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竹尾練路

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第一章 剣帝再臨

第7話 レディコルカの大老(前編)

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「من هم در مرد بیکار شایعات بی اساس که مانند واقعا MAREBITO را باور نمی کند」
【……俺も、こいつが本物のマレビトだなんて与太話を信じちゃいないさ】

 苦虫を噛み潰した顔で語る男の声には、苦悶の色が混じっていた。
 俺の肩に腰掛けて呑気にはねを揺らしている妖精ピクシーを、眇めに睨む。
 意思の疎通も出来ず、意味も分からず処刑される――そんな絶体絶命の状況は去ったようだ。
 状況を打開したのは、ずっと俺に付き纏っていたこの奇妙な妖精だ。
 俺の幻覚か何かだと思っていたこの小人――紅毛の彼らにとっては、何か特別な意味のある存在らしい。スマホや切畠の名で激昂したと思いきや、妖精を見て態度を変える。彼らの抱く価値観は、未だに俺には掴めない。
 ……勿論、俺の知る限りでは、妖精の実在を立証した、なんて話は聞いたこともない。彼らの世界の価値観でも妖精とは伝説上の存在であり、その実在に戸惑っているのかもしれない。

「اما، هیچ چیزی به عنوان آسیب MAREBITO شانس واقعی نیز باید وجود داشته باشد. این، سدیم یافت شده است」
【だが、万が一にも本物のマレビトを害するようなことは絶対にあってはならない。それは、解っているな】

 だが、現実に、彼らの言葉は俺の頭の中に意味を伴って響いてくる。
 耳を通じて入る音とはまるで異なった言葉が脳裏に轟くのは、未だ嘗て味わったことの無い不可思議な感覚だった。
 それは、副音声のついた英語番組でも観ているかのような、奇妙な体験である。
 唯一確信を持って言えることは、この現象は、彼らの言葉に合わせてはねを動かすこの妖精と因果関係のあるものだということ。
 この妖精が、彼らの言葉を訳して……いや、本当に訳されているのかは定かでない。相変わらず、彼らは俺の言葉を理解する様子が無い以上、意思の疎通が取れているかは怪しいところだ。
 頭の中に響くこの声が、完全に出鱈目の妖精の気紛れなアテレコである可能性を、俺は否定することは出来なかった。
 無論の話だが、妖精が訳した彼らの言葉を聞いただけで、俺に彼らの言葉が操れるようになるわけではない。字幕の映画を見たところで、ネイティブスピーカーにはなれないように。

 男達は深刻そうな顔で、小声で何かを相談していたが、やがてリーダーの男が決然と俺に向き直った。その表情には、今まではない対話の意図が窺えて、若干の安堵を覚えた。
 だが、男が開口一番放った言葉は、やはり俺の理解の範疇の外だった。

「با توجه به تاریخ ملی ، به منظور آرام شود این قاره رنت،  اعلیحضرت به یک خدا در  نسل است، که آن را در زمین آسمان  روی کشتی از سنجاقک گرفتار شد.
 MAREBITO اعلیحضرت که  در زندگی خدا، به یاد با کلمات شایعات از انسان نجس می کند به گوش شما، مردم از زمین متعهد کلمات به ادم بازیگوش و خطرناک جنگل از دسترس نیست، و من  گفت: به اعلیحضرت نماز نجات」
【……レディコルカ国史によれば、天孫であらせられる剣帝陛下は、このレンネット大陸を平定されるために、蜻蛉とんぼの船に乗ってレディコルカの地に天降あまくだられたという。
 マレビト――現人神であらせられた剣帝陛下の御耳には、不浄なる民の言葉は届かず、この地の民は森のピクシーに言葉を託し、救済の祈りを陛下に奏上そうじょう申し上げたと伝え聞く】

