【完結】忌み姫と氷の魔法使いの白くない結婚

白滝春菊

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王子様の愛人として閉じ込められました。

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 これは昔の話。

 私の名前はシャルロット。魔法学院でそれなりの成績で卒業することが出来ればゆくゆくは宮廷魔術師になれる可能性だってあると言われて必死に勉強をしていた。
 魔法の才能があった私は他の貴族に妬まれたりもしたけど、それでも自分の夢を叶えるために頑張っていた。
 そして、無事に卒業したら宮廷魔術師に弟子入りして魔法使いとしての修行を積んで、いずれは師匠のように立派な魔法使いになるんだって思っていた。

 私が宮廷魔術師の弟子になって3年が経った頃。必死に働いて無駄遣いをせずに貯めたお金であるものを買いに骨董品店に行った時のことだった。そのお店で見つけたのが魔法の杖だったのだ。

 青い水晶が先端に取り付けられた美しい杖を見た瞬間、私の頭の中で雷鳴のような音が鳴り響いたような気がした。まるでこの杖を手に入れることが自分の運命だと言わんばかりに。

 あ、値段が上がっている。

 暇さえあれば誰かに買われていないか確認をしていたせいなのか、店主がその価値に気がついて値段をあげてしまったのかかは分からないけれど、とにかく今目の前にある魔法の杖は私にとって必要なもの。
 だから、絶対に手に入れるために前の値段ぐらいまでの値引き交渉を行ってみた。

「お願いします!どうしてもそれが欲しいんです!」
「……そう言われてもねぇ」
「そこをなんとか!」

 何度もお願いしてそれでも無理だと諦めかけたその時、私の後ろから出てきた人が値札に書かれた金額よりも少しだけ多いお金を私と店主の間の机の上に置いた。
 横取りされるのかな?と思って顔を上げると、その人は優しい笑みを浮かべながらこう言った。

「これで足りるかい?」
「オ、オスカー王子!?」

 突然現れたのはこの国の第一王子。ホワイトブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした整った容姿をしている彼はまさに完璧という言葉に相応しい人物だと言われている。
 そんな彼がどうしてここにいるのか分からない。とりあえず私はすぐに頭を下げた。

 王子とは学生時代からの付き合いだけど特別仲が良いというわけでもない。たまに王城で会ったら挨拶をする程度の関係だ。

「申し訳ありません!これは私個人の買い物なので……」
「気にしなくていいよ。私が勝手にやったことだからね。それよりも早くその杖を手に入れたいんじゃないかな?」
「えっ?あ、はい……ですが……やっぱり、いただけません」

 私はきっぱりと断ったつもりだったんだけど、何故かオスカー様は困ったように苦笑いを浮かべているだけだった。彼からしてみれば安い買い物かもしれないけど、それでもこんな大金をもらうなんてできない。
 すると、王子はため息をつくと机の上の金貨を減らした。

「なら、足りない分だけ出そう。それならいいだろう?」

 さすがにこれ以上断ることは失礼に当たると思い、結局ありがたく頂戴することにした。
 それからしばらくして、私は遂に念願の魔法の杖を買うことが出来た。

「本当にありがとうございました」
「気にしないでくれ。君はいつも頑張っているからね」

 頭を下げると、王子は優しく微笑んでくれた。こうして見ると本当にかっこよくて綺麗な人だと思う。
 しかし王子は卒業パーティーで男爵令嬢と恋仲になったとかで婚約者と揉め事を起こしたり復縁したと思えばまた新たに恋人を作ったという噂を聞いたことがあった。一体何股しているのか知らないけど、女癖が悪いと噂がある。

 まあ、私には関係のないことだ。手に入れた魔法の杖を手に持って嬉しさに浸っていた。これで私も魔法使いとして一歩前進出来ると思ったからだ。それにしてもどうして王子がこんな骨董品店に来たんだろう。

 *

 これがきっかけで私とオスカー王子の距離は急速に縮まっていった。王城で修行をしていたのもあって顔を合わせる回数が増え、魔法に関しての話題で盛り上がったりもした。ほんの少しだけ好きになってしまいそうになりそうになったけど、それは憧れだと言い聞かせた。
 王子には婚約者がいる。近日結婚をすると国中でも有名な話になっていた。魔法にしか興味のなかった私の初恋であり、初めての失恋でもあったから寂しいな。

