33 / 34
王子様の愛人として閉じ込められました。
しおりを挟むこれは昔の話。
私の名前はシャルロット。魔法学院でそれなりの成績で卒業することが出来ればゆくゆくは宮廷魔術師になれる可能性だってあると言われて必死に勉強をしていた。
魔法の才能があった私は他の貴族に妬まれたりもしたけど、それでも自分の夢を叶えるために頑張っていた。
そして、無事に卒業したら宮廷魔術師に弟子入りして魔法使いとしての修行を積んで、いずれは師匠のように立派な魔法使いになるんだって思っていた。
私が宮廷魔術師の弟子になって3年が経った頃。必死に働いて無駄遣いをせずに貯めたお金であるものを買いに骨董品店に行った時のことだった。そのお店で見つけたのが魔法の杖だったのだ。
青い水晶が先端に取り付けられた美しい杖を見た瞬間、私の頭の中で雷鳴のような音が鳴り響いたような気がした。まるでこの杖を手に入れることが自分の運命だと言わんばかりに。
あ、値段が上がっている。
暇さえあれば誰かに買われていないか確認をしていたせいなのか、店主がその価値に気がついて値段をあげてしまったのかかは分からないけれど、とにかく今目の前にある魔法の杖は私にとって必要なもの。
だから、絶対に手に入れるために前の値段ぐらいまでの値引き交渉を行ってみた。
「お願いします!どうしてもそれが欲しいんです!」
「……そう言われてもねぇ」
「そこをなんとか!」
何度もお願いしてそれでも無理だと諦めかけたその時、私の後ろから出てきた人が値札に書かれた金額よりも少しだけ多いお金を私と店主の間の机の上に置いた。
横取りされるのかな?と思って顔を上げると、その人は優しい笑みを浮かべながらこう言った。
「これで足りるかい?」
「オ、オスカー王子!?」
突然現れたのはこの国の第一王子。ホワイトブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした整った容姿をしている彼はまさに完璧という言葉に相応しい人物だと言われている。
そんな彼がどうしてここにいるのか分からない。とりあえず私はすぐに頭を下げた。
王子とは学生時代からの付き合いだけど特別仲が良いというわけでもない。たまに王城で会ったら挨拶をする程度の関係だ。
「申し訳ありません!これは私個人の買い物なので……」
「気にしなくていいよ。私が勝手にやったことだからね。それよりも早くその杖を手に入れたいんじゃないかな?」
「えっ?あ、はい……ですが……やっぱり、いただけません」
私はきっぱりと断ったつもりだったんだけど、何故かオスカー様は困ったように苦笑いを浮かべているだけだった。彼からしてみれば安い買い物かもしれないけど、それでもこんな大金をもらうなんてできない。
すると、王子はため息をつくと机の上の金貨を減らした。
「なら、足りない分だけ出そう。それならいいだろう?」
さすがにこれ以上断ることは失礼に当たると思い、結局ありがたく頂戴することにした。
それからしばらくして、私は遂に念願の魔法の杖を買うことが出来た。
「本当にありがとうございました」
「気にしないでくれ。君はいつも頑張っているからね」
頭を下げると、王子は優しく微笑んでくれた。こうして見ると本当にかっこよくて綺麗な人だと思う。
しかし王子は卒業パーティーで男爵令嬢と恋仲になったとかで婚約者と揉め事を起こしたり復縁したと思えばまた新たに恋人を作ったという噂を聞いたことがあった。一体何股しているのか知らないけど、女癖が悪いと噂がある。
まあ、私には関係のないことだ。手に入れた魔法の杖を手に持って嬉しさに浸っていた。これで私も魔法使いとして一歩前進出来ると思ったからだ。それにしてもどうして王子がこんな骨董品店に来たんだろう。
*
これがきっかけで私とオスカー王子の距離は急速に縮まっていった。王城で修行をしていたのもあって顔を合わせる回数が増え、魔法に関しての話題で盛り上がったりもした。ほんの少しだけ好きになってしまいそうになりそうになったけど、それは憧れだと言い聞かせた。
王子には婚約者がいる。近日結婚をすると国中でも有名な話になっていた。魔法にしか興味のなかった私の初恋であり、初めての失恋でもあったから寂しいな。
そんなある日のこと。私は久しぶりにオスカー王子に呼び出されてお茶会に参加していた。なんでも大事な話があるらしい。
