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弟子と母親編
耐えること
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ケルヴィンがシリウスと再会したのは、あれから半年が経過した頃のことだった。
エルフの女性に弟子入りすることを進められたが、最初はその選択に戸惑った。まさか、そのエルフの夫がダークエルフのシリウスであると聞かされた時、心の中に一瞬の暗雲が立ち込めた。
ダークエルフに対する偏見は根強く、彼の存在がもたらす恐怖感は簡単には消え去らなかった。
だが、シリウスだけは別だった。彼に対しては少し申し訳ない気持ちがあったのだ。
あの時、助けてくれたにもかかわらず、自分は酷い言葉を投げかけてしまった。その後、彼は何も言わずに去ってしまった。彼の沈黙は、ケルヴィンの心に重くのしかかっていた。
本当は二度と会いたくなかった。しかし、ケルヴィンの両親は薬師であり、同じ道を志す彼にとって、エルフの薬師アステルに弟子入りすることが最も早く夢を叶える方法であった。
道具屋もそれを見越してアステルを紹介してくれたのだ。悩んだ末、ケルヴィンは弟子入りを決意した。
アステルは穏やかで優しい性格を持ち、彼女の存在はまるで柔らかな光のようであった。彼女を見ているとダークエルフの妻でその子供を持つ母親とは到底思えないほどだ。
そして、運命の再会が訪れた。
「やっぱり嫌っていたな」
ケルヴィンの呟きに、背を向けていたステラが驚いたように振り向いた。
「ステラが嫌いなの?」
「いや、キミのお父さんに酷いことを言ったんだ」
無意識に心の内を漏らしてしまったことを自覚し、ケルヴィンは言葉を紡ぎ始めた。子供は敏感で繊細だ。下手に言い訳をするよりも、素直に話す方が良いと思ったのだ。
「お父さんは優しいのに」
その言葉には悲しみが宿っていた。前にもエルフの女性にダークエルフであることに罵声を浴びせられたことを思い出して辛くなって、胸が痛む。
「だから、僕はキミのお父さんに嫌われているって言いたいだけなんだ。助けてくれたのに、酷いことを言ったから」
シリウスとの初めての再会はアステルの家で薬について学んでいた時だった。彼がケルヴィンを見た瞬間、敵意の目が向けられたことを思い出す。
しかし、アステルの前で彼は追い出すこともできず、ただじっと睨みつけていただけだった。あのようなことを言ったのだから恨まれて当然だ。
「ごめんなさいしたの?」
ステラの無邪気な問いに、ケルヴィンは驚いた。
「えっ?」
「ステラがお父さんにごめんなさいしたら、お父さんは許してくれたよ」
ステラはケルヴィンと視線を合わせ、自分の拳をぎゅっと握りしめた。その言葉には、打算や偽りは微塵もなく、純粋な気持ちが込められていた。
彼女は父親を深く信頼し、敬愛しているからこそ、父のことを悪く言われるのが許せなかったのだろう。
「謝ってない……」
その当たり前の事をケルヴィンはすっかり忘れていた。ダークエルフという存在に対する強い偏見が、彼をシリウスに謝罪することから遠ざけていたのだ。
◆
ケルヴィンはソファで寝ることにしたが安らぎは訪れなかった。心の中にはステラの言葉が反響し続けていた。
手で頬を撫でると、もう消えかけた傷と痣の感触が残っている。彼はこの国の保護施設で生活しており、身寄りのない子供たちが新たな職と住処を見つけるまで世話を受ける場所だった。
しかし、ケルヴィンはその環境の中で孤独を感じていた。人間や獣人たちに囲まれていても彼のようなエルフはそこにはいなかった。
互いに干渉しないように思えるが周囲の視線は彼に対してどこか異質なものを投げかけていた。
「エルフの女の所で働いているんだってな?」
