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弟子と母親編
それぞれの人生
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郵便受けから新聞を手にしたアステルはダークエルフのシリウスが先陣を切って敵地へ乗り込み、奴隷商人に囚われたエルフたちを助け出したという記事を目にした。
シリウスの勇敢な行動が国中に広がり、彼の評判が更に高まるだろうと、アステルは思った。
シリウスはしばらくの間、仕事をせずに自宅で療養することになった。本人は「大丈夫だ」と言っていたが、彼自身が気づかないうちに怪我や疲労が溜まっていることも多い。
できるだけカッコイイ父親でありたいと考えているシリウスも休んでほしいとアステルが頼めば渋い顔で従うしかなかった。
(そろそろシリウスの包帯を交換しないと)
ステラを学校に見送った後、アステルは薬箱を持ってシリウスの寝室へ向かおうとしたが、玄関のドアを叩く音がした。首を傾げつつ、アステルはドアを開けてみる。
「あなたは……」
そこに立っていたのは冒険者のリョウイチと元気になったコルルだった。コルルの手には紙袋がしっかりと握られている。
「あの、その……ありがとうございました」
コルルは緊張した様子でアステルに紙袋を差し出す。アステルがそれを受け取ると、コルルは安心したような表情を見せた。中からほんのりとクッキーの香りが漂ってくる。治療の代金は受け取っていたので、これはお礼の品だ。
「僕達の勉強不足で迷惑をかけてしまってすみません」
「仕方ないですよ。これから学んでいけばいいんですから」
異種族を育てるということは簡単ではないがこれから先、コルルを守るために彼らは学んでいかなければならない。互いにその意識を持っているのが、アステルにも改めて大切に思えた。
「これから隣国に行くんです。そこでしっかり獣人の勉強をします」
「それはいいですね。お気をつけて。コルルさんも元気でね?」
アステルが微笑むと、コルルは嬉しそうに笑って大きく頷いた。
「あと、エルが……」
リョウイチの口から母の新しい名前が出た瞬間、アステルの心臓が跳ね上がって紙袋を少し強く握ってしまった。
「ありがとうと、色々とごめんなさいだそうです。そう、伝言を頼まれました」
「そう、ですか……はい。わかったと伝えてください」
アステルはなんとか頷いて言葉を発するのがやっとだった。彼らが去ろうとする瞬間、リョウイチがふとした表情で彼女を見つめ、口を開いた。
「アステルさんとエルは似ていますが、もしかして姉妹ですか?」
その言葉に、アステルは瞬時に反応した。心臓がドキリと鳴るが、冷静さを保ちながら彼女は微笑んだ。
「いいえ、同じエルフなだけですよ」
「失礼しました。どこか似た雰囲気があったので」
リョウイチは少し安心した様子で頷き、笑顔を見せた。
彼女と自分が親子であることは二人には知られない方がいいと思っていた。母の新しい人生を尊重し、アステル自身もその秘密を守りたかった。
もしも事実を告げるならそれは彼女の口から言うべきである。
「では僕達はこれで失礼します」
リョウイチが元気に頭を下げ、コルルもそれにならって頭を下げた。去っていく二人を見送りながら、アステルは考え込む。
彼はいつ、その真実を知るのだろう。『エル』は元々結婚していて、アステルという名の娘が存在していることを。
「シリウス……」
振り向くとシリウスが壁に背を預けて立っていた。心配でこっそり来てくれたのだ。
「包帯を変えましょうか?」
「もう治った」
気を持ち直し、アステルがそう尋ねると、シリウスは腕の包帯を解き、ガーゼを外して傷一つない綺麗な褐色の肌を見せた。
「本当に治りが早いのね」
アステルは感心するとシリウスは少し深いため息をつく。
「その代わり、ダークエルフは回復魔法が効きにくいんだ。俺も騎士になるまで知らなかった」
アステルは驚きを隠せなかったが、それを受け入れ頷いた。シリウスは物心がついた時には親を失っている。コルルと状況が同じなのだ。
己の種族の特性を教える者が誰もいなかったのだ。そして、ダークエルフの彼に回復魔法をかける人もいなかった。
アステルがそんなことを考えていると、シリウスの頬に手を添える。シリウスは目を細めて少し驚いたように見る。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
アステルは微笑む。シリウスは不思議そうに首を傾げ、アステルは彼の頬から手を離し、紙袋の中からクッキーを一枚手に取り、シリウスに差し出した。
「はい」
「これは?」
「クッキーよ。あの人たちから貰ったの」
シリウスはクッキーを見てからアステルを見つめると「やめておく?」と言われた。
「……いや……食べる……」
少し考えてから、シリウスはそう言ってハーブの入っていないクッキーを一口食べた。
「どう?」
「……美味しい……アステルの作る味に似ていると思う」
