シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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討伐完了

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 さらに森の奥へと進むとヴァンが元来た方角から飛んで戻ってきた。その様子は慌てていて何かを伝えようとしているように見え、シリウスはヴァンが来た方向を見つめるとガレッドに静止するよう合図をする。

「来るぞ」
「あれは……」

 ガレッドもその気配を感じ取ったようで目を細めて見据える。やがて木々の間から巨大なオーガゴートが姿を現した。先程のオーガゴートよりも一回り大きく、体格の良い個体で何よりも二本の立派な角は見るものを圧倒させる迫力があった。そして何より恐ろしいのはその殺気である。先程までのオーガゴートからは考えられないほど強烈な威圧感を放っており、対峙しているだけで肌がピリつく。

 シリウスたちが臨戦態勢に入ると、オーガゴートは鼻を鳴らして、彼らを睨みつける。そして雄叫びを上げると、こちらへ一直線に走り出した。

「迎え撃つぞ!」

 ガレッドが号令をかけるとその場にいた全員が武器を構える。オーガゴートはその巨体に似合わず俊敏な動きをしており、瞬く間に距離が縮まった。

 先頭にいるシリウスとガレッドは先ほどと同じように左右に分かれると、オーガゴートを迎え撃とうとした。オーガゴートはシリウスたちの行動を見て一瞬、戸惑うも、素早く進路を切り替えてガレッドへと突進した。

「ガレッド!!」

 シリウスは咄嵯に声を上げて注意を促すも、ガレッドは反応する事ができない。オーガゴートは巨体とは思えないほどの速度でガレッドに迫るとそのまま体当たりを仕掛けてきた。

 ガレッドは槍を盾にして受け止めるも、その勢いは凄まじく、後ろに吹き飛ばされ、オーガゴートはそのまま地面に倒れたガレッドに向けて蹄を振り下ろすと、ガレッドは転げるように回避する。避けた先の地面が大きく陥没しており、もし直撃していたらと想像するだけでもゾッとした。

 もう一度、ガレッドに向けてオーガゴートが攻撃しようと、足を振り下ろそうとした瞬間、シリウスは後ろから槍を突き刺そうとするが、先ほどの個体に比べて皮膚が硬いのか、あっさり弾かれてしまう。先ほどのオーガゴートと比べて硬さが段違いだ。

 シリウスは一度、後退をして他の冒険者と騎士にその場を任せて木の陰に隠れると、オーガゴートの様子を伺いながら道具袋から赤い液体の入った小瓶を取り出す。

 これは一時的に力を増加させる薬だが、副作用がある為、これを作ったアステルは本当に困った時にしか使ってはいけないと言っていた。

 シリウスは一瞬、迷ったが、倒す為には仕方がないと覚悟を決めると一気に飲み干した。少し時間が経過すると全身の血が沸騰したかのように熱くなり、筋肉が膨れ上がるのを感じる。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、木の裏から出ると冒険者や騎士達に向かって角を振り回すオーガゴートに火薬玉を投げつける。

 爆発音と共にオーガゴートは一瞬、怯むが、すぐに体勢を立て直し、雄叫びを上げると今度はシリウスに向かって突撃してきた。その速さは今までの比ではなく、まともに食らえば致命傷になりかねない。

「避けろシリウス!」

 ガレッドの声は聞こえるがシリウスはそれを無視をして槍を構え、そのまま突っ込んできたオーガゴートの心臓掛けて突きを放つと、槍の穂先は見事に巨体を貫き、シリウスの手に確かな手応えが伝わり、オーガゴートは口から血を流しながらギラついた瞳でシリウスを睨みつける。するとシリウスは突き刺したまま呪文を唱える。

 彼の唱えた闇魔法は槍を伝って体内に侵入し、シリウスが呪文を唱え終わる頃にはオーガゴートの動きは完全に止まっており、その場に倒れ伏す。シリウスは油断せずにゆっくりと近づくと、完全に絶命していることを確認をした。

