シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

文字の大きさ
上 下
29 / 104

囚われたアステル

しおりを挟む
 眠らされたアステルの意識が戻るとそこは薄暗い地下室の中だった。両手両足を縄で拘束されており身動きが取れない。声を出せないように口には布を噛まされていた。自分の置かれた状況を理解すると背筋が凍るような恐怖が襲ってくる。

(私、死ぬの?)

 殺されるかもしれないという恐怖で震えが止まらない。この世から去る事実よりも幼いステラを置いていってしまう事の方が怖かった。

(そういえばステラは?)

 辺りを見回すがどこを探してもいない。別の場所に囚われているのか、それとも近くにいたヴァンが逃がして誰かが保護してくれたのかはわからないがとにかく無事でいる事を祈るしかなかった。

 しばらくすると複数の足音が聞こえてきた。その音を聞いただけでアステルは顔を青ざめさせる。そして扉が開かれ、そこに現れた人物にアステルは目を大きく見開く。

「こいつだ」
「おお、これはなかなかのエルフの娘ですな」

 目の前に現れたのはアステルを捕らえた男だ。あの時はフードで顔が隠れていてよく見えなかったが今は素顔が見える。銀髪は長く、片目は閉じているが赤い瞳は鋭い眼光をしており、褐色の肌をしていた。まるで狼のような風貌の男。外見年齢は二十代後半といったところか。
 実年齢がわからないのは彼の耳が尖っている、ダークエルフだからだ。同じダークエルフのシリウスとは雰囲気が違う。記憶の中の彼はもっと誠実だったし何より優しかった。目の前にいる男はまるで獣のような荒々しさを感じる。

「顔もいいですが体つきも今までのエルフとは……んふふ、違いますねぇ」

 一緒にいる男は平凡な容姿の茶髪の人間の男だ。眼鏡を掛けており、アステルに近寄ってしゃがみ込むと顔を覗き込んできた。
 どこか卑しい笑みを浮かべて息を吹きかけてくる。気持ち悪くてアステルは思わず目を瞑った。

「ああ、こいつはいいですねぇ」

 人間の男が手を伸ばすとアステルの片方の胸を鷲掴みにする。あまりの事にアステルは悲鳴を上げそうになったが口に布を噛ませられているせいでくぐもった声しか出ない。必死に抵抗するが手足の自由を奪われているためどうしようもなかった。
 するとダークエルフの男が舌打ちをする。

「この女、ガキを産んでやがった」
「この見た目で経産婦ですか……あー……なら、客を取らせましょう」

 人間の男が残念そうにため息を吐いた後、手を離して立ち上がった。その言葉の意味が理解できないほどアステルは馬鹿じゃない。これから自分がどんな目に合うのか想像しただけで背筋が凍った。

「客に使えるようにしてくださいね。ノワール」

 ノワールと呼ばれたダークエルフが嫌そうな顔で舌打ちをするとアステルの体を持ち上げ、肩に担いだ。抵抗をしたかったが余計なことをすれば殺されると悟り、大人しくするしかない。

(ステラ……)

 愛する娘の名前を心の中で呟きながら涙を流すことしかできなかった。

 ◆

 アステルが連れて来られたのは薄汚いベッドのある小さな部屋だ。壁も床も天井もボロボロでおそらく使われなくなった建物を利用しているのだろう。その証拠に部屋の隅には埃が積もっていた。
 部屋には誰もおらず、アステルは乱暴にベッドの上に投げ出される。受け身を取れず、背中を強く打ってしまい咳込んだ。

「おい、起きろ!」
「うっ!?」

 ノワールに髪の毛を捕まれて無理矢理上を向かされる。痛みに表情を歪ませるが、それでも反抗的な態度を取らなかった。
 咥えさせられた布と手足を縛るの縄をナイフで切られるが逃げる気はない。逃げるならチャンスを待つべきだ。そして何が何でもステラの所に帰る。

「さっき言った通り、お前は今から客を取るんだ」

 そう言ってノワールが取り出したのは小瓶に入った液体だ。それを自分で飲んだ後にもう一本はアステルに無理矢理飲ませた。薬を扱っているからわかる。これは媚薬だ。
 ノワールは睨みつけたままアステルに覆いかぶさり服を脱がそうとするがアステルはその手を掴む。

「なんだ?」
「あ、あの……一つだけ教えてください。私の娘はどこにいますか?」
「お前のガキは逃げやがった。どうせ混じり者だから売り物にならねぇしな」

 やはりヴァンが逃してくれたようだ。それだけわかれば後は大人しく従うだけ。逃げられる場面を必ず見つけてやる。

「……半分はダークエルフだよな?」
「はい……」

 ステラの父親がダークエルフであることを見抜かれたから見逃してもらえたのだと理解をすると正直に答えた。するとノワールは舌打ちをして忌々しいという表情を浮かべる。
 ダークエルフは特にエルフに迫害を受けていたのでエルフを強く憎んでいる。こんな風に調教を任されたのは間違いなく彼に対する嫌がらせだ。媚薬を飲まないといけないのは嫌悪している相手を抱くことが難しいからだ。

 ノワールは舌打ちをするとアステルに跨った。そのまま首筋に噛み付いてくる。血が出るほど強く噛まれるがアステルは抵抗しない。痛くて声を出しそうになるが唇を噛んで耐えた。しばらくするとノワールは口を離す。

「もの好きな馬鹿に無理矢理やられたのか、俺みたいに余興で抱かれたのか知らねぇが……何故ガキを堕ろさなかった?」
「……愛している人の子だから……うっ」
「嘘をつくな……!」

 そう答えるとグッと首を絞められ、呼吸ができなくなる。ノワールの瞳は怒りに染まっており、本気で殺すつもりかもしれない。

「ダークエルフとエルフが……ありえねぇんだよ!」
「ぐっ……」

 苦しみながらアステルはぼんやりとシリウスに出会った時のことを思い出した。あの時もこうやって首を絞められていたがあの状況でも手加減をされていたのだと最悪な形で思い知る。
 そしてシリウスは怯えた表情だった。優しい言葉を掛けてやれば大人しくなってくれた。しかし、今は違う。本気だ。このままでは本当に殺されてしまう。

(ステラ……ごめんなさい……)

 意識が遠退きかけた瞬間、ふっと力が弱まった。酸素を求めて大きく息を吸い込む。どうやら気絶する寸前で離されたらしい。アステルは商品なので殺したらまずいと判断をしたのだろう。

「チッ、もういい……」

 ノワールは舌打ちをすると今度は自分のズボンに手を掛け、下着ごと下ろし始めた。見せつけるように色黒い性器を取り出すと勃起しており、先端からは透明な液が出ていた。アステルはそれを見て顔を青ざめさせる。

「客の前では気持ち悪いくらい喘いでみろよ。そしたら少しは可愛がってもらえるかもしれねぇぞ」
「い、いや……」

 無理矢理白い足を開かされ、思わず目を瞑ると涙が溢れ出す。死ぬよりはマシだと思っていたがシリウス以外の男に抱かれるのは嫌で仕方がない。

(シリウス……)

 せめて目の前の男をシリウスだと思って耐えようと、彼の名前を心の中で呼ぶしかなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

処理中です...