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新しい家族編
お姉ちゃん
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アステルは家の中で穏やかな時間を過ごしていた。窓の外では夕暮れが静かに訪れるのが見える。
最近、身体が少し重くなり、少し動くだけでも疲れがすぐに足元に降りてくるようになった。
それでもアステルはその小さな変化に不安を感じながらも赤ちゃんがやってくることへの喜びで満たされていた。
しかし、シリウスとしっかり相談した結果、いよいよ病院に入院することを決めた。赤ちゃんが生まれるまで仕事や家のことから離れて、無理せずに安静にした方がいいと頼まれたからだ。
夕食が終わり、家族がひと息ついているその時、アステルはステラに向かって優しく声をかけた。
「ステラ。お母さんね。病院に入院することにしたの。赤ちゃんが生まれるまではちょっとお仕事もお休みすることにしてね」
その言葉に人形で遊んでいたステラは人形を落として驚きの表情を浮かべ、次いで不安げに顔を曇らせてアステルの元に駆け寄る。
「じゃあ、ステラも一緒に行ってもいい?」
小さな手をぎゅっと握りしめ、涙が溢れそうな顔で必死にお願いするステラ。その姿を見て、アステルは少し胸が締め付けられるような気持ちを抱えながらも優しくその手を取り、温かな微笑みを浮かべて言った。
「ステラはお姉ちゃんになるんだから、少しの間だけ我慢できるよね?赤ちゃんが生まれるためにはお母さんが病院でお休みする必要があるの。だから、お父さんと一緒にお家で待っていてくれるとお母さんはとても嬉しいな」
アステルの言葉にステラは少し困った顔をして俯いたが「お姉ちゃん」という言葉に反応したのか、涙をこらえて頷いた。
「うん、ステラ、お姉ちゃん……になるんだもんね……」
小さな声で呟くその言葉にアステルは甘やかしたい感情をぐっと堪えながらステラをそっと抱きしめた。
「ありがとう、ステラ。お母さんとお父さんもステラがお姉ちゃんになるのをとても楽しみにしているからね」
ステラはまだ少し不安そうに顔を曇らせていたがアステルの温かな手に包まれ、少しずつその心の奥底にある不安を解きほぐしていった。
シリウスもまた、静かにその光景を見守りながら、ステラの肩に優しく手を置いて娘を励ます。
「母さんはすぐに戻ってくる。それまで父さんと頑張ろう」
シリウスの言葉にステラはふと涙を拭いながらも微かな笑みを見せた。家族の温かな支えを感じながら、ステラは少しずつ「お姉ちゃん」という役割を心の中で受け入れようとしていた。
◆
それからアステルは病室のベッドに静かに横たわり、穏やかな時間を過ごしていた。
外の風景は緑の木々が風に揺れるのを眺めることができる静かな場所で、病院の建物がその一角を占めるように静寂と安らぎが満ちていたがステラの顔を毎日見れない日々を寂しさと不安を感じていた。
いつかステラが大人になって親元から巣立っていくなら、きっと今よりも寂しくなるだろう。
そして休みを作って様子を見に来たシリウスは彼女の隣に座り、手を握りしめながら、少し迷ったように目を伏せた。
彼の顔にはいつもの決然とした表情ではなく、どこか戸惑いと不安が滲んでおり、アステルはその様子を察した。
「どうしたの?」
彼女の穏やかな声がシリウスの胸に響く。シリウスは一度深呼吸をして、心を落ち着けるように目を閉じた後、彼女に向かって静かに言葉を紡いだ。
「話があるんだ」
アステルは緊張した様子を見せるが、すぐにその顔に笑みを浮かべ、シリウスの目を見つめながら、彼に寄り添うように少し体を傾けた。
「爵位をもらえるかもしれない」
その一言にアステルは驚きの色を浮かべてシリウスの手を両手で包む。
「本当に?それはすごいわね!シリウスの頑張りがようやく認められたのよ。どうしてそんなに悩んでいるの?」
