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反抗期編
どっちも大切
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「おじさんの話してたの?」
ステラが買ってきた食材を眺めながら不思議そうに首を傾げる。その純粋な瞳は好奇心と少しの疑問を映している。
「お父さん、モテモテなんですって」
「ふーん……」
アステルは微笑みを浮かべて言葉を誤魔化すと料理の準備に取り掛かる。キッチンに漂う香ばしい香りの中、ステラはつまらなさそうに椅子に腰掛け、テーブルの上に置かれた絵本に目をやった。
その本は前の家から持って来た絵本で何度も読み直しているのでボロボロである。
「でも、おじさんはお母さんが一番好きだもんね」
「ふふっ、そうね」
ステラが絵本のページをめくりながら素っ気なく言葉を紡ぐ。
「お母さんもおじさんが一番好きだし、ステラよりもおじさんの方が好きだもん」
その言葉にアステルは驚きのあまり手を止める。静寂が流れる中、心臓が少し高鳴る。
「そんなことないよ。お父さんよりもステラの方が好きだから」
「だって、おじさんと一緒にいる時のお母さんはとっても楽しそう、おじさんとばかりお話してる」
その指摘にアステルは困ってしまった。何気ない日常の中でシリウスとの会話が心の中で膨れ上がっていたことを今更さらながら思い知らされる。
今までシリウスに会えなかった分、たくさん会話をしてしまっているのだ。それをステラに指摘されるまで全く意識していなかった。
かと言って今度はシリウスの相手を疎かにするわけにはいかない。どっちも大好きで大切なのだ。
「それは……そうかもしれないけれど……」
彼女の心は、二つの愛の間で揺れていた。どちらも大切で、どちらも欠かせない存在だということを、彼女自身もわかっているのに。
(どうすればいいんだろう)
ステラが生まれた時からシリウスが常に傍にいてくれたなら、ステラは今のような居心地の悪さは感じずに済んだのかもしれない。
だが、今さらそんな後悔をしても仕方がない。先のことだけを気にしなければと鍋に水を入れ火にかける。沸騰するまでの静かな時間の中で野菜を一つ一つ丁寧に刻んでいった。
◆
夕飯を二人で食べ終え、ステラを寝かしつけている間、アステルはかつての自分の記憶にふと旅立った。
彼女がまだ幼い頃、母はアステルの世話に追われ、父の存在は徐々に薄れていった。
夫婦仲も微妙な緊張感を抱えたある日、父は次第に家にいる時間が減り、アステルたちが寝静まった後にこっそり帰ってくることが増えていた。
そして、ある日とうとう父は帰ってこなくなった。
シリウスもそうなってしまうのではないかという不安が胸を締めつけ、アステルはそのまま目を閉じ、静かな眠りへと沈んでいった。
ステラが買ってきた食材を眺めながら不思議そうに首を傾げる。その純粋な瞳は好奇心と少しの疑問を映している。
「お父さん、モテモテなんですって」
「ふーん……」
アステルは微笑みを浮かべて言葉を誤魔化すと料理の準備に取り掛かる。キッチンに漂う香ばしい香りの中、ステラはつまらなさそうに椅子に腰掛け、テーブルの上に置かれた絵本に目をやった。
その本は前の家から持って来た絵本で何度も読み直しているのでボロボロである。
「でも、おじさんはお母さんが一番好きだもんね」
「ふふっ、そうね」
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「そんなことないよ。お父さんよりもステラの方が好きだから」
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その指摘にアステルは困ってしまった。何気ない日常の中でシリウスとの会話が心の中で膨れ上がっていたことを今更さらながら思い知らされる。
今までシリウスに会えなかった分、たくさん会話をしてしまっているのだ。それをステラに指摘されるまで全く意識していなかった。
かと言って今度はシリウスの相手を疎かにするわけにはいかない。どっちも大好きで大切なのだ。
「それは……そうかもしれないけれど……」
彼女の心は、二つの愛の間で揺れていた。どちらも大切で、どちらも欠かせない存在だということを、彼女自身もわかっているのに。
(どうすればいいんだろう)
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そして、ある日とうとう父は帰ってこなくなった。
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