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反抗期編
家出
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昼頃になると書いた手紙を父に送る為に郵便屋へ、そして食材が足りないのを思い出したので市場に買い出しに行くこうと思ったアステルは部屋に閉じこもりきりのステラに声をかけた。
「ステラ、ちょっと出かけてくるけど、一緒に行く?」
「知らないっ」
「じゃあ、お留守番お願いね」
扉の向こうからは怒ったような、そっけない返事が返ってきた。
アステルは苦笑いを浮かべながらステラの部屋の前から離れると家の鍵をかけて近くの木の枝で眠っているフクロウのヴァンに近づいた。
「ステラを見ててね」
そう言ってアステルが頭や首元を撫でるとヴァンは気持ち良さそうに目を細める。ヴァンがいるなら大丈夫だろうとアステルは安心して出かけた。
◆
その頃ステラはベッドの上でゴロゴロしたり、枕に八つ当たりをしたりして過ごしていたがお腹が空いたのでキッチンに向かうと、ステラの為に残しておいたシリウスが作った朝食が残っていた。
だがそれを食べるのは負けたような気がする。ステラはアステルの姿を探すが、家の中に母の姿はなかった。本当にステラを置いて出掛けたのだ。
「ステラのこと……嫌いになったの?」
また母はシリウスの所に行ったのかもしれない。そう思ったステラは寂しくなって泣きそうになると、玄関の鍵を内側から開けて外に出た。それを見たヴァンは干してある洗濯物からアステルの白い帽子を取ってステラに被せてやる。
「あ、ありがとう。ヴァン」
ついてきてくれるヴァンに感謝をしながら進むとフクロウも彼女の後を追って羽ばたいて行った。
◆
ステラはとぼとぼと歩き、通行人の人間女性に近寄ると女性の服を引っ張った。
「あの、おっきい門はどっちですか?」
「え?あっちだけど」
女性はステラに引っ張られて少し驚いた様子だったが、すぐに指差した。ここからでも上の部分だけが見える大きな門、初めて来たときに見たものだ。
「ありがとうございます」
ステラはぺこりと頭を下げると教えられた方角に向かって行った。
時間を掛けて大きな門の前に着いたのだが、閉まっている。どうやって入ればいいのかわからないステラは途方に暮れていると、この国の門番らしき男性が近づいてきた。
「どうしましたか?」
「えっと……お外に出たいです」
ステラがおずおずと言うと男性は笑顔で答えた。
「一人かい?お父さんとお母さんは?」
「お母さんは……ステラが嫌いになって……」
男性の言葉を聞いてステラは涙目になり、男性は慌てていると一人の騎士が駆けつけてきた。
「なんかあったのか?……って、シリウスのガキじゃないか。なんか用か?」
現れたのはシリウスの同僚のアルム。たまたまこの近くの見回りをしていたのだ。
「こ、こんにちは。おじさんのお友達のおじさん」
ステラはビクビクしながら挨拶をする。するとアルムは呆れたようにため息をつく。
「おじさんじゃ……まあ、いいや。親はどうした?」
「はぐれてしまったようで……」
アルムが門番の男性を見ると彼は首を横に振った。
「前に住んでた家に帰りたいの……」
「はあ?」
ステラが泣きそうに言うと、アルムと門番は顔見合わせた。幼い少女がいきなり訳の分からないことを言うのだから当然の反応だろう。
アルムはしばらく考えてから、ステラの手を取ると、そのまま引きずるようにしてどこかに連れていき、ステラは抵抗せずにされるがままになっている。その様子をずっと屋根の上からヴァンは見守っていた。
たどり着いたのは騎士団の詰所、そこにはシリウスがいた。彼は別の同僚達と休憩を取っていたようだ。
「シリウス、ステラが村に帰りたいってよ」
「ステラ?」
ステラに気がついたシリウスはすぐに駆け寄った。娘の目線に合わせて屈むとステラは逃げようとするがアルムがそれを許さず、ステラの手を掴んだままだった。
「ステラ、どうしてここに?」
「だって……お母さんがおじさんがいいって……ステラのこと嫌いになったから……」
ステラは消えそうな声で言った。シリウスはそれを聞くと驚いてすぐに肩を掴む。
「ステラ、そんなことはない。アステルにとって一番大切なのはステラだ。俺はたぶんその次ぐらいで……」
「でも、ステラが邪魔なんでしょ?」
ステラが悲しそうに言うと、シリウスは言葉を失った。邪険にした覚えは全く無かったが、彼女がここまで思い詰めていたことにショックを受けていた。
「まあ、とにかく、家に帰してやれ。後は俺に任せろ」