シリウスは彼女の柔らかい手の感触を感じながら、少しだけ顔をしかめた。
「俺はもともと平民の出。それにダークエルフだ。それにふさわしいかどうかもわからない。ガレットに言われた時も正直、驚いた。爵位を受け取ればそれに伴う責任や義務もついてくる……」
アステルは静かにその言葉を受け止め、シリウスの手を強くて握る。
「シリウスはもう十分すぎるほど、たくさんのことを成し遂げてきたわ。出身や種族なんて関係ない。貴方がここまで来たのは実力と人望があるからよ。責任や義務もあるかもしれないけれど、シリウスならきっとそれに応えられると評価されたのよ」
「……それを受けたら俺達の生活が変わるかもしれない。それが不安なんだ。アステルや子どもたちにも影響が出るかもしれない」
アステルは首を横に振った。
「私たち家族はどんな環境にあっても一緒に乗り越えてきたじゃない。爵位があってもなくても、シリウスはシリウスよ。大事なのは私たちが一緒にいること。それだけ」
シリウスはその言葉を胸に刻み、深く息を吐き出す。そして、アステルの手を強く握りしめた。
「ありがとう、アステルがそう言ってくれるなら、前向きに考える。家族のためにも頑張らないといけないしな」
「私もできることはなんでも手伝うからね。難しいことが多いだろうし」
貴族になれば面倒なしがらみも増える。アステルはシリウスの負担を少しでも減らし、彼が自由に動けるようにサポートをしたいと考えていた。
「ところで、ステラはどうしてるの?寂しがってない?」
ふと、アステルは思い出したように口を開くと、シリウスはアステルの手を握り返しながら、静かな声で答える。
「ステラは大丈夫だ。寂しいだろうが、頑張って我慢してる……しっかりしすぎて逆に大丈夫なのか……?」
シリウス曰く、学校から帰ってくると暇さえあれば大人しく勉強をするか本を読み、たまにキャロラインに遊んでもらっている。キャロラインも面倒見がいいので、ステラのことをよく気にかけてくれて安心だ。
それから時々工房に顔を出して、ケルヴィンが仕事してる様子をじっと見てたりすようだ。ケルヴィンとしては邪魔になるからと、あまりステラが工房に遊びに来ないように言っているようだが。
「……ステラが駄々をこねないの?」
「ああ……かなり素直」
ステラのことは人一倍甘やかして育ててしまった為に人一倍の甘えん坊でわがままに育ってしまったと、アステルは自覚している。そのステラが駄々をこねずに大人しくしているのは不思議な気分だ。
「それは不思議ね。でも、ちゃんと成長してるってことかもしれないわね。お姉ちゃんになるって実感してるのかな?」
その時、ドアがそっと開き、ステラが顔を出した。先ほどまでお手洗いに行っていたのだ。
いつもなら「怖いから」と付き添いが必要だったが、今回は「一人で行けるもん」と言い出して行ってしまったが無事に戻ってこれたようだ。
「おかえり、ステラ」
「うん!ただいま!ステラね。一人で行けたよ」
アステルは喜んで迎え入れるとステラはにこやかにベッドに駆け寄り、シリウスの膝の上に座った。シリウスは「そうか、それは偉いな」と褒めながらその小さな頭を優しく撫でる。
アステルはそんな二人の姿に温かさを感じながら、穏やかな声で言った。
「本当に偉いわね。お姉ちゃんになるから頑張っているってお父さんから教えて貰ったのは本当なのね」
「うん……お姉ちゃんだもんね!」
「……?」
ステラは一瞬だけ困ったような表情を浮かべ、すぐに笑顔を取り戻して大きく頷いた。
「アステルさん、すみません」
その時、アステルは少し違和感を覚え、ステラの微妙な反応に目を細めたがすぐに看護婦が訪れて診察の時間が来たことを知らせた。
その後、アステルは診察を受け、医師と軽い雑談を交わしながらお腹の様子を確認した。
診察の結果は良好で順調に育っており、出産予定日もほぼ決まることとなった。
