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妻が不在の舞踏会
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それから数日が経ち、とうとう仮面舞踏会当日となった。
夜になると城の広間には煌びやかな衣装を身に纏った仮面を付けた貴族達が集まり、楽しげに談笑をしている。
仮面をつけた参加者達は誰が誰なのかわからない状態なので王女が参加されていることに誰も気がついていない。
そんな会場で一際目立つ存在がいた。銀色の髪に背の高い、黒い燕尾服に身を包んだ美青年は仮面で目元を隠しているのに何故か目を引く魅力があり、会場にいるどの男性よりも目立っている。
そんな彼に声をかける女性は後を絶たず、グラッセはその度に断り続けていた。
一方でそんな彼の人気に萎縮するフローラはグラッセの腕にしがみつきながらも必死についていこうとしている。ダンスを踊るどころかまともに歩くことすらままならない様子でグラッセは内心呆れた。
だが、ここでフローラを置いていくわけにもいかない。彼女をエスコートをしなければ王命を果たせなかったことになるからだ。
(ドレスが似合わないな)
腕を組んでいる彼女を見て正直な感想を心の中で述べる。確かに顔立ちは整っているし、スタイルも良い方だろう。だが薔薇のような赤毛の髪を結い上げ、肩を露出させた青いドレスを着た姿に違和感を覚えた。
(シエルが着た方が似合うかもしれないな)
そう思いつつも口に出すことはなく、屋敷で待つ妻のことを想う。
シエルがよく着ている青と白を基調にしたドレスは姉が着古したものをそのまま譲り受けたものなのに何故かシエルによく似合っていて、綺麗だった。
逆にフローラなら赤や黒のドレスの方がよく映えるだろうと考える。
「ここ最近、天気が悪いですな」
「その前まではあんなに晴れていたのに」
ふと、グラッセが視線をそらすと年老いた貴族の男性が二人、悪天候な窓の外を見ながら話していた。
「噂では氷の精霊の加護を持つ姫様が結婚したとか……」
「ああ、あの忌み姫で噂の……だから」
(この天気がシエルと関係があるのか?)
二人の会話を聞いて、グラッセはフローラが他の貴族と会話をしている瞬間を見計らい、抜け出すと彼らの会話に加わった。彼女にはゼブラ達が付いているので大丈夫だろう。
「失礼、少しお話を聞かせていただきたいのですが」
突然話しかけられた老人二人は戸惑いを見せるもすぐに冷静さを取り戻すと声をかけてきた男の顔を見る。黒を基調とした燕尾服を着た銀髪の男はどこか底知れぬ何かを感じさせる。
「あなたは?」
「私は……そうだな……通りすがりの魔法使いとでも言っておきましょうか」
「ほう、それならば是非、私達の話し相手になっていただけませんかな?どうせ退屈していたところですからね」
「喜んで」
そう言うなりグラッセはフローラに見つからないよう、死角になりそうな場所に立つと彼らに話を聞いた。
「忌み姫とは一体どのような存在ですか?今、天気がどうとか聞こえましたが」
その質問に彼らは互いに顔を合わせると苦笑いを浮かべ、一人の男が答えてくれた。
「若い人にはあまり伝わってないかもしれんが、昔は氷の精霊の加護を持つ者の気分によって天候が変化すると言われていたのだよ」
「氷の精霊が主の感情や魔力に影響されて気温が変わると?」
「そういうことだ」
「つまり、今は主である忌み姫様の機嫌がよろしくない?」
そう尋ねると老人達は気まずそうに顔をしかめた。
「ええ……まあ……」
「なるほど」
グラッセは大体の事情を理解すると考え込む。確かにフローレシア王国の天候は曇りが多かったが、ここ一年間は奇跡的に晴天続きだった。
思い返すと天気が悪い時はシエルが珍しく怒ったり不機嫌になったりしていたことを思い出す。
そんな重要なことはシエルからも国王からも何も聞かされていない。シエルが知らなくても前に氷の精霊の加護を受けていた国王なら知っていたはずなのだ。
(何かを隠している?)
