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忌み姫の結婚
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成人の儀を迎えると同時にシエルは結婚をすることになった。
長く柔らかいホワイトブロンドの髪に雪のように白い肌、瞳の色はアイスブルーである彼女の容姿はとても美しく整っており、まだ幼さが残る愛らしさも持っていたのだが……残念なことに彼女は家族には愛されることなく育ったのだ。
シエルは今の国王が愛人との間に作った子供だった。
王妃達からは忌み嫌われた存在。実の父からも愛情らしいものは受けていない。
愛人だった母の顔も知らずに育ち、その母は彼女が幼い時に亡くなってしまったと聞かされている。
そんな彼女が捨てられずに姫として育てられているのには理由がある。
氷の精霊の加護を受け継いでしまったからだ。
精霊の加護は生まれた時に親から受け継がれるもの、前の加護の持ち主はシエルの父親である国王、オスカー・フローレシア。
愛人が産んだ娘が加護を受け継いでしまったので捨てるわけにもいかずに育てていたに過ぎないのだ。それでも彼女にしてみれば立派な父親、何不自由なく育てられたことに違いはないはずだ。例え、愛されなくても。
そしてここ、フローレシア王国のずっと雪が降り続ける国の姫として生を受けた彼女は生まれてから一度も暖かい家族を知らないでいた。
今日は花嫁として何年かぶりに屋敷から外に出る日。結婚式という晴れの舞台で行われる婚礼の儀式のために外に出ることが許されたのである。
白いウエディングドレスに身を包み、ベールを被った姿は神秘的だ。まるで天使のような美しさを持つ彼女の姿を拝見できるのは神父と使用人と護衛の騎士達……そして、花婿だけである。
姫の結婚式なのに参列者は彼らだけだ。
結婚相手となるのは公爵家の子息であり魔法騎士でもある男。年齢は24歳で6歳も年上だそうだ。
彼はこの国でも有名な騎士団に所属している人物で若くして数々の武勲をあげて昇格をした評判の男であるが、シエルはその男のことは何も知らない。
何故なら今まで会って話をしたこともない赤の他人だったから。
教会の祭壇の前でようやく花婿との対面を果たすことになる。事前に顔合わせはさせて貰えなかったので不安しかなかった。
夫になる男がどんな人なのか知らないまま過ごす時間はとても長く辛いものであった。
(私の旦那様になる人)
この白いベールを捲り上げた先にある未来の夫を想像するだけで胸が高まる。
父からは「夫の浮気は許すように」と伝えられてきたが、出来る事なら自分だけを見てくれるような人だと嬉しい。優しくて頼りがいのある素敵な方であればと期待を膨らませるばかりだった。
「グラッセ・ラッセル、あなたはこの女性を妻とし生涯変わらぬ愛を貫くことを誓いますか?」
「はい」
静かな教会の中に響く花婿の声は低く、耳に心地よい響きを持っているように聞こえた。
「シエル・フローレシア、貴方もこの男性を愛し支えることを誓いますね?」
「はい」
花嫁は透き通る様な美しい声で誓いの言葉を述べる。
「誓いの口づけを交わしなさい」
神父の厳かな声を聞きながらゆっくりと近づいてくる足音を待つ。コツンと響く靴の音を聞く度に心臓が激しく脈打つような感覚を覚えた。ドクンドクンっと全身を巡る血流の流れすら聞こえる気がしてくるほど緊張しているようだ。
ベールに手がかけられそっとうなじの方へと押し退けられる。目の前に現れた男の姿を見た瞬間にシエルは息をすることすら忘れてしまうほどの衝撃を受けることになった。
青みかかった銀色の髪を短く切り揃えており、それは本で見た狼のような男、グラッセ・ラッセルは背が高くスラリとした体型をしていた。
鼻筋が通っている精巧に作られた人形のように整った顔をしており美形という言葉以外に当て嵌まる言葉がない。しかしエメラルドグリーンの瞳はどこか冷たく感じられるものだった。
彼は何も言わずただじっと見つめてくるだけなので居心地が悪く感じてしまい思わず目を逸らしてしまうが肩を掴まれ正面に向かされた上に顎を持ち上げられ視線を合わせるようにされてしまった。
間近に迫る男の冷たい眼差しに見据えられて体が強張る。
そして背の高い彼がシエルの身長に合わせて身を屈めるとその唇を重ねてきた。生まれて初めてのキスは触れるだけの軽いもの。
長いようで短い誓いのキスの時間は終わりを告げる。離れた彼の端正な顔を見上げれば少し照れ臭そうにしている表情が垣間見えたがすぐにその表情は消え失せてしまった。
次に用意された指輪の交換をして再び向き合う二人に今度は神父が問いかける。
「それでは最後に儀式を行い、夫婦となるのです」
その言葉にシエルとグラッセは顔を見合わせると気まずげにする様子を見せたのだが、それも一瞬のことで再び目線を合わせて互いに手を取り合い、そのまま二人は奥の部屋へと向かった。
そこで行われる行為が何であるかを知らないわけではないのだが、いざその時になると恥ずかしさが込み上げて来る。
この国の王族は結婚の儀の際に性行為を神に見てもらいながらすることを義務付けられているのだ。それは次世代を確実に残し、白い結婚をしないためのもの。
それは昔からの風習で6つ年上のシエルの姉である現王女はその儀式で授かったと噂されている。
