シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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反抗期編

不機嫌な娘へのプレゼント

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 アステルはぼんやりとした頭のまま目を覚ますと隣で眠るステラの頭を撫でてから起き上がった。
 シリウスは昨日、帰って来なかった。忙しいから仕方がないのだ。やましいことは何もしていないに何故胸がざわざわとする。

 今日は朝から畑仕事があるので早く準備をしてしまおうと思いベッドから降りようとした時、玄関のドアが開かれる音を聞いた。

「お帰りなさい、シリウス」
「ただいま」

 アステルはすぐに部屋を出て、玄関までシリウスを出迎えると大きな木箱を持った彼は驚いた顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。まだ眠っているのだと思って帰って来たのであろう。

「大丈夫?寝る時間ある?」
「休みが取れたんだ。だからゆっくりできる」
「本当?じゃあ、今日はしっかり休んで」
「それと……渡したい物があるんだ」

 シリウスは持っていた荷物をリビングまで運んでから床に置くと、木箱の中からお金の入った袋を取り出した。中身を見るとそれなりの額が入っている。

「前にアステルの家から奪われた金が戻ってきた」

 シリウスの話によるとアステルが囚われていたアジトから発見できた金は全て回収をし、一度預かって確認をしてから返却されたらしい。被害届を出していたおかげで無事に返って来たそうだ。

「ありがとう……あ、オーガゴートを倒した時のお金は持ってきてしまって使ったの、ごめんなさい」

 シリウスが置いて行ってしまったオーガゴート討伐報酬の金はステラを育てる為に使ってしまっていた。なのでアステルは素直に謝るとシリウスは怒ることはなかった。

「あれはアステルにあげたものだ。それにステラを一人で育ててくれたこと、感謝している」
「シリウス……ありがとう……」
「これも……」

 懐から小さな小包を取り出してアステルに手渡した。アステルは不思議に思いつつも小包を受け取ると、すぐに開けてみた。すると中にはペンダントが入っていた。
 それはシリウスがプレゼントをしてくれたルビーのペンダントである。まさか帰ってくるとは思っていなかったのでアステルは驚きながら彼を見つめた。

「持っていてくれたんだな」
「とても大事なものだから」
「そうか」

 シリウスは安心したように笑うと、そのままアステルを抱き寄せた。
 突然抱きしめられてびっくりしていると、シリウスは優しくアステルの髪を撫でる。久しぶりに感じる彼の体温と匂いに胸が熱くなる。

「ああ、ステラにも……」

 思い出したかのように声をかけると、シリウスはアステルから離れて木箱の中から大きな布に包まれたずいぶんと重たそうなものを取り出し、開封をすると沢山の絵本が出てきた。

「え、こんなに」

 本、特に絵本はとても高価である。そして過疎地である前の村では中々手に入りにくい代物だったのでステラには三冊ぐらいの絵本しか買うことが出来なかったのだ。

「ステラは本が好きそうだから絵本にしたんだ。だがどの本を買っていいのかわからないから店にある本を全部買った」
「か、買ったの……お金は大丈夫?」
「金ならいくらでもある」

 アステルが恐る恐る聞くとシリウスは何気なく答えた。彼は無趣味で基本的に食べることと戦うこと以外、興味がないので貯め込んでいるようだ。一体どれくらいあるのだろうと疑問に思ったが怖くて聞けない。
 シリウスが取り出した大量の絵本はどれも可愛くて綺麗な絵が描かれているものばかりであった。ステラは間違いなく喜んでくれるだろう。

「ありがとう。でも、一つお願いがあるの」
「なんだ?」
「あげるなら一冊ずつにしてあげて」

 いきなり大量の絵本を渡されたらステラは喜ぶが、とても高価な代物なので一冊一冊を大切に読んでもらいたい。それに会う度にシリウスから絵本を貰うことができれば父親に会うのが楽しみになってどんどん好きになってくれるかもしれないと考えた。

「そうか……三冊じゃダメか?」
「じゃあ、二冊で」

 アステルは妥協案を出すとシリウスは納得して、二人で渡す絵本を厳選することにした。


 それからシリウスは朝食が出来上がるまで少し仮眠を取ると言ってアステルの自室へと戻っていった。その間にアステルは薬草の世話をして、朝食の準備をする。今日のメニューはパンに芋をすり潰したスープに目玉焼きにベーコンといったシンプルなものだ。

 朝食が出来上がるとアステルはまずステラを起しに行き、寝ぼけているステラの着替えを手伝ってからお願いをしてみた。

「ステラ、お父さんを起こしてあげて」
「おじさん、帰ってきたの?」
「うん、お願い。お父さん、喜ぶと思うよ」
「うーん……わかった」

 まだ半分夢の中にいるような状態のステラはシリウスの眠る部屋へと向かった。扉を開ける前に深呼吸してから部屋に入ろうとすると先に扉の方から開いたのだ。

「ああ、ステラ、おはよう」
「おじさん、起きてたの……」

 ステラが起こす前にステラの気配を感じてシリウスは先に起きていたのだ。しかし、それは間違いだったようで……

「ステラが起こさなくてもよかったじゃん!」
「え……」

 ステラは怒って頬を膨らませながらキッチンの方へと一人で行ってしまった。どうやらわざわざ出向いたのに自分がシリウスを起こす役目を果たせなかったことが悔しかったらしい。この場合は起きていても寝たふりをすれば良かったと後悔をした。

 それから怒ったステラと気落ちしたシリウスとニコニコと笑っているアステルの三人で朝食を食べ終えるとさっそくシリウスはステラに絵本をプレゼントをすることにした。

「ステラ、お父さんがステラにプレゼントがあるって」
「え?お菓子?」

 機嫌が直ったステラにアステルがそう言うと彼女は目を輝かせた。シリウスはステラにお菓子をよくプレゼントをするのだが、そちらも大量に買ってくるのでアステルは「一個だけね」とシリウスに釘をさしていたが今回はお菓子ではない。

「いや、これは絵本だ」
「わっ、わっ、あっ!あ、ありがと!」

 シリウスが二冊の絵本をステラに手渡すと嬉しさのあまり声が出なくなってしまったステラは頑張ってお礼を言ってから早速、ソファに座って絵本を開く。そこには色鮮やかな花畑の絵が描かれていた。
 とても美しい光景でステラはすぐに気に入り、もう一冊の表紙を見るとこちらは森の動物達が仲良く暮らしている絵が描かれている。これも可愛いと思った。

 鼻歌を歌っているステラの様子を見てシリウスは安心したように笑うとアステルはそんな様子の彼が少しずつ父親らしくなっているなと感じた。
 このまま、ずっとシリウスが父親で居続けてくれると嬉しいとアステルは心の中で願った。
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