◆
シリウスの仕事がますます忙しくなり、ステラはその合間をぬってキャロラインと過ごす時間を大切にしていた。キャロラインの温かな笑顔と無邪気な会話に包まれる時間はステラにとって心安らぐひとときだった。
「ねえ、キャロはお姉ちゃんなんだよね?」
彼女は兎獣人の女性で兄弟がたくさんいると聞いていた。ある日、ふとしたきっかけでその話をしてみることにした。一緒に人形遊びに付き合ってくれているキャロラインはにっこりと笑い、楽しそうに頷く。
「ええ、そうですよ。弟や妹がたくさんいますからね!」
「じゃあさ、お姉ちゃんっていつまでお姉ちゃんなの?」
なんとなくその質問を口にしてしまった。どこかでこの不安をキャロラインにぶつけたくなったのかもしれない。キャロラインは少し考えて優しく微笑んだ。
「お姉ちゃんはずっとお姉ちゃんですよ」
「え、ずっとなの?おばあちゃんになるまで?」
「ええ、ずっとです」
その言葉にステラの胸に「ずっとお姉ちゃん」という言葉が心に重く響いてきた。自分には兄弟がいない。だからこそ、これから始まる「お姉ちゃん」としての役割にどこか不安を覚えてしまうのだ。前はただ「お姉ちゃんになること」が嬉しかったはずなのに。
「お姉ちゃんって、大変なんですよね。この前なんて弟が……」
キャロラインが話し始めるとステラはその言葉に耳を傾けながらも内容が頭に入らない。キャロラインの話は続いていくがステラの心の中では不安が大きくなっていく。
「ごめんなさい、ついつい話しすぎてしまいました」
「う、うん、お勉強するからの部屋に行くね」
キャロラインの謝る声でステラは現実に引き戻された。そして彼女から離れて自分の部屋へ向かう。その途中、心の中に広がる嫌な感覚がますます大きくなっていることに気づく。新しい家族が来ることは嬉しいはずなのにどうしてこんなに不安でいっぱいなのだろうか。
部屋に着くと、ステラは窓を開けて外の空気を吸い込んだ。
「お姉ちゃんって、ずっとお姉ちゃんなんだ」
その言葉がまだ重く響いていた。
最近、身体が少し重くなり、少し動くだけでも疲れがすぐに足元に降りてくるようになった。
それでもアステルはその小さな変化に不安を感じながらも赤ちゃんがやってくることへの喜びで満たされていた。
しかし、シリウスとしっかり相談した結果、いよいよ病院に入院することを決めた。赤ちゃんが生まれるまで仕事や家のことから離れて、無理せずに安静にした方がいいと頼まれたからだ。
夕食が終わり、家族がひと息ついているその時、アステルはステラに向かって優しく声をかけた。
「ステラ。お母さんね。病院に入院することにしたの。赤ちゃんが生まれるまではちょっとお仕事もお休みすることにしてね」
その言葉に人形で遊んでいたステラは人形を落として驚きの表情を浮かべ、次いで不安げに顔を曇らせてアステルの元に駆け寄る。
「じゃあ、ステラも一緒に行ってもいい?」
小さな手をぎゅっと握りしめ、涙が溢れそうな顔で必死にお願いするステラ。その姿を見て、アステルは少し胸が締め付けられるような気持ちを抱えながらも優しくその手を取り、温かな微笑みを浮かべて言った。
「ステラはお姉ちゃんになるんだから、少しの間だけ我慢できるよね?赤ちゃんが生まれるためにはお母さんが病院でお休みする必要があるの。だから、お父さんと一緒にお家で待っていてくれるとお母さんはとても嬉しいな」
アステルの言葉にステラは少し困った顔をして俯いたが「お姉ちゃん」という言葉に反応したのか、涙をこらえて頷いた。
「うん、ステラ、お姉ちゃん……になるんだもんね……」
小さな声で呟くその言葉にアステルは甘やかしたい感情をぐっと堪えながらステラをそっと抱きしめた。
「ありがとう、ステラ。お母さんとお父さんもステラがお姉ちゃんになるのをとても楽しみにしているからね」