 そんなある日のこと。私は久しぶりにオスカー王子に呼び出されてお茶会に参加していた。なんでも大事な話があるらしい。
 そして紅茶を飲みながら会話をしていると彼の口から飛び出したのは予想にもしていない言葉だった。

「貴女が好きなんだ」
「な、何を言っているんですか。オスカー様は結婚なさるんですよね?」

 唐突に告白されて頭が混乱する。彼はもうすぐ婚約をして式を挙げる予定なのに一体どういうつもりなんだろうか。

「ああ、だから愛人になってほしい」

 愛人という言葉を聞いて納得してしまった。そういえば王子は過去に複数の女性と関係を持っているという話もあったことを思い出した。
 しかし、私にとってそれは迷惑以外の何ものでもない。もっと魔法や魔物について勉強をしたいし、王族との面倒な人間関係に巻き込まれたくないし、平凡でもいいから誰かのたった一人の妻になりたかった。だから彼にはっきりと断りを入れた。

「申し訳ございませんがお受けできかねます」
「……残念だよ」

 オスカー王子は残念そうな表情を浮かべていた。しかし、すぐにその顔がぼやけて、急激な眠気に襲われて視界が真っ暗になった。

 *

 次に目を覚ました時。私は見知らぬ部屋にいて、ベッドの上に横たわっていた。
 ここはどこだろうと思っていると部屋の扉が開かれ、中から見覚えのある人物が姿を現した。
 ホワイトブロンドの髪を肩まで伸ばしており、アイスブルーの瞳をしている。
 誰なのかはすぐにわかった。

「オスカー様……」
「おはよう、シャルロット」

 何故ここにいるのか。そもそもこの部屋は何なのか。聞きたいことは山ほどある。
 だけど口を開く前に彼は妖艶な笑みを浮かべながらこう言った。

「貴女には私の子供を産んでもらう」

 愛人になってほしいといった口で今度は子供を産めと初恋の王子様の言葉に私は思わず絶句した。

 *

 屋敷に監禁をされて毎日、毎日、オスカー様は私を犯して精を吐き出し続けた。機嫌を取る為に愛していると言ってキスをしたり身体を優しく触ったり、まるで恋人のような扱いも受けたせいで舌を噛んで死ぬような自殺も出来ずにただただ時間だけが過ぎていった。
 
 例外は月の物が来た時と、彼の結婚式の為に数日家を空けるときだけ。それ以外はずっと犯され続けていた。
 ここの使用人は私に優しくしてはくれるけど、雇い主であるオスカー王子の機嫌を損なうことを言えば容赦なく厳しいお仕置きを受ける。だから誰も助けてくれない。

 魔法を使って脱走や抵抗をしなかったのは私以上に彼の氷魔法が強力で下手な魔法を使うと返り討ちに遭う可能性があったから。それに私なんかが王族に逆らったら家族や師匠にまで被害が及ぶかもしれない。そう思ったら怖くなって逃げることが出来なかった。

 そんな日々が続き、数年掛けてようやく私は子供を身籠った。
 オスカー様との間に出来た子供はホワイトブロンドの髪にアイスブルーの瞳、私がお腹を痛めて産んだのに顔立ちは王子様にそっくりだった。

「ありがとう。名前は貴女が決めてくれ」
「……私がですか?」
「ああ。せめて名前を付ける権利は君にあげたい」

 オスカー様はそう言って優しく微笑んでくれたけど、なんだか寂しそうでもあった。
 お腹を痛めて産んだ我が子に対して愛情は持てないと思っていたのに不思議と愛おしいという気持ちがあった。私はその女の子に『シエル』と名付けた。

「オスカー様……私、ねむいです……」

 疲れた。体力と魔力をたくさん失われていく感じがする。
 ごめんねシエル、起きたらたくさんお話ししてあげるから少し眠らせて。

「シャルロット」

 オスカー様の声だ。

「ありがとう」

 今までで一番感情的で優しい声色だった。

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