そんなある日、彼は少し年上の人間の少年たちに声をかけられた。彼らの言葉には冷やかしの色が隠れている。
「しかもあのダークエルフの嫁だって」
シリウスの名は彼の強さと功績で広く知られている一方、ダークエルフであるというだけで足枷となっていることが伺えた。どれだけの成果をあげても、爵位は与えられないと噂されるのも彼の種族ゆえなのだ。
「じゃあ、こいつダークエルフが死んだら、そのまま貰ってやるのか?」
「うわ、ひでぇ考え」
彼らの笑い声は冷たい風のようにケルヴィンの心に刺さる。気がつけば彼はその少年たちに拳を振るっていた。
喧嘩が得意なわけでもないのに対等ではない数に無謀な挑戦をしてしまったのだ。幸運にも施設の大人が駆けつけてくれて、彼は顔に傷を負っただけで済んだ。
「…………」
頬を擦りながらケルヴィンはソファに座り、考えを巡らせていた。その時、玄関のドアが静かに開く音がした。入ってきた人物を見てケルヴィンは自然と立ち上がって壁に背をつけた。
「……遠征は?」
「明日の早朝だ。伝言を受けて一度帰ってきた」
本来なら、シリウスは向こうで準備や休息をしているはずだったが、何故ここに戻ってきたのか?ケルヴィンの疑問を察し、シリウスは答えてやる。
妻が家を開けなければならなくなったので、娘が心配で帰ってきたのだ。
「それなら、僕は帰ります」
「いや、帰らなくても……」
ケルヴィンが帰ろうとするのを止めようとしたシリウスは言葉に詰まった。恐らく、ケルヴィンが自分を拒絶していたことを思い出し、気を使ったのだろう。
「ダークエルフだから嫌ではなく……僕が邪魔になるから帰るだけですから」
それが本音だった。シリウスに対する複雑な感情はあったが、助けられたことやアステルからの話を通じて、徐々に尊敬にも似た感情が芽生えている。
「……すみませんでした」
突然の謝罪にシリウスは疑問の表情を浮かべた。しかし、ケルヴィンは頭を下げたまま続ける。
「僕は、貴方を誤解して……その」
「…………」
「酷いことを言いました。だからすみません」
「もう気にしていない」
シリウスは淡々と答えたが、その無関心さが逆にケルヴィンをさらに申し訳なくさせた。
「でも、この前、睨んでいたじゃないですか」
「この前……ああ」
シリウスは言いづらそうに言葉を詰まらせた。
「あれはアステルが……」
「?」
何かを言いたそうにするシリウスにケルヴィンは首を傾げる。あの時、アステルと親しげに話していたのが気に食わなかった。
エルフに拒絶されることには慣れていたがアステルを奪われるのだけは大人気もなく許せなかったのだ。
「……そういう感情を抱くこともあるだろう」
事実を誤魔化しながらシリウスは槍を壁に立て掛け、ソファに腰をかけた。明日の遠征に備えて少しでも休息をとりたいのだろう。
ケルヴィンもこれ以上何かを言うつもりはなかった。帰ろうと足を動かしたその時、シリウスが突然口を開いた。
「何故、留守を引き受けたんだ」
ダークエルフを嫌うケルヴィンが何故ステラの面倒を引き受けたのか、それが不思議だった。金をつまれてもやらないと思っていたからだ。
「フクロウがいるとはいえ、子供を一人で置いていくのは危険ですから」
「そうだな」
「…………」
「それならもう少しだけ耐えてくれないか。俺が帰ってくるまでステラを守って欲しい」
シリウスは深く頭を下げ、ケルヴィンに頼んだ。ダークエルフである彼が、自分に頭を下げるとは思わなかった。
「耐える……」
アステルの言っていたことを思い出す。シリウスはステラの将来のために、ダークエルフが認められるように危険な仕事をしているのだ。
成果に対する相応な報酬を得られなくても、陰口や罵声を浴びせられても、全ては娘のために耐えていた。シリウスはただの父親として常に娘の未来を考えている。