その理由はわからないがグラッセはシエルが心配になった。もし彼女が落ち込んでいるならすぐに帰って慰めなければと。
「グラッセ様!」
ちょうどその時、フローラが駆け寄ってきた。グラッセがいなくなったことに気がついて慌てて探していたらしい彼女はグラッセを見つけるとその腕にしがみつく。
「どうかされましたか?」
「い、いえ、グラッセ様のお姿が見えなかったので……」
そう答えると彼女はほっとした表情を見せたがグラッセの頭の中はシエルのことばかり考えていた。
「……申し訳ございません。そろそろ……」
グラッセが断りの言葉を口にしようとするとゼブラが後ろからやってきた。
「グラッセ様、フローラ様がお疲れのようですので休憩室までご同行願えないでしょうか」
「いや、それは……」
グラッセが拒否をしようとするとゼブラは小声で耳打ちをする。
「フローラ様はグラッセ様に見捨てられたと思い込んでいます。このままだとフローラ様は陛下に泣きつき……貴方に不利になる状況を作る可能性がありますよ」
「……わかった」
ゼブラの言葉は脅しではないと悟ったグラッセは素直に従うことにした。その様子を見たフローラは安心したように彼に微笑む。その笑顔を見た瞬間、グラッセは何故か焦りと苛立ちを感じた。
*
その頃、シエルはグラッセがいない屋敷で一人ソファに座って本を読んでいるところだった。ざわつく気持ちを抑えながらページを捲ると足元で大人しく座っていたウサギのスノウの様子が変わったことに気づく。
「どうしたの?」
シエルは本をテーブルに置くとスノウを抱き上げる。すると雪が崩れるかのように体が解けていくのを見て氷の魔法を使ってその進行を止め、元の形に戻した。
「旦那様……」
シエルはスノウを抱きかかえたまま、夫の身を案じた。
人口精霊は作り主の意識が途切れたり死んだりしたら消滅する。ということは、グラッセに何かが起こっている可能性が高いということだ。
一体何があったのか。嫌な予感がしてならない。
夜になると城の広間には煌びやかな衣装を身に纏った仮面を付けた貴族達が集まり、楽しげに談笑をしている。
仮面をつけた参加者達は誰が誰なのかわからない状態なので王女が参加されていることに誰も気がついていない。
そんな会場で一際目立つ存在がいた。銀色の髪に背の高い、黒い燕尾服に身を包んだ美青年は仮面で目元を隠しているのに何故か目を引く魅力があり、会場にいるどの男性よりも目立っている。
そんな彼に声をかける女性は後を絶たず、グラッセはその度に断り続けていた。
一方でそんな彼の人気に萎縮するフローラはグラッセの腕にしがみつきながらも必死についていこうとしている。ダンスを踊るどころかまともに歩くことすらままならない様子でグラッセは内心呆れた。
だが、ここでフローラを置いていくわけにもいかない。彼女をエスコートをしなければ王命を果たせなかったことになるからだ。
(ドレスが似合わないな)
腕を組んでいる彼女を見て正直な感想を心の中で述べる。確かに顔立ちは整っているし、スタイルも良い方だろう。だが薔薇のような赤毛の髪を結い上げ、肩を露出させた青いドレスを着た姿に違和感を覚えた。
(シエルが着た方が似合うかもしれないな)
そう思いつつも口に出すことはなく、屋敷で待つ妻のことを想う。
シエルがよく着ている青と白を基調にしたドレスは姉が着古したものをそのまま譲り受けたものなのに何故かシエルによく似合っていて、綺麗だった。
逆にフローラなら赤や黒のドレスの方がよく映えるだろうと考える。
「ここ最近、天気が悪いですな」
「その前まではあんなに晴れていたのに」
ふと、グラッセが視線をそらすと年老いた貴族の男性が二人、悪天候な窓の外を見ながら話していた。
「噂では氷の精霊の加護を持つ姫様が結婚したとか……」
「ああ、あの忌み姫で噂の……だから」
(この天気がシエルと関係があるのか?)