「シリウス!」

 ガレッドが駆け寄ってくるとシリウスの無事を確認しようと顔を覗き込む。どうやら怪我はしていないようだが、額には汗が浮かんでいた。

「よくやった」

 ガレッドが肩を叩くとシリウスは小さく息を吐きだし、額の汗を拭い、槍を引き抜くとオーガゴートの死体を眺めた。

「この死体はどうする?」
「ああ、騎士団の方で処理しよう。冒険者諸君はギルドで報酬を受け取るといい」

 ガレッドの言葉を聞いてシリウスは胸を撫で下ろした。まとまった金が手に入る。この金でようやくアステルに十分な恩返しができると思ったからだ。

 ◆

 シリウス達は冒険ギルドに戻ると依頼達成の報告をする。今回の件に関してはオーガゴートが二匹いたこともあり、予定の額よりもかなり多い金額が支払われる事になった。

「おい」

 家で待つアステルに何を買おうか考えながら金貨袋に入った大金を眺めていると、背後から声を掛けられる。振り返るとそこには緋色の髪の騎士の男がいた。鎧が砕けた部分から見える脇腹には新しい肌が覗いており、その様子から、もう怪我はほとんど完治したように見える。

「俺は王国騎士団第三部隊のアルムだ」

 男は名前と所属を名乗るとシリウスのことをジッと見つめる。その視線はまるで品定めをしているようで居心地が悪い。早くこの場を立ち去りたかったが、この男の雰囲気がそれを許さない。

 黙っているとアルムと名乗った騎士はため息をついて、手に持っていた金貨の入った袋をシリウスの目の前に差し出す。突然の行動に困惑しているとアルムはシリウスの顔を見ずに言葉を続ける。

「今回はほとんどお前が倒したようなものだからな……本来なら俺達、騎士団が倒すべきだった……礼だと思え」

 貰えるものは貰っておこうと無言で受け取るとアルムは呆れたような表情を浮かべた。

「そこは『ありがとう』の一言くらいあってもいいんじゃないか?それともそんな礼儀も知らないのか?」
「ありがとう」
「ふんっ!まあいい、またどこかで会うかもしれない、その時はよろしく頼むぞ。じゃあな!」
「一つ、いいか?」

 そういい捨ててアルムが立ち去ろうとするのをシリウスは呼び止める。

「なんだよ!」
「女は何を貰ったら喜ぶのか教えてくれ」

 本当ならガレッドに聞くつもりだったが彼は仕事の後始末で忙しかった為、彼に聞くことにした。その質問にアルムは面倒くさそうな顔をしながら答え始める。

「そうだなぁ……花とかアクセサリーかもな」

 花なら森にいくらでもあるし、森に行く度に目に付いた花をあげていた。そうするとアステルはとても喜んでくれるので日課になっていたのだ。

 そうなるとアクセサリーを買って彼女にプレゼントをするのが一番良さそうだ。シリウスは頭の中で算段を立てると、フードを深く被ってから町へと歩き出した。

 ◆

 真っ先に宝石店へと向かうと、様々な装飾品が飾られており、アステルに似合いそうな物を探し始めたが、武器や装備ならまだしも女性への贈り物など選んだことの無いシリウスはどれが良い物なのかがわからない。

 まず一番最初に目についたのは指輪だった。指輪。大抵は婚約の際に男性が贈るものだ。母親が生きていた頃に婚約指輪を常に指につけていたのはぼんやりと記憶している。一瞬だけ買ってしまおうかと悩むが、思い直し、別の物を探す事にした。

 次に見つけたのはペンダント。大粒の宝石がついた高価そうな代物であるが報酬の大金があるので買うのは問題はない。アステルに合いそうな色を考えながら商品を見ていると、ふと二つの宝石が目に止まる。

 一つはサファイア。青く透き通った輝きを放っており、まるでアステルの瞳のように美しい。もう一つはルビー。赤く輝くそれはシリウスの瞳と同じ色合いをしていた。

 店主に声をかけると、白髭を生やした初老の男性はフードで髪と顔を隠しているシリウスに不審げな視線を向けてくるが金貨の袋を見るなり態度を変える。

 ペンダントを一つだけ選ぶと、それをプレゼント用の白くて綺麗な箱の中に入れてもらう。最後に金貨を渡す時に男性の手が震えているのを見て、自分の格好がいかに怪しげなのかを改めて実感する。それからすぐに店を後にした。

(喜んでくれるだろうか……)

 シリウスは不安を覚えながらも、彼女がどんな反応を示すか楽しみにしている自分がいることに気がついて、少し恥ずかしかった。
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