自分の置かれている立場があまりにも違いすぎることをケルヴィンは痛感した。彼はシリウスと向き合うようにソファに腰をかけ、心の中で何かが変わる瞬間を感じていた。
エルフの女性に弟子入りすることを進められたが、最初はその選択に戸惑った。まさか、そのエルフの夫がダークエルフのシリウスであると聞かされた時、心の中に一瞬の暗雲が立ち込めた。
ダークエルフに対する偏見は根強く、彼の存在がもたらす恐怖感は簡単には消え去らなかった。
だが、シリウスだけは別だった。彼に対しては少し申し訳ない気持ちがあったのだ。
あの時、助けてくれたにもかかわらず、自分は酷い言葉を投げかけてしまった。その後、彼は何も言わずに去ってしまった。彼の沈黙は、ケルヴィンの心に重くのしかかっていた。
本当は二度と会いたくなかった。しかし、ケルヴィンの両親は薬師であり、同じ道を志す彼にとって、エルフの薬師アステルに弟子入りすることが最も早く夢を叶える方法であった。
道具屋もそれを見越してアステルを紹介してくれたのだ。悩んだ末、ケルヴィンは弟子入りを決意した。
アステルは穏やかで優しい性格を持ち、彼女の存在はまるで柔らかな光のようであった。彼女を見ているとダークエルフの妻でその子供を持つ母親とは到底思えないほどだ。
そして、運命の再会が訪れた。
「やっぱり嫌っていたな」
ケルヴィンの呟きに、背を向けていたステラが驚いたように振り向いた。
「ステラが嫌いなの?」
「いや、キミのお父さんに酷いことを言ったんだ」
無意識に心の内を漏らしてしまったことを自覚し、ケルヴィンは言葉を紡ぎ始めた。子供は敏感で繊細だ。下手に言い訳をするよりも、素直に話す方が良いと思ったのだ。
「お父さんは優しいのに」
その言葉には悲しみが宿っていた。前にもエルフの女性にダークエルフであることに罵声を浴びせられたことを思い出して辛くなって、胸が痛む。
「だから、僕はキミのお父さんに嫌われているって言いたいだけなんだ。助けてくれたのに、酷いことを言ったから」
シリウスとの初めての再会はアステルの家で薬について学んでいた時だった。彼がケルヴィンを見た瞬間、敵意の目が向けられたことを思い出す。
しかし、アステルの前で彼は追い出すこともできず、ただじっと睨みつけていただけだった。あのようなことを言ったのだから恨まれて当然だ。
「ごめんなさいしたの?」
ステラの無邪気な問いに、ケルヴィンは驚いた。
「えっ?」
「ステラがお父さんにごめんなさいしたら、お父さんは許してくれたよ」
ステラはケルヴィンと視線を合わせ、自分の拳をぎゅっと握りしめた。その言葉には、打算や偽りは微塵もなく、純粋な気持ちが込められていた。
彼女は父親を深く信頼し、敬愛しているからこそ、父のことを悪く言われるのが許せなかったのだろう。
「謝ってない……」
その当たり前の事をケルヴィンはすっかり忘れていた。ダークエルフという存在に対する強い偏見が、彼をシリウスに謝罪することから遠ざけていたのだ。
◆
ケルヴィンはソファで寝ることにしたが安らぎは訪れなかった。心の中にはステラの言葉が反響し続けていた。
手で頬を撫でると、もう消えかけた傷と痣の感触が残っている。彼はこの国の保護施設で生活しており、身寄りのない子供たちが新たな職と住処を見つけるまで世話を受ける場所だった。
しかし、ケルヴィンはその環境の中で孤独を感じていた。人間や獣人たちに囲まれていても彼のようなエルフはそこにはいなかった。
互いに干渉しないように思えるが周囲の視線は彼に対してどこか異質なものを投げかけていた。
「エルフの女の所で働いているんだってな?」
そんなある日、彼は少し年上の人間の少年たちに声をかけられた。彼らの言葉には冷やかしの色が隠れている。