ステラはまだ少し不安そうに顔を曇らせていたがアステルの温かな手に包まれ、少しずつその心の奥底にある不安を解きほぐしていった。
シリウスもまた、静かにその光景を見守りながら、ステラの肩に優しく手を置いて娘を励ます。
「母さんはすぐに戻ってくる。それまで父さんと頑張ろう」
シリウスの言葉にステラはふと涙を拭いながらも微かな笑みを見せた。家族の温かな支えを感じながら、ステラは少しずつ「お姉ちゃん」という役割を心の中で受け入れようとしていた。
◆
それからアステルは病室のベッドに静かに横たわり、穏やかな時間を過ごしていた。
外の風景は緑の木々が風に揺れるのを眺めることができる静かな場所で、病院の建物がその一角を占めるように静寂と安らぎが満ちていたがステラの顔を毎日見れない日々を寂しさと不安を感じていた。
いつかステラが大人になって親元から巣立っていくなら、きっと今よりも寂しくなるだろう。
そして休みを作って様子を見に来たシリウスは彼女の隣に座り、手を握りしめながら、少し迷ったように目を伏せた。
彼の顔にはいつもの決然とした表情ではなく、どこか戸惑いと不安が滲んでおり、アステルはその様子を察した。
「どうしたの?」
彼女の穏やかな声がシリウスの胸に響く。シリウスは一度深呼吸をして、心を落ち着けるように目を閉じた後、彼女に向かって静かに言葉を紡いだ。
「話があるんだ」
アステルは緊張した様子を見せるが、すぐにその顔に笑みを浮かべ、シリウスの目を見つめながら、彼に寄り添うように少し体を傾けた。
「爵位をもらえるかもしれない」
その一言にアステルは驚きの色を浮かべてシリウスの手を両手で包む。
「本当に?それはすごいわね!シリウスの頑張りがようやく認められたのよ。どうしてそんなに悩んでいるの?」
シリウスは彼女の柔らかい手の感触を感じながら、少しだけ顔をしかめた。
「俺はもともと平民の出。それにダークエルフだ。それにふさわしいかどうかもわからない。ガレットに言われた時も正直、驚いた。爵位を受け取ればそれに伴う責任や義務もついてくる……」
アステルは静かにその言葉を受け止め、シリウスの手を強くて握る。
「シリウスはもう十分すぎるほど、たくさんのことを成し遂げてきたわ。出身や種族なんて関係ない。貴方がここまで来たのは実力と人望があるからよ。責任や義務もあるかもしれないけれど、シリウスならきっとそれに応えられると評価されたのよ」
「……それを受けたら俺達の生活が変わるかもしれない。それが不安なんだ。アステルや子どもたちにも影響が出るかもしれない」
アステルは首を横に振った。
「私たち家族はどんな環境にあっても一緒に乗り越えてきたじゃない。爵位があってもなくても、シリウスはシリウスよ。大事なのは私たちが一緒にいること。それだけ」
シリウスはその言葉を胸に刻み、深く息を吐き出す。そして、アステルの手を強く握りしめた。
「ありがとう、アステルがそう言ってくれるなら、前向きに考える。家族のためにも頑張らないといけないしな」
「私もできることはなんでも手伝うからね。難しいことが多いだろうし」
貴族になれば面倒なしがらみも増える。アステルはシリウスの負担を少しでも減らし、彼が自由に動けるようにサポートをしたいと考えていた。
「ところで、ステラはどうしてるの?寂しがってない?」
ふと、アステルは思い出したように口を開くと、シリウスはアステルの手を握り返しながら、静かな声で答える。
「ステラは大丈夫だ。寂しいだろうが、頑張って我慢してる……しっかりしすぎて逆に大丈夫なのか……?」
シリウス曰く、学校から帰ってくると暇さえあれば大人しく勉強をするか本を読み、たまにキャロラインに遊んでもらっている。キャロラインも面倒見がいいので、ステラのことをよく気にかけてくれて安心だ。
それから時々工房に顔を出して、ケルヴィンが仕事してる様子をじっと見てたりすようだ。ケルヴィンとしては邪魔になるからと、あまりステラが工房に遊びに来ないように言っているようだが。