そして紅茶を飲みながら会話をしていると彼の口から飛び出したのは予想にもしていない言葉だった。
「貴女が好きなんだ」
「な、何を言っているんですか。オスカー様は結婚なさるんですよね?」
唐突に告白されて頭が混乱する。彼はもうすぐ婚約をして式を挙げる予定なのに一体どういうつもりなんだろうか。
「ああ、だから愛人になってほしい」
愛人という言葉を聞いて納得してしまった。そういえば王子は過去に複数の女性と関係を持っているという話もあったことを思い出した。
しかし、私にとってそれは迷惑以外の何ものでもない。もっと魔法や魔物について勉強をしたいし、王族との面倒な人間関係に巻き込まれたくないし、平凡でもいいから誰かのたった一人の妻になりたかった。だから彼にはっきりと断りを入れた。
「申し訳ございませんがお受けできかねます」
「……残念だよ」
オスカー王子は残念そうな表情を浮かべていた。しかし、すぐにその顔がぼやけて、急激な眠気に襲われて視界が真っ暗になった。
*
次に目を覚ました時。私は見知らぬ部屋にいて、ベッドの上に横たわっていた。
ここはどこだろうと思っていると部屋の扉が開かれ、中から見覚えのある人物が姿を現した。
ホワイトブロンドの髪を肩まで伸ばしており、アイスブルーの瞳をしている。
誰なのかはすぐにわかった。
「オスカー様……」
「おはよう、シャルロット」
何故ここにいるのか。そもそもこの部屋は何なのか。聞きたいことは山ほどある。
だけど口を開く前に彼は妖艶な笑みを浮かべながらこう言った。
「貴女には私の子供を産んでもらう」
愛人になってほしいといった口で今度は子供を産めと初恋の王子様の言葉に私は思わず絶句した。
*
屋敷に監禁をされて毎日、毎日、オスカー様は私を犯して精を吐き出し続けた。機嫌を取る為に愛していると言ってキスをしたり身体を優しく触ったり、まるで恋人のような扱いも受けたせいで舌を噛んで死ぬような自殺も出来ずにただただ時間だけが過ぎていった。
例外は月の物が来た時と、彼の結婚式の為に数日家を空けるときだけ。それ以外はずっと犯され続けていた。
ここの使用人は私に優しくしてはくれるけど、雇い主であるオスカー王子の機嫌を損なうことを言えば容赦なく厳しいお仕置きを受ける。だから誰も助けてくれない。
魔法を使って脱走や抵抗をしなかったのは私以上に彼の氷魔法が強力で下手な魔法を使うと返り討ちに遭う可能性があったから。それに私なんかが王族に逆らったら家族や師匠にまで被害が及ぶかもしれない。そう思ったら怖くなって逃げることが出来なかった。
そんな日々が続き、数年掛けてようやく私は子供を身籠った。
オスカー様との間に出来た子供はホワイトブロンドの髪にアイスブルーの瞳、私がお腹を痛めて産んだのに顔立ちは王子様にそっくりだった。
「ありがとう。名前は貴女が決めてくれ」
「……私がですか?」
「ああ。せめて名前を付ける権利は君にあげたい」
オスカー様はそう言って優しく微笑んでくれたけど、なんだか寂しそうでもあった。
お腹を痛めて産んだ我が子に対して愛情は持てないと思っていたのに不思議と愛おしいという気持ちがあった。私はその女の子に『シエル』と名付けた。
「オスカー様……私、ねむいです……」
疲れた。体力と魔力をたくさん失われていく感じがする。
ごめんねシエル、起きたらたくさんお話ししてあげるから少し眠らせて。
「シャルロット」
オスカー様の声だ。
「ありがとう」
今までで一番感情的で優しい声色だった。
44
お気に入りに追加
932
あなたにおすすめの小説

禁断の関係かもしれないが、それが?
しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。
公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。
そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。
カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。
しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。
兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる