【完結】忌み姫と氷の魔法使いの白くない結婚

白滝春菊

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後始末

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 グラッセは移動用のフェンリルを作り出して素早くアイスドラゴンの住処へと辿り着き、アイスドラゴンを凍らせて一時的に動きを封じることに成功をした。

「流石です!グラッセ様!」

 一年ぶりに会ったグラッセの部下達は尊敬の眼差しで彼を見る。彼らの危機的状況に駆けつけたグラッセが相性最悪のアイスドラゴンに氷魔法で対抗し、全魔力を使ってアイスドラゴンを氷漬けにすることに成功した。

 アイスドラゴンは希少な魔物なので討伐は禁止されており、この場で殺してしまうと罪になってしまう。しかし、このまま放置しておけば誰かが襲われてしまうので氷魔法で動けないようにしたのだ。

「アイスドラゴンの前に詫びの食料を置いておけ、氷が解けた時に腹が減っていれば勝手に食うだろう」

 グラッセは魔力がほとんど残っておらず、立っているのもやっとの状態だ。部下達の手前で倒れこむわけにもいかずになんとか耐えている。魔力回復薬を飲んだとしても全快には程遠い。

「後は怪我をした殿下を城に……」
「大変です!!!」

 重症のシグリッドを連れて城に帰ろうとしたその時、一人の騎士が慌てて駆け寄ってくる。グラッセは嫌な予感がして、胸騒ぎを覚えた。そして、その悪い予感は当たってしまう。

「シグリッド様の炎魔法が原因で雪崩が!このままでは城下町にまで被害が及ぶかもしれません!」
「何だと!?」

 グラッセは急いで騎士の案内の元、現場へと向かう。そこには巨大な雪の塊が転がっており、それが斜面を滑り落ちていくのが見えた。

「次から次へと問題ばかり起こしおって!!!」

 グラッセは怒りを爆発させながらフェンリルに乗って一気に下山する。
 山の下方に着くと手持ちの魔力回復薬一気に飲み干し、目の前にアイスゴーレムを作り出した。
 彼は更に氷魔法で氷の壁を作るが強度や大きさが足りない。先ほど、アイスドラゴンを凍らせた時にほとんどの魔力を使い切ってしまったのだ。
 それでもグラッセは諦めず、新たな魔力回復薬を補充する為に騎士を呼ぼうとした時だった。

「スノウ?」

 視界の端に白い生き物を見つけると、グラッセの肩目掛けて毛深くなったスノウがピョンっと飛び乗ってきた。スノウはグラッセに擦り寄るように身体をくっつける。
 スノウはシエルから貰った魔力をグラッセに分け与えてくれた。おかげで魔力が回復したグラッセは再び氷の壁を作り出す。
 すると今度は壁がどんどん厚みを増して巨大化をして、アイスゴーレムは壁が倒れないように支えると雪崩を完全に抑え込むことに成功した。その光景を見た騎士達は唖然としていたが、やがて歓喜の声を上げる。

「……はあ……」

 グラッセは安堵するとその場に胡坐で座り込み、スノウを撫でた。毛並みはいつも通りに戻っており、グラッセの膝の上に飛び降りると丸くなる。

「シエルが守ってくれたのか」

 スノウのおかげもあり、町への被害は最小限に抑えることができた。グラッセはシエルに感謝をしながら目の前の氷の壁を見つめる。そして手に持っていた彼女から譲り受けた魔法の杖も。
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