「は……現人神? マレビト? レディコルカ?」

 言葉の意は、妖精の羽ばたきに合わせて俺の脳裏に響いた。だがしかし、その言葉の内容は、容易には理解し難いものだった。
 巡りの悪い頭を回転させてその言葉を解釈してみれば、どうにも、それは神話の一部であるようだった。剣帝、と呼ばれる神を信仰していること、この地はレディコルカと呼ばれていること。不可解な内容であるが、男の言葉の端々には、彼らとのコミュニケーション基盤となりうる貴重な情報が含まれていた。
 それにしても――何故、この地の神話などを、俺に?
 彼らとの接触遭遇時に、問答無用で向けられた敵意を思い出す。
 もしかして――この地は、何らかの宗教的聖地の一種なのかもしれない。その仮説が正しければ――彼らの剣呑の態度も、全て納得がいく。俺は、聖地を土足で踏み荒らした異教徒というわけだ。

「برادر، صحبت مثل شما می دانم که می خواهم، حتی کودکان در حال حاضر یک ایده خوب این است !
یا، این مرد ، آیا شما حتی رفتن به می گویند همان است که در آن MAREBITO اعلیحضرت واقعا به هیچ و !?」
【兄さん、今はそんな、子供でも知っているような話はいいでしょう!
 それとも、まさか本当にこの薄汚い男が、剣帝陛下と同じマレビトだとでも言うつもりですか!?】
「باربرا」
【バルベーラ】

 憤懣ふんまん遣る方無し、といった表情で食ってかかる少女に、男は厳しい瞳を向けた。
 少女は、左肩を押さえながら悔しげに口を噤む。彼女の敵意の視線が首筋に刺さる。まあ、彼女の怒りは尤もなことだとは思う。薄汚い男に地面に押し倒され、肩を痛めつけられたのだ。奇麗なハシバミ色の瞳が、美しく怒りの火を燈して燃えていた。

「کلام من …… شما می توانید می بینید؟ کلمات من در حال حاضر اگر از طریق، به من اجازه دهید دست راست بالا می برد」
【君……俺の言葉が解るか? 今の俺の言葉が通じたなら、右手を上げてくれ】

 俺が右手を空に掲げると、男は鷹揚に頷いた。
 ……初めて意思の疎通が確認できたことに、奇妙な感動を覚えた。やはり、頭に響く男の声は幻聴などではない。

「من می خواهم به تائید کمی بیشتر است. من سه بار بر روی زانو راست با دست راست خود را به دست چپ خود را به بالا و پایین دست راست ضربه، کاهش شد」
【もう少し確認を取りたい。右手を下げて左手を上げ、下げた右手で右の膝を三回叩いてくれ】

 動物の調教でもされているような気分だが、言葉の通りに従うと、男は再び鷹揚に頷く。それでも、まなこの奥の猜疑の色は消えはしなかった。

「من فکر می کنم اگر شما، روابط قدرت از یکدیگر و ساخته شده است به طور کلی درک شده است. اگر شما سعی می کنید من مقاومت نسبت به شمشیر، شما به دنبال به مرگ قطع
 خوب، اگر مهارت های خود را، من ممکن است یک همدم به چند تن از ما」
【君なら、お互いの力関係は概ね理解できていると思う。その刀で以って抵抗を試みれば、君は間違いなく死ぬことになるだろう。
 まあ、君の腕前なら、我々の幾人かを道連れにするかもしれないがね】

 先の男を真似て、大きく頷いた。男の言う通りで。この人数を相手にして。俺に勝機は無い。全速力で走ったとしても、土地勘の無いこの場所で、彼らから逃げ切れる見込みなどまるで存在しなかった。

「محل شمشیر بر روی زمین، و او از هر دو زانو در زمان استفاده، آن را دریافت و با بر روی زمین به گسترش در کف هر دو」
【刀を地面に置き、両膝をついて、両の掌を上に広げて地面につけて貰おう】

 左、右、と静かに膝を折り、刀を奉げるように眼前に置き、その前に両掌を広げて地面につけた。男が命じるままの完全服従の姿勢である。

「سلام، به عنوان سنت، کلمات به نظر می رسد به کامل انتقال اگر یک پری وجود دارد」
【ふむ、伝承通り、ピクシーがいれば言葉は完全に伝わるようだな】
「آیا یک نمایش مضحک است!」
【茶番です!】

