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見世物小屋
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その後の日々は特に変わり映えのしないものだった。マーシャル邸からレーゲンブルク邸に帰る途中、ヴィクトル様が再び体調を崩されたことが少し気にかかるものの日常は淡々と過ぎていった。
私は相変わらず部屋に閉じ込められ、勉強の合間に実家から持参した本に目を通しながら時間を無駄にすることなく過ごしていた。
それが唯一、私を慰めるひとときだった。
ふと、ヴィクトル様が控えめな女性を好むのか、あるいは積極的な女性に対して反感を抱いているのか気になった。
ミーティアお姉様はどうだったのだろうと思い返してみても姉としての顔しか知らない私はその答えを見出すことができなかったな。
本を読んで現実から逃避しつつ、そんな想像に浸りながら本を読みふけっていたその時、突然ドアをノックする音が響き渡る。
「は……はいっ」
驚いて返事をするとドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえて「俺だ」と言いながらヴィクトル様が部屋に足を踏み入れた。
いつもなら勝手に入ってくることが多いヴィクトル様が今日は珍しくノックをしてから入ってきたことに私は少し驚く。そして何気なく読んでいた本を手早く別の本の間に挟んで隠した。
「どうかしましたか?」
ヴィクトル様が私の部屋に来ること自体が滅多にないことで私は少し動揺していた。何をして良いか分からず要件を待っているとヴィクトル様が無表情のまま口を開く。
「出掛けるぞ」
「いつですか?」
「今だ」
「今……どこへ?」
「…………」
状況が全く読めなくて頭の中で疑問符が飛び回っている。
どうしていつもこう、唐突なのだろう。事前に少しは計画を教えてくれても良いのに。
それでも出かけるということが、外に出られること自体は嬉しい気持ちもあった。ヴィクトル様と一緒ではない方がもっと楽しいけど。
急いで支度をし、私は少し華やかなドレスに身を包んだ。
それは普段着より少しだけ華やかな、淡い紫色のドレスで、蝶が舞うような美しいデザインが施されていた。
少し露出が大胆だと思うけどヴィクトル様が買ってくれた服だったので機嫌を損なうことは無いと思う。
化粧も控えめに香水も軽くつけ、すべてヴィクトル様の指示通りに整えているから。
今日はヴィクトル様も珍しく軍服ではなく少し装飾が施された高級感あふれるスーツを着ている。
普段のヴィクトル様の姿も魅力的だけどこうして装いを変えたヴィクトル様の姿も……これ以上は考えないようにしよう。
突然、ヴィクトル様が懐から仮面を取り出し、優雅に顔に装着した。その仮面は華やかな装飾が施されていて、目元だけが覗くデザインだ。ついでとばかりに私にもヴェールを顔にかける。おかしいな、と思いつつも私はその指示に従うしかなかった。ヴェールが私の視界を少し遮り、外の景色がぼやけて見える。
馬車に揺られながら向かった先は街の中にある見世物小屋と呼ばれる場所だった。
それは貴族向けの娯楽施設で金銭さえ支払えば誰でも楽しめる場所らしい。芝居やサーカスのような娯楽しか知らなかった私にとってこのような場所へ行くのは初めてであり、少し不安もあったけど同時に新鮮さも感じている。
館に足を踏み入れると周りの雰囲気に圧倒され、私は思わず息を呑んだ。客の中で楽しげな笑い声が響いている。なんだか私自身は場違いだと感じて緊張していた。
女性客は少なく、成人男性の客が多くを占めていることに一層の不安を覚える。
「お待ちしておりました」
支配人の男が礼をし、深々と頭を下げるとヴィクトル様は軽く頷き、私の肩をそっと抱き寄せながら歩き始めた。
こんなふうにされるとまるで私が迷子になりやすいとでも思われているようで少し困惑をする。
案内された先は、豪華に装飾された個室のような空間だった。部屋の真ん中には、柔らかな赤い二人掛けの広々としたソファが置かれている。
大きなガラス窓を通して遠くにステージが見える。そこでメインの見世物を行う場所のようだ。
まだショーの始まる時刻ではないのか客たちはリラックスした雰囲気で自由に談笑し合っている様子がうかがえる。
そしてもう一つ気になったことはこの部屋がとても豪華なことだった。この個室に入る前の通路も立派だったし、高そうな装飾品があちこちに飾られている。
ソファにはもうヴィクトル様が仮面を外してわざわざ私用のスペースを開けて座っている。躊躇をしつつも何かを言われる前に私はおそるおそるその隣に座ることにした。
「ここは……どういう場所ですか?」
「男と女の性交を眺める娯楽だ。勉強をしたかったのだろう?」
「そうですか……はい……?」
言っている意味が全く理解できなかった。今、なんて言ったのだろう……理解できないので思わず聞き返してしまう。もしかしたらストレスで私の耳が壊れてしまったのかもしれないと疑ったがどうやらそうではないらしい。