「しかもあのダークエルフの嫁だって」
シリウスの名は彼の強さと功績で広く知られている一方、ダークエルフであるというだけで足枷となっていることが伺えた。どれだけの成果をあげても、爵位は与えられないと噂されるのも彼の種族ゆえなのだ。
「じゃあ、こいつダークエルフが死んだら、そのまま貰ってやるのか?」
「うわ、ひでぇ考え」
彼らの笑い声は冷たい風のようにケルヴィンの心に刺さる。気がつけば彼はその少年たちに拳を振るっていた。
喧嘩が得意なわけでもないのに対等ではない数に無謀な挑戦をしてしまったのだ。幸運にも施設の大人が駆けつけてくれて、彼は顔に傷を負っただけで済んだ。
「…………」
頬を擦りながらケルヴィンはソファに座り、考えを巡らせていた。その時、玄関のドアが静かに開く音がした。入ってきた人物を見てケルヴィンは自然と立ち上がって壁に背をつけた。
「……遠征は?」
「明日の早朝だ。伝言を受けて一度帰ってきた」
本来なら、シリウスは向こうで準備や休息をしているはずだったが、何故ここに戻ってきたのか?ケルヴィンの疑問を察し、シリウスは答えてやる。
妻が家を開けなければならなくなったので、娘が心配で帰ってきたのだ。
「それなら、僕は帰ります」
「いや、帰らなくても……」
ケルヴィンが帰ろうとするのを止めようとしたシリウスは言葉に詰まった。恐らく、ケルヴィンが自分を拒絶していたことを思い出し、気を使ったのだろう。
「ダークエルフだから嫌ではなく……僕が邪魔になるから帰るだけですから」
それが本音だった。シリウスに対する複雑な感情はあったが、助けられたことやアステルからの話を通じて、徐々に尊敬にも似た感情が芽生えている。
「……すみませんでした」
突然の謝罪にシリウスは疑問の表情を浮かべた。しかし、ケルヴィンは頭を下げたまま続ける。
「僕は、貴方を誤解して……その」
「…………」
「酷いことを言いました。だからすみません」
「もう気にしていない」
シリウスは淡々と答えたが、その無関心さが逆にケルヴィンをさらに申し訳なくさせた。
「でも、この前、睨んでいたじゃないですか」
「この前……ああ」
シリウスは言いづらそうに言葉を詰まらせた。
「あれはアステルが……」
「?」
何かを言いたそうにするシリウスにケルヴィンは首を傾げる。あの時、アステルと親しげに話していたのが気に食わなかった。
エルフに拒絶されることには慣れていたがアステルを奪われるのだけは大人気もなく許せなかったのだ。
「……そういう感情を抱くこともあるだろう」
事実を誤魔化しながらシリウスは槍を壁に立て掛け、ソファに腰をかけた。明日の遠征に備えて少しでも休息をとりたいのだろう。
ケルヴィンもこれ以上何かを言うつもりはなかった。帰ろうと足を動かしたその時、シリウスが突然口を開いた。
「何故、留守を引き受けたんだ」
ダークエルフを嫌うケルヴィンが何故ステラの面倒を引き受けたのか、それが不思議だった。金をつまれてもやらないと思っていたからだ。
「フクロウがいるとはいえ、子供を一人で置いていくのは危険ですから」
「そうだな」
「…………」
「それならもう少しだけ耐えてくれないか。俺が帰ってくるまでステラを守って欲しい」
シリウスは深く頭を下げ、ケルヴィンに頼んだ。ダークエルフである彼が、自分に頭を下げるとは思わなかった。
「耐える……」
アステルの言っていたことを思い出す。シリウスはステラの将来のために、ダークエルフが認められるように危険な仕事をしているのだ。
成果に対する相応な報酬を得られなくても、陰口や罵声を浴びせられても、全ては娘のために耐えていた。シリウスはただの父親として常に娘の未来を考えている。
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