 バルベーラは猛然と反論を返した。
 彼女は地に広げた俺の掌を忌々しげに踏みにじり、己の刀を拾い上げた。

「باقی می ماند همان، این پسر جعلی  مردم MAREBITO است! من تصمیم گرفتم از همه، کلمات ما نیز همه از ابتدا می دانستند.
تا کنون، شما احتمالا می دانید که چگونه بسیاری بودند که خیره در زمین از این  وجود دارد مقدس است، با بالا بردن پیشنهاد ا MAREBITO از خط امپریالیستی خود خود را از اعلیحضرت نیز ، نقطه ورود به سیاست های ملی بود!
اگر شکایت خود را اگر، من می گویم، ضرب و حتی شکنجه در حال حاضر! اگر  کمی، ما نیز بی ادب تا بهحال تصمیم و همچ ن، به فریاد در دورویی رحمت کثیف بلافاصله!」
【この男は、今までと同じ、マレビト騙りのスティルトンの刺客です! 言葉なんて最初から全部、全部解っていて当然です。
 これまで、この神聖なるレディコルカの地で、畏れ多くも剣帝陛下の御落胤や御皇統のマレビトであると名乗りを上げて、国政に入り込もうとした不届き者が何人いたかご存知でしょう!
 もしご不満なら、今すぐ拷問にでもかければいいんです! 少し痛めつければ、今までの恥知らず共と同様に、すぐに汚らわしい二枚舌で助命を叫ぶに決まっています!】

 彼女の言葉で、この場で自分の置かれている立場が概ね理解できた。謂わば、俺は不法入国の外国人であり、この国では同様の手口による外国人犯罪者が多発している、という事か。
 非常に厄介な状態である。己の身の潔白を証明しようにも、運転免許書も電話番号も、彼らに対する身の証には成り得ないだろう。――希望があるなら、彼らが驚愕の目で見つめていた、俺の愛刀か。彼らも、その腰に日本刀らしき刀を帯びている。
 日本の江戸時代のように、刀が何らかのステイタスシンボルを表しているのだろうか?

「همه را به چشم داشته باشند. این مرد نیز در اختیار داشتن سه چیز غیر ممکن است.
خربزه و دو شمشیر  اعلیحضرت به عنوان سه گنجینه های مقدس، یک، شمشیر از توپ های فولادی گنجانده ش.  
همچنین در این زمینه است که توسط برکات ضد سحر و جادو، قانون عجیب و غریب یکی دیگر از  را محافظت به کار گیرند.
این پیش فرض است، نه به دور از شانه، این پری.」
【皆も目にしているだろう。この男は、有り得ないものを3つも所持している。
 一つは、三種の神器として祀られている剣帝陛下の御剣みつるぎと瓜二つの、玉鋼の刀。
 もう一つは、抗魔の加護に守られたこの地でも作動する、奇妙な魔道則品マジックアイテム
 そして極めつけが、その肩から離れない、ピクシーだ】
「سو مقاله قانون  را، من جعل هویت یکی از چهره های از پری قطعا! در ، من می شنوم تقلید پست تر از شمشیر  است که توسط  مگه ساخته شده است.
این مرد قاتل که به عنوان پیشتاز فرستاده شده برای  را ساخته شده است که قانون از دولت از هنر، از است، و نم!
برادر ...... کاپیتان دلیل است که چنین چیزی را، حوادث تاسف بار مانند سوء قصد به جان  است  اتفاق می افتد!」 
【そ、その魔道則品マジックアイテムが、きっとそのピクシーの姿を偽装しているんです! スティルトンでは、忌まわしき魔道によってレディコルカの刀の粗悪な模造品が作られているとも聞きます。
 この男は、スティルトンの最新鋭の魔道則品を持たされ、我がレディコルカを侵犯する先鋒として送り込まれた暗殺者です!
 兄さ……隊長がそんなことだから、大老の暗殺未遂のような嘆かわしい事件が起こるんです!】

