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反抗期編

ぎこちない父と娘

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「お母さん、おきて―」

 翌朝、アステルは娘の声によって起こされ、目を開けると自分の体を揺さぶるステラの姿があった。

「おはよう……ステラ」

 まだ眠たいのか瞼を擦っているステラを見てアステルは挨拶をしながら白い頬を撫でてやる。昨日は引っ越しの作業や夜ふかしをしたのが原因で疲れが残ってるようで体が重い。
 昨日、事後処理を終えた後にシャワーを浴びて、ステラの部屋に行き、同じベッドで寝たのだ。ステラが目覚めて一人ぼっちになった時の寂しさを考えれば一緒にいる方が良いと判断した結果である。

「わ、朝ご飯、作らなきゃ……」

 時計を見ると予定よりも遅くなっていたのに気付いたアステルはすぐに着替え始める。そんな母親の様子を不思議そうにステラは見ていた。

 急いで準備を終えてキッチンに向かうとそこには既にシリウスが朝食の準備を終えており、テーブルには昨日、買っておいたパンと温めたミルクが三人分、置かれていた。

「ごめんなさい、遅くなって……」
「俺は牛乳を温めただけだ」

 謝るアステルに対してシリウスはミルクにハチミツを入れながら優しく微笑むと椅子を引いて座るように促し、アステルを座らせた。

「ステラは一人で座れるもん」

 ステラにも椅子を引くが、ステラは無視をして母親の隣に座り、シリウスに向かって自慢げに言った。そんな娘の様子に思わず笑みを浮かべながらシリウスはそのままその椅子に座った。

「ステラ、せっかくお父さんが引いてくれたんだからちゃんと座らないと」
「えー、だって……」

 アステルに注意されてステラは目の前にあるホットミルクが入ったマグカップを手に取りながら不満そうな声を上げるとシリウスを見た。

「……おじさんはずっとお家にいるの?」
「いや、夜までは仕事だ。夜にはまた戻ってくる」

 ステラの問いにシリウスは答えるとステラは複雑そうな表情を見せた。

「……そうなの」
「まだ慣れないだろうけど、やっぱりお父さんが夜にお家にいると安心すると思うの」
「あ……そだね」

 娘の頭を撫でながらアステルが言うとステラはハッとして小さくコクンと首を縦に振った。この前、見知らぬ人達に前の家を荒らされた事を思い出した。そして目の前の父を名乗る男が助けてくれた。
 また同じことが起きるかもしれないのでまだ好きになれなくてもこの家に居てもらった方が安全だと思ったのだ。シリウスもそれを察してか、優しい声で話しかけた。

「大丈夫だ。俺が守ってステラに怖い思いはさせない。だから心配しないでくれ」
「う、うん……」

 ステラはぎこちなく返事をする。やはり警戒心が強いようだ。無理もないと思いながらシリウスは苦笑いするとパンに手を伸ばす。


 この国に移住して数日。ステラはアステルにべったりだった。シリウスが夜遅くにしか帰って来ないので、二人は家の中で家事をしたり、庭に出て薬草や花を育てたりして過ごした。
 最初は慣れないことばかりで戸惑っていたが、ステラはアステルが傍にいるだけで満足しているようだ。

「買い物なんだけど、今日、ステラと二人で行ってもいいかしら?」

 朝早くにシリウスを送り出す時、アステルはシリウスに尋ねる。前に買っておいた食材がほとんどなくなってしまいそろそろ買いに行こうと考えていたのだ。それを聞いて彼は少し考えてから答えた。

「休みが取れなくてすまない……昼間なら行ってきても大丈夫だ」

 本当は心配だから自分が買い物に付き合いたかったのだが引越しの為に休暇を使ってしまったのでしばらくは忙しく付き合えない。シリウスは申し訳なさそうにしていたがアステルは彼の手を握りしめて言った。

「ううん、いいの。ステラも落ち着いてきたし、私も少しずつ外に慣れておきたいから」

 そう言ってアステルは微笑み、そして、いつものようにアステルはシリウスの頬に軽くキスをしてから見送った。
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