サーカスとか演劇とかそんなものが観れると思ってちょっと楽しみにしていたのに……もう帰りたい……
私は相変わらず部屋に閉じ込められ、勉強の合間に実家から持参した本に目を通しながら時間を無駄にすることなく過ごしていた。
それが唯一、私を慰めるひとときだった。
ふと、ヴィクトル様が控えめな女性を好むのか、あるいは積極的な女性に対して反感を抱いているのか気になった。
ミーティアお姉様はどうだったのだろうと思い返してみても姉としての顔しか知らない私はその答えを見出すことができなかったな。
本を読んで現実から逃避しつつ、そんな想像に浸りながら本を読みふけっていたその時、突然ドアをノックする音が響き渡る。
「は……はいっ」
驚いて返事をするとドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえて「俺だ」と言いながらヴィクトル様が部屋に足を踏み入れた。
いつもなら勝手に入ってくることが多いヴィクトル様が今日は珍しくノックをしてから入ってきたことに私は少し驚く。そして何気なく読んでいた本を手早く別の本の間に挟んで隠した。
「どうかしましたか?」
ヴィクトル様が私の部屋に来ること自体が滅多にないことで私は少し動揺していた。何をして良いか分からず要件を待っているとヴィクトル様が無表情のまま口を開く。
「出掛けるぞ」
「いつですか?」
「今だ」
「今……どこへ?」
「…………」
状況が全く読めなくて頭の中で疑問符が飛び回っている。
どうしていつもこう、唐突なのだろう。事前に少しは計画を教えてくれても良いのに。
それでも出かけるということが、外に出られること自体は嬉しい気持ちもあった。ヴィクトル様と一緒ではない方がもっと楽しいけど。
急いで支度をし、私は少し華やかなドレスに身を包んだ。
それは普段着より少しだけ華やかな、淡い紫色のドレスで、蝶が舞うような美しいデザインが施されていた。
少し露出が大胆だと思うけどヴィクトル様が買ってくれた服だったので機嫌を損なうことは無いと思う。
化粧も控えめに香水も軽くつけ、すべてヴィクトル様の指示通りに整えているから。
今日はヴィクトル様も珍しく軍服ではなく少し装飾が施された高級感あふれるスーツを着ている。
普段のヴィクトル様の姿も魅力的だけどこうして装いを変えたヴィクトル様の姿も……これ以上は考えないようにしよう。
突然、ヴィクトル様が懐から仮面を取り出し、優雅に顔に装着した。その仮面は華やかな装飾が施されていて、目元だけが覗くデザインだ。ついでとばかりに私にもヴェールを顔にかける。おかしいな、と思いつつも私はその指示に従うしかなかった。ヴェールが私の視界を少し遮り、外の景色がぼやけて見える。
馬車に揺られながら向かった先は街の中にある見世物小屋と呼ばれる場所だった。
それは貴族向けの娯楽施設で金銭さえ支払えば誰でも楽しめる場所らしい。芝居やサーカスのような娯楽しか知らなかった私にとってこのような場所へ行くのは初めてであり、少し不安もあったけど同時に新鮮さも感じている。
館に足を踏み入れると周りの雰囲気に圧倒され、私は思わず息を呑んだ。客の中で楽しげな笑い声が響いている。なんだか私自身は場違いだと感じて緊張していた。
女性客は少なく、成人男性の客が多くを占めていることに一層の不安を覚える。
「お待ちしておりました」
支配人の男が礼をし、深々と頭を下げるとヴィクトル様は軽く頷き、私の肩をそっと抱き寄せながら歩き始めた。
こんなふうにされるとまるで私が迷子になりやすいとでも思われているようで少し困惑をする。
案内された先は、豪華に装飾された個室のような空間だった。部屋の真ん中には、柔らかな赤い二人掛けの広々としたソファが置かれている。
大きなガラス窓を通して遠くにステージが見える。そこでメインの見世物を行う場所のようだ。
まだショーの始まる時刻ではないのか客たちはリラックスした雰囲気で自由に談笑し合っている様子がうかがえる。
そしてもう一つ気になったことはこの部屋がとても豪華なことだった。この個室に入る前の通路も立派だったし、高そうな装飾品があちこちに飾られている。
ソファにはもうヴィクトル様が仮面を外してわざわざ私用のスペースを開けて座っている。躊躇をしつつも何かを言われる前に私はおそるおそるその隣に座ることにした。
「ここは……どういう場所ですか?」
「男と女の性交を眺める娯楽だ。勉強をしたかったのだろう?」
「そうですか……はい……?」
言っている意味が全く理解できなかった。今、なんて言ったのだろう……理解できないので思わず聞き返してしまう。もしかしたらストレスで私の耳が壊れてしまったのかもしれないと疑ったがどうやらそうではないらしい。
サーカスとか演劇とかそんなものが観れると思ってちょっと楽しみにしていたのに……もう帰りたい……
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