 隊長の男は、おもてを掌で覆うと、重々しい口調でバルベーラに命じた。

「باربراباربرا ، و اسب از سرعت سوار از در حال حاضر، شما می توانید آن را به گزارش . پادشاه ، وزرامختلف، از آن ، من باربراهم 
 در  پری است که در جنگل های جنوب  ظاهر شد ، برای اطمینان از یک مرد مشکوکمو سیاه همان مردم  ، ظاهر بلند است. در اختیار داشتن یک قانون از  را ورزش ناشناس نیز درداخل سنگ بنای . توپ شمشیر  و فولاد بسیار شبیه به گنجینه ملی " TADAYUKI "  پریدر شان
 تلاش برای شدن من فکر می کنم که آیا اراذل و اوباش جعلی MAREBITO از در سوال یک بار، اما این مرد ،در شمشیر بازی زو ، ناری که در سال گذشته و  موضع کرده اند از ویژگی های MAREBITO خدمت بدونعنوان مثال
 این مصمم است که تا حد زیادی بیش از استان ژاندارمری سوم ما ، دفع این مرد را ترک و دفع ارزیابی اموال خود و این پسر کمیته تحقیق رسم دینی و
 کاپیتان ژاندارمری سوم 」
【……バルベーラ、お前は今から早馬を走らせ、スプリンツへ報告を行え。王、諸大臣、それから、大老にもだ。
 そうだな、伝える内容は――クアルク南方の森にて出現したピクシーの隠れ里の内部で不審な男を確保。容貌は、エメンタールの民と同じ黒髪、長身。要石の内側でも発動する正体不明の魔道則品を所持。国宝『タダユキ』と酷似した玉鋼と思わしき刀を所持。その肩にはピクシーを連れる。
 一度は懸案のスティルトンからのマレビト騙りの刺客かと思い処分を試みるが、この男、剣技秀にして、将器と過去300年に例無きマレビトの特徴を兼ね揃え持つ者なり。
 この男の処分は我ら第三憲兵隊の領分を大きく超えるものと判断し、大老と秘蹟調査委員会にこの男とその所持品の鑑定と処分を委ねる。
 レディコルカ第三憲兵隊隊長ボジョレ=セギュール】

 不味いことに、話がどんどん大きくなっている気がする。完全に、この男――ボジョレは、俺を過大評価している。外界からの人間の出入りが起こらない閉鎖的な社会では、マレビト信仰やカーゴカルトが発生することがあると、大学時代に文化人類学の講義で習った憶えがある。
 要するに、物珍しい人種や物品は、隔離社会では珍重されるというだけの話だ。アメリカ人が飛行機から投げ捨てたコーラの瓶が、どこかの島で御神体として祀られていたという、嘘か真かも知れぬ都市伝説と、本質的には同じである。
 異邦人である俺や、スマートフォンが物珍しいのは理解できる。だが、俺は決してマレビトでもなければご大層な天孫様でもない、ただこの地に迷い込んだだけの日本人なのだ。
 そんな俺の内心を代弁するかのように、バルベーラが猛然と反論を返した。

「این غیر ممکن نیست، برادر! آیا چنین مردی کثیف!」
【有り得ません、兄さん! こんな薄汚い男が!】

 彼女の言い分は尤もなのだが、あまり薄汚いとばかり罵られるのは、少し不本意だった。
 隊長のボジョレは、駄々っ子でも叱り飛ばすような口調で、バルベーラを一蹴した。

「باربرا اشتباه وجود دارد - همه ما، به مجازات اعدام به  فرار کنیباربرا MAREBITO من فکر می کنم شما می دانید خوب اسبات، اما تنها در صورتی که، اگر یک رسوایی، مانند را به دور زندگی خود را」
【バルベーラ。お前も分かっている思うが、万が一にも、誤ってマレビトのお命を奪うような不祥事があれば――我ら全員、一族郎党に至るまで死罪は免れないだろう】
「هنوز تسو!」
【それでもっ!】
「آیا نمی شنوند. من اجرای یک پست اسب فورا -باربرا این مرد متوجه قتل به کشتن آسان به شما بود. شما، من زندگی در این مرد ذخیره کردید، به جای البته آهنگ است.
 حداقل. به این مرد، شما یک زندگی مدیون. این اجازه می دهد که هر بیشتر، دخالت با دفع این مرد است.ای اجرا نشدهاسب فورا」 
【バルベーラ。聞こえなかったか。すぐに早馬を走らせるんだ――この男は、お前を簡単に殺せたのに殺さなかった。お前は、討たれて当然の所を、この男に命を救われたんだ。 
 少なくとも。お前は、この男に、一つ命の借りがある。これ以上、この男の処分に口を挟むことは許さん。すぐに早馬を走らせろ】 