奥の部屋に入るとそこは真っ白い壁と天井で部屋の中央には真っ白い寝台があった。
長く柔らかいホワイトブロンドの髪に雪のように白い肌、瞳の色はアイスブルーである彼女の容姿はとても美しく整っており、まだ幼さが残る愛らしさも持っていたのだが……残念なことに彼女は家族には愛されることなく育ったのだ。
シエルは今の国王が愛人との間に作った子供だった。
王妃達からは忌み嫌われた存在。実の父からも愛情らしいものは受けていない。
愛人だった母の顔も知らずに育ち、その母は彼女が幼い時に亡くなってしまったと聞かされている。
そんな彼女が捨てられずに姫として育てられているのには理由がある。
氷の精霊の加護を受け継いでしまったからだ。
精霊の加護は生まれた時に親から受け継がれるもの、前の加護の持ち主はシエルの父親である国王、オスカー・フローレシア。
愛人が産んだ娘が加護を受け継いでしまったので捨てるわけにもいかずに育てていたに過ぎないのだ。それでも彼女にしてみれば立派な父親、何不自由なく育てられたことに違いはないはずだ。例え、愛されなくても。
そしてここ、フローレシア王国のずっと雪が降り続ける国の姫として生を受けた彼女は生まれてから一度も暖かい家族を知らないでいた。
今日は花嫁として何年かぶりに屋敷から外に出る日。結婚式という晴れの舞台で行われる婚礼の儀式のために外に出ることが許されたのである。
白いウエディングドレスに身を包み、ベールを被った姿は神秘的だ。まるで天使のような美しさを持つ彼女の姿を拝見できるのは神父と使用人と護衛の騎士達……そして、花婿だけである。
姫の結婚式なのに参列者は彼らだけだ。
結婚相手となるのは公爵家の子息であり魔法騎士でもある男。年齢は24歳で6歳も年上だそうだ。
彼はこの国でも有名な騎士団に所属している人物で若くして数々の武勲をあげて昇格をした評判の男であるが、シエルはその男のことは何も知らない。
何故なら今まで会って話をしたこともない赤の他人だったから。
教会の祭壇の前でようやく花婿との対面を果たすことになる。事前に顔合わせはさせて貰えなかったので不安しかなかった。
夫になる男がどんな人なのか知らないまま過ごす時間はとても長く辛いものであった。
(私の旦那様になる人)
この白いベールを捲り上げた先にある未来の夫を想像するだけで胸が高まる。
父からは「夫の浮気は許すように」と伝えられてきたが、出来る事なら自分だけを見てくれるような人だと嬉しい。優しくて頼りがいのある素敵な方であればと期待を膨らませるばかりだった。
「グラッセ・ラッセル、あなたはこの女性を妻とし生涯変わらぬ愛を貫くことを誓いますか?」
「はい」
静かな教会の中に響く花婿の声は低く、耳に心地よい響きを持っているように聞こえた。
「シエル・フローレシア、貴方もこの男性を愛し支えることを誓いますね?」
「はい」
花嫁は透き通る様な美しい声で誓いの言葉を述べる。
「誓いの口づけを交わしなさい」
神父の厳かな声を聞きながらゆっくりと近づいてくる足音を待つ。コツンと響く靴の音を聞く度に心臓が激しく脈打つような感覚を覚えた。ドクンドクンっと全身を巡る血流の流れすら聞こえる気がしてくるほど緊張しているようだ。
ベールに手がかけられそっとうなじの方へと押し退けられる。目の前に現れた男の姿を見た瞬間にシエルは息をすることすら忘れてしまうほどの衝撃を受けることになった。
青みかかった銀色の髪を短く切り揃えており、それは本で見た狼のような男、グラッセ・ラッセルは背が高くスラリとした体型をしていた。
鼻筋が通っている精巧に作られた人形のように整った顔をしており美形という言葉以外に当て嵌まる言葉がない。しかしエメラルドグリーンの瞳はどこか冷たく感じられるものだった。
彼は何も言わずただじっと見つめてくるだけなので居心地が悪く感じてしまい思わず目を逸らしてしまうが肩を掴まれ正面に向かされた上に顎を持ち上げられ視線を合わせるようにされてしまった。
間近に迫る男の冷たい眼差しに見据えられて体が強張る。
そして背の高い彼がシエルの身長に合わせて身を屈めるとその唇を重ねてきた。生まれて初めてのキスは触れるだけの軽いもの。
長いようで短い誓いのキスの時間は終わりを告げる。離れた彼の端正な顔を見上げれば少し照れ臭そうにしている表情が垣間見えたがすぐにその表情は消え失せてしまった。
次に用意された指輪の交換をして再び向き合う二人に今度は神父が問いかける。
「それでは最後に儀式を行い、夫婦となるのです」
その言葉にシエルとグラッセは顔を見合わせると気まずげにする様子を見せたのだが、それも一瞬のことで再び目線を合わせて互いに手を取り合い、そのまま二人は奥の部屋へと向かった。
そこで行われる行為が何であるかを知らないわけではないのだが、いざその時になると恥ずかしさが込み上げて来る。
この国の王族は結婚の儀の際に性行為を神に見てもらいながらすることを義務付けられているのだ。それは次世代を確実に残し、白い結婚をしないためのもの。
それは昔からの風習で6つ年上のシエルの姉である現王女はその儀式で授かったと噂されている。
奥の部屋に入るとそこは真っ白い壁と天井で部屋の中央には真っ白い寝台があった。
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