二人の会話を聞いて、グラッセはフローラが他の貴族と会話をしている瞬間を見計らい、抜け出すと彼らの会話に加わった。彼女にはゼブラ達が付いているので大丈夫だろう。
「失礼、少しお話を聞かせていただきたいのですが」
突然話しかけられた老人二人は戸惑いを見せるもすぐに冷静さを取り戻すと声をかけてきた男の顔を見る。黒を基調とした燕尾服を着た銀髪の男はどこか底知れぬ何かを感じさせる。
「あなたは?」
「私は……そうだな……通りすがりの魔法使いとでも言っておきましょうか」
「ほう、それならば是非、私達の話し相手になっていただけませんかな?どうせ退屈していたところですからね」
「喜んで」
そう言うなりグラッセはフローラに見つからないよう、死角になりそうな場所に立つと彼らに話を聞いた。
「忌み姫とは一体どのような存在ですか?今、天気がどうとか聞こえましたが」
その質問に彼らは互いに顔を合わせると苦笑いを浮かべ、一人の男が答えてくれた。
「若い人にはあまり伝わってないかもしれんが、昔は氷の精霊の加護を持つ者の気分によって天候が変化すると言われていたのだよ」
「氷の精霊が主の感情や魔力に影響されて気温が変わると?」
「そういうことだ」
「つまり、今は主である忌み姫様の機嫌がよろしくない?」
そう尋ねると老人達は気まずそうに顔をしかめた。
「ええ……まあ……」
「なるほど」
グラッセは大体の事情を理解すると考え込む。確かにフローレシア王国の天候は曇りが多かったが、ここ一年間は奇跡的に晴天続きだった。
思い返すと天気が悪い時はシエルが珍しく怒ったり不機嫌になったりしていたことを思い出す。
そんな重要なことはシエルからも国王からも何も聞かされていない。シエルが知らなくても前に氷の精霊の加護を受けていた国王なら知っていたはずなのだ。
(何かを隠している?)
その理由はわからないがグラッセはシエルが心配になった。もし彼女が落ち込んでいるならすぐに帰って慰めなければと。
「グラッセ様!」
ちょうどその時、フローラが駆け寄ってきた。グラッセがいなくなったことに気がついて慌てて探していたらしい彼女はグラッセを見つけるとその腕にしがみつく。
「どうかされましたか?」
「い、いえ、グラッセ様のお姿が見えなかったので……」
そう答えると彼女はほっとした表情を見せたがグラッセの頭の中はシエルのことばかり考えていた。
「……申し訳ございません。そろそろ……」
グラッセが断りの言葉を口にしようとするとゼブラが後ろからやってきた。
「グラッセ様、フローラ様がお疲れのようですので休憩室までご同行願えないでしょうか」
「いや、それは……」
グラッセが拒否をしようとするとゼブラは小声で耳打ちをする。
「フローラ様はグラッセ様に見捨てられたと思い込んでいます。このままだとフローラ様は陛下に泣きつき……貴方に不利になる状況を作る可能性がありますよ」
「……わかった」
ゼブラの言葉は脅しではないと悟ったグラッセは素直に従うことにした。その様子を見たフローラは安心したように彼に微笑む。その笑顔を見た瞬間、グラッセは何故か焦りと苛立ちを感じた。
*
その頃、シエルはグラッセがいない屋敷で一人ソファに座って本を読んでいるところだった。ざわつく気持ちを抑えながらページを捲ると足元で大人しく座っていたウサギのスノウの様子が変わったことに気づく。
「どうしたの?」
シエルは本をテーブルに置くとスノウを抱き上げる。すると雪が崩れるかのように体が解けていくのを見て氷の魔法を使ってその進行を止め、元の形に戻した。
「旦那様……」
シエルはスノウを抱きかかえたまま、夫の身を案じた。
人口精霊は作り主の意識が途切れたり死んだりしたら消滅する。ということは、グラッセに何かが起こっている可能性が高いということだ。
一体何があったのか。嫌な予感がしてならない。
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