 バルベーラは、屈辱を噛み締めるような表情で、頬を紅潮させて唇を震わせていたが、涙ぐんだ目元を拭って、俺に背を向けた。

「آیا من می توانم یک بار در پادشاه شهر را قطع کرد. درب ضد سرقت بر روی نام اعلیح MAREBITO حرامزادهحدس جعلی」
【王都で吊るされればいい。剣帝陛下の御名みなを汚す、マレビト騙りの下種野郎】

 妹の吐き捨てた悪罵にボジョレは肩を竦めた。
 
「من با عرض پوزش به اعضای مجلس به بی احترامی. این یک خواهر بنده فروتن خود است. حتی اگر آنها را نه بخشی نه  سیاه، اما من انسان هستم و امکان MAREBITO وجود دارد و، خواهی درمان با احترام」
【うちの隊員の非礼を詫びるよ。不肖の妹だ。九部九厘黒だったとしても、マレビトの可能性がある人間は丁重に扱うべし、としているんだが】

 ボジョレは、頭を下げると、友人にでも語りかるような調子で、俺に話しかけた。……やはり、一番話が通じそうなのはこの男だ。俺も彼に倣って頭を下げる。どうやら、彼らの間でも、頭を下げるというジェスジャで謝罪を表現するらしいことは、大切な情報だった。

「من انجام این کار، اما چرا، شاه بد متروپولیتن به من اجازه دهید به شما الگوی تغییرات فصلی. این بدان معنی است که شما را به طناب با توجه به قوانین متصل است، اما مقاومت در برابر  نمی?」
【そういう訳なんだが、悪いが君は王都まで連行させてもらう。規則に従って縄についてもらうことになるが、抵抗しないでもらえるか?】
 
 俺は、大きく頷くと、両手を捕縄で結わえ易いように後ろ手に併せた。この処遇に納得したわけではない。しかし、今はその言葉に従うことが唯一の選択肢だ。
 やがて、入念に俺の全身に入念に縄が打たれ、森の外れに停められていた、馬車の荷車に乗せられた。彼の握る縄に曵かれて歩いてみれば、森の外に出るのは呆気無い程簡単だった。俺がどれだけ彷徨い歩いても、抜け出すことは叶わなかったというのに。矢張り土地勘だろうか? 荷車の上には、監視の為に隊長のボジョレ自らが同乗することになった。

「این است که به جاده نه چندان طولانی، اما این شرکت خوب است در جاده ها در کوتاه ترین برش است. آیا نیست که در طول خوب」
【そう長い道程ではないが、旅は道連れだ。仲良く行こうじゃないか】

 彼は笑ってそう言ったが、その瞳は冷徹に俺の一挙手一投足を観察していた。
 肩で呑気に翅を広げる妖精――ピクシーを眇めに睨む。こいつは俺にとっての救世主だったのか。――あるいは、こんな災いを俺に連れてきた、疫病神か。薄ぼんやりと輝く蝶々のような翅の、端だけが揚羽蝶のように紫に染まっていた。
 気の重い旅になりそうである。