「ああ、頼む」
アルムに言われてシリウスは素直にうなずき、ステラの手を取るとステラは泣きそうになりながらも大人しくついていった。
「ステラ、ちょっと出かけてくるけど、一緒に行く?」
「知らないっ」
「じゃあ、お留守番お願いね」
扉の向こうからは怒ったような、そっけない返事が返ってきた。
アステルは苦笑いを浮かべながらステラの部屋の前から離れると家の鍵をかけて近くの木の枝で眠っているフクロウのヴァンに近づいた。
「ステラを見ててね」
そう言ってアステルが頭や首元を撫でるとヴァンは気持ち良さそうに目を細める。ヴァンがいるなら大丈夫だろうとアステルは安心して出かけた。
◆
その頃ステラはベッドの上でゴロゴロしたり、枕に八つ当たりをしたりして過ごしていたがお腹が空いたのでキッチンに向かうと、ステラの為に残しておいたシリウスが作った朝食が残っていた。
だがそれを食べるのは負けたような気がする。ステラはアステルの姿を探すが、家の中に母の姿はなかった。本当にステラを置いて出掛けたのだ。
「ステラのこと……嫌いになったの?」
また母はシリウスの所に行ったのかもしれない。そう思ったステラは寂しくなって泣きそうになると、玄関の鍵を内側から開けて外に出た。それを見たヴァンは干してある洗濯物からアステルの白い帽子を取ってステラに被せてやる。
「あ、ありがとう。ヴァン」
ついてきてくれるヴァンに感謝をしながら進むとフクロウも彼女の後を追って羽ばたいて行った。
◆
ステラはとぼとぼと歩き、通行人の人間女性に近寄ると女性の服を引っ張った。
「あの、おっきい門はどっちですか?」
「え?あっちだけど」
女性はステラに引っ張られて少し驚いた様子だったが、すぐに指差した。ここからでも上の部分だけが見える大きな門、初めて来たときに見たものだ。
「ありがとうございます」
ステラはぺこりと頭を下げると教えられた方角に向かって行った。
時間を掛けて大きな門の前に着いたのだが、閉まっている。どうやって入ればいいのかわからないステラは途方に暮れていると、この国の門番らしき男性が近づいてきた。
「どうしましたか?」
「えっと……お外に出たいです」
ステラがおずおずと言うと男性は笑顔で答えた。
「一人かい?お父さんとお母さんは?」
「お母さんは……ステラが嫌いになって……」
男性の言葉を聞いてステラは涙目になり、男性は慌てていると一人の騎士が駆けつけてきた。
「なんかあったのか?……って、シリウスのガキじゃないか。なんか用か?」
現れたのはシリウスの同僚のアルム。たまたまこの近くの見回りをしていたのだ。
「こ、こんにちは。おじさんのお友達のおじさん」
ステラはビクビクしながら挨拶をする。するとアルムは呆れたようにため息をつく。
「おじさんじゃ……まあ、いいや。親はどうした?」
「はぐれてしまったようで……」
アルムが門番の男性を見ると彼は首を横に振った。
「前に住んでた家に帰りたいの……」
「はあ?」
ステラが泣きそうに言うと、アルムと門番は顔見合わせた。幼い少女がいきなり訳の分からないことを言うのだから当然の反応だろう。
アルムはしばらく考えてから、ステラの手を取ると、そのまま引きずるようにしてどこかに連れていき、ステラは抵抗せずにされるがままになっている。その様子をずっと屋根の上からヴァンは見守っていた。
たどり着いたのは騎士団の詰所、そこにはシリウスがいた。彼は別の同僚達と休憩を取っていたようだ。
「シリウス、ステラが村に帰りたいってよ」
「ステラ?」
ステラに気がついたシリウスはすぐに駆け寄った。娘の目線に合わせて屈むとステラは逃げようとするがアルムがそれを許さず、ステラの手を掴んだままだった。
「ステラ、どうしてここに?」
「だって……お母さんがおじさんがいいって……ステラのこと嫌いになったから……」
ステラは消えそうな声で言った。シリウスはそれを聞くと驚いてすぐに肩を掴む。
「ステラ、そんなことはない。アステルにとって一番大切なのはステラだ。俺はたぶんその次ぐらいで……」
「でも、ステラが邪魔なんでしょ?」
ステラが悲しそうに言うと、シリウスは言葉を失った。邪険にした覚えは全く無かったが、彼女がここまで思い詰めていたことにショックを受けていた。
「まあ、とにかく、家に帰してやれ。後は俺に任せろ」
「ああ、頼む」
アルムに言われてシリウスは素直にうなずき、ステラの手を取るとステラは泣きそうになりながらも大人しくついていった。
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