シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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予期せぬ訪問者

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 次の日、いつもよりも少し遅く目覚めるとアステルはステラを探して家中を歩き回った。しかしどこにもいない。外に遊びに行ったのかと思って玄関に向かうとやはり鍵が開いていた。

 最近は友達と遊ぶことが好きで好きで仕方がないのか母に黙って出て行くことが度々あった。子供は元気が一番だと思っているが、心配なことに変わりはない。もし誘拐されたらと不安になり、探しに行こうと扉を開けるとアステルはまさかの再会に驚いてしまった。

「ああ、どうも」
「な、何をしているんですかラーシェルドさん」

 そこに居たのはエルフの吟遊詩人のラーシェルドが切り株の上に立っているヴァンに向かって何かを話しかけていたところであった。そのヴァンは何やら不機嫌そうな顔で唸っている。

「ちょっと重力魔法を彼に掛けましてね。それで今、話をしていたんですよ」
「やめてください!今すぐ解いてください!」

 笑顔でとんでもないことを言うラーシェルドにアステルは慌てて駆け寄ると彼は肩をすくめて魔法を解いた。重力魔法から解き放たれたヴァンは逃げるようにアステルの肩に飛び乗ってきた。アステルはほっと胸をなで下ろすと、ラーシェルドはクスリと笑みを浮かべる。

「彼はとても珍しいフクロウですね」
「そうですか?普通のフクロウにしか見えませんけど……」
「よく見てくださいよ。一部の羽の色が他のフクロウと違っているでしょう?」

 確かに言われてみると白に近い灰色の中にほんのりと赤っぽい部分がある。あまり気にしていなかったが、意識すれば気になる程度のものだ。今までほかの誰かに指摘されたことはなかったので気にしたことがなかった。

「そのフクロウは非常に珍しい『ヴァイスハイトフクロウ』です。エルフの森にしか生息していない。非常に賢く、とても長生きします」
「知りませんでした……」

 アステルは感心した様子を見せると彼は何故か満足げに微笑む。

「わかる人にはわかるんです。相談なんですけど彼を私に売ってはくれませんかね」
「ダメです。ヴァンは私達の大切な家族ですから、お断りします」

 突拍子もない提案にアステルは断固拒否の姿勢を示すと、今度は金貨の袋を懐から取り出した。

「じゃあこれならいかがでしょうか」
「お金に困ってませんから結構です」
「残念ですね……貴女がエルフじゃなければ寿命が尽きるのを待っていたのですが……」
「ですからヴァンは私の所有物ではなくて……」
「せめて彼に歌だけでも聞かせてあげたいものですねぇ……」

 金貨の袋をしまうと今度は勝手にハープを弾き始め、その美しい音色に耳を傾けていると悲しかった気分が癒されるような気がしてアステルはつい聴き入ってしまった。

「お母さん、お母さん」

 すると、いつの間にか帰ってきて、アステルの隣にやってきたステラまでもじっとその演奏に聞き惚れていた。やがて曲が終わり、小さく拍手をするとアステルは思わず感想を口にした。

「素敵でした……まるでおとぎ話の世界に入ったみたいで……こんな曲初めて聴いたわ……一体どこで習ったのですか?」
「これは私が昔、旅をしている時に森の中で偶然見つけた古い本に書いてありました。タイトルは確か……」

 ラーシェルドの旅の話を興味深く聞いているとあっという間に時間が過ぎていった。それからしばらくしてアステルはステラを連れて家に戻ると早めの夕食の準備に取り掛かった。
 さっきからステラの様子がおかしい。どこかそわそわしているというか、落ち着きがなく、自分の部屋に籠ってしまっている。

 だが、アステルはあえて何も聞かずにいた。きっと昨日のシリウスの話を聞いて何か思うことがあったのだろう。なので今日は久々にステラの大好きなハンバーグを作ろう、彼女の好きな食べ物で元気になってもらいたい。
 
 クリームシチューとハンバーグと卵サラダが完成するとテーブルに並べ、ステラを呼ぼうとした時、玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。

「どなたですか?」
「……王都から来た騎士のものです。薬についてお聞きしたいことがあります」

 玄関に向かうと扉の向こう側から声が聞こえる。そう言えば村中に騎士の姿を何度か目撃をしていたが、自分の作った薬に何か問題でもあったのだろうかと不安になりながらもステラのいる部屋の扉をちらりと見やった後、耳を隠すための頭巾を付けてからゆっくりとドアノブに手をかけた。
 そして開かれた隙間から見えた人物を見てアステルは慌てて閉めようとしたが無理矢理こじ開けられてしまった。

「えっ、なっ……」

 そこに居たのは騎士ではなく黒いローブに身を包んだ長身の男だった。フードを被っていて顔はよく見えないが、髪の色が銀色で古傷だらけの肌は褐色しており、瞳が赤く、口元に笑みを浮かべているのはわかった。
 男は一歩前に出ると、腰にぶら下げてあった剣を抜き、それをこちらに刃先を向けてきたのだ。突然の出来事に頭が真っ白になり、体が動かない。

「大人しくしろ」
「な、何なんですかあなた達は……」
「黙れ!」

 男に怒鳴られ、アステルはびくりとする。恐怖で足が震え、その場に立ち尽くして動けなくなってしまった。

「おい、抑えておけ」
「はい」

 剣を持った男が合図をすると同時に他の男達がアステルの腕を掴み、一歩も動かせないように押さえつけた。

「しばらく眠っていてもらうぞ」
「待ってくださ……」

 娘には何もしないでほしい。と頼む前に男が彼女の額を掴みながら直接睡眠魔法を唱えると、アステルはそのまま意識を失った。
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