   ◆

 街道を行く。この地、レディコルカは思っていたような未開の地では無かったし、蛮習蔓延る異境の地という訳ではないようだ。路は大きく広くなだらかで、街道沿いには麦らしき作物が一面に植えられ、その穂に豊かな実りを宿して重たげに頭を下げていた。どこか郷愁さえ感じる、見事な田園風景だった。川辺では大きな水車が回り脱穀が行われ、岸辺は護岸で整えられている。
 遠目には、田畑で鍬を振るう数人の人影が見えた。彼らは憲兵隊の馬車を目に留めると、陽気な仕草で手を振った。ボジョレも俺の頭を荷台の底に押し付けると、笑顔で手を振り返した。
 丸木組のどっしりとした家々が増え、往来の人影も増え始めると、俺にむしろが被せられた。憲兵隊の彼らに限らず、この土地の人々は、みな一様に燃えるような美しい紅毛の持ち主だった。黒髪の俺が人目につくと何かと不都合があるのだろう。
 俺は、筵の草の隙間を見つけて、目を輝かせて異境の風景に魅入っていた。
 路と田園は、山々の谷間を縫うように作られていた。斜面に従って森林が切り開かれ、遥か上まで棚田は、稲作の行われている水田だ。並ぶ家屋は、木組みに土壁。見慣れぬなかにも、郷愁を喚起する光景である。
 はだに当たる風は、温暖で湿潤。この風は――俺の馴染んだ東アジアのものに近い。

 幾度か休憩を挟みながら、馬車はやがて山間の土地から、平野部の街々へと入っていった。検問のような場所を抜け、街に入ると家々は山間の土地の木組みのそれから、頑丈な石造りの建物へと姿を変えた。街並みは縦横に走る美しい石畳の道路によって条理に区切られ、大路では道路端に幾つにも露店が立ち並び、野菜や干し肉などが盛んに売り買いされていた。
 家々は背丈こそ低いが皆基礎の座ったしっかりした作りで、煙突からは煮炊きの煙が立ち上っているのが確認できた。窓に嵌るガラスは歪み無い。
 俺は、このレディコルカの民に対して、未開の地の蛮族というような印象を持っていた自分を恥じた。此処は、十分に豊かで発展した、文化的な都市だった。文明のレベルは、産業革命前夜の欧州か、あるいは明治初頭の日本と同程度。
 レヴィ=ストロースを語る気は更々無いが、この地が俺達の知る文明とは別個に発達してきたものと考えれば、恐るべき豊かさだ。街を行き交う人々の足取りとその表情から察するに、恐らく治安のレベルも相当に高い。
 俺は虜囚の身であることも忘れて、この地の風物に目を奪われていた。自由の身ならば、気の向くままにこの地を周遊するのだが。手帳を彼らに没収されてしまったことが悔やまれる。もしも返して貰うことができたなら、今日目にした事物を一つ残らず書き残そう。そんなことを考えていると、行く手に一際大きく華美な建物が目に入った。豪奢な尖塔、立ち並ぶ衛兵、翻る国旗。
 一目で確信した。此処が、この馬車の目的地、この国の城なのだ。
 今更ながら、大変なことになってしまった、と俺は頭を抱えた。マレビトか何か知らないが、俺は一国の要人にお目通りできるような人間ではない。勿論、昔のゲームのようにいきなり玉座に通されるようなことは無いだろうが、彼らの前後の会話から察するに、かなりの高位の人物に対面――もしくは、尋問を受けることになるだろう?
 彼らの会話を思い出す。

『もしも、真にマレビトである可能性があるならば、大老にお越し頂くしかあるまい』

 大老とは一体どんな人物だろうか。狷介な容貌の白髪の老人が脳裏に浮かんだが、一体俺に何を尋ねようというのか。彼らの言葉の一言だって話せはしないのに。
 王城は、想像以上の規模だった。庶民的な建物の並ぶ街中を通ってきたせいで、華美で奢侈なイメージが先行したが、近づいてみれば、尖塔こそ目を惹くものの、稜堡式城郭に囲まれ装飾性よりも砦としての堅牢さを優先した、素朴な拵えの城であった。
 バルベーラの早馬の報告を受け取っていたのだろう。城門には、多くの兵士が集まっていた。
 ボジョレは彼らに入念にこれまでの経緯を報告し、俺は衛兵によって身ぐるみを剥がれて、全身入念な取調べを受けた。
 ほぼ全裸の上に縄を打たれ、白洲に引かれる罪人のような格好で、俺は四方から槍を突きつけられながら、城門をくぐることになった。話から察するに、ボジョレの所属する第三憲兵隊はかなり大きな組織で、俺と遭遇した15人は警邏中のほんの分隊だったようだ。
 人目避けに被せられていた筵が剥がれ、見通しの良い視界で周囲を見回せば、眼前には巨大な城門と、ひるがえる国旗が目に入った。