「……ステラが駄々をこねないの?」
「ああ……かなり素直」
ステラのことは人一倍甘やかして育ててしまった為に人一倍の甘えん坊でわがままに育ってしまったと、アステルは自覚している。そのステラが駄々をこねずに大人しくしているのは不思議な気分だ。
「それは不思議ね。でも、ちゃんと成長してるってことかもしれないわね。お姉ちゃんになるって実感してるのかな?」
その時、ドアがそっと開き、ステラが顔を出した。先ほどまでお手洗いに行っていたのだ。
いつもなら「怖いから」と付き添いが必要だったが、今回は「一人で行けるもん」と言い出して行ってしまったが無事に戻ってこれたようだ。
「おかえり、ステラ」
「うん!ただいま!ステラね。一人で行けたよ」
アステルは喜んで迎え入れるとステラはにこやかにベッドに駆け寄り、シリウスの膝の上に座った。シリウスは「そうか、それは偉いな」と褒めながらその小さな頭を優しく撫でる。
アステルはそんな二人の姿に温かさを感じながら、穏やかな声で言った。
「本当に偉いわね。お姉ちゃんになるから頑張っているってお父さんから教えて貰ったのは本当なのね」
「うん……お姉ちゃんだもんね!」
「……?」
ステラは一瞬だけ困ったような表情を浮かべ、すぐに笑顔を取り戻して大きく頷いた。
「アステルさん、すみません」
その時、アステルは少し違和感を覚え、ステラの微妙な反応に目を細めたがすぐに看護婦が訪れて診察の時間が来たことを知らせた。
その後、アステルは診察を受け、医師と軽い雑談を交わしながらお腹の様子を確認した。
診察の結果は良好で順調に育っており、出産予定日もほぼ決まることとなった。
◆
シリウスの仕事がますます忙しくなり、ステラはその合間をぬってキャロラインと過ごす時間を大切にしていた。キャロラインの温かな笑顔と無邪気な会話に包まれる時間はステラにとって心安らぐひとときだった。
「ねえ、キャロはお姉ちゃんなんだよね?」
彼女は兎獣人の女性で兄弟がたくさんいると聞いていた。ある日、ふとしたきっかけでその話をしてみることにした。一緒に人形遊びに付き合ってくれているキャロラインはにっこりと笑い、楽しそうに頷く。
「ええ、そうですよ。弟や妹がたくさんいますからね!」
「じゃあさ、お姉ちゃんっていつまでお姉ちゃんなの?」
なんとなくその質問を口にしてしまった。どこかでこの不安をキャロラインにぶつけたくなったのかもしれない。キャロラインは少し考えて優しく微笑んだ。
「お姉ちゃんはずっとお姉ちゃんですよ」
「え、ずっとなの?おばあちゃんになるまで?」
「ええ、ずっとです」
その言葉にステラの胸に「ずっとお姉ちゃん」という言葉が心に重く響いてきた。自分には兄弟がいない。だからこそ、これから始まる「お姉ちゃん」としての役割にどこか不安を覚えてしまうのだ。前はただ「お姉ちゃんになること」が嬉しかったはずなのに。
「お姉ちゃんって、大変なんですよね。この前なんて弟が……」
キャロラインが話し始めるとステラはその言葉に耳を傾けながらも内容が頭に入らない。キャロラインの話は続いていくがステラの心の中では不安が大きくなっていく。
「ごめんなさい、ついつい話しすぎてしまいました」
「う、うん、お勉強するからの部屋に行くね」
キャロラインの謝る声でステラは現実に引き戻された。そして彼女から離れて自分の部屋へ向かう。その途中、心の中に広がる嫌な感覚がますます大きくなっていることに気づく。新しい家族が来ることは嬉しいはずなのにどうしてこんなに不安でいっぱいなのだろうか。
部屋に着くと、ステラは窓を開けて外の空気を吸い込んだ。
「お姉ちゃんって、ずっとお姉ちゃんなんだ」
その言葉がまだ重く響いていた。
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