シリウスはクッキーを噛みながら答えた。アステルの作る料理はほとんど母の味から来ている。最初に毒味をした時は、苦手なハーブのせいでわからなかった。
「私ね、お母さんのことはお父さんに教えないことにしたの。お父さんもお母さんが亡くなったと思ってるでしょう?だから、それで良いの」
「……そうか」
シリウスは納得して呟いた。何も知らないままなら、それは事実になるのだろうと彼は考えた。
アステルは自分を捨てた父も母も許すことが出来ない。だが、折り合いをつけることができた。それはアステルには今の家族がいるからだ。
もしも孤独なアステルだったら何をしていたのかわからない。
「ねえ、シリウス。私たちはいつまで一緒にいられる?」
不安に駆られて、アステルはそう尋ねた。
「ずっとだ」
シリウスは即答した。その言葉はアステルの不安な心を一瞬で安心させたが、同時に気恥ずかしさも与えた。
「そ……う……」
アステルは少し照れて言葉を詰まらせる。家族と離れたくないと思うのは自分だけではないのだと知って、嬉しくなる。
「できるだけ戦死しないようにする」
「もう、できるだけじゃなくて絶対でしょ」
「そうだな。絶対だ」
シリウスはアステルの不安を和らげるようにそう言って、彼女を抱きしめた。アステルはシリウスの胸に耳を当て、背中に手を回す。彼の温もりが心に広がる。この鼓動が止まるその時まで、そばにいたい。
◆
アステルの日常は穏やかに流れていた。温かな日が柔らかく差し込む中、彼女は毎日薬草の手入れをし、心を込めて調合した薬を丁寧に瓶に詰める。
シリウスはまた訓練にも戻りつつある姿を見せてくれた。アステルは彼の健康を心配しながらも、支えとなることでシリウスの心に安心感を与えていた。
アステル自身も薬師としての道を深めていた。人々から信頼され、少しずつ社会に貢献することを目指す日々は、彼女に充実感をもたらし、また新しい薬草の調合法を学ぶことで、彼女の技術は確実に向上していった。
ケルヴィンも施設での生活を続けながら、師匠の家で過ごす時間が増えていった。
アステルは彼の成長を感じるとともに、彼の中に秘められた潜在能力を思い知らされていた。他種族に対する理解を深めることで、ケルヴィンがアステルを越える薬師になる日も遠くないのかもしれないと、彼女は期待を寄せた。
そしてケルヴィンの両親は入院生活を送りながら、重症からの立ち直りが進んでおり、徐々に回復しつつある。
最後に、ステラは学校で才能をさらに発揮していた。頭脳だけでなく、武術でも際立った成績を収めるようになり、その強さは男の子たちをも驚かせた。
友達と切磋琢磨する中で彼女の自信も高まり、周囲の視線を集める存在となっていた。
戦いの才能がありすぎてシリウスはステラが危険な戦闘職に就いてしまわないか心配をするのであった。
完
シリウスの勇敢な行動が国中に広がり、彼の評判が更に高まるだろうと、アステルは思った。
シリウスはしばらくの間、仕事をせずに自宅で療養することになった。本人は「大丈夫だ」と言っていたが、彼自身が気づかないうちに怪我や疲労が溜まっていることも多い。
できるだけカッコイイ父親でありたいと考えているシリウスも休んでほしいとアステルが頼めば渋い顔で従うしかなかった。
(そろそろシリウスの包帯を交換しないと)
ステラを学校に見送った後、アステルは薬箱を持ってシリウスの寝室へ向かおうとしたが、玄関のドアを叩く音がした。首を傾げつつ、アステルはドアを開けてみる。
「あなたは……」
そこに立っていたのは冒険者のリョウイチと元気になったコルルだった。コルルの手には紙袋がしっかりと握られている。
「あの、その……ありがとうございました」
コルルは緊張した様子でアステルに紙袋を差し出す。アステルがそれを受け取ると、コルルは安心したような表情を見せた。中からほんのりとクッキーの香りが漂ってくる。治療の代金は受け取っていたので、これはお礼の品だ。
「僕達の勉強不足で迷惑をかけてしまってすみません」
「仕方ないですよ。これから学んでいけばいいんですから」
異種族を育てるということは簡単ではないがこれから先、コルルを守るために彼らは学んでいかなければならない。互いにその意識を持っているのが、アステルにも改めて大切に思えた。
「これから隣国に行くんです。そこでしっかり獣人の勉強をします」
「それはいいですね。お気をつけて。コルルさんも元気でね?」
アステルが微笑むと、コルルは嬉しそうに笑って大きく頷いた。
「あと、エルが……」
リョウイチの口から母の新しい名前が出た瞬間、アステルの心臓が跳ね上がって紙袋を少し強く握ってしまった。
「ありがとうと、色々とごめんなさいだそうです。そう、伝言を頼まれました」
「そう、ですか……はい。わかったと伝えてください」
アステルはなんとか頷いて言葉を発するのがやっとだった。彼らが去ろうとする瞬間、リョウイチがふとした表情で彼女を見つめ、口を開いた。
「アステルさんとエルは似ていますが、もしかして姉妹ですか?」
その言葉に、アステルは瞬時に反応した。心臓がドキリと鳴るが、冷静さを保ちながら彼女は微笑んだ。