「は?」

 目が、点になる。此処に迷い込んでから幾度も驚かされてきたが、これ程の驚愕を受けたのは初めてだった。
 翻る国旗は二枚。一枚は、炎と狼を意匠したらしき見たことのない国旗。
 もう一枚は、白地の中央に赤丸を意匠した、シンプルな旗。見紛う筈もない。それは、幾度となく目にした祖国日本の国旗、日の丸であった。
 目がおかしくなったのではないか、と眼をしばたたかせる。
 まあ、日の丸はシンプルな構図だ、別の国が別個に思いつくこともあるだろう。バングラディッシュの国旗も、地の色以外は日の丸にそっくりなのだから。そう、自分を納得させようと試みたが、次なる怪異が俺の自己欺瞞を完膚無きまでに粉砕した。
 城門の開かれた先は、赤い鳥居が――そう、日本の神社にありふれたあの鳥居が、どんと腰を据え、俺を待ち構えていたのだ。
 数多の鳥居が京都の伏見稲荷大社もかくやという如くに立ち並び、城の方向へと続いていた。
 西洋の城砦を連想させるこの場所に、伏見稲荷の如き千本鳥居は不釣合いも甚だしい。
 それは、まるで日本の文化を知らない外国人が、見様見真似で神社を作ろうとしたような――そんな、出来損ないのパロディーの日本だった。

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 いつだってボクはボクが嫌いだった。  弱虫で、意気地なしで、誰かの顔色ばかりうかがって、愛想笑いするしかなかったボクが。  もうモブとして生きるのはやめる。  そう決めた時、ボクはなりたい自分を探す旅に出ることにした。  昔、異世界人によって動画配信が持ち込まれた。  その日からこの国の人々は、どうにかしてあんな動画を共有することが出来ないかと躍起になった。  そして魔法のネットワークを使って、通信網が世界中に広がる。  とはいっても、まだまだその技術は未熟であり、受信機械となるオーブは王族や貴族たちなど金持ちしか持つことは難しかった。  配信を行える者も、一部の金持ちやスポンサーを得た冒険者たちだけ。  中でもストーリー性がある冒険ものが特に人気番組になっていた。  転生者であるボクもコレに参加させられている一人だ。  昭和の時代劇のようなその配信は、一番強いリーダが核となり悪(魔物)を討伐していくというもの。  リーダー、サブリーダーにお色気担当、そしてボクはただうっかりするだけの役立たず役。  本当に、どこかで見たことあるようなパーティーだった。  ストーリー性があるというのは、つまりは台本があるということ。  彼らの命令に従い、うっかりミスを起こし、彼らがボクを颯爽と助ける。  ボクが獣人であり人間よりも身分が低いから、どんなに嫌な台本でも従うしかなかった。  そんな中、事故が起きる。  想定よりもかなり強いモンスターが現れ、焦るパーティー。  圧倒的な敵の前に、パーティーはどうすることも出来ないまま壊滅させられ――

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
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 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
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中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~

古嶺こいし
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散々なクリスマスの夜に突然召喚されて勇者にされてしまった主人公。 しかし前日に買っていたピアスが呪いの装備だったらしく 《呪いで神の祝福を受け取れませんでした》 《呪いが発動して回復魔法が毒攻撃になります》 《この呪いの装備は外れません》 《呪いで魔法が正常に発動できませんでした》 ふざっけんなよ!なんでオレを勇者にしたし!!仲間に悪魔だと勘違いされて殺されかけるし、散々だ。 しかし最近師匠と仲間ができました。ペットもできました。少しずつ異世界が楽しくなってきたので堪能しつつ旅をしようと思います。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

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ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エラーから始まる異世界生活

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45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

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