと一緒に逃げるがいい。大勢で散らばって逃げれば追手もかかるまい」
血泥に塗れた首を抱いて、剣奴は一瞬逡巡したが、周囲の仲間達の顔色を伺うと踵を返して脱兎の如く駆け出した。
周囲の剣奴達も、一斉にそれに続く。
と、逃げるべきか戦い続けるべきか、逡巡していた最後の一人が、仲間達に続いて親衛隊に背中を向ける。
――その項を、慈悲無きボジョレの太刀が横一文字に切り裂いた。
「疾く逃げろ、急いて逃げるがいい。
一人残さず逃がしてやるとまでは言ってはおらぬからな」
戦意を失った剣奴達は蜘蛛の子を散らすように四方に駆け出し、その背中を、親衛隊の面々が平然と案山子の如く斬り倒していく。
「おい……おい、ボジョレっ!」
顔色を変えた正義に、ボジョレはさっぱりとした顔で微笑みかけた。
「労せずして手柄多し。所詮は烏合の衆ですな」
「……っ」
ボジョレを叱責しようとした正義だったが、その冷たい瞳に射抜かれて言葉を失った。
これが戦だと。ゆらぎの無いハシバミ色の瞳が、正義の道徳観念を超えた戦場の正邪を告げてた。
「剣帝はどいつだ……?」
錬度の足りぬ剣奴と言えど、中には肚の据わった兵もいるようだ。
黒い蓬髪をなびかせた大柄な男が、敵前逃亡を企てた臆病者を一太刀で粛清し、命知らずにも正義達に刀を向けた。
男は、人並み外れて長身な体躯と、レディコルカの民には見られない黒髪を見咎め、正義を己が狙う首級と見定めた。
すぐさま親衛隊の面々が正義を守るように前に出ようとするが、正義はそれを手で制した。
剣奴が刀を振り上げた瞬間だった。
大砲の一撃の如き前蹴りが、その下腹部に突き刺さり、粗悪品の板金鎧を凹ませながら、地面へと叩きつけた。
正義の体術の中で、最も効率的な人体抑止力に優れた蹴り技。
突進してくる相手を前蹴りで制止するのは逮捕術の基礎であるが、190cmを超える身長と100kg近い体重の正義が繰りだせば、そのリーチと破壊力は凶器と呼んで余りある。
倒れて苦悶に喘ぐ男の喉に、正義は無感情に刀の切先を落とした。
ボジョレに視線を送る。これは戦――そんなことはとうに承知していると。
正義の返礼を瞳を細めて受け取ったボジョレは、今、己を前後から挟撃しようとする剣奴達に目を向けた。
正面の剣奴の瞳は、頼りなく彼の背後へ向けられていた。
……ここまで敵に肉薄し、己では無く仲間を恃むか。
挟撃しながら、『いっせいの』と拍子を合わせねば刀を下せぬ手合いと、敵を値踏みする。
剣奴達は、傾いた戦場の天秤に餓狼の勇猛さを失い、牙の抜けた飼い犬と成り果てていた。
嘆息交じりに、ふ、と肩の力を抜いて目付きを和らげて、視線を真横へと切った。
刀を向けられている最中には、余りに相応しくない解緊の仕草に、前後の剣奴の視線がボジョレに促されるように横に靡く。
刹那、ボジョレは振り向きざまに背後の敵の肋骨の隙間に刀を差し込み、返す刀で手前の敵の首筋を撫でた。
その澱み無い挙動の余りの静けさに、正義は肌が粟立つのを感じずにはいられなかった。
この男にとっては、大仰な仕草で敵を威圧し惨殺するのも、音一つ立てずに静かに葬るのも、何の違いもない。
単純な身体能力や技術では語れぬ、立ち振る舞いの妙。
相手の意識に隙間をこじ開け、そこに死神の鎌を忍び込ませる才気。
それは、泰平の世にあるまじき異端の才だった。
剣士、切畠正義は、純粋に人を殺すためだけの剣というものを、今、初めて目の当たりにした。
「思ったより楽に片付きましたな」
全身を返り血で斑に朱に染めながら、落ち着き払った様子で口にする。
長らく肚の底で蟠っていた疑問が、押さえきれずに喉から漏れた。
「どうしてあの時、俺を殺さなかった?
お前なら、俺を仕留めるぐらい、朝飯前だった筈なのに」
ボジョレは、不敬を承知で一切の言い訳や謙遜を挾まず、あっけらかんと答えた。
「ええ。仰る通りですが……矢張り、真にマレビトであらせられるか確かめるのが先決でございましたし、何より――」
――正直に申せば、貴方は、初めて私が真っ向から斬ってみたくなった方だったのです。
ボジョレはポーカーフェイスを崩さぬまま、静かに正義にそう囁いた。
「……妹の時は? バルベーラが俺に斬りかかる事を許したな。
俺が、あいつを殺すかもしれないとは思わなかったのか?」
「うん? 貴方はどう見ても、女の命まで取るような方には見えませんでしたし――、
それに、職務で命を落としたとしても、それはバルベーラの天命であるから仕方なし――そう思いましてね」
ボジョレ=セギュール。この男は――どこか、壊れている。
正義は、信頼と畏怖の入り混じった視線で、眼前の比類無き剣鬼を見つめた。
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
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