「いいえ、同じエルフなだけですよ」
「失礼しました。どこか似た雰囲気があったので」
リョウイチは少し安心した様子で頷き、笑顔を見せた。
彼女と自分が親子であることは二人には知られない方がいいと思っていた。母の新しい人生を尊重し、アステル自身もその秘密を守りたかった。
もしも事実を告げるならそれは彼女の口から言うべきである。
「では僕達はこれで失礼します」
リョウイチが元気に頭を下げ、コルルもそれにならって頭を下げた。去っていく二人を見送りながら、アステルは考え込む。
彼はいつ、その真実を知るのだろう。『エル』は元々結婚していて、アステルという名の娘が存在していることを。
「シリウス……」
振り向くとシリウスが壁に背を預けて立っていた。心配でこっそり来てくれたのだ。
「包帯を変えましょうか?」
「もう治った」
気を持ち直し、アステルがそう尋ねると、シリウスは腕の包帯を解き、ガーゼを外して傷一つない綺麗な褐色の肌を見せた。
「本当に治りが早いのね」
アステルは感心するとシリウスは少し深いため息をつく。
「その代わり、ダークエルフは回復魔法が効きにくいんだ。俺も騎士になるまで知らなかった」
アステルは驚きを隠せなかったが、それを受け入れ頷いた。シリウスは物心がついた時には親を失っている。コルルと状況が同じなのだ。
己の種族の特性を教える者が誰もいなかったのだ。そして、ダークエルフの彼に回復魔法をかける人もいなかった。
アステルがそんなことを考えていると、シリウスの頬に手を添える。シリウスは目を細めて少し驚いたように見る。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
アステルは微笑む。シリウスは不思議そうに首を傾げ、アステルは彼の頬から手を離し、紙袋の中からクッキーを一枚手に取り、シリウスに差し出した。
「はい」
「これは?」
「クッキーよ。あの人たちから貰ったの」
シリウスはクッキーを見てからアステルを見つめると「やめておく?」と言われた。
「……いや……食べる……」
少し考えてから、シリウスはそう言ってハーブの入っていないクッキーを一口食べた。
「どう?」
「……美味しい……アステルの作る味に似ていると思う」
シリウスはクッキーを噛みながら答えた。アステルの作る料理はほとんど母の味から来ている。最初に毒味をした時は、苦手なハーブのせいでわからなかった。
「私ね、お母さんのことはお父さんに教えないことにしたの。お父さんもお母さんが亡くなったと思ってるでしょう?だから、それで良いの」
「……そうか」
シリウスは納得して呟いた。何も知らないままなら、それは事実になるのだろうと彼は考えた。
アステルは自分を捨てた父も母も許すことが出来ない。だが、折り合いをつけることができた。それはアステルには今の家族がいるからだ。
もしも孤独なアステルだったら何をしていたのかわからない。
「ねえ、シリウス。私たちはいつまで一緒にいられる?」
不安に駆られて、アステルはそう尋ねた。
「ずっとだ」
シリウスは即答した。その言葉はアステルの不安な心を一瞬で安心させたが、同時に気恥ずかしさも与えた。
「そ……う……」
アステルは少し照れて言葉を詰まらせる。家族と離れたくないと思うのは自分だけではないのだと知って、嬉しくなる。
「できるだけ戦死しないようにする」
「もう、できるだけじゃなくて絶対でしょ」
「そうだな。絶対だ」
シリウスはアステルの不安を和らげるようにそう言って、彼女を抱きしめた。アステルはシリウスの胸に耳を当て、背中に手を回す。彼の温もりが心に広がる。この鼓動が止まるその時まで、そばにいたい。
◆
アステルの日常は穏やかに流れていた。温かな日が柔らかく差し込む中、彼女は毎日薬草の手入れをし、心を込めて調合した薬を丁寧に瓶に詰める。
シリウスはまた訓練にも戻りつつある姿を見せてくれた。アステルは彼の健康を心配しながらも、支えとなることでシリウスの心に安心感を与えていた。
アステル自身も薬師としての道を深めていた。人々から信頼され、少しずつ社会に貢献することを目指す日々は、彼女に充実感をもたらし、また新しい薬草の調合法を学ぶことで、彼女の技術は確実に向上していった。
ケルヴィンも施設での生活を続けながら、師匠の家で過ごす時間が増えていった。
アステルは彼の成長を感じるとともに、彼の中に秘められた潜在能力を思い知らされていた。他種族に対する理解を深めることで、ケルヴィンがアステルを越える薬師になる日も遠くないのかもしれないと、彼女は期待を寄せた。
そしてケルヴィンの両親は入院生活を送りながら、重症からの立ち直りが進んでおり、徐々に回復しつつある。
最後に、ステラは学校で才能をさらに発揮していた。頭脳だけでなく、武術でも際立った成績を収めるようになり、その強さは男の子たちをも驚かせた。
友達と切磋琢磨する中で彼女の自信も高まり、周囲の視線を集める存在となっていた。
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