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「私達、別れましょう」

 思い切って彼にそう告げてみる事にした。きっと彼は別れてくれる筈だ、浮気相手だった私といつまでも恋人でいる意味はないのだから。

「別れてどうする?」

 ガシッと彼の大きな手が私の顎を掴んで無理矢理に上を向かせるとギラギラとした瞳で見つめられた。その赤い瞳は獲物を逃がさんとばかりに射抜くようだ。
 
「貴方には婚約者がいます。これから彼女と夫婦になるのなら私とは上司と部下の関係に戻るべきです」
「お前はどこに行くんだ?行く宛は?」
「どこって……貸家にでも行きます」

 身内のいない記憶喪失の私を迎え入れてくれたのはラスティだけだ。
 記憶が戻るまでここにいるという約束でここに置いてもらってはいるが……婚約者の気持ちを考えるといつまでもこのままでいるわけにもいかないだろう。

「……本当に私は貴方の恋人なんですか?」
「ああ、そうだ。お前は俺の恋人だ」

 赤い瞳でじっと見つめられるとどんどん体に熱が籠っていく。しかし……私は本当に彼と付き合っていたのか? 何か釈然としないというか……納得できない部分があるような気が……する。



 目が覚めるとベッドにはラスティの姿は無かった。これはいつものことで仕事があるからと朝早くに部屋を抜け出してはだいたい夜遅くに部屋に戻ってくる。
 今日は外が騒がしいな、祭りでもやっているのだろうか? 

「新聞……」

 着替えをするためにベッドから降りようとするとサイドテーブルにはラスティが読んでいたような新聞を見つけた。
 記憶が混乱するから、と言われて外の情報は何も与えられなかったから今まで新聞を読んだことはない。

 新聞には敵国の王族の処刑についての情報が載っていた。戦争に敗れた王家は見せしめに根絶やしにされる。これもこの戦争がもたらした出来事だろう。
 これが敵国の王女か……その王女の顔写真を見て私は目を見開いた。
 
 この子を知っている。何度も夢の中で見た女の子。
 泣いて、私に助けを求めていた……守らなくてはならない女の子。

「姫、様」

 頭が痛い。失われていた記憶のようなものが蘇り始める。
 そうだ……私は彼女といつも一緒だった。彼女の事を考えると体の芯から熱いものがこみ上げてくる。
 彼女が泣いているんだ……助けなければ……彼女を守らなければ。そう思うと同時に私は部屋を飛び出していた。

 使用人達が私を止めようとするが強引に殴り飛ばして搔き分けていく。
 剣、確かに倉庫から剣を借りた。あそこから武器を調達をしよう。
 あの男と稽古をしていた時に何度か入った倉庫の鍵をその辺の石ころで破壊して中へ入る。

「これは……」

 まるで私を待っていたかのような剣と盾と白い鎧だけがそこには置いてあった。
 盾を手に取ると記憶が蘇る。怒りと憎悪が蘇る。

「待っていろ……ランスディード・グランドール」
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